【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
待 た せ た な !!
イヤホントマジデモウシワケナイデスハイ(土下座)
「天翔さんの弱点は、『重心の不安定さ』です」
まず口火を切ったのはそんな一言からだった。
「時間がないので簡潔に説明します。天翔さんが揺装填ができない最大の理由は天翔さんの小さな肢体と体重では装填席に自身を据え置きにできないから。体が固定できていないから遠心力や慣性の法則で身体が振り回され流されてしまうので態勢が崩れ、装填ができないんです。つまり―――」
「身体が流されないようにすれば移動しながらでも装填ができる。ってことね」
車長の言葉に我が意を得たりと頷く通信手。成程、そこまで説明されると俺にもだいたい通信手が言いたいことが理解できた。
「つまり、『移動しながら装填ができない』って相手が思い込んでるのを利用して、移動後にホイホイ近づいてくる相手を【撃っちゃうんだなぁ!これがぁ!】しちゃうってことか」
「端的に言うとそういうことです」
通信手の子が頷いたのを確認して、俺はひとまず装填の手を止めて
スッと装填席から下りて、車内の隅っこに転がってた“それ”を拾い上げた。
「つまり―――遠征授業用のテントペグとかをブッ刺して足を椅子に固定するってことだな!?」
「私そんなサイコパスな提案するような女に見えてました?後でお話しましょうか?」
なんか怒られた。げせぬ
*******
で、時刻は戻って現在。ペリスコープの向こうには煙を上げるセンチュリオンの姿。対して車内では―――俺の両脚に片方ずつ絡みついてしがみついてお互いしっかりと抱きしめるようにして俺を挟んでサンドイッチしてる車長と通信手の子の姿。密着度合いに俺の精神がキリキリと悲鳴を上げているだけでなく物理的にも胃袋に大穴が空いている気さえするしなんなら喉元までせりあがってきた嘔吐感は吐血かもしれなくて怖くて吐けない件。
「―――成功しましたね!」
「よっしゃぁ!!もういっぺん行っと!」
両脚の左右からそんな声が響く中、喉元まで競りあがってる吐血のヤバさ加減に絞り出すような声で「ごめん。連発はキツいわ……ちょっと一旦体勢を立てなおそうか」と言ったはずだった。
「ごぇ……でんばつぁぃつ……っと、ぃった、たいぜぇ―――」
青い顔で口元を抑えながらそんな風に呻く(外見は)ロリ娘の姿は大分目と頭に悪かったらしく、通信手も車長も泡を食ったように離れてくれた。呼吸を落ち着かせる意味で深く息を吸って吐いてを繰り返していると、ティーガーの方では履帯の修理を行うために外に飛び出していた面々が車内に大急ぎで戻っているところだった。
「こっちも後退!幸い相手は履帯が切れてる。射線外に一度出ればそこからは追ってこれない」
「了解!!」
車長と操縦手の阿吽の呼吸とでも言おうか。俺の下半身にしがみついてた状態から離れて立ち上がった状態での言葉に秒で頷いてスルスルと後退する。支えの無い状態の俺や車長がバランスを崩さない速度で、凹凸のある道をスルリと抜ける操縦は流石と言う外無いなこれ。
そうして距離を取って さぁどうしようか? と悩み始めるのが我々である(迫真)
実際のところ、まぽりんたちの戦車は今履帯が切れており、転輪もダメージが入っている。すなわち“足周りが死んでいる”状態である。ゆえに、砲手と通信手は「この機を活かしましょう」と言って“回り込んで確実に仕留める”を提案している。実際のとこ、相手が攻撃できない場所から攻撃するのは当然の選択である。
「―――本当にそれで満足か?」
異を唱えたのは俺である。その言葉に全員がしんと静まって俺の次の言葉を聞く態勢に入ったことで次の言葉を慎重に探すことになった。
いや俺としては『このタイミングで島田も西住も撃破してしまう俺らヤバくなりすぎない?』って思っただけなんだが……両方に喧嘩売って両方から喧嘩買われて、その結果返り討ちにして【イッェェイ!ア~イム、ウィナァー!!】したとしてその後、この業界に身の置き場あるの?って……思うじゃん?(弱気)
なので俺は、仮に勝利するとしても倒すなら正面から。でないと足回りがやられてなければ……みたいな言い訳の余地を与えると逆にめんどくさいことになると判断した。本来ならそれは言い訳としてまぽりんを擁護する言葉になりえるだろうが、相手は常在戦場、勝利するための西住流の西住まほである。そんな擁護の声はまぽりんを擁する連中のサポートにはなっても当人にとっては屈辱以外の何物でもないだろう。
そんなこんなで悠々と真正面から履帯の音を響かせて堂々登場ヤークトティーガー!!したところ、目を見開いたびっくり顔を見せるまぽりんという超絶激レアなものを見ることができたのは良い思い出と言えるのではなかろうか?
******* Emi → Maho
―――背面から回り込まれたら、その時点でほぼ“詰み”だろう。
そう、思っていた。履帯トラブルを解決しようと外に出たメンバーを内部に全員収容したのはフリューゲル隊による次の攻撃が即座に飛んでこなかったため。エミが次弾装填するための何かが足りないという状況から一時撤退を選ぶと踏み、同時に【そのわずかな時間で履帯を修理していたら、周囲の音が聞こえずヤークトティーガーを見失う】からこそ、あえて修復を放棄して待ち受けることに徹することにした。正直防壁としてはそれほど期待できない古木に向けて僅かに後退して履帯の上ギリギリまで車体を動かして背面を護りつつ、視界を全面に使えるように上面から顔を出したまま、耳で目で索敵を密とした。
そうして警戒をしている目の前から堂々と、彼女たちはやってきた。
その姿が言っていた。
【真っ向勝負だ】と―――
「操縦手!一挙手一投足を見誤るな!!」
飛ばした檄に『はい!』と返ってきたことを確認して、目の前に向き直った。砲身の方向から弾道予測。そして小刻みな移動により避弾径始でダメージを可能な限り受け流し、逆撃でヤークトティーガーを沈黙させる。達成困難なミッションに違いはないが、やることがシンプルになった分、他のメンバーの動揺も少ない。
――嗚呼。願わくば“こんな満身創痍の姿でなければよかったのに”
エミと―――エミたちと対峙しているときに不意にそんな風に思ってしまう。後悔よりも残念な気分だ。こんな無様な姿でなければもっと正面から勝負ができたというのに……!!
互いに有効射程距離。88mmと128mm、どちらもこれまでの戦闘のダメージから装甲に対して垂直に喰らえば一撃で装甲を穿ち白旗が上がるだろうと推察できる。避弾径始が有効かどうかによっては互いに一撃目で決着がつく状態―――身動きが碌に取れない現状が恨めしくもある。だがそんな事を言ったとて意味のないことだ。戦場で万全の状態で戦えることが稀有なことなのだから。
互いに静かに砲口を向け合い
「「―――撃てッ!!!」」
砲華が咲いたのは同時。砲撃による衝撃を後退の引きがねにすることで衝撃をも推進力に変えてティーガーが滑るように動いた。次いで衝撃―――!弾き飛ばされたかのような衝撃が一瞬走り、脳が揺さぶられる。やや揺れる視界の端に同じように後ろに下げられたヤークトの姿が映った。同時に目線を下げて砲口の向きと車体の向きを確認。弾道修正―――!!
「10時方向!操縦修正できなければ砲旋回を許可する!」
ややしっかりとしてきた視界の向こうでは、ヤークトティーガーも車体を持ち直してこちらに狙いを定めるべく動き始めていた。
改めて被弾個所を見る。被弾したのは車体前面、向かって右隅。車体を避けさせた結果車体前面の追加装甲と装甲板を幾許か抉り取り凹ませて砲弾は後方に滑り抜けたようだった。同時に右転輪にもダメージが入っている可能性は否めない。操縦は役に立たないだろう。つまり―――次弾で決まる。
ドクンドクンと、己の心臓の鼓動が聞こえる。しんと周囲が静まり返るほどに目の前に集中しているのが理解できた。
装填手の「装填完了」の合図を受けて、砲手のタイミングで撃てと返答し、ヤークトティーガーに向き合った。
この時間が早く終わって欲しいと、
この時間がまだ続いて欲しいと、
互いの砲が互いの目標を向いたのはほぼ同時で―――
『リミッター外しちゃいますわよおおおおおおおおおおおお!!!!?』
爆音を巻き上げながらチャーフィーを跳ね飛ばした闖入者が、こちらに向かって飛び込んできた。時速80㎞程度だろうか?
暴走車並みの速度で飛び込んでくるクルセイダー。
戦車の上部から上半身を出している自身。
目の前に広がる車体。
―――ガオンッッ!!!
―――――――横合いからの砲撃を受けて、目の前で直角に曲がるように吹き飛び転がるクルセイダー。
次いで、ティーガーⅠからの砲撃による衝撃と―――
―――直撃を止む無く、白旗を上げているヤークトティーガー。
『――大洗女子、ヤークトティーガー! ヨーグルト学園!チャーフィー、及び聖グロリアーナ女学院、クルセイダー!走行不能を確認!!これにより聖グロリアーナ女学院、ヨーグルト学園、ともに全車走行不能により脱落!!』
―――呆然と、そんな宣言を聞いていた。
******* → Others
目の前に広がる光景に、即座に反応できたのは自分だけだった。
突然雑木林の向こうからなにもかもブッ飛ばす勢いで飛び込んでくるクルセイダー。暴走しているのは誰の目から見ても明らかだった。
問題はその方向がティーガーⅠの上に乗り上げるかもしれない方向だったこと。
西住隊長が車体上部に姿を見せていたということ。
最悪の想像が脳裏に過る前に―――反射的に私は、引き金を引いていた。
吹き飛んでいくクルセイダーを見て、無事な西住隊長を見て、安堵して―――
―――今その相手が“敵”であったことを思い出したときには
衝撃で揺さぶられる。天翔さんが座席から投げ出され、通信手の子が必死に抱き留めそのまま床面に転がった。外の方で白旗が飛び出したシュポッと言う情けない音が聞こえる。
―――思い出したときには、全てはもう、終わっていた。
「―――ごめん。ごめんなさい―――わたし……わたしが……!!!」
砲座でボロボロと悔し涙を流すなんて初めてだった。西住流の端くれとして、大洗のチームとして、ヤークトティーガーの砲手として、誰よりも何よりも自分たちの勝利のために貢献できている自負があった。砲撃無くして勝利はあり得ない。自分の立場こそが最も重要で、天翔さんの装填があってそれが成しえる。天翔さんの活躍を何より顕著に周囲に喧伝できる立場だからとあの日あの時からずっと、心に留めてきていたのに。最後の最後で勝利を逃してしまった。
ヤークトの砲撃なら、ティーガーの正面を真っ直ぐ狙えばノックバックで隊長への被害もなく勝利できていたに違いない。でもわたしは今は倒すべき敵である隊長を優先した。
この試合には天翔さんの未来がかかっている。それは試合の前に説明されて何度も自分の中で反芻してきたことなのに―――
「―――よくやった。やるじゃん」
ぽんぽんと、あやすように頭を叩く手の感触に、涙でボロボロの顔を上げればそこに天翔さんが目線を合わせるように背伸びして立っていた。
「でもわたし……勝てなかった……勝っていたはずなのに」
「勝利より大事なことはないのか?あるだろ?」
体調が悪いままなのだろう、青白い顔でフラフラとしているけれど、そんな顔でもにっこりと笑って見せて、天翔さんは言葉をつづけた。
「―――胸を張って、誇らしく語れよ。お前さんは西住まほを救ったんだから」
―――目の前が見えなくなるほどの涙に溺れながら、天翔さんに縋るように抱き着いて、わんわんと泣き叫んでいた。
*****
「―――ティーガーⅠはどのみちもう走行もできない。白旗を上げろ。この試合から棄権する」
普段より口数多くそう告げる西住まほに、車内のメンバーは静かに従った。
シュポッと音を立てて上がる白旗に、審判の声が響く。
『黒森峰女学園 ティーガーⅠ走行不能を確認!これにより黒森峰女学園、脱落!!』
停止した車内からまばらに降車したティーガーⅠのメンバーが、足早にヤークトティーガーの前まで駆けていく。そしてそのまま横一列に並び
「「「「―――ありがとうございました!!」」」」
その“ありがとう”には試合の終わりを意味する言葉以外に、きっといろいろな意味が詰まっていたのだろう。
*****
「賭けは私の勝ちなわけだが―――どうする?」
一連の状況を見終わった安斎千代美は、納得いかない表情のカチューシャと、色々と諦めたような表情の大学選抜メンバーに向き直った。
「……ノンナ!白旗よ!!賭けは彼女の勝ちだもの!
―――でもあのクルセイダーの車長はラーゲリ送りにして木を数える仕事させてやるんだから!!!」
憤懣止まずといった様子のカチューシャだが、粛々と白旗を上げる。その様子に大学選抜のメンバーも習うようにして白旗を上げた。
「―――よし。んじゃ私たちも棄権するか」
「え!?いいんスか!?ねーさん!?」
隣で目元をわずかに光らせて試合を見ていたペパロニが目元を拭って声を上げた。
「ん-……なんていうかさ、これで漁夫の利は無粋ってもんだろ?」
「そういう事なら、ノーコンテストってことでいいんじゃないか?」
横からそんな声を上げたのは、カバさんチーム車長エルヴィンだった。
「アンチョビさんとペパロニさんが白旗を上げる。その後、残ったひなちゃんことカルパッチョとたかちゃんことカエサルを擁する我々が同時に白旗を上げる。これで引き分け、ノーゲームでどうだろう?」
「そうなると……あれ?その場合天翔の進退は天翔任せだから、問題ないのか?」
勝利者無しという状況に首を捻っていた千代美が今回の優勝賞品に気づき、ぽんと手を打った。今回の優勝賞品は天翔エミを誘うことができる権利の優先権。勝者がなくなることはむしろ何の問題もないと言えた。エキシビションという『高校生が考えた大騒ぎの大会』というものの終わりとしても、わちゃわちゃの方が大人たちへの配慮としても申し分ない。
「よし!じゃ早速やってしまおう!」
「よっしゃー!任せるっスよねーさん!!」
「やれやれ……何のために参加したのかしらね、私たち」
「同感……先に脱落したアズミが頭抱えてるんじゃない?」
思い思いの言葉とともに白旗が上がり―――
『残存車輛、確認します――――』
『―――大洗女子、残存車輛、1!よって、大洗女子の勝利―――!!』
「ここどこぉ……??」
―――エキシビション勝者。M3中戦車リー:“ウサギさんチーム”
>???
「―――さぁーん?今日帰り飲みに行くんだけどー、どぉ?」
少し気だるそうな調子でそう聞かれて
「……や、いいです」
そう答える。短くて素っ気ない否定の言葉になんだか相手の方が面食らったような様子を見せ、そそくさと退散していった。そんな様子をどうでもいいかと視界の端に追いやって、自分の分の仕事を終えてからデスクを軽く片付けて退勤の手続きをして会社を出ていく。
「だから言ったろ?やめとけやめとけってさ。アイツ人付き合いとかそういうの終わってんだから」
そんな声が去り際に背中の方から聞こえた気がした。聞えよがしな大声だが、相手をするのも面倒臭いなと考えて足はそのまま帰路を選んでいた。
電車に揺られての帰宅。『車持たないの?』は両親の言葉。
私の答えはいつも一緒。
【―――変な癖が付いたら困るから】
両親は不思議そうな顔をしていた。問いただしていたけど最近はもう何も聞かない。私も答えるつもりはない。だって自分の勝手な独りよがりの誓いを口にして、“彼女”に迷惑が掛かるのは嫌だったから。
―――――~♪
軽い調子の音が響いて、スマートフォンが鳴る。
会社に戻らないといけない緊急の要件か何かだろうか?と、うんざりしてスマホを取り出してロックを解除すると、そこには懐かしい名前。登録はしていたけれど、あれから全くのお見限りの名前。電話ではなく短いメールで、ただ一文。
件名:報告
内容:
“翼が呼んでいる。あの日を忘れていないなら、彼女のためにもう一度集え”
詳しい事情などどうでもいい。私にとって“これ”は何よりも優先すべき事柄だから―――だから
「―――辞職……は、止められそうだし、溜まってる有給全部吐き出そう」
余らせたままでも会社に迷惑だもんね。
これはいつかのさきのはなし