【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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聖なる泉(ミホエリウム)枯れ果てるとき、凄まじき戦士(まほルート)雷の如く出で、太陽(エミ)(病み)に葬られん



「こんなIFルート(寄り道)はさせたくなかった。君には、冒険(みほエリ)だけしていて欲しかった―――。ここまで君を付き合わせてしまって―――」




   Episode 48 『96式装輪装甲人員輸送車(クーガー)



 うそです()




【 まほルート 第二十七話 夢(みほエリ)の道(ロード) 】

 >> Side 【黒森峰女学園】

 

 

 黒森峰の戦車道は「隊長を中心とした一糸乱れぬ連携」にある。それは西住まほが隊長でなくとも小隊長麾下の小隊でもいかんなく発揮される。西住まほという傑物による大隊運用が目を見張るだけで、中隊以下の小規模であってもその隊列に乱れが生じないようにたゆまぬ努力の果てに、黒森峰レギュラーメンバーは在る。

 

 

 ―――それ故に、弱点もわかりやすい。

 

 

 

 小隊長バウアーの乗るティーガーⅠは、西住まほの酷使によりボロボロだった。とてもではないが戦闘に耐えうるような状態ではない。だが、それは指揮を執るだけならば必ずしも必要ではない―――ただしそれは戦闘と関係ない場所で指示を出す場合に限るという前提が必要だ。

 だからこそ、攻撃を受けるバウアーのティーガーを護るために射線上に飛び込んで防衛する車輛に攻撃し、一枚一枚じっくりと外装を剥ぎ取るように護衛車輛を殲滅していく。愛里寿の戦術は徹底して【鏖殺】と呼べるものだった。

 

 

 「―――状況、終了」

 

 

 転輪を破壊され、エンジンから火を上げて白旗を上げるティーガーⅠ。

動けなくなったティーガーの上からヨロヨロと顔を覗かせるバウアーは、愛里寿の無表情に不敵に笑みを浮かべて見せる。

 

「先に言った通り、あなたたちじゃ私には勝てなかった」

「―――わかってたよ。

 

  あぁ、わかってたさ。そんなことは!!」

 

 血を吐く程に声を張り上げてバウアーが嗤う。

 

「我々は黒森峰、西住流の隊長のため己を鍛え上げて来た!!たとえ僅かでも、隊長のために、天翔さんのためにお前をここに足止めできたなら―――それで我々は役目を果たした!!」

 

「口惜しいがな……」と僅かに漏らしたのはバウアーの掛け値なしの本音だったのだろう。顔を歪ませて目を逸らして、それから気を取り直したように愛里寿をキッと睨みつける。

 

 

「お前を倒すのは私たちの役目じゃない」

「そっか……」

 

 

 短くそう返しただけでふいと顔を背けて“踏”を送り、センチュリオンがその場を後にする。バウアーはティーガーの上でその姿が消えるまでを見送って――

 

 

 

―――ただ一度、戦車の装甲板を強く殴りつける音が響いた。

 

 

 

 ******* >> Side 【鉄血同盟】

 

 

 

 メグミとルミが合流して、カバさん・カルパッチョチームと合流したカチューシャたちが即興の連携を繰り広げているころ―――

 

 

   大学選抜チーム!M26パーシング、走行不能!!

 

 

 ―――アズミ機が白旗を上げていた。

 

 

「ひとまずこれで1手、だな」

 

 それなりのダメージを負っているがまだ健在のP40の上から、やや疲れが見えているもまだまだ動けるCV33を背にアンチョビがメモを取る。

 

「――残りの二人がどうなってるかと、島田愛里寿相手に黒森峰の連中がどれだけ時間を稼いでくれたか次第なんだが……」

「――5分……いや、もっと短いかもしれないな。不甲斐ないことだ。

 それよりも千代美、この後の作戦を―――」

「――!!オイコラ手前ェ!自分とこの仲間に何て言い方してんだぁ!!ねーさんの知り合いだからって容赦しねぇぞァ!!」

 

アンチョビの言葉にぽつりと短くまほが返す。さらりと返した物言いに、ペパロニが食ってかかろうとする。

その様子に―――何故かアンチョビはやれやれと首を振り、他のメンバーは総じて微妙に生暖かいような微笑みを浮かべていた。

 

「天翔。説明してやってくれ」

「あー……ペパロニさん?今まほはこう言ったんだ。

 

 『バウアーを含めた黒森峰の皆の士気は高い、だが島田愛里寿の練度はその上を行く。善戦はしてくれるだろうが稼げたとして【5分、いや、もっと短いかもしれない】。だが、その時間は彼女たちの成果であり何より貴重な時間だ。こうして力になれないこの身が【不甲斐ないことだ】が、【それよりも】この貴重な時間を可能な限り有効に使うために【千代美、この後の作戦を考えてくれ】』

 

 ってさ」

「もう原文が残ってねぇじゃねぇッスか……ねーさん、ねーさんの友人関係、色々ありえねぇッスよ?」

 

 アンチョビの言葉にさっと割って入ったエミがすらすらと意訳して見せるとまほが満足そうに「そうだぞ」と言わんばかりの表情で頷いて見せる。それ以上どういう言うのすらどうでもよくなったペパロニが困ったような表情でアンチョビに愚痴を漏らして戦車に引っ込み、その場はなんとかおさまった。

 

 

「問題は島田愛里寿の動きと、西住の妹の方だろうな」

 

 アンチョビが空気を変える様に作戦について語り始める。

 

少なくとも3機連携の可能性はこれで潰せたのだから一歩前進はした、が、いまだ健在が2輛存在していて、そこに島田愛里寿が合流すると連携されて手が付けられなくなる。危惧する最大の問題に手を付けたい、が、西住みほと逸見エリカの戦いがどう転ぶのかが悩みの種だった。

 

 

「ドゥーチェ」

 

 

 アンチョビに向けて声をかけたのは、ヤークトティーガーから顔を覗かせる天翔エミだった。『千代美』ではなく【指導者(ドゥーチェ)】と声をかけるエミに、アンチョビはやや表情を引き締める。車高の高いP40の上に陣取るアンチョビを見上げるようにして、エミは口を開いた。

 

「みほとエリカなら、心配いらない。あの二人の戦いの邪魔が入らないようにしないと遺恨が残る。愛里寿と残りを分断して戦うことを考えてくれ」

 

みほとエリカへの強い信頼を感じさせる言葉に、アンチョビは「そうか」と短く返す。

 

 なんとなく、ほんの少しだけ羨ましさを感じて、アンチョビは思考を巡らせ始めた。

 

 

 

 ****** >> Side 【みほエリ】

 

 

 

「5年。5年間、エミさんには眠っていてもらう。もし5年で治療方法が確立しなかったら、その時もう一度エミさんに選んでもらう。このままもう一度眠り続けるか、それとも、残りの時間をみんなと一緒に生きるか」

 

 みほの声は絞り出したような様子で、苦渋の末に決断したのだろうとわかる。

 

「―――それを先輩が納得すると思うの?」

「それでも……私はエミさんにもっと生きていて欲しい」

 

 みほの根底にあるのは【エミの命を守る】こと。延命の可能性に縋り続けること。それを―――

 

 

 

「―――お話にならないわ」

 

 

 

 逸見エリカは、バッサリと切って捨てた。

 

 

「人は永遠に変わらず生きるなんてできない。先輩が5年間時を止めている間私たちは歩みを進めてる。先輩が起きた時、私たちが昔の私たちのままでいられるはずがない。それに先輩はきっと、耐えられない」

 

 

 真っ直ぐにみほを見つめるエリカ。瞳の奥に潜むものを推し量る様に、ただまっすぐに。

 

 

「そんな難しいことどうでもいいよ!!」

「そうです!私たちはただ、同じ学校の先輩が早世することを止めたいだけなのです」

 

 

 武部沙織が、五十鈴華が口々に声を上げる。エリカはそれを無視するように一瞥してみほをただ見据えていた。

 

 

「―――私は、論理的な面で言えば逸見さんに賛成だ」

 

 

 操縦席のハッチを上げてけだるげな顔を見せたのは操縦手の冷泉麻子だった。

 

 

「天翔さんの症状も、寿命の問題も聞いて理解したうえで、それでも人は人としての生を全うすべきで―――そういう意味では、本人の意図しない延命は余計な世話でしかない」

 

訥々と、淡々と語っていく麻子の言葉に沙織が声を上げようとするも、それを華が手で制する。沙織の方を一瞬だけ見たうえで、麻子は「それでも」と続けていく

 

 

「……もし私がみほさんの立場で、天翔さんの位置にいるのがおばぁなら―――わたしはみほさんと同じ行動をとらないなんて言えない。

 

 私はまだ、おばぁが居なくなることを呑み込めるほど大人になってない」

 

 

 だから自分は西住みほに協力しているのだ。と、麻子は宣言した。

 

 麻子の言葉を聞いて、じっと黙考するように止まっていたエリカが、すっと瞳を上げてみほを見据えた。瞳の圧に気おされる様に一瞬身をすくませるも、みほも負けじと強い決意でエリカを見つめ返す。

 

 

「―――昔、アンタと勝負したことがあったわよね?」

 

 

 唐突にそんな話を始めたエリカに「えっ?」と虚を突かれたように声を上げるみほ。そんなみほにかまわず、エリカは自分の言葉を続けていく。

 

 

「中等部に入りたてのころ……アンタが先輩を押しのけて副隊長になったのが私にはどうしても呑み込めなくて、思い立ったら先輩に直訴してた。『西住みほと勝負させてください。もしもこれで負けたら私は戦車道を辞めます』ってね」

 

みほにとってそれは初耳の話で―――エミが意図的に伏せていた話で。

 

「その時にね、先輩が言ってたの。『みほは優しすぎる。だから誰の意見も蔑ろにしたくないし、助けられる相手は助けようとする。だからみんなから慕われてるエリカが負けたら戦車道を辞めるなんて条件つけたら、彼女は絶対勝とうとしない』って」

 

若干情報が盛られてはいるが、それは紛れもなく天翔エミの言葉だとみほ自身が理解していて、

 

 

「―――ねぇ、みほ。あの時の勝負、もう一回しましょうか」

「……えっ?」

 

 

 困惑するみほとあんこうチーム、だけではなくエリカの車内のメンバーにも動揺が伺える。そんな中、エリカは喋り続けた。

 

 

「ルールは簡単。1対1(タイマン)で、撃破された方の負け。アンタが勝ったら好きにすればいい。私はもう止めたりしない」

 

 

突き放すような言葉にみほがぐっと息を詰まらせる。「だけど」と一拍おいて、エリカは再び言葉を紡ぐ

 

 

「もしも私が勝ったら―――アンタは勝者の権利なんてまどろっこしいモノ捨てて、真正面から先輩を説得しなさい。その時は私も一緒に頼んであげる」

 

 

 みほが目を見開いてエリカを見た。ハッチから顔をのぞかせているあんこうチームも皆一様にエリカを驚いた表情で見ていた。車内からは「小隊長?!」と声を上げる様子が聞こえてくる。けれどエリカにはそのあたりはどうでもよかった。

 らしくないと自分に言い聞かせながら、言葉をもにょもにょと口の中で遊ばせては封じて、言語を限りなく選んで、選んで、やっと口を開く。

 

 

「―――らしくないのよ。私の知ってる西住みほは、いつだって先輩に助けられてて、先輩を助けてて、お互い様で―――あぁもぅ面倒くさい!!

 

 どうせ私が勝つんだからいいでしょ!!やるの!?やらないの!?」

 

 

癇癪を起した子供のように苛々とした様子で怒鳴るエリカに、みほは普段の日常で見せるような柔らかな表情で微笑んで

 

 

「うん!!やろう!!エリカさん!!!」

 

 

エリカの宣言にそう応えた。

 

 

 

 *******

 

 

 

「うん!やろう!エリカさん!!」

 

力強く宣言するみほの声に一瞬だけ下を向いて、エリカは「ごめんね」と小さく呟く。

 

 

 エリカが今回みほと対峙する目的は所謂「分断」に他ならない。みほの思惑がどうあろうと、エリカにとっての目的は「みほを他の戦場に向かわせず、ここで足止めをすること」である。ではそれをどのようにして成し遂げるか?そう考えた時エリカが思いついたのは―――

 

 

 

 黒森峰と大洗のあの決勝戦での西住まほと天翔エミの戦いだった。

 

 

 

 自分が決めたとはいえ味方を裏切るという選択を取ったみほがそれを負い目に感じないはずがない。そんなみほの心の動揺や罪悪感などみほをずっと見て来たエリカには手に取るようにわかる。

 だからこそ“刺さる”。「この場に逸見エリカを留め置くことが島田愛里寿との約束にも叶う条件であり、罪悪感も何も考えずただ無心に戦うことができる」という心の安心につながる選択肢に、みほは必ず食いつく。

 

 番外での交渉戦術はエリカの本来得手とする部分ではないし、そんな風に相手を陥れるのは自分の心に変な重しを載せていくような感覚を憶えるものだと、どこか他人事のように感じつつもエリカは気を引き締め直してみほを強く見つめた。

 何事か言いたそうだが結局口を噤んだ冷泉麻子からは意味ありげな視線を送られていた。『これで貸し借りはなしだ』とでも言わんばかりの視線に噛みつき返すような強い圧を送るとさらりと透かして操縦席に逃げて行った。

 

 

 いつかの焼き回しのようにティーガーとⅣ号がお互いに十分な距離を取る。決闘の流儀のように、お互いに有利不利を取らない立ち位置に移動し

 

 

「―――戦車前進(Panzer Marsch)!!」

「―――戦車前進(Panzer Vor)!!」

 

 

二人同時に操縦手に指示を送り―――決戦が始まった。

 

 

 

 *******  >> Side 【鉄血同盟】

 

 

 

「島田愛里寿は私が押さえる。千代美は他のメンバーと合流して掃討に回ってくれ」

 

そんな風に切り出した西住まほに、アンチョビは難色を示した。

なぜなら西住まほは島田愛里寿と少し前にお互い万全の状態で戦い、死力を尽くした戦いを演じた挙句お互いにボコボコになっている。それほど拮抗した戦力の戦いの場合、何がどう転ぶか全くわからないからだ。

 

 だが

 

「ドゥーチェ、行かせてやってくれ」

 

 まほの背中を押すように、天翔エミがアンチョビにそう進言した。こうなるとアンチョビにも止める理由が薄くなる。結局アンチョビたちアンツィオチームがカチューシャたちと合流し、メグミ・ルミと戦う。その間にまほとエミの虎コンビが島田愛里寿と戦うという作戦で決着し、二手に分かれることになったのだ。

 

 

 

 

「―――ごめんなドゥーチェ。私もいつまでも逃げてないで、そろそろ現実を見るころみたいだ」

 

 

 

 

 去り際にそんな風に呟いたエミの声を耳聡く拾ってしまったアンチョビは、エミのその言葉を反芻して類推する。彼女の言っていた「逃げていないで」という言葉と、「現実を見る」という言い回しにわずかに違和感を感じながらも

 

 

 

 

「最後の選択は自分で、ってことなんだろうなぁ……」

 

 

 

 西住まほとともに戦いに臨むエミの背中を思い出して

 

 

 

 

 ほんのちょっとだけ、寂しさに目元が潤んだ安斎千代美だった。

 

 

 




 >> Side Emi


―――ドゥーチェたちから離れてまぽりんと二人、ヤークトとティーガーⅠで愛里寿のところへ向かっている。

 ドゥーチェがこっちの説得に従ってくれたのは幸運だったなぁと思わんでもない。まぽりんと愛里寿のあのダメージレベルから考えて、直視したらSAN値が削れそうなくらいの死闘を繰り広げたのであろうことは想像に難くない。

 そんな光景見たらまほチョビの進展度がぶっ壊れかねん(必死)

 自分のために命を懸けてくれる王子様にキュン死する姫ポジってのは恋愛モノの王道ではある。が、生々しい生死を掛けた戦いを目の前で見てキュンキュンするのはどう考えてもサイコパスです本当にありがとうございました。普通に一般的な精神状態の人間ってのはそんな状況になったらまず恐怖を覚えるかドン引きするものだろう(推論)

 それとは別に思惑が無いわけでもないのだが―――

先頭を進むまぽりんの後ろに追従しつつ、盤面を確認する。


三羽烏の一角は倒して、その上で残り二人をカチュノンとたかひなが相手している。偵察隊のチャーフィーはわんころ(ローズヒップ)が追っかけまわしている。
みぽりんはエリカと良く話合って将来のこととかキメてやって、どうぞ。

そして島田愛里寿(ラスボス)のところには【西住まほ】が向かっている。


もはや誰の目であろうと疑う余地はないだろう。



 ―――この世界線の主人公が【西住まほ】だということが。



俺は何故……あんな無駄な時間を……(ミッチー感)


 そう考えるとすべてのつじつまが合う。

俺が一年早く黒森峰に入学していたこと。

まぽりんが戦友で隣人ポジだったこと。

俺がまぽりんのサポートをするために黒森峰にやってきたような流れだったこと。

俺の乗るヤークトティーガーに集められた寄せ集めのメンバー(モブさんズ)が、どれもこれも殻を破ってないだけの強キャラだったこと。


つまるところこの世界線での俺の担当ポジは―――まぽりんのサポート枠だったわけだ。謎は全て溶けた!真実はいつもひとつ!じっちゃんの名に懸けて!!


 ―――だったら俺が決勝でやったまぽりんへの裏切りとその後黙って消えたの永久戦犯レベルのやらかしじゃない?自害せよランサーじゃない?アカン……アカンくない??


 とりあえずまぽりんへの詫びを考えるよりも前に、絶望とともに希望アリとはよく言ったもので、俺には今、特上の希望が存在していた。



 つまりみぽりんはサブキャラってことだろ?


 →恋愛系や日常モノなどの例を出すまでもなく「サブキャラの恋愛ってのは基本蛇足部分」だろ?


 →蛇足で用意された本編のエッセンスであるそれに「ライバルキャラなんか生まれない」だろ?


 →つまり「みほエリの邪魔をするものはどこにもいない」だろぉぉぉぉぉ!?



 そう、みほエリの達成はど真ん中ストライク、邪魔なんか全くないフリーダム!
そのままストフリに進化してハイマットフルバースト、マルチロックオールクリア、種割れからの大勝利ですわガハハ!なのである。

だったらそれをこの目で拝んで確認するまでは―――


「―――絶対に死ねねぇ―――!!」


強い決意を胸にぐっと拳を握りしめる俺をまぽりんが見ていたことに、その時は気付いていなかった。



****** 



 どうやら今は安定しているらしい。と、西住まほは胸をなでおろした。

 エミの状態は急変がありうる。先の決勝のあとの突然の吐血騒動の時のように唐突に倒れてそのまま―――などが十分にあり得る話だ。と、まほは内心で考えていた。
 それでも今回の大会はエミが自分で道を決める最後のチャンスと言えるため参加に踏み切った。そこに横やりが入ってくるなどまほは想定していなかったのだが。


『5年間、エミさんを冷凍睡眠で止めておく』


 エリカの通信から漏れ聞こえたその情報を聞いて、まほはメリットデメリットを素早く計算した。それによりどんな状況の変化が生まれるかも含めてシミュレートを繰り返し―――

 島田愛里寿の思惑に気づいたとき、車内に聞こえるほど大きな舌打ちを漏らしていた。


 5年間 この年月の重みはとんでもないモノになると言える。

 5年後、エミはまだ18歳のままだが、他の皆は違う。5年後、まほは23歳。24を目前に控える年齢になっている。


 そのころには西住流流派を継ぐものとして、まほには『婚姻』が差し迫っているだろう。或いはすでに既婚となっているかもしれない。

 西住流の次期後継として育てられ、西住流を邁進してきて、今更義務を放棄などできるはずもない。母しほが父と出会ってそうなったように、まほにもそういった出会いがあるかもしれない。そう言ったことを考えたこともある。だがそれよりも、一緒にいて安心する存在が傍にいるのだからこれ以上何も望むことが無かった結果、今まほはこうしている。

 となれば当然、宗家の娘として考えられるのは『政略結婚』。世継ぎを残して流派を廃れさせないための女の役目を果たせとせっつかれることになる。



では転じて島田愛里寿は? 彼女は飛び級で大学に進学している14歳。5年後には19歳~20歳。大学に在籍している年齢であり―――『半年後に卒業して進学するエミを迎え入れる立場にいる』ことになる。


どうあがいても埋められない『年月の差』を埋めたうえで、ライバルを先にゴールさせて潰す恐ろしい戦術に、気づいたまほは内心で戦慄していた。同時に溢れ出る嫌悪感から舌打ちを止められなかったのだ。

エミを救う可能性としては考慮に値するだけに、用意周到さに恐怖すら覚えた。


「―――負けるわけには、いかないな―――」

強く拳を握り、決意を新たにするまほだった。




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