【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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 指揮官は戦場を俯瞰するために、最初は一歩引いた状態で自分の部隊の全体を見て、適切な判断で前に出る。それは西住流であれ、島田流であれ、基本中の基本である。

 ―――まぁ中には「我に続け!突撃!!」する隊長もいるのだが。

 ともあれ、敵部隊の発見と同時に包囲戦術を組むつもりで部隊を先行させ、後方で陣形調整を行っていたからこそ―――――カチューシャは生き延びることができたと言える。



「―――な、なに……?何が、起きたの……??」

 空を引き裂く飛来音とともに着弾、炸裂したナニカの衝撃で微妙に機能障害を起こしている聴覚では情報を精査できず、カチューシャは揺さぶられた脳のおかげでくらくらする視界を必死に戻しながら目を前方に向ける。


―――その光景を、何と形容すればいいのか。


 カチューシャは記憶からいくつか似た光景を浮かべていく。

 斜面になっていた地面を平らに慣らすような勢いで抉り取り、歪なクレーターめいたものを残す着弾痕。すぐそばにあった戦車たちは衝撃で吹き飛ばされ、近距離にあったものたちはひっくり返って横倒し、もしくは逆さまになって白旗が起動して機能停止してしまっていた。

 呆然自失は数秒。やにわに響く通信の音がカチューシャを現実に引き戻した。


『―――こちらあんこう!プラウダ隊・サンダース隊の皆さん!現地点から離脱してください!敵は長距離砲でこちらを狙撃しています!平地ではマトにされます!』
「ミホーシャ!!アレは何なの!?」

多少ヒステリックな叫びになったカチューシャの言葉に「おそらくは」と返して、みほは応答を返す。


『―――ロケット推進音がしませんでした。シュトゥルムティーガーではありませんから……

  ―――推定ですけど敵性車輛は、カール自走臼砲です』




【 まほルート 第十九話 「 HOROBI NO UTA 」 】

『 本編と関係ないモブが出てくれば歴史は少しずつ―――いやどう考えてもこんな展開予想できんわ 』

 

 

 

>> others

 

 

 

「カール自走臼砲……って、そんなの認可が下りるの!?ありえないじゃない!!」

 

 けたたましいカチューシャの怒鳴り声に、隣に横付けする形で停車したシャーマンから顔をのぞかせたケイが肩をすくめる。

 

「―――生憎、サンダース(ウチ)が交渉してたのよ、カール」

「―――マウス対策?」

「イグザクトリィ!(その通りでございます)」

 

 ケイの言葉だけでその運用法に行きつくカチューシャに、ケイが神妙に頷いて見せる。

 超重戦車マウス。惜敗のリベンジに燃える黒森峰の上層部がテコ入れをして黒森峰女学園に齎された圧倒的な火力と装甲を持つ『戦車道のルール上最大を誇る超重戦車』である。これを運用するという話は黒森峰を偵察した学園艦は軒並み手に入れており、『いかにして攻略するか』で頭を悩ませていたのだ。

 カチューシャにしてもマウス対策のために街道上の怪物、KV-2の火力をあてにしていた部分がある。

 とはいえ、決勝戦での大洗のありえない倒し方を前に恐れおののいていた学園たちが皆度肝を抜かれたのではあるが。

 

「―――現行のルールでオープントップの車輛に許可が下りるはずがないわ。そんなのはカチューシャ様でなくてもわかるはずよ?」

「だから改良案と一緒に提出したのよ。オープントップ部分を全部天蓋になる装甲で覆って、自動装填の装置を取り付けて完成ってプランをね」

 

 つまるところそういう形でプランニングをして「これならOKでしょ?」と申請を出してお返事待ちだったところ同じような仕様で実装されたケースを目の当たりにしたという状態である。目の前のケイはホームコメディのジョーク枠よろしく「やってくれたわねー!HAHAHA」といった様子ではあるが、内心までを推し量ることはできない。が、それを問い詰める必要も余裕も今はない。

 カチューシャは思考を切り変える。

 相手に大火力の曲射砲が存在する以上、壁を用意しての押し包む包囲戦術は役に立たない。上空からやってくる魔弾が強引に包囲に風穴をあけてくる以上、戦術的に破綻してしまう。

 

「―――カチューシャ隊!応答しなさい!!ノンナ!クラーラ!ニーナ!アリーナ!!」

 

 通信機を手に大声を張り上げるカチューシャにケイも会話を切り上げてアリサに通信を繋ぎ残存戦力の確認を行う。

 

「ウチはアリサとナオミたちだけみたい。やってくれたわね、ホント」

「プラウダは6輛。でもノンナもクラーラもかーべーたんも健在よ!まだいけるわ!」

 

 被害総数は9輛。ものの見事に半壊させられてしまったプラウダ・サンダース連合が一旦状態を立て直す選択をしたタイミングで―――

 

「―――そりゃ来るでしょうね。カチューシャが相手の指揮官でもやらない選択肢はないわ」

「Woops!千客万来ね!」

 

 ―――敵追撃部隊。大学連合とヨーグルト学園の混成部隊が集結しつつあるプラウダ・サンダース連合に迫っていた。

 

 

 

*******  >> Others → Emi

 

 

 

 「助けに行きます!」

「無茶を言うな!お前はこの同盟の中心なんだぞ!?」

 

 Ⅳ号で救援に向かおうとするみぽりんと、それを止めるチョビの姿がある。

 カールの砲撃を食らったカチューシャたちからの報告は簡素なものだった。部隊は半壊、だが半数は生きのこっていて、ノンナクラーラも無事。不幸中の幸いとはいえ、追撃部隊が迫っているという。

 

「―――こうなったのはカチューシャの責任だからね。ミホーシャたちは残った戦力で作戦を考えなさい。カチューシャたちはここで追撃部隊を食い止めてあげる。プラウダの実力、見せつけてあげるわ!いい?絶対に助けに来ようなんて考えるんじゃないわよ!ミホーシャの性格を相手はわかっていて追撃部隊を仕込んでるはずだからね!!」

 

 カチューシャからのこの報告を聞いたみぽりんは当然「助けに行かないと!」と考えるわな。みぽりんならそうする。ガルおじならみんなきっとわかってると思う。そんなみぽりんの様子に待ったをかけるのはドゥーチェ・アンチョビ。何しろみぽりん率いる大洗が中心とならないと大同盟が破綻する可能性が高いのだからしょうがない。あーだこーだという押し問答を繰り広げている間にも時間は進む。

 

 

 ―――そんな様子を呆けた状態で見やっている俺は天翔エミ。元ガルおじのTS転生者である。

 

 

 いや実際ね?みぽりんをどげんかせんといかんとは思うんですよ?

 でもね?愛里寿がわからんとです。何考えてるのか全く分からないので真意を問いたださないと何もわからんとなんです―――。

 正直チョビの言うことも尤もで、カチューシャを救出に行った結果、追撃部隊の周囲に兵が広く配置されてて釣り野伏だったり、或いは囲呉救趙、という可能性がありありと見えているんだろう、チョビの脳内では。

 

 そんな逡巡を脳内で高速回転していた俺の背中を、誰かがとんと押した。

バランスを崩されて前に軽くジャンプする形になった俺はヤークトから降車する。振り返った俺の視線の先に、車長の姿があった。

 

 

「―――行きんしゃいな。天翔さん」

 

 

 そんなことをイイ笑顔で言ってくる車長に戸惑いを隠せない俺氏、困惑である。

 

 

「天翔さんがどうしたいかくらい見てればわかるよ。みんなを巻き込みたくないとかふざけたこと考えてるみたいだから、ちょっと行ってちゃっちゃっと片付けてくればええんよ」

「ヤークトで待っててあげるから。カチューシャさんが言ってたのは『部隊』であって、天翔さん単騎なら問題にならないでしょう?」

 

 砲手の人もハッチから顔を覗かせてそう言って笑う。

 

 いや違うんですよ、カチューシャを助けるとかそういう話ではなくてですね?―――と脳内で弁明していた俺に、その時電流走る―――!!

 

 

「―――ありがとう。行ってくる」

 

 

 俺はとりあえずいつも通り笑顔で応えて単身森の奥に消えようと―――

 

 

「―――待てエミ。私も行く」

 

―――できなかった。何でやまぽりん(服部感)

 ティーガー1に乗ったままのまぽりんが地上の俺の横に幅寄せする形で止まり、上からまぽりんが俺を見下ろしている。

 

「―――ノンナには『いざという時はカチューシャのことを頼む』と頼まれている。今はその時だと強弁できる。

 

 何よりも―――あの時と同じように単身君がいなくなることが不安でたまらない」

 

 

 ―――マフラーで口元を隠し俯く俺。こらえているのは当然―――吐血である。

いや本当待って、不意打ちで殺しに来るの待って。俺今ここで血とか吐いたら没収試合やん。どう考えてもこの状況で倒れるとかヤバすぎるやん。まぽりん消化不良でドイツ行き保留で西住流がヤバい。みぽりん曇る、エリカも曇る、大洗はまぁともかくとして没収試合となったら愛里寿(島田流)と文科省が何してくるか読めやしない。ここは耐えろ。耐えるんだ俺―――!!

 

 

「―――ワカッタ、イッショ、イク」

 

 

 原始人か日本に来たばかりの外人ばりのたどたどしい日本語でそう答えるしかなかった。

 しょうがないやん。口の中が血の味で舌が回らなかったんだから。

 

 

 

 ****** >> Emi → Maho

 

 

 

 「―――行きんしゃいな」

 

 ヤークトの車長の言葉に困惑するエミを見て「ああ」と心の中でスゥと腑に落ちる部分があった。

 

 エミはカチューシャたちと自分たちのどちらを救うべきか天秤にかけていると。

 

 島田愛里寿をどの程度の強者とみているか、エミ自身のその物差しはエミにしかわからない。が、少なくとも『私ですら後れを取るかもしれない』というのが彼女の考える島田愛里寿なのだろう。

 

「―――待てエミ。私も行く」

 

 知らず、そう口にしていた。

黒森峰は新体制に移行すべきだから逸見に任せる。連合の要はみほが担うべきなのでみほが気後れを起こす私という存在はむしろ不協和音に成りえる。そう考えるとこの選択はベストではないがベターな判断と言える。

 

 が、所詮は後付けだ。

 

 私がエミについていくと決めた本当の理由。それは―――

 

 

 

 

 

「―――待ってたよ。エミリ」

 

 

 

 

 

 ―――この女とエミを二人きりにしたくなかっただけの、何とも浅ましい―――底の見える情念に過ぎない。

 

 

 

 




****** >> Maho → Emi



 カチューシャを助けるために戦闘行動に入ったらどっかで単独行動して愛里寿を探さないとなー

 なんて考えてた時期が俺にもありました。

まさか相手から待ち伏せしてるとか思わんやん。まぽりんが考えた『相手の裏を突くコース』やぞ?畜生!島田のニュータイプ(新生児的な意味で)は化け物か!!戦車道のトップに君臨する連中はどいつもこいつもソナーか瑞雲でも詰んでるのかってレベルでこっちの行動を先読みしてくるな本当に!!

「島田愛里寿。居ると思っていた」

 そんな俺の内心でのあらぶり加減と全く関係なく、いつも通りのクールなまぽりんに内心の俺は沈静化する。どうやらまぽりんは愛里寿に裏をかかれたのではなく、わざと愛里寿が読んでくると思ったコースを選んだらしい。何だこの達人の盤上遊戯。

「―――単刀直入に言う。お前は何を考えている?」
「……私もそれが聞きたかった。愛里寿、君は何がしたいんだ?」

 まぽりんが話しを切り出してくれたおかげで俺も質問がしやすくなった。
おかげで愛里寿の真意を聞きだすことができる。まぽりんの顔を横目で見るが、まぽりんの視線は愛里寿から外れない。外せないと言うのが正しいのかもしれない。

 愛里寿は、モンブランカラーのきれいな髪を揺らして子供らしい愛らしい笑顔を浮かべて、言った。


「―――私が『天翔エミの戦車道の生涯における、最後の敵になる』

 そのためには、他の学園のライバルは皆わたしが潰さなきゃいけないもの」


 可愛らしい笑顔に似つかわしくないクッソバイオレンスな一言が飛び出していた。



「エミはもう何も気にしなくていいんだよ?わたしがエミを助けて見せるから。
 エミを助けるから、残りの人生を島田で生きて欲しい」

「―――待て、どういう意味だ?」


 愛里寿の不穏な言葉にまぽりんが突っ込んだ。
 そんなまぽりんを愛里寿はかわいそうなものを見るような目で、同時にとても憎らしいものを睨みつけるような凄みのある恨みのこもった目で見つめて、口を開く。


「―――あなたのせい。あなたがエミをここまで酷使したから―――


 ―――天翔エミの戦車道生命も、生命そのものも、あと10年もせず尽きる」


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