【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
『立派なきゅうりの畑』があるという―――
誰が手入れをして、誰が収穫をしているのか誰も知らない―――
―――ただし、収穫に前後して、紅茶の園でキュウリのサンドイッチが振る舞われ、
嬉しそうにそれを食べる英国淑女の姿が目撃されている―――。
( 聖グロリアーナ学園七不思議~薔薇の園に佇む緑の一画~ )
―――Side Emi
今日は戦車道の訓練が終わった後秋山優花里殿とたまたま二人きりになる機会があったのでそこでたっぷり雑談をした。
「―――それでですね!どの戦車にも個性や特徴がありまして!天翔殿は黒森峰でしたね!ティーガーやパンターなどの戦車はよくお目にかかったことと思われますが―――」
ウキウキとした調子で話し続ける秋山優花里の、全身から溢れ出る「たのしいです」オーラを後光の様に感じながら、俺こと天翔エミは微笑ましそうにテーブルに座っている。飼いならされたわんこが尻尾を振って大好きオーラを全開にしてすり寄ってきてる感じに似ている。とてもかわいらしい。もしもこれが本当にわんこであったならば思う存分頭を撫でまわしていたに違いない。
だが俺の信条としてそんなことは許されない。
そんなことを軽率に行ったと仮定しよう―――秋山殿のファンの方にズタズタに引き裂かれても文句は言えないだろう。もしも軽率にみほエリの間に挟まる輩が居るならば俺はためらいなくそうするであろうからだ。(断言)
そも、誰もエミゆかなんぞ望んでいるはずもない。
アンタもそう思うだろ?
「―――あ、も、もうこんな時間なんですね。すみませぇん……お時間を取らせてしまったみたいで―――」
「いや、良いよ。こうして無駄な時間を楽しむのもたまには悪くない」
俺がそう言って微笑んで見せると秋山殿もはにかんで見せる。
―――あぁもう可愛いなぁくそう!!
帰宅するとなんか不機嫌そうなみぽりんが居た件。原因はわからないがこういう時の対処法は黒森峰時代から変わらない―――!
―――みぽりんの身の回りのお世話を甲斐甲斐しくこなしつつ、なんか居心地悪さを感じたみぽりんが手伝いに着たタイミングで―――
「はい、渡しそびれたけど、お土産」
「わぁ―――ボコだぁ」
―――心の中でガッツポーズをとる。長い年月に裏付けされた処世術というのはいつでも身を助ける武器になる。俺はそう確信していた。
**********
―――Side Darjeeling
「―――大洗女子学園との親善試合?」
日々鍛錬を重ね、衰えていた身体を叩き直している最中の私に降ってわいたのは、そんな話だった―――。
ただ、私の記憶が確かならば―――
「大洗女子学園の戦車道は―――何年も前に廃止されたはずでは?」
「再開したらしいですよ?私も詳しくは知りませんけれど」
鏡を前にダンベルトレーニングをする私を横目に、アッサムがそう言って紅茶を嗜んでいる。GI6による諜報をしていないあたり、本当にどうでもいい案件のようだ。
トレーニングを終え、汗をタオルで拭ってから、いつもの制服姿に戻って執務用のデスクに腰かけると、オレンジペコが紅茶を用意してくれる。
彼女の貌にもいつもの微笑みが戻り、紅茶の園は平穏を取り戻した。
幾つもの大切なものから目を背け、顔を背けていた私のそれまでの所業に、反省しかない―――そう思えば、アールグレイ様も、“彼女”も、私を見捨てて当たり前だろう―――。
「―――天翔エミの行方ですが―――」
歯切れの悪いアッサムの言い方に、捜査の進展がないということは理解できた。そして、彼女がやや憔悴気味なのも見て取れた。成果が上がっていないことに追跡の目を増やし、捜索の範囲を広げているのだろう。
九州は熊本を出たトラックの足取りを追って、この間の報告では中国四国地方で足取りを見失ったと言われていた。その付近を捜索し、船を使用して目をくらまし敦賀の港から滋賀方面に抜けたという話をしていた。
―――実際はそれすらもデコイの一種であったことがわかるが、今の時点ではまだわかっていなかった―――
聖グロリアーナが誇る諜報組織GI6。そのエージェントの追跡すら振り切る手管に、彼女が一体何者なのかとOG会でも騒ぎになっているらしい。
「―――アッサム。もういいわ」
「ッッ……ですが―――」
逡巡するようなアッサムに、微笑みを向ける。上手に微笑むことができているかの自信はない……
彼女がもしも立ち上がれずにいるのならば、一発引っ叩いてでも立ち上がらせてあげようと思って捜索を継続させたけれど―――それが原因で貴女がそんなに憔悴してしまっては、本末転倒じゃないの。
―――なんて、口に出すことはしませんけれど―――。
「始まりも私の我儘、おしまいも私の我儘―――本当にごめんなさい、アッサム―――貴女の頑張りを無駄にしてしまう私をどうか」
「いいえ、構いません。そのお心のまま、貴女らしくあられませ」
そう言って微笑んでくれるアッサムに、私がどれだけ救われていることか……きっと貴女は想像もつかないのでしょうね。
「―――それで、大洗女子学園との親善試合、でしたっけ?」
「ええ、尤も―――あちら様、車輛もままならないらしく、5輛しかないそうで」
肩をすくめるアッサムに思案する。再開を決意して初めての試合となるであろう相手に、戦車道の戦い方を教えるのであれば―――5輛でのフラッグ戦など無粋の極み―――フラッグが即座に撃破されてしまえば他の車輛の面々は戦車道がどういうものかわからずに終わってしまう―――と、なれば
「……5対5の殲滅戦ルール―――かしら?」
「そうですね。それがよろしいかと」
ルールが決まれば次はメンバーと戦車の選別になる。久しぶりの練習試合ではあるし―――私のさび落としになってくれるといいのだけれど。
「大洗女子学園様ですか?戦車道を復活されたんですの?おめでとうございます。試合の件ですが、結構ですわ。
―――受けた勝負は逃げませんの」
オレンジペコとアッサムの表情を見る限り、通話している間の私はいつも通り自然に微笑んでいたらしい―――良い傾向、なのだろう
彼女と再び相まみえる日までに、できる限り力をつけておきたい。
―――しかしこの時私は忘れていた。
彼女という存在は、いつもいつもまるで交通事故のように突発的で、回避不能なシロモノであったことを―――
*********
大洗の港に寄港する。アークロイヤル級空母アークロイヤルをモチーフにした巨大規模の学園艦。それが我が聖グロリアーナ学園艦。すぐ傍に旧日本海軍の正規空母“瑞鶴”をモチーフにした大洗学園艦が見える。立体道路を進む5輛の戦車も見えた。
―――戦車―――なのよ、ね……?
「本日は急な申し込みにも関わらず試合を受けていただき、感謝する」
「構いませんことよ―――それにしても」
チラリと戦車群を見やる。
【バレー部復活!】と大きく描かれた八九式中戦車。
悪趣味なほど金ピカに塗りつくされた38t偵察戦車。
真ピンクのM3中戦車リーに真っ赤なボディカラーに幟旗。真田六文銭に新撰組、風林火山にオーストリア国旗
―――ダメ、無理。これは無理wwwwww
噴き出しそうになる口元を抑え、何とか踏みとどまる。
「―――個性的な戦車ですわね」
必死で言葉を選んでお茶を濁し、気分を変えるために、唯一まともそうなⅣ号戦車に目を向ける
―――途中に、居てはいけないモノを見た。
――――――――はぃ?
目を擦る。しばし、目を閉じて目頭の辺りを揉む―――疲れているのかしら?
―――――居た。――――38tの上に―――。
私の視線に気づいたらしい。片手を上げて「よっす!久しぶり、フッド」と軽い調子で挨拶をしてくる。私はダージリンだと言っているのに―――もう!
―――私がどれだけ貴女を探したと『天翔殿!!マチルダⅡだけでなくチャーチルも!あれが英国戦車を有するグロリアーナの戦車たちなのですね!!』
―――――――――は?(威圧)
「エミちゃん、秋山さんも、今整列中だから」
―――――は??(威圧)
最初に彼女に話しかけていた少女はともかく、もう一人の方は見覚えがあるような気がしますわね―――確か、“彼女”と一緒にアールグレイ様と試合をしたときの車長―――だったかしら?
―――成程、成程。謎はすべて解けましたわ――――!!
「―――よもやこんなところで出会うとは思っても見ませんでしたわ」
整列を乱してしまう事よりも、今はこちらが優先。38t偵察戦車の前に歩み寄り、“彼女”を見上げる―――!!
「―――こんな言葉をご存知?『此処で遇ったが百年目』―――
全身全霊をもって、叩きつぶして差し上げます」
宣戦布告を、指先に乗せて叩きつける。
「―――いいから整列しろよ。フッド」
「私はダージリンだと言ってるでしょう――――ッッッ!!」
試合開始の緊迫した雰囲気など何処へやら、すっかりコメディな雰囲気にのまれてしまった―――それもこれもみーーーーんな貴女のせいでしてよ!!
―――――天翔エミッッッ!!!
――月――日
試合は当初、一方的な盤面で進んでいた。途中、履帯が外れた38tを放置してあの子犬のような少女と気弱そうな車長のⅣ号を追いかける―――
―――38tを仕留めて置かなかったおかげでルクリリが撃破されてしまったことは私の失態だ。本当に忌々しい―――!!天翔エミ!!
けれど、彼女が戦場に帰ってきたのだと実感できる―――すこし嬉しい。
試合は結局こちらの勝利でしたが、余裕打っていた結果マチルダを4輛失い、私のチャーチルもまたかなり大きいダメージを受けてしまった。
後でお名前を聞いて驚いたけれど、納得の指揮能力でしたわ、西住みほ。紅茶を贈らせて頂きますわ。
貴女も私のライバルの一人に認定して差し上げます。優先順位は割合低めですけれどね。
追記:記録媒体を盛って来るべきでした。一生の不覚ですわ。
( ダージリンの日記より )