【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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―――時はやや遡り。夏休みの始まる少し前のこと―――



 じわりと自分を押し包むような重圧の中、それでも表面上は平然とした様子で紅茶を傾ける。そんな英国淑女(ダージリン)が一人。お隣には重圧を作り出している人物のうちの一人、西住流家元である西住しほ。
 相対するのは文科省役人の辻何某氏と、その隣で同じように重圧を作り上げている人物。島田流家元、島田千代。

 ゴゴゴゴゴゴゴ―――だの ドドドドドドド…… だのという少年漫画で空気を揺らしているエフェクト音すら聞こえてきそうな状況で、辻とダージリンの思いは同じだった。


 “もうお家に帰りたい”


 それでも会談にやってきている以上何の進展も得られないまま帰るわけにもいかないのが文科省であり、“大饗宴”の成功へ向けての意義という点で話を聞かないままというわけにもいかないのがダージリンである以上、状況を素早くまとめるしかないという点で二人は座して待つことしかできないのであるが。


「やはり問題では?」

 口を開いたのは西住しほからだった。提出された詳細な内容にざっと目を通し、目の前の文科省役人へと視線を向ける。
 辻はひそかに呼吸を整え、表面上は冷静さを装ったまま、薄く微笑んで見せた。

「―――いいえ、ちょっとした考え方の違いというやつですよ。

 この非公式な大会の副次賞品から考えた場合の―――ね?」

 重圧に負けないようにやや早口ながら必死でペラを回して見せる。寿命が縮まるとはこのことだろう。お隣で優雅に微笑んでいる島田の家元が「ちゃんと理由を示せば怒ったりしない」と言ってくれていなければ西住の家元を怒らせてプロリーグへの協力を白紙撤回される可能性を恐れてこんなことは言えなかっただろう。

「つまりこういうことですよ。
 ―――“いち生徒の将来を褒賞としている”のならば、『受け入れる側』にもまた、大会参加の資格があって然るべきではないか? ということです」

「―――それが大学生たちのチームの参加打診の理由ですか?」

 紅茶を一口。舌を湿らせてダージリンが切り込んだ。舌鋒は鋭く、深く切り込む様子を見せるも、すぐ隣の島田の家元に阻まれる。

「ええ、娘の愛里寿もそちらの西住の娘さんたちと同じように天翔エミちゃんにお世話になっておりまして―――」


―――やっぱり貴女の関係じゃないの天翔エミィィィィィィ!!!


 内心での絶叫は心の奥底に封印し、しれっと「あらそうでしたの?」と澄まして見せるダージリン。その内心での絶叫の余波は、首筋につつと流れる一筋の冷や汗にとどまった。

「もちろんこちらは大学生ですから、練度の差も含めて“手加減”を致しますわ。当然の話ですものね、高校生と大学生では戦車道における習熟が違いますもの」
「―――必要ありません」

 ダージリンと島田千代の会話にそんな風に口をはさんだのは、ただ座っていただけの西住しほだった。憮然とした表情の端にやや怒気が見え隠れしている。

「―――戦車道において実力主義は当然。練度の差など織り込み済みで然るべき。
 手加減(ハンディキャップ)など不要。余計なお世話になりましょう」

 ―――何を勝手なことを言っているのだろうこの人は。
 そんな言葉を飲み込んで、表向きは優雅に紅茶のカップを傾けるダージリン。
そもそも西住しほはこちらの計画における後見人(ケツモチ)として抜擢はしたものの、その実際の運営はダージリン以下高校戦車道履修生代表たちに丸投げされている。学生が学生の立場で考え、試行錯誤して今のルールに落とし込んで皆で作り上げてきたのだ。
 もしもの時にやかましく言ってくるであろう文科省や戦車道連盟を黙らせる威として協力を申し出たことを軽く後悔しそうになっていたダージリンは、もはや状況を覆せないと判断。ダメージを可能な限り軽減するために長丁場の舌戦になるだろうと―――覚悟を決めた。

 結果として大学選抜チームは『シークレットチーム』として
【どこかの学園が脱落確定したタイミングで参加する】というルールと、高校生たち各学園の編成車両が各15輛に対し、大学生側は選抜された僅か5輛という数の差でエントリーを受け付けることになった。


 ダージリンに落ち度があったとすれば、これが『東の島田』の仕込みであったことと、大会参加をぎりぎりで表明してきた『ヨーグルト学園』の関係性に気付くタイミングを取れなかったことだろう。


その「時間を取れなかった」ことすらも島田の仕込みであったことではあるが。



 *****


「話はつけてあげたわ。徹底的に叩きのめしなさい」
「ありがとうございます母上」

 電話を切って、ポケットに手を入れる。
取り出されるのはポケットサイズのボコのぬいぐるみ。

 ボコミュージアムで初めて出会った時に、彼女から譲ってもらったぬいぐるみ。

「―――もう少しだね」

 ぬいぐるみを撫でて、微笑む少女。
 部屋に並べられたたくさんのボコグッズと、ボコのポスター。

それらに混じって壁にちらほらと飾られているのは――――写真。

艶やかな黒髪に茶色っぽい瞳。少女と同じくらいにも見える小さな体躯を包んでいるのは―――大洗のパンツァージャケット。



「―――早く遊びたいな……『エミリ』」




写真に手を伸ばして撫で、口元をほころばせる。その無邪気な微笑みに狂気を感じるかは、人次第なのだろう―――きっと。







【 まほルート 第十七話 「弾丸(とっかん)ソウル」 】

 

 >> Miho

 

 

「この機を活かしましょう」

 

 そう言ったのは私で、その言葉にも嘘はない。

 

 真実は建前半分、本音が半分。

 

「西住ちゃん」

 

 ミーティングの後、各自のグループに分かれてのチームアップに向かう途中、生徒会長の角谷さんに声を掛けられた。

 角谷さんは困ったような、寂しそうな、いろいろとないまぜになった苦笑いにも似た表情で笑っていた。

 

「こっちは私が何とかするからさー……天翔ちゃんのこと、ちゃんと見ててあげてね?」

「―――はい」

 

 きっと会長は全部わかっていて、それを呑み込んだうえで今回の提案にGOサインを出したんだって、その表情と言葉で理解できた。

 だから私はそれに真っ直ぐ答えて、決意を秘める。

 

 

―――この“大饗宴”で『エミさんを、たとえお姉ちゃんであろうと戦わせたりしない』という決意を。

 

 

 

******

 

 

 

 私のお姉ちゃんと肩を並べて戦っていたみんなの憧れの先輩は、みんなのために黒森峰を去って……私のために聖グロリアーナから大洗へ転校してきて―――

 

 ―――そうしてあの日、病院へ運び込まれた。

 

 

 

「―――――――っゴHu――――」

 

 

 

 くぐもった声、地に額をつけるような土下座にも似た体勢で絞り出された声。

 

 

「―――エミ、さん……?」

 

 お母さんとエキシビションマッチについて話し合いをしていたダージリンさんが信じられないようなものを見たような顔を見せている。あまり表情の変わらないお母さんが目を見開いている。後ろから見ている私とエリカさんからはその光景は見えなくて―――

 

「―――エミッッ!!!」

 

 隣で同じように頭を下げていたお姉ちゃんが声を荒げてエミさんの身体を抱えた。全く抵抗もなく押されるままにごろりと転がったエミさんの、その白装束をまだら模様に染め上げているのは―――口元から流れ出るおびただしい量の―――

 

 

 

 

 

 

「―――ぃやぁぁぁぁああああああああああッッッ!!!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 悲鳴を上げたのは誰が最初だったのか。阿鼻叫喚とはこのことだろう。誰しも冷静な判断力などその時点ではなくて、ぐったりと顔面蒼白のエミさんを抱き起した形のお姉ちゃんが、表情をより固くこわばらせたお母さんと何か言葉を交わして、救急車が呼びつけられて―――エミさんはそのまま病院に担ぎ込まれた。

 

 

 

******

 

 

 

 病院に運び込まれ、一時は出血量から集中治療室に担ぎ込まれたエミさんは、一先ず命に別状はないということですぐに一般病棟に戻された。

 病名としては【精神性ストレスによる消化管潰瘍】。胃壁に穴が空いて、そこから逆流した血液を吐瀉したというのが今回の吐血の原因だと説明をされた。

 

 

 それから―――わたしは、わたしたちは、エミさんにどれだけの負担を強いて来たのか と、そう考えるようになった。

 

 

 

 

 思い起こしてみても、いつもエミさんは誰かのために生きている。

 

 

 

 お姉ちゃんのために副隊長になって、お姉ちゃんとみんなの齟齬を埋めるために奔走して、

 

 

 西住流のために副隊長を私に譲って、だけど副隊長としての仕事はそのまま引き受けて、でもそれを苦にしないような笑顔のままで

 

 

 決勝戦で、みんなのために自分の戦車を捨ててまで駆け出して―――。

 

 

 敗北の責任をと喚く大人たちから黒森峰を、西住流を護るために一人で背負って消えてしまったエミさんは―――

 

 

 

 ―――何もかも嫌になって大洗に逃げ出した私がまた戦車道に向きあえるように、匿われていたはずの聖グロリアーナから追いかけてきてくれていた。

 

 

 

 

 そこまで飛躍して考えるのは流石に少し考えすぎで、自分本位な解釈なのかもしれないけれど、エミさんはずっと誰かのために無理ばかり繰り返しているのだと、思い返してみて確信できた。

 だから、これ以上の無理は本当にダメだと思うから―――だから今回のエキシビションで“みんなに経験を積ませるために”という名目を掲げることにした。

 

 実際、効率を最優先にを考えるのであれば、ヤークトティーガーを前面に、得意の連射で相手をバラバラに散らせて各個撃破の形を作り上げてから皆に掃討させればいい。この作戦ならばサンダース大付属に拘らなくても【誰が相手でも一定以上の戦果を期待でき、リスクも少ない】 けれどそれは病み上がりのエミさんにより負担を課すということ。だから次善の作戦を考えた。エミさんを後方に待機させて、いざという時の援軍という形を作る。

 そうして、みんなを前線に向かわせて、私はエミさんを見張るように一緒に待機している状況を省みると、どうしようもなく胸が痛い。罪悪感を感じずにいられない。けれど周囲も納得はしている。このままでは自分たちはおんぶにだっこのままなのだと―――エミさんの他校での活躍を見聞きしてしまった今ならば。

 

 他校への交渉という名目での「各学園に編入されたエミさんの活躍」を、ダージリンさんは『大饗宴をより活発にするための撒き餌』だと言っていた。けれどきっとダージリンさんの言葉をそのまま額面通りに受け止めてはいけないんだ。

 お姉ちゃんはダージリンさんの行動を『自分への挑戦状』なのだと言っていた。

だけど私は―――大洗は彼女がこう言っているように思ってしまうのだ。

 

 

 

 【あなたたちの下でなければ天翔エミはこうも輝いて見せるのだ】と。

 

 

 

 実際に、私の提案に賛同した大洗の面々の一部には焦燥感を感じさせるほどの意気込みを見せるチームもあった。感じている想いが同じなのだと理解し得るほど。

 

「―――仕方がないとはいえ、やっぱり待ってるだけっていうのは暇だなぁ」

「エミさんもまだ病み上がりなんですから……無理しちゃだめですよ?」

 

 エミさんが車上に這い出てきて欠伸交じりの声を漏らしたことで、私の意識は内側から戻ってきた。Ⅳ号の隣で停車しているヤークトティーガーの上で胡坐をかいて眠そうにしているエミさんの様子はまるで日向ぼっこをしている猫のようで少しだけ心が和む。同時に、より強く【護らなきゃいけない】と意識させられる。

 

 お姉ちゃんもダージリンさんも、エミさんと戦いたがっている。けれどあんな身体で無茶を続けていたら、いつか致命的な結果に繋がりかねない。

 

 

 

―――天翔エミを護る。

 

 

 私が私の意志で決めたこと。西住流ではない、西住みほが決めたこと。

 

 

 

 

******* Miho → Emi

 

 

 

 ―――現状、とても暇である。

 

 

 ヤークトティーガーの中で談笑していると否が応でも「進路はどうするんですか?」という話になってくる。そうなると操縦手・砲手のコンビは「どこにでもついていくつもりなんで」っていうスタンスを崩さないのでキリキリと胃の辺りに重めの痛みが続くわけなのだが……自分の幸せを見つけて欲しいなぁ……モブさんズもさぁ……。

 

 みぽりんの「この機を活かしましょう」の発言からスタートした一連の作戦は、最奥で待ち受けてる俺とみぽりんという構図に気づいた連中が勝手に潰しあいを始めているという状況。らしい―――らしいというのは武部殿がサンダースと戦ってるみんなの話やチョビから伝えられた情報を総合的に判断して解釈した結果なので実際は違うかもしれないが。

 なんというか……“予選会”を待ってるチャンピオンの気分なんで居たたまれない部分はある。そのあたりは俺がチャレンジャーの気持ちで人生を生きているからなのだろうけれど―――だが考えて欲しい。こちとら人生をかけてみほエリに挑む挑戦者なのだ。まんじりと待ってるだけとか人生を浪費してるような気分で当然ではなかろうか?

 “命短し恋せよ乙女”

 乙女で居られる期間ってのは短い。後悔の無いように生きなさいという良い言葉だと思う。でも「年齢なんか関係なく乙女は恋していれば乙女なんだよっ!」って武部殿も言ってたしその辺はきっとフレーバー的なそんな感じのアレなんだろう。

 

 

 ―――キュラキュラと、履帯を擦らせる独特の金属音とエンジン音に反応して、みぽりんの表情が真剣なものに変わる。同時にヤークトの中でも車内の姦しい空気が一瞬でクールダウンしてエンジンに火が入った。

 

 

 砲口を音の発生源の方へと向けて緊張を走らせる二組の前で、ゆっくりとやってきたのは―――

 

 

「―――エミ。“応援にきたよ”」

 

 ―――センチュリオンの車上で顔を覗かせて、花が綻ぶような笑顔を見せるのは

 

  島田流の後継者にして一人娘、島田愛里寿だった。

 

 

 

***** Emi → Miho

 

 

 

「応援って、そういう意味だったのかー……」

「驚いた?―――驚かせたくてがんばったから、驚いてくれたのなら嬉しい……」

 

 車上で呆れたような、予想外のモノを見たような表情で頭を抱えるエミさんと、そんなエミさんの様子をニコニコと笑顔で見ている女の子。年齢は多分、わたしたちよりも下。その年齢でセンチュリオンの車長をやっているというだけで、その実力は計り知れない。

 

「―――エミさん?その……その子は?」

「―――ああ、そういえば紹介したことなかったし、初対面だったっけ」

 

 私の言葉にエミさんがいつもの調子に戻ってヤークトの外に飛び出して女の子を紹介するように手を向ける。

 

「島田愛里寿。島田流戦車道の後継者で、みほと同じでボコが大好きなんだ。愛里寿。こっちは前に話した西住みほ。ボコ大好きだから友達になれるって言ってた子だよ」

「―――よろしく」

「こ、こちらこそ!」

 

 ぺこりと軽く会釈をする愛里寿ちゃんに慌ててこちらもお辞儀で返す。

 

 

―――お辞儀の間、こちらから視線を切っていたけれど、愛里寿ちゃんからの視線は途切れなかったように感じられた。

 

 

「それじゃ、挨拶も終わったし―――始めよう?」

 

 

 ゆっくりと、円運動のような軌道でセンチュリオンは動いている。こちらからの砲撃の範囲を避けるように、有利な位置取りを探るように。

 

「―――始めるって、何を?」

 

 察しの悪い―――というか、愛里寿ちゃんの目的がわかっていないエミさんは今の状況に気づいていない。それ以前に、愛里寿ちゃんの戦車に描かれたエンブレムにも気づいていないのかもしれない。

一度身内に引き入れたら疑わない、信頼するエミさんらしくもあるけれど―――今は状況が悪すぎる。

 

「―――他に何輛いるんですか?」

「みほ……?」

 

 背に伝う冷や汗が止まらない。得体のしれない相手と情報もないまま戦うなんて経験は殆どない。試合の前には情報収集が必須だったし、黒森峰を離れて大洗にやってきてもそれは変わらず。秋山さんという諜報要員が潜入して先に情報を仕入れてきてくれていた。だからこそ無情報で戦う現在に恐怖がジワリと身体を蝕んでいく。

 少しでも情報が欲しい私と、そんな私に怪訝そうな様子のエミさん。二人の温度差を感じ取ってか、愛里寿ちゃんは子供相応の柔らかい笑顔で微笑んで見せる。

 

「―――同じ立場なら、あなたは言うの?」

「―――言わないかな」

 

 苦笑したつもりが引きつったような笑みになってしまったと思う。

 死線が目の前にある。じわりじわりと迫ってくるそれを、越えずにエミさんを守り切れる自信はない。けれど超えてしまったなら―――Ⅳ号とそれに乗ってる私たちは、きっと逃げ切れないだろう。

 

 

「―――ね?エミ。私もエミと戦車道し(あそび)たい」

 

 

 子供らしいあどけなさ、無邪気さでニッコリと微笑むその瞳の奥底に、ドロリとした深淵が見える。

 島田流という家に生まれて、お姉ちゃんや私と同じように幼いころからずっと名家としての重責を背負い続けてきた彼女を救ったのが、私と同じであったのなら―――

 

 

 ―――おとなしく状況が収まる可能性なんか、何処にも無い。

 

 

「エミさん、逃げて―――できればお姉ちゃんたちと合流して」

「みほ!?」

 

 麻子さんの肩を蹴って指示を飛ばす。Ⅳ号を前に、ヤークトティーガーを護るように。

 

「―――ごめんなさい。沙織さん、華さん、優花里さん、麻子さん。ちょっと、勝てないかもしれない」

 

 今までなかった絞り出すような不安の混じった声に、みんなに動揺が広がっているのがわかる。

 

「―――まぁ、負けても何があるってわけじゃないし。いいんじゃない?」

 

 そんな風に沙織さんが軽く言ってくれたことで周囲の反応がやや和らいだ。

 

けれど違う。

 

 私が負けたら、エミさんは為すすべなく撃破され、奪われてしまうのだと直感で理解している。理由なんてわからない―――強いて言うなら

 

 

 

 ―――“同種だから” としか言えない。

 

 

 

 あるいは育った環境が今と同じ前提で、けれどお姉ちゃんと私が赤の他人で、お姉ちゃんとは全く関係のないところで私がエミさんと出会っていたのならば―――目の前の少女はそんな私の幻像と重なっていくように思えてならないから。

 

 

「だめだみほ!今戦っても勝ち目はない!」

「それでも―――エミさんが逃げる時間くらいはどうにかするから。逃げて―――エミさんとお姉ちゃんならきっと―――」

 

 

 

 

****** Miho → Emi

 

 

 

「エミさんとお姉ちゃんならきっと―――」

 

 

―――いや、無理だろ!!(迫真)

 

 

 

 悲壮な決意を固めて声を絞り出してる感あふれるみぽりんを前に内心で必死のツッコミを入れている俺である。

 一体何を言い出すんだこの子はもう!俺なんぞただの装填手で、ヤークトの乗員たちだって名前もオープンに出てきてねぇただのモブなんだぞ?それが寄せ集まったってネームドに勝てるわけねぇだろ!?

 

 そもそも愛里寿やぞ愛里寿!!まぽりんとみぽりん相手にヴォイテクのファインセーブがなかったら普通に勝ってた可能性があるレベルのラスボスやねんぞ!?(混乱)

 

 いずれにせよ、理由はまったくわからんが愛里寿がこちらを狙っているというのだけは理解できた。だって目がもう捕食者のそれをしているんだもの。これがわからねぇのはゲームや漫画の鈍感系難聴タイプの主人公くらいのモノだろう。

 

 

 理由としてはおそらくではあるが―――島田のちよきちさんの差し金に違いない。

 

 

 劇場版におけるボコミュの資金難フラグはこれまでの流れからみて立っているはず。みぽりんがボコミュにたどり着いてないが、資金難はみぽりんに関係なく時間の問題で起きていただろうし、ボコマニの愛里寿がそれを座して放置などありえない。

 だとすると目的は―――俺という“西住流と関係の深い対象”を含めた車輛の全撃破による島田の威を示す示威行為。

 

 大学選抜戦とやや違う部分もあるが高校生で名うての連中が揃っているこの“大饗宴”。襲撃を掛けるにはおあつらえ向きだったと言えるだろう。汚いな、さすが島田汚い。

 

 

 とはいえどうしたものか……この状況、俺が代わりに前に出ようとしてもみぽりんは納得しそうにないし、何より俺とヤークトで愛里寿のセンチュリオンとこの場で1対1とか相性が最悪すぎて1秒もたない可能性が高い。それこそこっちが照準を合わせる前に横をすり抜けつつくるくるとダンスするかのように回転するセンチュリオンに為すすべなく回り込まれて無防備な背中のラジエーターとかをふっ飛ばされて白旗を上げる展開しか見えない。

 

 劇場版の無双シーンみたいに!ボコの詩の無双シーンみたいに!!

 

 

 じりじりと圧に押し負けるように体が後ろに押し込まれている感覚を覚える中

 

 

 

「―――吶喊――――ッッ!!!」

 

 

 

 号令一下、センチュリオンと私たちを遮る川のように、戦車たちが押し寄せた。

 

「―――勝手な判断で動いてしまい申し訳ありません!ですが、状況を見たうえで、動くべきだと判断致しました!」

 

 俺たちに背を向けるようにして、知波単隊長、西さんがそこに居た。

 

 

「―――時間は我々が稼ぎましょう。みなさまはその間に転進を」

「でも、西さん―――!!」

 

 声を上げるみぽりんに西さんは顔を半分だけみぽりんのほうへ振り返らせて、ニヤリと笑って見せる。

 

 

「心配はご無用!!なに、皆が逃げる時間を稼いだら残った車輛で転進しますとも!すぐに追いつきますのでご安心下さい!!」

 

 

 全力でフラグを立てていく西さんのスタイルと漢立ちのポーズにもはや声も出ない俺であるが、西さんは俺のほうへは顔を向けず、背中で語ってくれた。

 

 

「―――天翔殿は我々知波単に、知波単の後を征く者たちに……“勝利”を下さいました!!

 

 知波単の魂は、私たちが受け継いで次代に託しております。しかし勝利の美酒を与えるとなると、なかなかこれが難しい話なのです。―――私が卒業する前に、後輩たちにそれを教えてあげたかった。その願いを叶えて頂いた。

 

 これが如何ほどの御恩と成りましょうや!?知波単の誇りにかけて申しましょう――――――ここで死ぬに聊かの躊躇いも無しと!!」

 

 

 ドンと握りこぶしで自分の心の臓の辺りを叩く西さん。『己の命を賭ける』という決意を秘めたそのポーズを、絹代だけでなく、チハのトップから姿を覗かせた全ての知波単車輛の車長達が見せていた。

 

 

「―――故に我ら知波単戦車道生徒一同!!今ここでその覚悟を胸に死兵となるに、いささかの躊躇もなし!!」

「「「恩に報いるは今がゆえに!!!」」」

 

 

 細見が、玉田が、福田が、皆一様に同じポーズのまま愛里寿に立ちふさがる壁となった。

 

 御恩と奉公。かつての日本の武家社会の構図を垣間見るこの光景を前に多くの生徒が関心を寄せるそれを、俺は正面から見ていることができなかった。

 

 

―――喉元までせり上がり込み上げる吐血の感覚を抑え込むことで一杯だったのだ。

 

 

 本当やめてくださいよそういうの。申し訳ないから、申し訳ないから。

 

 

「みほ―――!!大洗の皆と合流するぞ!!」

「―――――はい!!」

 

 ヤークトとⅣ号が同時に身をひるがえしてその場から離れていく様子を、愛里寿はただ見送っていた。

 

 

「―――やっぱりそうなるよね。じゃあここからはわたしたちとみんなの勝負だよ、『エミリ』」

 

 

―――唐突な俺スキルの話ではあるが、俺はそれなりに耳が良い。聞きたくなかった情報も聞こえてしまうくらいに。

 

 

 

 兎にも角にも、俺とみぽりんはこうして尻尾を巻いて逃げることになったのだ。

 

 

 そしてそのころ戦場のあちこちで起こっている対決に“どんな介入が起きているのか”を知ったのは、この後大洗メンバーと合流してからである。

 

 

 

 

 *******  Emi → others

 

 

 

 

「―――見逃して頂けたようで、感謝を」

 

 ぺこりと軽く頭を下げる西の様子に、愛里寿は答える代わりにポケットからボコのぬいぐるみを取り出して、軽く撫でる。

 

 

「―――立ちふさがるなら、島田の流儀にかけて撃破する。

 でも聞かせて?なんで勝てないってわかってるのに戦うの?」

 

 

 愛里寿の言葉に、西は「ははは」と快活に笑い飛ばした。

 

「―――勝てないから戦わないなど、戦車乙女(わたしたち)にあるまじきことでしょう!!」

 

 

 西の言葉に「そう」と答える愛里寿の顔は、少し嬉しそうに微笑んでいた。

 

 

「―――総員!傾注――――!!

 

 ―――命はここに捨てて行け!想いは胸に抱いて逝け!!我ら総員一丸となって

 

 

 

  ――――――――――突き進め!!」

 

 

 

 

「「「突撃ぃ――――!!!」」」

 

 

 

 

 

そうして、幾ばくかの時間の後に

 

 

 

『―――知波単学園、全車走行不能を確認。脱落!!』

 

 

 

無慈悲なアナウンスの声が、フィールドに鳴り響いた。

 

 

 






西「やはり無理でありましたなー」

玉田「しかしこのやられっぷりこそ我々でありますなぁ!」

細見「そうでありますなぁ!!」

福田「知波単魂ここにありであります!!」

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