【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
島田愛里寿の目の前には10輛の黒森峰車輛。率いるのはボロボロのティーガーⅠ。そのティーガーⅠの車上に姿を見せた眼帯の少女を睨みつけるように強い“圧”を放つ愛里寿に、眼帯の少女、バウアーの頬に一筋汗が伝う。ビリビリと身を震わせる、見た目とは裏腹の凶悪な圧力に怯む黒森峰の車輛たちに
「―――教えてやる義理は、無い!!」
負けてやるものかと叫んだ。虚仮でもなんでも構わない、相手の圧力を吹き飛ばすように声を張り上げた。
「―――お前たち!!前を向け!拳を握れ!!胸を張れ!!
―――もう二度とあの人に、あの人たちに恥じない自分であれ!!!」
心の内に抑え込んだ熱を想いとともに吐きだしていく。不思議と、熱を吐きだしても吐きだしても消え失せることはなく、吐きだした熱は広がり、伝染していく。
黒森峰の車輛一つ一つが繋がり輪になり一塊になる。
【黒森峰の戦車道は、撃てば必中守りは固く進む姿に乱れ無し。部隊は手であり足であり、心臓を護るための肉体であれ。己の隣は他者ではない。同じ肉体の細胞のひとつであり、ともに心臓を護るための部位である】
西住まほの教えが、
【辛いとき、苦しい時に隣を見ろよ。酒酌み交わしてメシ食って、一緒に笑ったダチが隣にいるんだ。怖いものなんかなーんもねぇさ】
天翔エミの在りし日の言葉が、
その二人が袂を別ったのは、私たちのせいで、
今の中途半端な黒森峰のせいで、隊長は迷い続けている。
彼女たちに胸を張って誇れる自分でありたい。
「―――多少時間はかかるけど、貴女たちじゃ、私を打倒できない」
淡々と、黒いオーラのようなものをちらつかせる島田愛里寿へと、バウアーは眼帯に覆われていない方の目を向ける。その瞳に強い決意を宿らせて
「黒森峰を無礼るな」
ただ静かに一言言い放った。
「くそっ!!ルミやメグミがいれば……!!」
アズミは苛立ちまぎれにダンと戦車内壁に拳を叩きつけた。M26の性能も、乗員の練度も目の前の敵には負けていない。引き連れている他のM26の練度も決して弱くはない。
対して相手はどうだ?ティーガーⅠの西住まほ、ヤークトティーガーの天翔エミ。いずれも傑物ではあるが、コンビを組んでいたのは黒森峰時代。乗員も一度は戦車道を辞めた身で、大洗で多少取り戻したところでかつてに比べて間違いなく劣っている“はず”なのだ。部品の調達もままならない大洗の台所事情に黒森峰の西住流が手を貸したなどという情報もない、弱体化は必至。
加えて異分子がふたつ。アンツィオの安斎千代美の乗るP40と懐刀のペパロニのCV33。コンビネーションを発揮しようと豆鉄砲に過ぎないCV33と当たれば砕ける装甲のP40、何の障害にもなりはしない。
なのに崩せない。
『B1!CV33に間に入り込まれました!A1の影に入れません!』
『B2!ヤークトが旋回中、ティーガーは右回りに回頭!』
矢継ぎ早の報告に脳内パズルを組み立てる。高速機動で戦闘する以上車上に顔を出す意味は薄いため、周囲の戦車を偵察兼壁役兼砲台として運用するのはアズミでなくとも良く行われる戦い方である。
教本にもある と言われればそれまで、だがそれゆえに【手堅く戦う】見本であり―――
―――教本を破るのは“
*******
「ペパロニ!一旦戻れ!天翔と西住が体勢を立て直したら撃破されないように駆け回れ!!“できるよな!?”」
『当ったり前ぇッスよねーさん!!あたしはアンツィオの特攻隊長!度胸と根性なら誰にも負けねぇ!!!』
力強い声で返事を返したペパロニに車内で小さく微笑む。手に持った鞭を弄ぶようにして含み笑いを漏らすその様はどこかのアニメか何かの悪の幹部さながら。上機嫌なアンチョビにペパロニからの通信が続く。
『しっかし流石ねーさんッス!!やつら完全にビビリ散らかしてブルっちまってますよ!!あたしらとあいつらのコンビネーションとか考えてもなかったんでしょうぜ!!』
ケラケラ笑うペパロニに、アンチョビは目を細めた。閉じるほどに目を細めて、薄く開けた瞳の向こうに幻視した景色を見る。
西住まほが居た。
天翔エミが居た。
精強な黒森峰と、あの日の敗北の試合があった。
「―――当然だ。ああ、当然だとも」
独り言ちるように声が漏れる。
「腑に落ちないだろうなぁ。大学選抜……だがそれも当然だ。あの日の誘いなど誰も知らない。あの日の想いを誰も知らない。私の思いを私以外誰も知らない」
『……ねーさん?』
手にした鞭をギシリと捻じ曲げる。張り詰めた弓のように弧を描く鞭にさらに力を入れて、夢想の向こう側を見ながら、アンチョビの独白が続く。
「―――あの日から、一度たりとも思わない日はなかったさ!!
何度だって想った!何度だって考えた!!“私たち三人ならどう戦うか”なんてな!!
―――悩んで、悩んで、考えて、考え抜いて、試行して、試験して、改良して、苦悩して、足掻いて、鍛えて、自虐して、反発して、想い描き続けた!!」
目を開いて車上に上半身を晒す、旋回途中の風圧に髪が靡いて流れて暴れる。
同じ態勢で、倍ほどの速度で駆けているティーガーの上、顔を出して戦う西住まほと目が合った。回頭させて射線を開くヤークトの中に居るであろう天翔エミの方を見た。頬に伝った一筋の涙は風圧で歪に流れて消えていった。
「私はなぁ―――いつかこうやって戦う日を
あの日の選択を、悔やまない日はなかったんだ――――!!!」
そうしてアンチョビはするするとそのまま車内に戻る。心配そうな表情でこちらを見ているアンツィオのメンバーの前で、アンチョビは車長席に座って
いつもの笑顔を浮かべて見せた。
「それと同じくらい、あの日の選択を正しかったと思わなかったことはなかった!!当たり前だろう!私はアンツィオのドゥーチェ・アンチョビだぁ!!
行くぞぉ!!私が鍛え上げたアンツィオの精鋭たち!!
わたしにあの日が間違ってなかったって―――教えてくれ!!!!」
『ったり前ぇッスよねーさん!!てめぇら気合入れろ!!』
『『『Avanti!!!』』』
****** → Emi
なにこれなにこれ、すっごーい!(けもの感)
いや真面目にドチャクソ動きやすいんだけど!?なんなのこれ、戦術が加わるだけでこうも動きやすいものか!?いやまぽりんが悪いわけではないし黒森峰はあれはあれでまとまってたんで問題なんかまるでないんだが……、西住流ってのは基本守りを固めてまとまって攻撃するっていう堅実な攻撃方法である。そこに俺という固定砲台が加わったことでまぽりんが編み出したのが電撃作戦と鉄血兵団を組み合わせた改良戦術。本来決勝戦でみぽりんに負けた後新戦術として試行錯誤していた『黒森峰全体での電撃作戦』と西住流のいいとこどり。
普通こんな戦術成り立たない。だが“西住まほ”と“3秒ごとに砲弾ぶっぱなすヤークト”がそろった結果、ここに偶然成ってしまった。
確かにそれは強いんだ。だが―――それは“後に続かない”強さだった。
チートなヤークトと西住まほというチート、二つが揃ったからこそ出来上がった戦術。逆に言えば『それが無ければ生まれない』戦術なのである。発展性、まるでない!俺という装填手の存在が生みだした理外の戦術なのである。つまるところ、黒森峰の閉塞的な状態は俺が作り出してしまったようなものなのだ。
後悔はあんまりしていない!何故ならそうしないと黒森峰戦車道でやっていけなかった=みほエリを成すための一歩目を刻めなかったのだから。
だが同時に責任は感じている。この状況を作り出してしまった責任のつもりでまぽりんの緩衝材を受け持った部分はある。それはそれとしてまぽりんのフォローせんとまぽりんが孤立するフラグしか見えなかったからフォロー不可避だったけど。
【閑話休題】
まぁそれはそれとして、アンチョビの指示が的確過ぎる件。この娘……やはり天才……!!
ヤークトの射線を避けて突撃するまぽりんの動きを完全に読み切って走り回りながら砲撃するP40。ティーガーの死角を抜けるように動くパーシングに対して絶妙のタイミングで時に突撃、時に砲撃し、車体で、砲弾で、ペパロニで相手の攻めのリズムを乱すし、防御のタイミングもずらすし、そんな針の孔を徹すような行動を“まぽりんの突撃もヤークトの砲撃も邪魔することなく”こなしている。何ならその上でこっちに支援砲撃や行動のフォローを行っている。目が4つ5つついてて独立視点で動いてると言われても信じるような戦い方に舌がローリングである。さすドゥーチェ!!
『―――エミ!!聞こえているか!?』
心底楽しそうなまぽりんの声に「応」と短く答える。本当にワックワクが止まらねぇぜってノリノリのまぽりんが声を弾ませていた。
『千代美はいいぞ!!来年が―――楽しみだ!!』*1
柄にもなく饒舌で昂奮した調子で叫ぶまぽりんの声に、頬が緩んでいくのを止められない。マフラーで抑える余裕なんぞ砲弾持ってるのでできないんで、ヤークト内の皆の表情が微妙に生ぬるい件。だがそんなことは今、どうでもよかった。俺の思いはただ、ひとつ!
―――このまぽりんの態度…間違いなくまほチョビの鼓動が共鳴している―――!!!
******** Emi → Others
「聞かせてもらおうじゃない。アンタが何で先輩を裏切ったのか……!!」
まほたちとアズミが激しく戦闘を繰り広げているころ、対峙する二輛の戦車。Ⅳ号とティーガーⅡの車上で、二人の少女が視線を交わしていた。
かたや天翔エミに助けられ続け、その天翔エミの手を放した少女 西住みほ
もう片方は、あの日天翔エミの手を放し、後悔を忠誠に変えた少女 逸見エリカ
お互いに天翔エミを信頼しているという点で同じなのだと考えていたエリカの思いはみほの裏切りで打ち砕かれた。静かな怒りがエリカの内でとどまっている。
ひとえにそれは、こんな状況に陥っても、目の前に敵として対峙していても、西住みほという少女の在り方を、逸見エリカが信じているからに他ならない。
「聞かせなさいよ、みほ……アンタの目的を」
エリカの声は怒りを抑えたためかとても冷ややかで、そのためか、みほが車上でビクリと肩を震わせた。何をどう話していいかを逡巡するようなその様子に、気が短いエリカはより深く深呼吸して、極力怒気を抑え込んでゆく。
「黙っているなら私も、私のやり方でしかアンタにぶつかれない。アンタにはアンタの目的があって、だから島田に与した。―――そうじゃなきゃ、アンタの戦車の他のメンツが黙って従ってるはずがないもの」
「エリカさん……」
まほに冷や水を浴びせられる形となったあの時から、エリカは脳内で思考をずっと巡らせ続けていた。みほがエミを裏切る理由、みほにあんこうチームが従う理由、どちらも相当の理由が無ければ有り得ない。
その理由は、天翔エミ本人から知らされた。
けれどそれが理由だとして、“裏切る理由になどなりえない”。
「――説明しなさい。アンタが何をしたいのか」
エリカの鋭い視線に、目を逸らしていたみほが決意を込めて視線を返した。
「――エミさんの、エミさんの命は……」
「もうあまり長くないんでしょう?さっき本人から聞いたわ」
つとめて事も無げに淡々と告げるエリカの口調にみほが目を見開いてエリカを見た。件のエリカの、戦車の影に隠れて見えない左手は爪が皮膚を食い破るほどに強く握りしめられ血色を失っている。
「エミ先輩のことはショックだとは思うわ。でもアンタが先輩を裏切る意味が分からない―――!!」
みほが仮にエミを救おうと考えたとして、それが島田に与して大洗や黒森峰を倒す行動に繋がったりしない。みほがどうして島田に味方するような行動に出たのか?そこがエリカにとって不可解な点だった。
「……西住家がアンタに黙っていたのが気に食わないのなら―――」
「そんなのじゃない!!」
みほの代わりに声を張り上げたのは、武部沙織だった。みほの代わりに答えるように他のメンバーがⅣ号の各部のハッチを開いて次々に顔を見せる。
「私たちは天翔先輩を救いたいと思っています」
「―――だから!先輩を救うためって言って、何をどうしようって言うのよ!!」
要領の得ない回答に苛立ちが限界を越えた。怒りを顕わに怒鳴り返すエリカに、みほをかばう様に前に進み出た秋山優花里が声を上げる。
「失礼ながら、不肖秋山優花里、みほ殿の代わりに申し上げます!みほ殿は島田愛里寿殿に、天翔殿を救うための時間を提示されたのです!!」
「―――時間……?」
優花里の言葉に聞き返すエリカに、みほは優花里に庇われていた状態から前に身を乗り出した。
「―――今の医学では、エミさんは救えない。たとえ未来にエミさんを助ける手段があったとして、エミさんの寿命が尽きてしまう方が先になる」
「だから先輩から戦車道を取り上げて寿命の進みを少しでも遅らせようって言うんでしょう?そんなもの、気休めにもならない―――!!」
吐き捨てるようなエリカの言葉に、みほは首を横に振った。
「……島田流家元の千代さんと、愛里寿ちゃんが約束を交わしてた。この勝負でもしも島田が勝利して島田の威を示すことができたなら、エミさんの病状の改善に全力を尽くすって」
「だから―――そんな時間は残ってないって言ってるでしょうが――ッ!!!」
エリカの怒号に、みほは決意を込めた目で応えた。
「――医学の発展にかかる時間、その結果失われる寿命を、天翔エミを“冷凍睡眠”させることで留め置く。
5年。5年後に、エミさんにもう一度選んでもらうの。
たとえ私たちと離れても、戦車道を続けるかどうかを」
26話で終わらせる予定があと4話はかかる不具合()
理由?だいたいパイセンとアンケの結果だよ!!
次回はエミカスとかみほエリ以外の戦場じゃーい!(アンケには忠実勢)