【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
――私は“家”が嫌いだった。
戦車道の名門ということで、流派の教えを継ぐものとして幼いころから戦車道を教え込まれたことが不満だったわけではない。
“それ以外を学ぶ意味などない”と一顧だにせぬ態度で捨て去られたことが嫌だった。だってそうだろう?その理屈で言うなら“流派を継ぐものとしてあり続けなくては私は私で居られない”ということになる。
戦車を指揮して、自分の戦車の指示を出して、全力でやり遂げた後で戦車の上で感じる風は格別だった。自由に空を駆け巡り吹きすさぶ風が、羨ましいと感じた。
―――■■流を継がないとは言ってないし、■■流が弱いとも言ってはいない。けれど私は“他の流派にも学ぶべき部分がある”と感じて自流以外の情報を手に入れてきた。それが流派のお歴々には気に入らなかったのだろう。今ではそう思う。
―――私は“家”が嫌いだった。でも、“家族”は嫌いではなかった。
物心ついたばかりの妹が盤上遊戯で教育を受けていた。その様子、その盤面を見て心の奥底で戦慄を禁じ得なかった。幼いころから天才ぶりを発揮した妹は、お歴々にとって“担ぎやすい神輿”に見えたのかもしれない。
新品の乾いたスポンジが水を吸収するように、めきめきと力を付けて来た妹の様子に焦燥感よりも頼もしさを感じた。けれど家から見れば頭の痛い問題だったらしい。姉として家を継ぐべき長子よりも潜在的な実力のある妹。家中の勢力図を二分して割る事にもなりかねない構図は母も願うべき状況ではないようだった。
「長子を養子として分家に流し、島田愛里寿を時期後継者に」
そんな意見が家中で出ていたらしい。詳しくは知らないが
「―――島田の家を出るか、親類として分家に残るか。どちらかを選びなさい」
冷ややかな声。母にあるまじき声。冷静に、整った呼吸で、扇子で口元を覆い告げるその人物に
「―――なら、家を出ます」
そう、一言告げて荷物をまとめた。
―――私は“家”が嫌いだった。でも“家族は嫌いじゃなかった”。
私が親類の家に名前と存在を残せば、聡明な妹は自分の立ち位置と私の立場を理解してしまう。“妹に後継者の座を奪われ、傍家としてその下で首を垂れる姉”その構図に妹はきっと精神を毎秒鑢で削られるような思いをすることになる。
だったら
聡明な妹が、年齢に似つかわしくないほど頭のいい妹が―――その喪失にどれほどの痛みを憶え、どれほどの喪失感に渇いていたかなど、当時の私には考えも及ばなかった。
山道のダウンヒルの傾斜の中、地面を無限軌道の足跡だらけにしつつ2輛の戦車が駆けていた。
かたやカテゴリは自走砲、BT-42。もう片方は重戦車、ティーガーⅠ
木立ちの多い林道をスイスイと駆け抜ける自走砲を、ルートを選びながら追いかける構図になったティーガーは、木々の影に隠れながら蛇行するBT-42を照準にとらえきれず追走することしかできない。
「―――ミカと言ったな?貴様は“誰”だ?」
「その質問に、答える意味を感じないね。私は“名無し”だよ。ミカって言う名前も、みんながそう呼んでいるだけに過ぎない」
オープンチャンネルで言葉を交わしながらも異様に物騒な構図のツーリングが続く。地上に這い出ている木の根が天然の地雷になりえる厄介な足回りの関係上、ティーガーにとってこのフィールドは確実な不利になると感じてはいても、車長であるまほにはミカを追いかける以外の選択肢は残っていない。
「家族の邪魔をしてはいけない」「続きが聞きたければ私を倒せ」
ミカの言葉がまほを縛り付けていた。
エミと出会い戦友となった時から西住の家がその出生を調査しなかったはずがない。それでも何ひとつまほの耳に入ることがなかった『エミ自身の出生に関する何か』。それを目の前の敵が持っている。たとえ僅かでも全く手に入らなかったそれを目の前のこの人物が握っているという事実。
まほにとってそれは抗いがたい魅力を秘めた罠であり、わかっていても手を出さずにいられないものだった。そんなまほの内心を理解できるティーガーⅠ内部の黒森峰の生徒たちもまたそれに従うくらいにはエミへの恩義と興味があった。
「エミの出生に愛里寿が……島田流が関わっているとして―――それとこの戦いに何の意味があるというんだ!?」
少し開けた場所を見つけて加速し並走させたティーガーで体当たりするように幅寄せを行うまほに、するりと減速と旋回運動で躱し続けるBT-42。ふわりふわりとつかめない様子が、まほにはまるで幽霊のようにも感じられた。そんな幽霊のような戦車の上から顔を出したままのミカが薄く笑って見せる。
「――意味ならあるのさ。彼女たちにとってはね」
「――――ッ!!!」
ティーガーの後ろに回られたまほは減速させず木の根を避ける方向に旋回させ、唐突に超信地旋回で方向転換、背後からの砲撃を警戒してミカと対面する方を選んでいた。山の中という遮蔽が多い方が自走砲の、加えて伏兵戦術を得意とする継続の有利に働くと理解してなおこの場でとどまりミカと戦うことを選ぶまほに、ミカはただ静かにカンテレを爪弾いている。
―――不意に、反転したBT-42がティーガーに正面から突撃した。自走砲に搭載された砲は接射距離であればティーガーを妥当しうる可能性はあるが……と、流石のまほも自爆特攻染みた狂気の沙汰に一瞬判断が遅れた。
そのタイミングを見計らったように、BT-42は“跳んだ”―――。
ティーガーが避けた地面に張り出した木の根と、その根元から伸びた木の幹を使って車体を斜めに傾がせて反転するようにジャンプして見せたのだ。その特異な軌道に照準を合わせようとしていたティーガーの砲手の視界から一瞬姿が消える。
その一瞬で横向きから反転状態まで回転しながらティーガーの正面でピタリと砲口を合わせたBT-42。狙っているのはティーガーの砲塔の根本、回転する砲塔の構造上、必然的に装甲が薄くならざるを得ない部分―――
「――――――前進」
切迫した状況で、まほが選んだのは後退でも牽制砲撃でもなく前進だった。
目の前に迫る空中を滑るように突進してくる反転した戦車を相手に、本来あっけに取られていても不思議ではない操縦手は
「了解」
ただ一言と同時にアクセルを踏み込んだ。
ゴギャギィィィィィンッッッ
それなりの質量を伴う金属と金属がぶつかり合う事故特有の轟音が響き渡り、総重量の差と空中と地上というフィールドの差により跳ね飛ばされたBT-42は、盛大に空を舞って地面にしたたかにたたきつけられた。
シュウシュウと白煙を上げる車体から、白旗がシュポッと情けない音とともに飛び出し、走行不能を告げる。
『継続高校 BT-42 走行不能!! 継続高校、脱落です』
*******
「―――君、無茶苦茶だって言われないかい?」
「勝ったぞ。さぁ」
煤ぼけたヨレヨレの服装でボロボロの戦車から這い出てくる様子を上から見下ろすような鉄面皮のまほに、やや恨み節を投げるミカ。しかしミカの様子にも取りつく島もなくまほは自分の要求のみを告げる。そんなまほの様子に小さく肩をすくめたミカは、カンテレを車内から引っ張り出し、調律を始める。
車外に完全に姿を晒してティーガーの上部でたんたんとリズムを刻むようにフットスタンプを繰り返すまほの表情は変わらないままだが、その表情の内側に「早くしろ」という無言の圧をミカへと向けられている。余談だが、ウサギはストレスが溜まっているときに地面をたんたんと足で叩く習性がある。
「昔々、或る少女が居ました」
物悲しいリズムでカンテレを爪弾きながら、ゆっくりとミカは語り始めた。
「――少女は戦車道を楽しんでいました。けれど流派から逸脱することを周囲の大人は許しませんでした。
そのうち、妹が生まれました。とてもとても優秀な、母親のことをよく聞く良い子。
―――大人たちは、姉ではなく、妹を流派の後継者に擁立しようと考えました」
カンテレの奏でる曲が徐々に激しさを増して行く。物悲しい曲だったものは情熱を感じさせる曲調に変化して、山場を盛り上げるように強さを増していった。
「―――姉は自分の居場所はもうこの家にないと思いました。でも、母は家に残って分家筋の養女となるかを選べと言ってきた」
爪弾く弦が「ビィン」と不協和音を立てた。
「だから少女は、家を出た」
唐突に止まったカンテレの音が静寂を強め、まるで一瞬世界が静止したかと錯覚する静けさが周囲を支配した。
「―――エミではあるまい?*1」
カンテレが再びポロンと音を立てる。ゆっくりフゥと息を吐いたミカは、何かを悔やむような目で空を見上げた。
「少女が家を出る前にかすかに耳に届いた“親類の言い回し”が気にかかったので、生活がある程度落ち着いてから独自に調査をしたところ、或る事実がわかりました」
「……?」
ミカの遠回りな言い回しに口を挟もうとするまほを制するように、ミカはカンテレを再び強く一度だけ爪弾いた。
「―――少女が生まれた年、実は分家筋の家に“少女と同い年でわずかに先に生まれた子”が居たのです」
ミカの言葉の意味するところを瞬時に察知したまほが言葉を失う。カンテレの音とミカの言葉だけが周囲に響く中、ミカの言葉は止まらなかった。
「―――何という運命のいたずらか……分家の家で早産になり生まれた、私よりほんの少しお姉ちゃんだったその子は“流派の家の序列を乱す可能性”として宗家のお歴々……つまるところ島田のお偉い方々によって切り捨てられてしまったのです―――」
「―――嘘だ」
震える声が言葉になる。
「―――分家の家の娘……その子の母に当たる女性は、我が子を捨てることが耐えられず、家を捨てて逃げることを選びました」
「―――嘘だ」
寒気を感じたようで、まほは両腕で身体を抱きしめるように身をすくめた。
震えは止まらない。なのに原因であるミカの言葉を聞き漏らせない。
「―――かくして、関東を離れ遠く関西の西の果てにやってきた両親とまだ物心ついていない娘は、しかし新たな生活を始める前に事故でその命を失ってしまったのでした。……今わの際に、それでも我が娘を護ったのだから、母の愛は本物だったのだろうね。羨ましい限りだよ」
「―――嘘を吐くなァッッッ!!!!!!」
声を荒げたまほにミカは我関せずで肩を竦ませチューリップハットを被り直した。もうこれ以上話すこともないと言いたげにカンテレからも手を放している。
まほの中でぐるぐると感情が渦を巻いている。
エミの出自などさしたる問題ではない。けれど天涯孤独なエミに“家族”がいたという事実は、まほにとってもエミにとっても喜ぶべきことのはずだ。
―――喜ぶべきことのはずなのだ。
「私には家族と呼べる人はいないんだよ。事故で両親もいなくなっちゃったし、孤児院のみんなは家族っていうより同じ場所で過ごした友達みたいなもんだしな」
過去の記憶に残るエミの顔が言葉がフラッシュバックする。
「同じ学校で、同じ戦車に乗って、同じ飯食って、一緒に飲み交わして―――今はこのメンバーが家族だと思ってる。自惚れじゃなきゃいいんだけどな」
エミの言葉がよみがえる。エミにとって家族とは特別なモノで、彼女のそれは既に失われたもののはずで―――だからこそ大事で―――
「―――彼女が“家族を捨てる”か、“家族を選ぶ”か。その選択の場に、君がいるのは好ましくないんだ。彼女は―――天翔エミは君に執着しすぎている」
「――――――」
まほが無言で歩み寄り、ミカの胸倉を掴み上げていた。感情のままに行動するのは悪徳である。常に冷静に、鋼鉄の心であれと西住流が背を叩いている。だがそれでも今の衝動を抑え込むにはまるで足りなかった。
「……そろそろ、彼女のところに愛里寿が到着しているころだろう。そして、同じ話をしているころだろうさ。
―――見届けなくて、いいのかい?」
バッと手を離すと片手で釣り上げられていたミカが地面に尻もちをつく形で落下した。咳き込みながら呼吸を整えるミカを一瞥し、まほは最後に口を開いた。
「―――最後に一つ聞かせろ。お前は“誰の味方だ”?」
ケホケホとせき込んでいたミカは、見上げるようにまほに視線を送り
「―――決まってるだろう?“彼女の選んだ答え”の味方さ」
そう答えて、自嘲気味に口元を歪めて見せた。
******** >> Emi
「―――これが真実。だから私はエミを島田の養女に戻したい。分家筋に戻して島田姓ではなく分家の姓なら跡を継ぐ問題に関しても無視できるし、エミの家族にだってなれる。
―――ね?エミ……島田になろう?エミリ姉様って呼びたい。呼ばせて?」
目がガンギマってる愛里寿に語られた内容は「それどこ制作の二次創作ですか?」と言ってツッコミたい内容だったでゴザル(戦慄)。嘘でしょ……?{震え声)
可愛いしぐさで首をかしげて「ダメカナ?」とアピールする愛里寿可愛いよ愛里寿。ハイライトが消えてなければ「いーよぉ」って言ってた(確信)どこまでもあざと可愛い愛里寿、俺でなきゃ見逃しちゃうね(手刀感)
え?押田と安藤はどうしたって?
戦ってる最中に唐突に後ろから愛里寿に撃たれてそこらへんに転がったまま放心してますが、何か?この世界はBC自由学園に優しくないってはっきりわかんだね。
戦車の中からじっとこっちを見つめている4人分の視線。目の前からは愛里寿のねっとりとした視線。どっちも重圧と熱量が半端なくて胃袋へのダメージがしゅごいのぉ……。放っておくとスリップダメージだけで吐血しそうなのだが……ぶっちゃけどう答えたら正解なのかわからない。教えてえらいひとぉ!!!
考えろ……考えるんだ俺よ。
愛里寿のフラグをへし折る。しかし愛里寿を完全に折ってはならない。だって彼女はラスボスなのだから。
同時に―――今まさに別の場所で戦っているみほエリのフラグのためにも愛里寿とまぽりんが戦わなければならない。みほとエリカの戦いにまぽりんが介入したら折角のフラグが根元から圧し折られかねない。
詰まるところ、俺の目的は二つ。
・みほエリのフラグを成立させるためにまぽりんと愛里寿のバトルを成立させる。
・島田への養子入りを防ぐために愛里寿のフラグを“修復できる範囲で”へし折る
絶妙なかじ取りが必要な案件でいっそのことこの場でピロシキしたほうが人生イージーモードなのかもしれない。だがそんなことをしようものなら、目の前でガンギマった目をしている愛里寿がどのような行動に走るのか全く分からない上、中途半端に始まったみほエリがどのような結末に至るかもわからない以上、無責任に放り出すことなど、俺にはできないのだった。だが、同時に言質を取らせてしまうのもまずい。この状況―――詰んでない?
考えて考えて、考えて考えて……
―――その時俺に電流走る―――ッ!!!
「―――車長。カッターとかそういうの、持ってないかい?」
「え?ええと……多目的仕様のキャンプナイフなら……」
通信手の子が車内の内壁に挿さっていたナイフを車長に手渡し、そのまま車長を経由して俺の手におさまった。
「エミ……?」
訝し気な表情を見せる愛里寿と視線を合わせないようにどうにか視点をずらして顔だけを向けて、
―――背中を覆う長い髪を手で纏めて
「これが私の答えだよ」
ナイフを使って纏めた場所からざっくりと一息に切り捨てたのだった。
そう。言質を取らせるわけにはいかない。迂闊なことを喋ることもできない。
なら態度で示すしかないよなぁ!?
古来より、“髪はおなごの命”と言う。つまるところ「ごめんなさい勘弁してください」という意味を含ませるのにこれ以上ない態度と言えよう。
結構上の方でバッサリいったからもっさりと割とたっぷりとした量になったのを両手で纏めて、とりあえず普段髪をまとめていたリボンで括って束にしてみた。どことなく遺髪っぽくなってしまったがまぁきっと大丈夫だろうメイビー。
「エミ……!!!?」
聞こえてきた声に振り返ってみれば、駆動音を響かせて駆けて来たティーガーの上でまほが信じられないものを見るような目をしていた。愛里寿も目を見開いて俺の方を凝視し続けている。あれ?俺またなんかやっちゃいましたか?{震え声)
距離を取ったまま、ティーガー、ヤークト、センチュリオンの乗員は誰一人として動くことも口を開くこともせず、しばしの時が流れ―――
不意に、愛里寿がゆっくりと手を挙げた。
「―――提案。10分間の休戦を求める」
「認める」
愛里寿の言葉にまぽりんが秒で了承して、ちょっとの間の休戦が決定した。何で?
「エミ、正座」
「エミ、正座だ」
「――――なんで?」
10分間の休戦の間、俺の正座が確定した。何でや?(河内感)
なお、10分の間まぽりんと愛里寿の間でなにかしらの相談があったらしいが、その内容まではわからなかった。その間車長と通信手にざっくりカットした髪の毛を整えることになり、正座状態のまま好き勝手に髪の毛を弄り回されていたからである。
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「これが私の答えだよ」
エミはそう言って、きれいな黒髪をバッサリと切り捨てた。首を露出する高さで切りそろえたエミの髪型もとてもかわいらしくて―――違う、そうじゃない。
古来より、髪は女の命である。
女が己の髪を切るというのは、それ相応の覚悟と未練を断ち切るという意味を持つ。それを私の―――島田流の前で見せるということは
―――つまり、エミは島田を見限ったのだ。
それでも、私への視線に混じる好意の感情は消えていない。つまり私のことは“島田流とは関係なく好意を寄せてくれている”ということ。
それ自体は、とてもうれしい。
ただ―――エミはもう少し自分を大事にして欲しい。あんな鋭利で大ぶりのナイフで目の届かないところを雑に切り払うとか、危なすぎるじゃないか。
視線を前に向ける。遅れてやってきた西住まほが呆然とした様子でエミを見ていた。不倶戴天の敵である西住流の後継者と、ぼんやりと視線が交錯する。
「―――提案。10分間の休戦を求める」
「認める」
―――どうやら、想いは同じようだった。不本意ながら、