【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
ガリガリと緩やかな坂の地面を履帯越しに転輪が削る。戦車の重量分に推力と遠心力が加わった圧力で轍を残して等速旋回したティーガーが砲塔を逆旋回させる。ティーガーよりも大回りで木立ち越しに逆方向に旋回運動をしていたセンチュリオンは逆旋回する砲塔の範囲からすぐに抜け出したのか、旋回しながら背後を狙うセンチュリオンの狙いから逸するようにティーガーも速度を落とすことなく前進と左右スイング旋回を繰り返して射線を躱しながら移動を続ける。
左右に振れ続けるティーガーから上半身を覗かせ不動の姿勢でセンチュリオンを睨みつける西住まほと、同じようにセンチュリオンの上から顔を出して西住まほを視界に収めたままの島田愛里寿。互いの戦車には微細な擦過弾痕や接触の結果剥ぎ取られた増加装甲跡が痛々しく刻まれていた。
巡航戦車であるセンチュリオンの速度は整地不整地関わらず凡そ34km/hに対し、ティーガーⅠの速度は整地状態でなら40km/h。ただしティーガーは足回りに不安を抱えながらの走行を余儀なくされるため、常時8割かそれ以下の出力で駆け回っているため、両者の速度はほぼ互角。拮抗していた。
だが、それは“今この瞬間は”という話だということをまほは理解していたし、愛里寿もまほ相手に隠す意味はないと詳らかに見せつけている。
ただでさえ、下生えの短いとはいえ丈の有る草を巻き込みながら回る転輪は動作不良の恐れを想起させるだろう。それに加え機動戦闘により地面は履帯で砲弾でと抉られ続け、秒刻みで不整地状態になっていく。時間をかければかけるほど状態はティーガーの不利に働いていく。そのためまほもじわりじわりとフィールドを切り替えるように移動しながら愛里寿の回避方向を転換させながら追い詰める方向をコントロールしている。だがそれが逆に決定打に至る道筋を遠回りにさせているという悪循環を生んでいた。
――― 一か八か、突っ込むか?
不意にそう頭をもたげる感覚に、直感的に首を振る。
愛里寿はそれを待っているのだと脳が警鐘を鳴らし続けている。まほの中にある西住流としてではなく西住まほとしてのこれまでの戦場のカンとでも呼ぶべき何かが【それこそが悪手だ】と訴え続けていた。
―――詰め切れない。
島田愛里寿も、西住まほとは違う意味で攻めあぐねていた。
西住まほを倒す。それ自体は不可能ではない。ただしそれは【相打ちになる覚悟で】という前提が必須となる。
アズミ・ルミ・メグミのうち一人はすでに落されている。残り二人はあの時撃ち漏らした面々を含めた集団を相手にしている。二人の能力を疑うことなく計算しても、敵を全滅させることはできないという想定で考えると勝利条件は「限りなく自分のダメージを少なくして西住まほを撃破する」必要がある。だからこそ“相手に少しでも悪条件を追加するために路面を悪路に染め上げている”のだ。
撃滅戦の様相を呈してはいるが、ダメージを気にせず愛里寿を追い詰めるまほと、それを可能な限り抑えて勝利しなければならない愛里寿。戦場の天秤はどちらかというとまほの方に傾いていた。だがそれも薄氷の上、刻一刻と盤面は愛里寿の優位に動いている、足回り―――転輪に異常が起きればそこでお終い。文字通りたった一手で跳ね返る程度の優位にすぎない。
―――だからこそ二人とも望んでいる。この盤面を大きく動かす介入者を
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―――俺は考える、この状況をいかにして打開すべきかを。
現在、ヤークトティーガーはまぽりんの援護のために愛里寿とまぽりんの戦っている場所へと真っ直ぐに向かっている。その間戦車の中のテンションは爆上がり、俺の周囲だけ【島田ぶっ潰すぞ!!】で一致団結しており色々とヤバい。そんな中一人黙ったまま装填席で静かに座っている俺のことを通信手だけが気にしている状態である。
俺の目的を大雑把に設定するなら―――
1:愛里寿を倒す。※ただし曇らせてしまう。
2:まぽりんを守護る。※まぽりんからの信頼やばない?
こうなっている。もちろんこれは俺が設定したわけではなく【今現在なりゆきでそうなった】という状況である。
俺としては正直【現在愛里寿を倒さなければ島田家に養子入りしてしまう】だけで愛里寿を倒すのに2の条件は必要ない。だが俺が許してもフリューゲル小隊の総意がそれを許さないだろう。必然、2が必須条件となる。
―――いずれにしても状況の見極めが必須。
……そう思っていた時期が、俺にも在りました(達観)
断続的に鳴り響く轟音と、空振り砲弾の着弾・衝撃で抉れる地面。時折聞こえるギャリリと耳障りな金属音は装甲表面に接触した砲弾が走行を削り取る音。殺気の入り混じる視線が互いに飛び交っているのが遠目からでも分かる。
目の前に広がる殺戮空間を前に、フリューゲル小隊の面々はヤークトで突撃できずそのまま遠巻きに立ちすくんでしまっていた。
―――なんだアレは?
目の前に広がる光景を前に、浮かんだのはそんな疑問だった。
まぽりんと愛里寿の戦いは、流派の溝とかそういうものを既に逸脱していた。
いや、目をそらすのはやめるべきだ。
―――アレは、俺が成した結果だ。
まぽりんは“俺を自分の相棒として守り通すために”
愛里寿は“俺を島田の養子にして肉体を回復させ救うために”
互いに俺が理由で死闘を演じている。
「――――――――g」
口元まで競りあがってきた吐き気を必死で抑え込む。ここで吐血など許されない。あってはいけない。ここで俺が失血から動けなくなったら―――
―――この戦を止める人間がいなくなる!!!
「―――s。車゛長゛……ケフッ。……頼みがある」
「は、はい―――!?」
吐血を必死で呑み下して。ゲホゲホと咽せた涙目で車長を見上げると、車長がドン引きした表情でちょっと物理的に下がっていた。すまんね見苦しいトコ見せちゃって。でも急いでるんですまんけど頼むよと心の中で焦りを抑えつつ、提案を告げる。
―――当然ながら俺の提案により車長が死んだ目になったが、後日また飲みにつれてく約束でどうにか了解を得た。
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「……足回り、少し厳しいです」
車内に潜り足回りについて尋ねた時のやや泣き言に近い操縦手の声に「そうか」と返す。操縦手がそう漏らすということは、あまり時間をかけるわけにもいかないという事だろう。拙速は悪手ではあるが、そうも言っていられないようだ。
瞬間。衝撃が車体を揺らした。頭を引っ込めていたことが功を奏したのか、或いは引っ込めていたから被弾したと考えるべきか―――
「損害個所を―――」
「砲塔旋回に異常。旋回から戻せるか怖くて試せません」
照準をのぞき込んだままの砲手から報告が届く。成程と頷き、瞬時に命令を変更
「―――操縦手。これより駆逐戦車を操縦していると思え。砲手もそれと同様、駆逐戦車のつもりで照準を合わせろ」
動かせない旋回装置ならば“動かさなければ良い”。相手にとっては“動かさない”のか“動かせない”のかを悩むことにもつながる。ヤークトティーガーやエレファントとでも思えば【何も問題はない】
「―――決着を付ける。次の合図で飛び込んで……一撃で決める」
いつもの西住流としての命令ではなくはっきりと言葉に出した。揺らがぬ決意の表れとして。不退転の決意を以て戦車上部から顔を覗かせ島田愛里寿を見据えれば、島田の方もこちらを強い意志で睨みつけていた。
「―――――――前s―――!!?」
“前進”の指示を踏で送った瞬間。
二つの戦車の間を駆けるように砲弾が駆け抜け、そのまま立木のひとつに命中して圧し折り倒していた。
「「―――エミ?」」
島田と二人、砲弾の飛んできた方向を見ると、戦車の上で車長に寄り掛かるような姿で立つエミの姿があった。
『―――道を』
ぼそぼそと俯いて声を絞り出すエミに、車長が拡声器を車内から引っ張り出して手渡した。
『―――――――戦車道をなんだと思ってやがんだぁぁぁぁぁああああ(ガピ―)――――!!!』
咆哮。そう例えるに相応しい大声に、思わず2人して耳を塞いで衝撃に耐えた。拡声器が音割れを起こした以上に、音波という波は衝撃となって耳朶だけでなく全身を揺らす。
一声で声を使い果たしたのかゲホゲホと咳き込むエミを車内に引っ込めて、車長が代わりに拡声器を引き継いで、やや足元が震えた様子で私たち二人を見る。今にも吐きそうな青い顔で、それでいて目だけは揺らぐことなく―――
「……え、えー……【大洗女子所属】のフリューゲル小隊からの総意を、装填手に変わり代弁させていただきます」
―――中指を突き立てた。
『―――戦車道を舐め腐った馬鹿どもが!!!二人纏めてかかってこんね!!!!』
半ばヤケクソの様相で言い放つと、逃げるように車内に引っ込む車長。ほどなくしてヤークトティーガーが動き始める。“私と島田、両方を標的におさめて”
「―――どうして?」
ぽつりと呟く島田愛里寿に
「―――わからないのか?それとも……わからないふりをしたいのか?」
少しだけ恨み節を利かせてそう返して“踏”を送る。
「柄にもなく戦に酔い過ぎた―――エミが叱るのも仕方ないことだろうな」
呟いて、最強の敵を相手取る覚悟を決めた。
そして、戦場に砲火の華が大輪咲く。
*******
『戦車道をなんだと思ってんだ』
よくぞ言えたもんだと思わんでもない。俺ごときが何を語ってるのかと思う人だらけだろう。誰だってそう思う。俺もそう思う。
だが必要なことだった。
すべてはそう……“好感度調整”のために―――!!
現状の問題は『まぽりんが俺を信頼しすぎて相棒として見ている』ことと、大天使愛里寿が『俺への好感度が高いため俺を見捨てられず肉体回復のために無理筋を通している』ことが原因だ。
―――だったら俺への好感度を下げる要因を作っちまえばいいよなぁ!!(名案にごつ)
西住流と島田流。戦車道の二大流派の継承者に「戦車道とか何か」を手前勝手にぶちあげて中指おったてる。これにより流派からの印象は最悪!まぽりんも愛里寿も大事な時に自分の味方をしてくれない相手にもにょること請け合いである。
全部終わった後で「わたしがぜんぶやりました」でとりあえずメンバーの罪状を軽減してどうにかチャラまでもってければよしとしよう。
などと考えていると俺の言葉を引き継いでぶっこんだ車長が青白かった顔を紅潮させて車内にもどってきてふんすと鼻息荒く意気込んでいた。
「やってもうたばい……これで逃げられんね!!」
「天翔さんがいる以上逃げることなんかできませんよ」
通信手があきれたようにそんなことを言っているんだが……むしろヤークトという車種の特性上、逃げることの方が多いと思うんだが?
さて冷静に考えた場合、状況は難易度マストダイを通り越してるレベルである。
西住流の体現者であるまぽりんと島田流継承者の愛里寿。さっきまで死闘を演じていただけあってダメージは目に見えてわかるレベルで小破くらいは行っているだろう。だが勝ち目なんぞ全く見えない。メンバーは【アンタほどの人がそう言うなら……】ってついてきてくれたので俺になんか作戦があると思ってるのかもしれない。
すまんな!!なんもないんだ!!諦めて一緒に死んでもろて!!
「―――さぁて……やるだけやってやろうぜ」
装填席に座ってふぅ―――と呼吸を長く整える。吐血もピロシキも後回しだ。とりあえず今はこのラストダンスを乗り越えてから。
「天翔さん―――ひとつ腹案があります。たった今思いついたものですが」
『―――――――戦車道をなんだと思ってやがんだぁぁぁぁぁああああ(ガピ―)――――!!!』
その大声が戦場を支配したとき、場外は一瞬しんと静まり返った。
戦闘を続けていたアンチョビたちですらも足を止めて声の方向を見てしまった。
そうして
「……くっ……ぶはっ!!
あっはっはっはっはっは!!!!流石天翔だなぁ!!!」
快活に、爽快に大笑いしたのがアンチョビ―――安斎千代美だった。
「ねーさん!!ね-さんのダチっ子気合キマりすぎじゃねっすか!?」
うっはー!かっけぇ!!と叫んでCV33の上から顔を出してキラキラと目を輝かせているのはペパロニと、あちゃーと顔に手を当てているノンナと訳が分からない宇宙猫状態のクラーラ。ペパロニと同じ情動を抑え込んでいるカチューシャなど反応は様々である。
「なぁ大学選抜のメグミさん、ルミさんだっけ?賭けをしないか?」
ひーひーと悲鳴染みた笑いをどうにか抑えて呼吸を整えた千代美が涙目で、漸く正気に戻って戦闘を再開しようとする二人に声をかける。
「ここの勝敗、全部“あっちの勝敗”に賭けないか?私は個人的には天翔に賭けたいとこなんだが、西住が生き残る方に賭けるとするよ。」
「だったらカチューシャはエミーシャに賭けるわ!!良いわよね?!」
えっへんと胸を張るカチューシャに頭を手を当てて頭痛のポーズのノンナがはぁとため息を吐いた。なおクラーラはまだ宇宙猫から戻ってきていない。
「イカれてるって言われない?」
「あっちよりマシだろ?それに―――」
戦車の上で上半身だけ覗かせたルミがそういうと秒で言い返した千代美は相手が同意したものとして完全に戦車から外に出て戦車の上に座り込み、電光掲示板に表示される三人の戦いが良く見える位置に陣取った。
「―――あんな勝負、こっちの戦いの片手間に見たら損だろ?」
ニヒッと笑う千代美に「確かにそうか」とつぶやいて、大学選抜側も戦車から電光掲示板を見上げ始めた。
そんな場面の裏側で、赤絨毯の上でティータイムしてた淑女の一人が大爆笑したりもう一人がティーカップを叩き割ったりする珍事があったらしい。