【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
まほルートの続き鋭意執筆中。今少しお待ちを
重厚な履帯痕と着弾痕で凸凹になり、吹っ飛んだ際に装甲や履帯・転輪の破片が散らばり何だったら地面は油まみれになってるであろうゴルフ場。税金で直す確約が無かったらオーナーが首を括りそうな出来栄えのアバンギャルドなフェアウェイ上に赤絨毯を敷き、死屍累々の戦車たちの中でテーブルを囲んで紅茶を嗜む英国淑女たち。
「――もう少し後ならオ-タムナル*1の時期だったのが残念ね」
「でしたら、旬の時期にまたグロリアーナにお越し下さいませ。先輩なのですから」
涼しげな顔でカップを傾けるアールグレイに微笑みで返すダージリン。ダージリンの背後にはオレンジペコ、アールグレイの背後にはアッサムがそれぞれ付いてサーブ係を務めていた。
「―――天翔エミの……彼女の身体については」
「もちろん……存じ上げておりました」
アールグレイの言葉に静かにそう言って紅茶のカップを傾けて見せる。
ダージリンにしてみればそれは当然の話であった。そも、ダージリンはあの“天翔エミ吐血事件”に居合わせてしまった当事者であり、西住家・黒森峰とは無関係の人間である。西住家が情報封鎖を行う上でどうしても情報を止めるために抱き込むべき人材だったため、西住しほとしても情報の開示を行わなければならなかった相手なのだ。
「ならばなぜ、あの子の寿命を縮めるような大会を決行したの?」
紅茶で舌を湿らせて、アールグレイははっきりと切り出した。
対するダージリンは紅茶をくっと飲み干して、後ろめたさを隠しきれず眉を曇らせる。それでも彼女の目だけは真剣なまま、アールグレイから視線を外さない。
「アールグレイ様もおっしゃっていたでしょう?あの子はイカロス……決して諦めることはしない。どこまでも高く高く飛び続けて―――いずれ墜ちる」
新しくサーブされた紅茶を一口。そして重くてどうしようもない口を開いて言葉を絞り出す。
「あの子は誰が止めても続けます。たとえ世界の戦車道からはじき出されたとしても、戦車道を続けるでしょう。西住も島田も関係なく、あの子は立ち止まれない火のついたネズミ花火のような生き物ですから」
「酷い言い様ね」
アールグレイの言葉に、「それでも」と返してダージリンが言葉を続ける
「あの子の人生はこれまで戦車道のために存在しました。そのこれまでを打ち棄てて「高校までで戦車道を捨てる」とあの子が言った時、私は気付いたのです。
あの子はきっと、自分の身体のことをうすうすではあれど理解している と」
人生の全てを戦車道に捧げてきた天翔エミ。その天翔エミが「戦車道を捨てて野に下る」などという選択肢を選ぶ理由。それをダージリンは推理した。ダージリンの考える天翔エミの人生とは西住まほとともに駆け抜けた黒森峰でのこれまでであり、天翔エミ自身の内心にある渇望とはスタートラインが違う。その齟齬が生み出す認識のズレがダージリンの結論に生じさせた歪み。それが今回の顛末だった。
「相手の意思を無視した押しつけは余計なお世話―――アールグレイ様、貴女は以前そう言いました。ですからこれは“余計なお世話”なのでしょう。あの子に恨まれるかもしれません。それでも、です」
カチャンと強めにカップを置いた音が響く。
「私たちの誰もが、あの子の影を引きずって前に進めなくなる。その未来が見えたのです―――あの子がそれを後悔しつつも立ち上がることすらできず、失意のうちに死んでいくなど、到底看過できません」
それはいくつか存在する、“ダージリンがエキシビションマッチを開いた理由”のひとつ。いくつか存在する、譲れないもののひとつ。
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「―――こちらを寡兵と侮り過ぎだろう」
ルミの呟きは履帯の音にかき消された。後ろから追いかけてきているのはカチューシャの操るT-34とノンナ・クラーラのT-34。それにKV-2、ポルシェティーガーの4輛に対しルミはルミのパーシングとチャーフィーの2輛。
しかし捉えきれない。
技量の問題だけではない。T-34は整地状態で50km/h、不整地状態で30km/hに対し、ポルシェティーガーとKV-2は整地状態でも35㎞/hが精々である。それに相対するM26パーシング、M24チャーフィーは整地状態で40~50㎞/h、不整地状態でも30km/hで走行が可能である。
カチューシャが得意の包囲戦術に持ち込もうとするも速度を鈍足の二人に合わせた結果、奇襲効果は半減してしまい、膠着状態に持ち込まれた。そのうえで、ルミはアズミ・メグミへの合流を優先し、撤退戦へ移行。追走するカチューシャとクラーラに対し、一歩遅れる形になるKV-2とPティーガーが追いすがる。
KV-2は重心の問題から足を止めなければ砲撃後の姿勢制御に問題がある。
ポルシェティーガーは足回りに問題を抱えておりそもそも移動に不安を持つ。
決定打を持つ重量級の2輛が揃って同じような欠点を抱え、逃げる戦車相手にはデメリットが大きすぎたことが、カチューシャ組の不運といえる。実際は、そうなるように見越したうえで足回りに問題のないIS-2を先に潰した島田愛里寿の読みが上を行った結果なのだが―――。
「……アズミのところには西住まほと天翔エミがいる。メグミと先に合流して、そこでとりあえず連中を払いのける!」
ルミの選択は「メグミとの合流」だった。アズミが時間を稼いでいる間に他の車輛を駆逐しながら三者合流を目指す方向に舵を切ったからには、その行動は迅速だった。後続を連れて進む分、どうしても一手遅れることは免れないカチューシャを背に、ルミはメグミのいる地点へと進む。
――― 一方で、メグミの方は
「くそっ!!……今までもそうだったが、今まさに思う!回る砲塔が欲しい!!」
「同感―――ぜよ!!」
後方から追い立てられるようにして駆け抜けるⅢ突の中で悪態を吐くエルヴィンと、同意を示すおりょう。自走砲という車輛の欠点として、載せられた備砲の旋回ができないため、横・後ろからの攻撃に対して反撃ができない。これまで幾度となく弱点を突かれて来た中で、ナポリターンという急反転等速バック走というアクロバット技を体得したりもしたが弱点の克服には遠かった。
「反転しようにもこの状況は―――辛い!」
ナポリターンで反転して砲撃を狙おうにもパーシングの機動力を考えると反転で速度が緩んだ瞬間横に並ばれる予想が消えない。じりじりと追い立てられているそこへ――
『たかちゃーーーーーーーーーん!!!』
オープンチャンネルで大きな声が響き渡った。
「ひなちゃん!!」
声に反応して笑顔で声を上げたのは―――装填手のカエサル。
Ⅲ突の向かう先から逆走するように飛び込んでくる車輛がひとつ。
セモヴェンテM41――アンツィオ高校のエンブレムを付けた車輛の上から顔を覗かせる金髪の少女。アンチョビの右腕をペパロニとするならば、彼女は左腕。
アンツィオの副官カルパッチョが、ほわほわした表情で呑気に手を振っていた。
「んっ……んんっっ!!―――カルパッチョ!アレでいくぞ!!」
『わかったわ!任せて、たかちゃん♪』
車内の他の三名の生暖かいニヤニヤ顔に赤面しつつ咳払いをしたカエサルは通信機を奪い取ってカルパッチョに通信を送る。
アンツィオと同盟を結んでからしばらくの間、アンツィオの学園艦から積極的に大洗に出稼ぎという名目でアンチョビとペパロニ、カルパッチョがやって来ていた。そのうえで、カルパッチョが積極的にカバさんチームと連携を取れるように進言した存在が居たため、短い期間とはいえ大会までの間2チームは連携訓練を密に行っていた。
その結果生まれた戦術が―――
Ⅲ突と交差するように前に出るセモヴェンテの砲撃を躱してセモヴェンテに対峙しようとしたメグミの横をそのままスルーするセモヴェンテ、どちらを追撃するかで迷っている間に勢いを殺さずに駆け抜けたⅢ突は方向転換しメグミたちの方向へと回頭する。メグミが麾下のパーシングと散開して挟むように回り込もうとしたタイミングで、回頭したセモヴェンテが戻ってくる。
回頭→突撃のタイミングを合わせてまるでメリーゴーランドのように戦車をぐるぐると交換させる戦術を、こう呼ぶ。
―――
「見たか!上杉謙信公譲りの“車懸かりの陣”だ!!」
左衛門佐の渾身のドヤ顔に「いやロシアの近代戦術タンクカルーセルが」だったり「むしろ2輛で車懸かりは無理があるぜよ」などのツッコミが反響するⅢ突車内だった。
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エキシビションマッチの様子は現地の人々へと映像提供されている。これは非公式とはいえ戦車道というモノの基本的事項である。
大型電光掲示板に映し出される各所での戦いの様子に沸き立っている中、その戦場を遠くから俯瞰するように見ている影がふたつ。
かたや戦国武将のように簡易椅子に座り、泰然自若の様子で戦場を眺める黒髪の女性――西住流家元、西住しほ。
かたやその隣で日傘を手に涼やかな微笑みを絶やさず、オペラグラスのような道具で戦場を眺める女性――島田流家元、島田千代。
西の西住、東の島田と呼ばれる二つの流派の家元が並んで戦場を眺めていた。
その視線の先では、家元の次代の後継者と目される娘たちが戦っている。故に嫌が応にも周囲は見てしまう
―――『この戦いが西住と島田の因縁の延長線にある』と。
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西住流家元、西住しほは内心で頭を抱えていた。
西住まほと島田愛里寿の殺し合いもかくやという戦い、そして西住みほの裏切り。
戦車道にとって、西住流にとって、醜聞どころの話ではない。何よりそれ以前に母としてこの状況に頭を抱えずにいられない。だが、外聞と風聞に直結する今の場面が、しほにそれを表情に出すことを許さなかった。
それを全てわかっているような表情で見ている旧知の友人の内心は今のところ推し量れない。が、それを表情に出せばこの衆人環視にも似た状況で悪手以外の何物でもない。確かめるためにも携帯端末を陰で操作する。
―――帰ったら常夫さんに色々愚痴を吐きだしまくりたい。精神的な意味で本当に本当に楽になりたい。でもきっと家族会議の方を優先しないと危ない。何でこう、ここ最近あの娘の影響が良い方向にも悪い方向にも出てしまうのか……!!
悪態のひとつくらい吐きたくもなる。けれどそれを“自分たちの事情のために命を削ってきた少女”に向けて吐きだすような慮外者のような真似など、できるはずもない。
内心の苦渋が目元の皺に直結する西住家の母は現在進行形で胃痛と戦っていた。
一方で、島田千代も実は内心で頭を抱えていた。
「西住流を徹底的に叩き潰せ」と言ったのは千代本人だ。
そうすべきだという島田流の“流れ”を前に、そう愛里寿に伝えるしかなかった。
それに対してカール自走臼砲を手配して、それを推挙してきたのは文科省だ。武器として運用し辛くもあるが威力とインパクトは最大級の戦車であり―――数に制限を掛けられた状況であれば強力な武器だという触れ込みで用意されたものだった。
600mmの砲撃に晒され無惨に吹き飛び転がる戦争ドキュメンタリー映画さながらの様子に観客からは当初どよめきと同じレベルで歓声が上がっていた。インパクトとして存在感は重要で、そのため【興行の見世物】としての迫力は上々だったためだ。
問題だったのはその後の西住まほと娘、島田愛里寿の死闘と呼ぶべき全力戦闘。
お互いに相手を殺すつもりでやっていると思ってしまうほどの熱の入った戦闘に、『とにかく特殊カーボンがあればへーきへーき』という認識でいる観客が若干の疑念を抱くに足る内容だったこと。
戦車道が危険なモノだというレッテルが作られ、そして誤解されたままとなると今後プロリーグを誘致するにあたって折角煮詰めたルールを大幅に緩和せざるを得なくなる。それはひいては戦車道がただの“おままごと”になってしまう危険を孕んでいるし、世界的な視点でそれを見た諸外国の戦車道にとって日本をスポイルするに足る話題になりえた。
故に表情を崩してはならない。焦った表情を見せればこれを“ハプニング”だと群衆が理解してしまう。そうなれば憶測が憶測を呼びどういう結末を辿るのか予想もつかない。それは最悪、自分の流派だけの問題ではなくなる。
―――表情を崩すことなく、お互いに距離を取って「最初からわかってました」という表情で戦場を見続けることで、この一件を『プロレス』に落とし込める。
つとめて冷静な貼り付けた柔和な笑みのまま、娘の死闘を見続けなければならない母親の精神的なダメージはいかがなものだろうか?答えは貼り付けた表情の影、日傘の中の持ち手の影に隠された携帯端末が知っている。
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送信者:しぽりん
件名:説明なさい
本文:
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怖い。
どうしようもなく恐ろしいこの空メールから感じる静かな“圧”に、千代は表情を崩さないようにつとめて冷静に日傘で隠してメールを返信する。
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送信者:ちよきち
件名:Re:説明なさい
本文:
後日釈明の機会をください
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座ったまま、泰然自若の様相を崩すことなく身体の影で携帯に視線を落として文章を確認し、表情を崩すことなく視線を千代の方に向けるしほ。
『弁解は罪悪と知り給え』と言っているかのような視線を感じながら前を向く千代に返信メールが届く。
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送信者:しぽりん
件名:Re:Re:説明なさい
本文:
今 ここで
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“いや、無理!無理なのよ!わかって!?しぽりんお願い!!”
動揺をおくびにも出さず内心で絶叫する。見えない背中側に汗がひどい。
終わったらシャワーとか浴びたい。むしろ温泉とか入りたい。身も心もリフレッシュしたい。
そんな気分でいっぱいの島田千代だった。
> 大饗宴が始まるよりすこーしだけ前
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――月――日
アンツィオとの合同練習に対して俺の意見をチョビが聞いてきたので
かねてより考えていたことを提言してみた。
決まってるだろう? ひなたか
ひなちゃんたかちゃんのもはや出来上がってる関係を生暖かく見守ること
それを見てみぽりんがその関係性に憧憬を感じてくれればみほエリの関係の
後押しになるのではないか?そう考えた俺である。
俺の計画通り、ゆりゆりしい二人の様子にわかってる感あふれる他の歴女ズは遠巻きにニコニコと生暖かい笑みを浮かべて観戦モード。視線に気づいて気まずそうに照れ顔で怒鳴るカエサルの様子にみぽりんも微笑みつつもなんか羨ましそうな表情を浮かべている―――フッ……勝ったな。
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ヒナ「ドゥーチェのお友達のこと、誤解してました!いい人ですね!!」
チョビ「そうだろうそうだろう!」
ヒナ「でも念のためにドゥーチェには色々と頑張って頂きたいです!」
チョビ「うん……うん……?」