【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
カス「―――今の私は、装填院エミカス斎」
辻「・・・・・・はい?」
カス「――天翔エミは死にもうした」
沙織「優花里さん。エミりんは何やってんの?」
秋山「天翔殿は、スカウトを待っているのです。
戦車道からの―――黒森峰からのスカウトを」
花のエミカス~みほエリの彼方に~(嘘です)
> Emi
ゴリゴリと、芝の地面を削りながら重厚な音を立てて戦車がゆっくりと前進してくる。
T28重戦車。ドイツのティーガーを相手にするために開発されたのがM26パーシングなら、この戦車はドイツの誇る最大の超重戦車マウスを駆逐するために開発された対戦車用駆逐戦車である。
その装甲は驚くことに厚さ実に300mm。通常攻撃ではまず落とせないと言ってもいい化け物戦車である。反面、速度は時速15kmが精々。重量は実に80t級(特殊カーボン製なので実際の重量よりは軽いが)の超重戦車クラスの鈍重な戦車だ。
これがフラッグ戦であれば終始無視してフラッグを撃破に向かっていただろう。そのくらい圧倒的な装甲の持ち主である。
だがこいつは【殲滅戦】なのだ。故にコイツ1輛でも残っていれば試合は終わらない。放置はできない。
―――が、こいつを倒せる手札となった場合……
装甲厚300mmをぶち抜くために必要な車輛としてはやはり、128㎜砲を持つ最大戦力であるヤークトティーガーしかないだろこの状況……
―――とはいえ……
「さぁ!さぁ!さぁさぁさぁさぁ!!!どうしたどうしたどうしたどうしたぁぁぁ!!?」
ガリガリと地面をひっかく音を立てて、無限軌道が回る。割と結構な速度で周囲を駆け抜けていく―――パイセンのクロムウェルが。
これが割とガチで鬱陶しい。
たかだかクロムウェルと侮ってはいけない。こちとらまぽりんではないのだ。ヤークトの背面部にはジェネレーター排気ダクトがある。弱攻撃しか持たないクロムウェルであろうとそこをブチ抜かれたらこっちの白旗が上がる。周囲を駆け回るクロムウェル相手に先に攻撃すべきなんだろうが―――このパイセン、兎に角止まらない。その上間合いの内側に入り込んでくる。
ヤークトティーガーの砲塔は回らない。
→回らない砲塔で相手を撃破するためには最小限の動きで相手の方を向かなければならない。
→だがパイセンは間合いの内側に入り込んでくるため、距離を離しながら旋回しなければならない。
→つまり余計に手間がかかりそれだけタイムロスが増える。
→その間にパイセンは新たに回り込んでいる
これである。加えて先のジェネレーターの問題もあり、死角をパイセンに晒すわけにはいかないのだ。なのでパイセンに兎に角背中を向けないように立ち回らなければならなくなる。するとどうだろう―――
―――照準なんぞつけることができない上、俺の装填に支障が出るのだ(切実)
「わ、が、ぎゃ、なぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――!!!!?」
思わず悲鳴染みた声も上げるだろうよ。急発進から急停止、かーらーのー信地旋回。かと思ったら急旋回に超信地、さらに急発進・急停止。車内はさながらミキサーの中かロデオマシーンの上である。せやかて工藤、こんなん無理筋やで工藤(服部感)
こんな状況が長時間続けば操縦手のストレスもマッハ、スタミナ切れて運転なんぞ無理無理のラッシュ。その前に中の連中がバターになるか火事場のクソ力だけ天空に封印されて抜け殻になりかねん。
―――さて、賢明な戦車オタクの方々からは『なんでヤークトがそんなに動けるねん』ってツッコミが来ると思う。そんな問いにはこう返そう。
お前それ自動車部見て同じこと言えんの? と。
ティーガーを魔改造して軽ワゴン並みの居住性を持たせることも可能と豪語するわ、ルール上違法だがティーガーにクルセイダー並みの速度と足回りを持たせることも可能だと言ってのけるクソチートやねんぞコレ。なお自動車部が足回りの安全性をサポートしてくれなかったらとっくの昔に機関部に異常が発生してるか転輪か履帯が動作異常を起こして立ち往生の模様。今度またスイーツ持って土下座行脚しようそうしよう。
閑話休題。
こんな時に頼れるのは実に最強な相棒であるまぽりんなのだが―――あっちはあっちで厳しい戦いになっている。
何故か?―――そこに(愛里寿と無茶苦茶バトルした結果ボロボロの)ティーガーがあるじゃろ?それじゃよ。
応急処置として短時間で履帯チェックだけでもやってくれた自動車部には感謝しかない。なかったら今頃履帯がぶっ壊れるか足回りが故障して立ち往生(弁慶的な意味で)してたに違いない。そのくらいまぽりんのティーガーはボッコボコのボコだった。そんなまぽりんは今、思うように動けないティーガーでそれでも果敢にヤークトの死角を塞ぐ形で動き回ってくれている。が、如何せん満身創痍のティーガーではそれが精一杯。防戦一方で手が出ないのだ。
そんでそんなこんなな防戦を繰り広げてたらT-28から不意にでっかい一撃がぶっ飛んでくるという有り様である。
え?ダージリン?チャーチルとマチルダの混成集団にクルセイダーが混じっただけの集団に何ができるんだよJK。件のブリカスは自分の出番が来るとは微塵も思ってないのか優雅にティータイムとしゃれこんでやがります本当にありがとうございました。
T-28もパイセンも、正直いつでもぶっ殺せる上に脅威にもならない相手よりもこっちを優先してるらしい。パイセンのクロムウェルが鬱陶しく周囲を動き回ることでこっちの動きを制限して、制限され縮こまったところにT-28がぶっこんでくるというクッソオーソドックスな戦術。
なのに対応できない。
「旋回を減らせないの!?このままじゃ狙える的も狙えない!」
「わかってる!けどこれ以上抑えたら回り込まれて落とされるんだってば!!」
車内の空気もクッソ険悪である。加えてこっちは振り回されるだけでどうしようもねぇ!まぽりんの方にもまるで余裕がねぇ!マジ詰んでるなこの状況!!
『―――天翔エミ』
通信手が車内にぶら下がって振り回されながら車内の状況に耐える俺の耳に通信機を寄せる。通信機から聞こえてくるのはダージリンの声だった。
『―――アールグレイ様の方に集中なさい。
「―――できるのか?」
先も言った通り、ダージリンたちの戦車でT-28を撃破するなんぞほぼ無理ゲーである。劇場版でこそナオミと組んで捨て身の戦法で撃破したが今回は陸地で陸橋なんかもない。
だというのに僅かなりとでも時間を稼ぐとかそういう話ではなく、『いただきます』と言ってのけるダージリンにそんな言葉が口をついて出ていた。
『―――あの方の言葉を借りるようで癪ですけど。
……天翔エミ。“私を誰だと思っているの貴女?”わたくしは聖グロリアーナ隊長、ダージリンでしてよ?
降って湧いた強い武器に浮かれてそれナシで生きられなくなったような下品な連中と一緒にしないでくださる?』
何の迷いもなく、きっぱりはっきりと言い放つダージリンの言葉に
「―――んじゃ任せた」
『ええ。よろしくてよ』
そんな短いやり取りで通信は終わった。そして
「―――聖グロ最速がぁ……まいりますわよーーー!!!」
けたたましい声を上げながら吶喊してきた2輛のクルセイダーに真横から時間差でドドンと体当たりされ、大きくぐらつきながらフッ飛ばされるクロムウェル。その間にクロムウェルとT28の間に割って入るチャーチルの姿。
「ダージリン!!!」
ティーガーの上から声を上げるまぽりんに、ダージリンは上部から身を乗り出して、何時ものように涼し気な表情のまま顔だけをまぽりんの方へと向ける。
「―――まほさん。貴女と交わした約束、覚えてますわね?いえ、覚えてらっしゃらずとも結構。どうあってもきちんと履行させていただきますから」
「―――感謝する」
ダージリンの言葉に短く返して、フッ飛ばされたクロムウェルにだけ集中するまぽりん。ヤークトの車長も、まぽりんに従うようにしてクロムウェルにだけ視線を向けた。
T-28とクロムウェル。二つに分断された敵を相手に向こうも二手に別れ、それぞれの場で戦闘が開始される。
速度に勝るクロムウェルを相手に満身創痍のティーガーとヤークトティーガー。
正直戦力的に相手すんの逆じゃない?と思うだろう。
「大丈夫なのか?」
まぽりんの問いかけに
「―――大丈夫だよ」
短くそう返すと「そうか」とだけ答えてそれ以上はもうダージリンの方を見ることもなくなった。
というか今の状況、ダージリンが落ちたところでどうと言うことはないからな!(迫真)
******** Emi → Otheres
「最初に言っておきますけど、チャーチルやマチルダであの装甲を抜くのは無理よ?1000パーセント無理」
「ええ、アッサムの見立て通り、無理ですわね」
グロリアーナの戦車たちだけでT-28に挑むことになったダージリンへと非難するようにジト目を向けるアッサムに、涼しい顔でそう返して手に持った紅茶を一息に飲み干しソーサーの上に戻すダージリン。
「―――ゆるりと前進。T28の射線上に入らないように動きながら、雑木林に誘導なさい」
「ダージリン?あなたが何かを狙っているのはわかるけれど、あの二人を放置して、相手がこちらを追いかけてくる保障はないわよ?」
アッサムの言葉にダージリンは優雅に微笑んで見せる。
「付いてきますわ。―――あの人、面白そうな方に向かう性質がありますもの」
ダージリンの言い様は、まるで相手の戦車の中に誰が乗っているのかまで見透かしているようだった。
――― 一方で、T28の中では
「ふ、フフフ……面ッ白ぇぇじゃんっ……ッさぁ~~!!ただ頑丈なだけが取り柄の戦車で、より頑丈な移動要塞を攻略しようっての、マジウケルわ~!!
リリ!方針変更!!先にグロリアーナの連中をぶっ飛ばすぞ!追えーーー!!」
ダージリンの読み通り、車長がダージリンの策見たさに相手のフィールドへ飛び込む様子を見せていた。
********
散発的な攻撃を繰り返しながら、ゴルフコースを横断するマチルダとチャーチル。砲撃を意に介することなく、地ならしするかのように地面を抉り固めながら追いかけるように進みゆくT28重戦車。
「オイオイオイオイ……わざわざついてきてやったんだよォ……?何の策もないのかい?白けさせんなよぉ~~~~!!!?」
車内で少しだけイラついたような、もしくはワクワクしているような声色でそんな風にだらけた声を上げているのはT28の車長。名前はトウコ、本名かどうかは不明。元継続高校の隊長で、まほやエミと比べて1年年上に当たる。
卒業後大学に行くわけでもなく、社会人チームに入るわけでもなく、継続の地で適当に過ごしつつ今後の戦車道、今後の人生についてモラトリアムを過ごしていた少女は、島田流から勧誘を受けた際に当初はにべもなく断った。そんな彼女が島田の勧誘を受けて大学選抜チームとして参加している理由はひとつ
“西住まほや天翔エミ、その他次代を担うという少女たちと敵として楽しく遊べる”からである。
トウコにとって今回の盤面においての勝敗は関係ない。島田が用意した重戦車に唯々諾々と乗り込んでいるのも、自分の策略を献策しないのも、この勝負の結末にまるで興味がないからなのだ。今彼女を占めているのはただ一つ。
「―――せっかくの延長戦なんだよぉ~?……震えるくらいすっごいの見せておくれよぉ~~~?なぁ……ダージリンさぁ……?」
ぽつりぽつりとつぶやいては「クヒヒ」「フヒヒ」と含ませた笑いを漏らす。
じわじわと砲撃を交えてさらに逃げるチャーチルを追うT28。2度ゴルフコースをまたぐように雑木林を踏み荒らしてゆくと、緩やかな下り坂でその足が唐突に止まる。車内では微細な振動とともにアクセルとギアチェンジを焦ったように行う操縦手の様子がトウコに映っていた。
下り坂に入り、左右への旋回よりも前進の速度がやや勝ったことで、避けきれない位置にあるOB用に用意されたブッシュに混じった林木に外側の転輪が挟まれるように絡んでスタックしたのだ。どうにかスタックを抜けようとするT-28の目の前で、マチルダとチャーチルが正面と側面・背後の三方向からそれぞれ砲口を向ける。狙いは履帯と備砲の砲口部、それに背面。
「マチルダやクルセイダーはQF2ポンド砲……ですがこのチャーチルMkⅦは75mm砲。無傷とはいかないでしょう?蝶のように舞い、蜂のように刺す。優雅に勝利して差し上げます」
オープンチャンネルで軽やかに宣言するダージリンに
「―――その程度なのかよ、ガッカリだわ」
ぽつりとつぶやいて、トウコは何かのスイッチを押した。
ばちばちばちばちぃっっ!!!
激しい音を立てて履帯の辺りで炸裂音が鳴り響き、T28の“二重になっている履帯の外側部分が切り離された”。
T28重戦車の履帯は内側と外側の二重式になっており、外側の履帯を取り外すことができる。トウコは本来吊り上げるなどして数人で取り外しを行うそれを、要所を留めるボルトを爆砕ボルトにすることで結合部を無理やり吹き飛ばし履帯側面を覆うシュルツェンごとアーマーパージして見せたのだ。
外側の転輪を切除してやや身軽になったT28は少しだけ速度を上げる。動き出したT28の姿に動揺して動きがままならないままのルクリリ隊が砲撃を受けて吹き飛び白旗を上げる。次いで、全力後退を始めたチャーチルの壁になる形で立ちはだかったニルギリのマチルダが砲撃の犠牲になった。
犠牲を出しながらも後退砲撃を行うチャーチルだが、狙いは定まらず前面装甲に弾かれるにとどまった。ズルズルと下り坂を後退するチャーチルと再びそれを追う形になったT-28を上部から顔を覗かせ涼しい顔のままのダージリンは、ただ静かに紅茶を傾ける。
「―――先ほどの状態でカタが付いていれば、優雅に終わったのですけどね……」
ダージリンはそうぽつりとつぶやいてカップとソーサーを下に差し戻し、代わりに通信機を手に取った。
「―――ウサギと亀のお話を知っている?」
挑発するようにダージリンが薄く微笑む。余裕綽々の態度に、トウコはやや不審感を覚える。状況からここまで余裕に成れる理由を類推する。何故こいつはこんなにも余裕を残しているのかと、考えを巡らせた。が、その理由はわからなかった。
「有名なお話ですわよね。亀に負けてしまったウサギさんのお話
―――ではあなたは“何故ウサギが亀に負けてしまったか理解できまして?”」
戦場で、砲身を向けられて、蛇行運転で逃げまどいながらも、ダージリンの声はオープンチャンネルで朗々と響く。揶揄うような、嘲るようなその調子に知らず知らず呑まれて行っている様に感じられたトウコが砲撃を促すが、すんでのところで回避され、着弾の衝撃で揺れる車体でもダージリンの余裕の表情は崩れない。
「―――それは、『勝負の中で兎は亀を見ていた。けれど亀は兎ではなくゴールを見ていた』から」
シュポッと気の抜けた音とともにチャーチルの真上に信号弾が打ちあがる。
同時にヤークトと対峙していたクロムウェルの方からアールグレイの声が通信機越しに届いた。
『天翔エミが単身で飛び出したわ!!!』
トウコは瞬時に頭を巡らせた。ダージリンの言葉の意味、天翔エミの行動、信号弾の意味、兎と亀。
「全員車外への入り口を塞げぇ!!天翔エミが乗り込んでくるぞぉ!!!」
天翔エミによる“盤外戦術”それ以外にありえない。トウコは舌打ちを隠せなかった。在り得ない事態だ。『直接戦車に乗り込んで乗員を捕縛ないしは戦車を内部から破壊』など誰が読み切れると言うのか―――!!!
『―――そういう発想しかできないあたりが『戦車道を舐めている』とわたくしに言わせるのよ。貴女』
通信機から響いたのはダージリンの声。ハッと気を取り戻したトウコがペリスコープを開いた時には
「駆け抜けますわよーーーーー!!!!!」
後ろに折れた木を結わえたクルセイダーが周囲を駆け巡り、視界を奪っていた。
ペリスコープからでは視界を確保できない。視界を確保するためには上から顔を覗かせる必要がある。が、【いるかもしれない】天翔エミの存在がそれを許さない。
トウコは頭を巡らせる。ダージリンの思惑を、推理する。
けれど見えない。これまでの行動からの相手の思惑が。
「―――相手が砲撃したら煙も晴れる。それまでは前進だ」
苦し紛れにそう告げることしかできない。目を塞がれ相手のいいようにされ続けている。自分のお株を奪われている。
上空から突然来るかもしれない天翔エミを警戒してハッチを押さえて顔を出すことができないまま、それでも相手の攻撃は通じない以上、状況は変わらないとトウコはじりじりと背筋を伝う嫌な予感を振り払う。
『鬼さんこちら、手の鳴る方へ』
パチパチと、拍手の音が土煙の向こうから響く。オープンチャンネルで響くその声色は揶揄うような調子でまるで歌っているかのように挑発的に響き渡った。
トウコは予想した。ダージリンの狙いを
「―――ノッてやろうじゃないか。照準、操縦!声の方に合わせて進路併せ!!」
“踏”を刻んで命令を送る。オープンチャンネルで声が響く方へと頭を向けて、鋼の塊が駆けていく。
トウコが読んだダージリンの作戦は単純。目を奪い、視界を奪い、世界を狭めたうえで声を頼りに誘い込んでの“自分を狙う砲口へのピンポイントショット”。それ以外にT28を撃破することなどできない博打も博打の一手だった。
「狙えるモンなら―――狙ってみろっつぅんだよぉッッッ!!!!」
ゴォンッ!!と空気を震わせる音とともに、周囲の煙幕を切り裂いた一撃は
―――何もない空間を貫いてはるか向こうの地面に着弾した。
「―――は?」
あっけにとられるトウコが状況を理解する前に、一瞬車体の重心が後ろにかかり、次いで一瞬の浮遊感。そして―――
―――ドズンッッッ!!!
下から突き上げる重い衝撃とともに―――T28はその動きを停止させ
『―――ええ本当に。もっとスマートに勝利したかったものだわ』
通信機から響くダージリンの声が轟音にかき消され、
―――斜め前方向に大きく傾いた状態でT28が完全にその動きを止める。
何が起きたのか、まるで分らないまま飛びだしたトウコの目の前には
車体の前方右半分の履帯をバンカーの窪みに落ち込ませ白旗を上げるT-28と、
そのT28を“バンカーの中にはまり込んでスタックした状態で、T28の底板を撃ち抜いたチャーチル”が、その車体の前半分をT28の履帯に踏み潰され白旗を上げる姿があった。
******* Otheres → Emi
―――ええい!戦車道やってる連中はみんな化け物か!!!
木の上ですべてを見ていた俺のコメントは以上である。
時間をやや巻き戻そう。ダージリンの作戦に乗ってアールグレイパイセンに集中した俺とまぽりんは全力で戦場を移動させた―――はずだった。
手ごろな場所まで移動した俺たちの前で、パイセンは何を思ったか車上で優雅にティータイムを始めた。何でや工藤(服部感)
「―――我々を馬鹿にしているのか?」
チリッと周囲に黒っぽいオーラが見えるまぽりんがそのまま射殺せるんじゃないかってレベルで睨みつけるも、パイセンは平然と紅茶を注いでいる。だがしかしその動きは正確で、こっちの射線に入る前にゆるりと移動しながらのらりくらりと攻撃をかわしている。
まぁパイセンのやりたいことはわかる。ダージリンとT-28の決着がつくまで膠着状態を作ってこっちの援護を止めるってことだろう。そもそもT-28とチャーチルと対戦っていうマッチングが無理ゲーすぎるのだ、現実に考えればこっちがパイセンを撃破して援護に向かうまでダージリンは防御に徹していると考えるべきである。
「露骨な時間稼ぎに構うつもりはない。一気に攻めるぞ、エミ」
「いや、別に構わない」
俺の言葉が真に意外だったのか車上でティータイムやってるパイセンですら不思議そうな顔を向けている。まぽりんに至っては激レアな驚愕の表情である。
「加勢に行かなくていいのー?」
「ダージリンが相手をするって言ったんだから、加勢したら後でぶっ飛ばされますよ」
パイセンの言葉にそう返す。実際あのブリカスのことだ、自分が一人でどうにかするって言っている以上、カチューシャの時と違って無理やり加勢したらそれを盾になんか妙な約束を取り付けようとするに違いない。俺は詳しいんだ。
「―――勝てると思ってるの?」
にやにやと嫌らしい笑みを浮かべているパイセン。遠くから響く地響きのような振動と雷のような砲撃音。
『聖グロリアーナ女学院 マチルダⅡ!走行不能! 同じくマチルダⅡ!走行不能!!』
立て続けに続くマチルダの撃破報告。それをBGMに―――
「勝ちますよ。だってダージリンですから」
――きっぱりはっきりと言い切った俺にパイセンは薄く笑みを浮かべた。
実際ダージリンは劇場版でT-28を撃破してるのだから、あそこまで豪語してる以上何らかの作戦があるんだろう。多分きっとメイビー。
まぁ何なのかは知らないが。
なんてことをやってたら俺の携帯にメール着信音が響く。差出人は武部殿である。どうやらダージリンはオープンチャンネルでトークバトルを繰り広げるため、通信機が使えないのでわざわざ武部殿経由で携帯メールでこっちに指示を飛ばしてきたようだった。
その内容を見て思った感想。“どういうことなの?”以上。
正直意味が分からんが、T28攻略のための一手なのだろうし、パイセンはパイセンで時間稼ぎしかしてない以上俺がここで暇を持て余す意味もない。
「まほ、ちょっと行ってくる」
「―――任せてくれ」
何故か妙な対抗意識を帯びているまぽりんを残しつつ、俺はヤークトから“跳んだ”
「天翔エミが単身で飛び出したわ!!」
通信機を片手に声を上げるパイセンの姿がある。追いかけようとする様子はないらしいが、まぽりんは既に殺る気スイッチ()が入ってしまっているらしくティーガーが既に戦闘機動モードである。小破状態でもお構いなしの態度は流石まぽりん。さすまほ!と言える雰囲気ではないんだよなぁ……本当に大丈夫なのかまぽりん……
*****
俺がヤークトを蹴って樹の上に飛び乗ってから、戦況はめまぐるしく動いていた。
俺がメールを受け取る前に準備をしていたらしいローズヒップとあともう一人がクルセイダーのケツにサンダース戦の時ばりに木の枝とかを括りつけ、T-28の周囲を快速でゴリゴリ走り回り大規模な土煙の壁を作り上げた。
その間もチャーチルは土煙の壁に隠れるようにスルスルと後退し、相手の視界から完全に消えることに成功した。
T28の中の人は俺が直接乗り込んで制圧するとでも思っているのだろう。頑なに外に出てこない。が、俺がダージリンから受けたメールはそんな内容ではなかった。
【 わたくしたちの華麗なる勝利を特等席で見ていなさい。車外に単身で飛び出して、木の上にでも座っていればいいわ 】
これである(素)
最初はこれで池にでも落すのかと思った。が、コースの関係上池にドボンさせるにも遠すぎるし、相手のT-28の中の人はコースを熟知してるらしく土煙の中でも池の方向からは距離を取っている。
―――が、ダージリンの目的はそもそも池なんかではなかった。
『鬼さんこちら、手の鳴る方へ♪
あんよが上手、あんよが上手♪』
めっちゃビブラートの効いた無駄に流麗な歌声で揶揄うように歌うダージリン。これ相手の立場でいたら大概の連中がブチギレてるわ(確信)
相手方も例にもれずというか、盛大にブチギレでもしたかダージリンの声がする方へ飛び込んでいく。
ゴォンッッッ!!!
轟音を響かせて煙幕をぶち抜く一撃が放たれ
―――バンカーの中に身を潜ませていたチャーチルの頭上を飛び越えて行った。
しかもあの位置からだとペリスコープを開いたとしても角度の関係で車内からチャーチルの姿は見えない。
完全に敵を見失ったT28はそのままバンカーへ足を踏み入れる。バランスを崩してバンカーに落下するその数秒間。がら空きの底板が見えるその瞬間を見逃すことなく
ダージリンは一瞬だけの勝機を見事につかみ取って見せた。
まぁその結果白旗を上げてバランスを崩しバンカーに落ちるT-28の下敷きという運命から逃れきれず、前半分を押しつぶされて相討ち状態で終わってしまったのだが。
「しっかり見ていましたかしら?この私の勝利を」
「いや、やられてんじゃねぇか。相討ちだろ」
胸を張り、木の上で待機してる俺に向けて渾身のドヤ顔を見せるダージリンに冷静にツッコむと、ダージリンは心外そうに鼻を鳴らした。
「どこをどう見てそう言っておりますの?
再び胸を張りそう宣言するダージリンは、チャーチルの中からゴソゴソと通信機を引っ張り出す。
「聞いておりましたわね?ローズヒップ。
―――聖グロリアーナの。わたくしたちの、誇りも、願いも、すべて貴女に託します」
『わっかりましたわーーーー!!!!!』
ギュルンギュルンと周囲を旋回するクルセイダーからローズヒップの能天気な声が響く。聖グロの生き残りはローズヒップともう1輛のクルセイダーしか残ってないというのに元気な犬のように駆け回ってたりする。お前後ろから付いてくるもう1輛のクルセイダーとの温度差に気づいてやれよおう。
「――んじゃ私はヤークトに戻るわ」
「あら、相棒が心配?もう少し落ち着いていてもいいでしょうに」
揶揄う様なダージリンに若干イラッと来たのでなんかうまい返しができないかと少し考えて
「こちとら亀を見てる兎になる気はないんだよ」
我ながら最高に上手い返しができたのではないだろうか?(自画自賛)
******** Emi → Darjeeling
「こちとら亀を見てる兎になる気はないんだよ」
局地戦の勝利にこだわって、大局を見誤る気はない。ということだろう。彼女らしいと、私は思った。
結局のところ彼女の意思は変わらない。であれば、この大饗宴という舞台での目的はほぼ果たされたと言える。
そう思って空を見上げる。曇天の空はぽつりぽつりと再び雨を降らせ始めた。ぐずる空模様はまるで先の見えない今の戦況を示しているようで、肌寒さを感じたので、紅茶を一息に飲み干して、カップを車上にそっと置いた。
もしも心残りがあるとするならば―――
「―――できれば今日、雌雄を決してしまいたかった……!!」
口惜しさに拳を震わせるなど、淑女にあるまじきこと。あの子には決して見せたりなどしない。
******* Darjeeling → Otheres
“ 降って湧いた強い武器に浮かれてそれナシで生きられなくなったような下品な連中と一緒にしないでくださる? ”
ダージリンのその言葉は、二人の少女に静かに火を灯していた。
「―――ああ、そうね。そうだわ。全くもう……」
ガツンと、T-34の内部で激突音が響く。ヘルメットごと頭を盛大に壁に叩きつけた矮躯の少女の名前は―――カチューシャと言う。
「カチューシャ!?」
「五月蠅い!!騒がないで!!」
慌てた声を上げる車内のメンバーに大声で怒鳴り返し、涙目になった顔を乱暴に袖でグシグシとぬぐって、メラメラと闘志に燃える瞳を前に向ける。
「―――言ってくれるじゃない。言ってくれるじゃない。
言ってくれるじゃない!!ダージリンッッッ!!!!
こちとら無敵のプラウダの隊長カチューシャ様よ!!ザッけんじゃないわよ!!」
大声で啖呵を切ってのけたカチューシャは通信機をひったくり、声を上げる。獰猛な獣のように、闘志をむき出しに。
「ノンナ!!クラーラ!!ニーナ!!それと大洗の!!
―――損害なんか関係ないわ!!ボッコボコのギッタンギッタンに、叩きのめしなさいッッッ!!!!」
******
「言ってくれるじゃないのぉ……四大強豪とは名ばかりの頑丈なだけの貧弱戦車どもの分際で……
サンダースを!!舐めんじゃないわッッ!!!天翔エミ!?ハッ!!そんなモンハナっから当てにしなけりゃいいんでしょうがッッ!!!
ザッけんな!!こっちは強豪サンダースでレギュラー張ってる作戦参謀、次代キャプテンのォ―――アリサ様だっつーのッッッ!!!」
心の内側から肉体全てに拡がった熱をそのまま声に載せて、アリサは乱暴に砲手と操縦手に指示を送る。
「隊長ォ!!!作戦指揮はお任せください!!あいつらが土下座して謝るくらいの戦果!たたき出してやりますッッ!!」
「――オッケーアリサ。今のアナタ、いい貌してるわよ!」
上部から顔を覗かせて、隣で同じように周囲を索敵するケイにそう告げると、ケイが笑顔でサムズアップして見せる。
「アンタたち!こっちの指示に欠片でも遅れたらぶっ飛ばすわよ!!ついてこいッ!!サンダースの恐ろしさ!連中に叩き込んでやるわッッッ!!!」
『ヒュー!アリサさんかっこいー』
『アリサさん、燃えてるー!』
『私たちもやりますよー!ね!桂里奈ちゃん』
『あいあいあーい!!』
『―――』『沙紀もメラメラしてます!』
「うっさいわアンタらぁぁぁぁ!!!!!!!」
ウサギさんチームを怒鳴りつけて強気の姿勢で前を向く。アリサの脳は高速で回転し、格上相手の戦術を弾き出し始めた。
違う場所で同時に起きる局地戦。牽制を続けるだけだった二つの盤面は
「「Panzer Vor!!!」」
―――ほぼ同時に、唐突に口火を切った。