【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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 カチン  カチン


 空砲ですらない。トリガーを引き絞ってもスカスカと手ごたえはない。


 カチン  カチン


 引き絞るトリガーに手ごたえはない。


 カチン  カチン


 頭の中でカウントダウン 「いち にぃ さん」


 カチン  カチン


 手元に返る答えはない。



 【 大丈夫大丈夫。ほら、すぐ撃てる 】


 引き絞ったトリガーにやっと手ごたえがあって、次いでガォンッと空を引き裂く音が響いた。


 カチン  カチン


 車内はあわただしくて騒がしいのに、私の耳にはトリガーの音しか聞こえない。
頭の中で数える自分の声しか聞こえない。















【 ほら、すぐ撃てる 】



 ――― 一番欲しい、言葉が聞こえない。





【まほルート 第三十三話 『 砲火後オーバーフロー(吐血) 』】

 ******* 

 

 

 

  ガォンッッ!!!

 

 

 

 

 

 ガォン、と空を引き裂く音が耳に残響として残り―――続けざまにまたやって来るガォンという音にかき消されて耳鳴りのように脳を揺さぶる。

 

 3秒未満の連射に、小刻みな超信地旋回を組み合わせた砲撃の雨は、射線を緩やかに5度~10度程度刻むようにして偏差射撃のように砲撃をバラまいている。ヤークトティーガーという“回らない砲塔”でそれを行う操縦手の力量と、砲撃の高低にブレがないという点で見た砲手の力量。何より、砲撃後のスパンを3秒で纏めている装填手―――天翔エミという鬼札の存在。

 

 

 ―――ギャリリと残響を残して地面を削りながら砲撃から逆回りに回り込もうとしていたセンチュリオンが超信地旋回で砲身を向けられ再び元の場所へ大きく迂回して舞い戻る。その間弾丸の雨が一時的にだが止まるのでこちらも突撃の準備をと思うのだが……

 

 

 ―――背を向ければセンチュリオンはこちらを狙うだろう。という確信がどうしても過ってしまう。

 

 

 奇しくも、エミの【二人纏めてかかってこい】という発言と、その後のヤークトティーガーの【島田と私のどちらも相手にした立ち回り】は、盤面上で1対1対1という状況を作り上げていた。

 

 

「―――全く、成長したものだ。エミも……フリューゲル小隊の者たちも」 

 

 

 

 *******

 

 

 

 ガォンッッ!!!

 

 

 空を裂く音を響かせ、衝撃で車体内部を揺るがしてヤークトの砲弾がカッ飛んで行く。ターゲットには当たらないが地面を削って穴を穿つそれは路面を戦車の無限軌道でも容易に進行させにくい状態へと推移させる。だからこそ“しっかり狙いを付ける必要はない”

 

 

 “いち”

 

 

 頭の中でカウントを始める。目を閉じてふぅ――と息を吐く。

次に瞳を開いた時にピントを合わせるために軽く目を閉じた状態で目をぐるりと時計回りに動かして視神経周りのマッサージを一度。

 

 

 “にぃ”

 

 

 口の中がカラカラに乾いている感覚。舌先がピリピリとしびれている様子で、唾液もろくに出てない。潤っていると言えない口の中をどうにかしたくて砲手席の下に伸びているストローを軽く咥えて吸い上げる。ボトルの中に入ったままのミネラルウォーターが喉を潤して、ほんの少し余裕を感じられる。

 

 

 “さん”

 

 

 連射の時、【合図を待たない】。それは天翔さんと私が決めた絶対のルール。

高速移動する西住まほ隊長をしとめるために、最速の連射を実現するために。

 

 

 

 

 ――“三つ数えたらトリガーを引け。数えるまでに装填は終わってる”

 

 

 

 ガォンッッッ!!

 

 

 

 三つ数えると同時に引き絞ったトリガーが撃鉄が薬莢を叩いた時の衝撃を手に返してくれる。あの人の言葉通りに目を閉じてルーティーンを開始する。

ひとつ、ふたつ、みっつ。

ただそれだけ。頭に数を思い浮かべながら瞳を開き、照準に沿ってシュトリヒの計算を終えてトリガーを引く。狙い撃つのは後でいい。必要なのは足を壊すこと。動けなくなったところで仕留めればいい。

 

 だって天翔エミ(この人)がいる限り装填待ちに意識を裂く必要なんかまったくないんだから。

 

 

 

 ********

 

 

 

 砲弾の雨に身を晒して、すぐそばを通り過ぎていく砲弾を無視してヤークトティーガーを見つめる。

 

 

 どうして……?

 

 

 そんなどうしようもない思いだけが心に浮かんでこぼれそうな涙を押しとどめる。泣いてはいけない。だって泣いてしまったら……心が折れてしまう。

 

 折れた心のまま戦う事なんかできない。心が負けたら立ち上がれない。どんな苦境であろうと心折れることなく前を向け―――ボコのように!

 

 

「どうして……?」

 

 

 それでも口を衝いて出てしまう言葉を止められない。

 

 

 

 ―――どうして残り少ない命を燃やし尽くそうとするの?

 

 

口をついて出そうになった言葉に対する答えは

 

 

 

 

“どうしようもなく戦車道が好きなんだよ”

 

“愛里寿にもあるだろ?―――これになら文字通り、命を懸けるくらい本気になれるものがさ”

 

 

 

 

―――もう、貰っていた。

 

 

 

「―――そっか」

 

 

 センチュリオンの上から顔をのぞかせていた状態から車内に戻り、何があったのかと不安そうなメンバーを尻目に通信機を手に取る。エミのヤークトティーガーの―――大洗の固有周波数で通信を開いた。

 

 

「―――エミ、聞こえる?」

 

反応は帰ってこない。でも、それでいい

 

 

 

「―――エミの決意、わかったよ。だから私もワガママを押し通すね。

 

 

 エミのこと―――叩き潰してでも私のエゴを通すから―――」

 

 

 通信を切って、顔を上げるとこっちを見てるメンバーの顔があった。操縦手以外の全員と順番に目を合わせて決意を目だけで伝える。伝わるかどうかは不安だったけど……伝わったと信じて、キューポラを上る。

 

 

「~~~~♪」

 

 

 ―――歌う。

 

 

「~~~~~♪」

 

 

 

 

 ――――声を上げて、歌う。勇気をくれる歌を。あきらめない歌を。

 

 

 

 “踏”の代わりの合図にタブレットをタップして車内にミラーリングした端末に指示を送る。同時にこれまでの“試合中のヤークトティーガーの回避運動・通常軌道時の傾向”を参照。回避経路と履帯損耗率の計算。

 

 

 一撃で勝負を決めるために

 

 

 ぐうの音も出ないレベルで叩き潰すために

 

 

 

 当初の予定からそうだったように、エミの最期の敵として

 

 

 

 

     ―――私がエミを叩き潰す―――!!!

 

 

 

 ********

 

 

 

 センチュリオンからの空気が変わったのを肌で感じた。

車外に顔を出した状態でビリビリと感じる気配にゾクリと総気立つと同時に、口角が上がってしまう己を戒める。

 

 

 島田愛里寿の気勢に、戦場の愉悦を感じたわけではない。

 

 

 

 『エミの意図にやっと気づいたのか』という優越感から来ているのだと己で気づいているからだ。

 

 

時間を同じくして、車内の通信機ではなく、私個人の携帯通信機(ホットライン)がけたたましい音を立てる。この個人回線を知っている人間は限られている。

 

 エミか、もしくは母くらいのものだ。

 

 

「―――はい」

 

 

 通信機を取った私の耳には『私です』と母の声。

 

 

『多くは言いません。西住流として叩き潰しなさい』

 

 

 母のエミに対する宣告に

 

 

「―――西住流戦車道に逃げるという道はありません」

 

 

 いつも通り返して、通信を切った。さて、エミも待ちくたびれているかもしれない。

 

 

―――島田だけでは物足りないだろう?私もすぐに向かうとしよう。

 

 

 

 *******

 

 

 

「多くは言いません。西住流として叩き潰しなさい」

 

 

 やや大きな声でそう言って、まほの答を待ってからしほは通信を切った。周囲から向けられていた視線が、やや安堵したように離れて行った。椅子に深く腰掛けて不動の姿勢でいるが、実際は背中に冷や汗すら浮かんでいる状況に内心でため息を履いていた。

 

「―――あの娘には感謝してもしきれないわ。……原因もあの娘にあるのだけれど」

「……同感。本当に……抜群のタイミングで横から殴りつけてくれたわね」

 

 遠巻きに陣取って観戦している面々には聞こえない声で、隣で立つ島田千代と視線を前に向けたまま囁き合う。

 

 

“戦車道をなんだと思っているんだ”

“戦車道を舐め腐った馬鹿どもが、二人纏めてかかってこい”

 

 

 それは先ほど天翔エミとヤークトティーガーの乗車メンバーが叫んだ言葉。

おりしも試合は撃滅戦の様相を呈しており、島田と西住による殺し合いもかくやといった全力の潰し合いだった矢先の話。試合を観戦していた人々からも「これ本当にプロレスなのか?」という疑念が混じり始めていたタイミングでの横からの強襲。そして全方位に喧嘩を売ってからの、これまでと打って変わっての“戦車道らしい試合様相”。

 

 

 これに全力で便乗して『大人たちの指示で動いていた』と錯覚させる。

 

 

 島田千代は携帯端末を操作して、西住しほは個人用通信機で、それぞれ島田愛里寿と西住まほに「徹底的に叩き潰しなさい」という命令をこれ見よがしに送っていた。周囲の目が集まったタイミングでである。

 最悪の事態が起きたとしてもその責任を被るのは大人である自分たちであるべきだから。

 

 

 

 ―――ただしそれはそれとして試合が終わって家に戻ったらお説教の時間だ。

 

 

 二人の思惑は完全に合致していた。

 

 

 

 

 最も―――この試合の結末はこの場の誰もが予想していないものだったのだが。

 

 

 

 *******

 

 

 

 “腹案があります”

 

そう語った通信手に対して俺は「じゃあそれで行こう」と秒で返した。

 

 何一つ打開策が無かったからね!是非もないよね!!(ノッブ感)

 

一瞬、面食らって言葉を詰まらせた通信手は神妙な面持ちで「聞かずに即答していいんですか?」と尋ねてきたが、時間がねぇんだよ時間が!!説明はよ!!という意気込みを言葉に乗っけて言うと苦笑で返された件。これはあれですねぇ……呆れられてるねぇ。とはいえなんも作戦なくてただ死ぬだけなんだから藁にも縋りたいとこだからね、しょうがないよね。

 

 

 そんで通信手から“腹案”について説明を受けてーの

 

 

 「それ本当に大丈夫なやつ?」って俺が聞くじゃん?

 

 →「他に作戦があれば憂慮しますし、お任せします!」って返されるじゃん?

 

 →ないんだよなぁ!これが!! ってなるじゃん?

 

 

 

 そんなわけで今、高速装填とチョン避けみたいな軸移動で砲撃しつつ機を待っているのであるが……

 

 

 ―――血ィ吐きそうなんだが……?何なのこの作戦……

 

 作戦の関係上、車長と通信手は車内でスタンバってるので外の様子を見ることはできない。故に背後に回られたらオシマイレベルなのだが……ぶっちゃけ愛里寿とまぽりんが連携を取らないおかげで、ギリギリの戦いになっていた。

 

 

「そろそろ均衡が崩れる頃です―――始めましょう」

 

 

 通信手の言葉に、操縦手が「了解」と答えて

 

 

 

 

 グンと遠心力が車内の全員を襲った。急加速・急旋回で一気に距離を引き離そうとしたのだと理解できる爆走状態に、しがみつく手に力がこもり―――喉元にせりあがってたイノナカ・ブラッドがえらいことになりつつある。

 

 長期戦はできそうにない。この一撃で決めなければ―――!!

 

 砲弾を握る手に力を込めて、俺はその“機”を待ち続けた。

 

 

 

 *******

 

 

 

 砲撃の雨が続いたのは1分半ほど。その90秒間で凡そ30発の砲弾を吐き出したヤークトティーガーは急加速と急旋回でその場から距離を取り始めた。大きな円運動で旋回して悪路を無視してフィールドを移動し始めた。

「どうしますか?」との操縦手の声に「追撃だ」と短く返して車上から身を乗り出して周辺状況を把握すべく視線を巡らせる。視界の端でセンチュリオンを収めながら追撃先の進路を割り出して前進命令を送る。

 センチュリオンの方も逃げるエミを追い詰める方に舵を切ったようで、こちらを視界に収めながらの移動を始めた。緑の木立ちが乱立する初秋の野を駆け抜けてヤークトの背中を照準に納めるも、その場で即砲撃ともいかない。次弾装填までの時間を作らなければセンチュリオンがこちらに牙をむく。ヤークトを撃破するためにはまずセンチュリオンとヤークト両方が隙を作らなければ撃破に向けることはできない。

 

 だがそれは島田愛里寿も同じ。だからこそまだヤークトへの攻撃は為されていない。

 

 

 

 >>>  >>>

 

 

 

 砲弾を十分に撃ち尽くした。

 

 

 転身するヤークトを見てそう思った。だから真っ直ぐにエミを追いかけた。ヤークトティーガーは決して早く動ける戦車じゃない。けれどそれは砲弾を満載に乗せている状態での速度。当然、砲弾を消費しきった後の速度はわずかながら早くなる。その速度の僅かな差が計算を狂わせることを、私は知ってる。視界の端にとらえているティーガーⅠはヤークトをとらえているけれど、こちらの漁夫の利を警戒しているのか、砲撃を行う気はないように見えた。

 

 

 

 バツンッ

 

 

 小さな、けれど決定的な音が響いた。

 

右に傾いだティーガーⅠが足を止める。転輪が破損するより前に、無理を強いた履帯が外れたらしく動けないティーガーⅠを尻目にヤークトティーガーが逃げる勢いのまま反転した。

 

 

 そうして ガォン と 火を噴いた火砲を―――

 

 

「砲塔旋回、右後方信地旋回修正20度」

 

 

 短い言葉で行われた命令に瞬時に従い―――

 

 

 甲高い悲鳴にも似た音を立てて、ティーガーⅠが衝撃に弾き飛ばされ―――それでも撃破されず、生き残っていた。

 

 砲塔の旋回部分で避弾径始を行って砲弾を後方に受け流したんだと理解すると同時に、ヤークトの千載一遇のチャンスを逃すことなく、私は踏み込んでいた。

 

 

急旋回と同時に砲撃した以上、態勢を崩したエミが装填できる状態を取り戻すまでやや時間がかかる。その時間を使って距離を詰めて、至近距離で砲塔下部の装甲の薄い点を撃ち抜く―――!!

 

 真っ直ぐに突撃するセンチュリオンの上でヤークトティーガーを真っ直ぐ見据える。

 

 間近に飛び込んだセンチュリオンの砲塔が接射距離に達する―――その直前に

 

 

 

 突然に殴られたような衝撃。逆廻しになる視界、高速で世界が後ろ向きに跳ね飛んで―――地面を金属がひっかいて抉るけたたましい音と衝撃。

 

 

 

 予期せぬ脳の揺れに混乱していたのは数秒。その数秒の間に―――

 

 

 

 

『ヨーグルト学園チーム センチュリオン 走行不能を確認!!』

 

 

 

 

 ―――勝負は決していた。

 

 高速移動後の3秒装填。それを成しえたヤークトティーガーの一撃によるセンチュリオンの撃破。言葉にすれば簡単なことだろう。だが―――

 

 

「……ありえない」

 

 

 その場面を見ていた西住まほですらそう呟いていた。

 

 

 

呆然と、白旗を上げたセンチュリオンを見上げたままの島田愛里寿から視線を切ってまほは車内のメンバーに命令を送る。

 

 

 

 

 

「進地旋回で移動!!しかる後に履帯を修繕する!急げ!ヤークトの射線外に出ろ!!」

 

 

 





 ――― 一方で、ヤークトの中でもえらいことになっていた。


「―――成功しましたね!」
「よっしゃぁ!!もういっぺん行っと!」


 両側から車長と通信手の声が響く中、俺こと天翔エミは



「―――ごめん。連発はキツいわ……」


 そう返すだけが精一杯で、喉元にせりあがり来る嘔吐感を我慢するので精一杯だった。










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 ※【何があったのかは、待て次回!】
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