【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
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長らくお休みしていて申し訳ありませぬ
なので はつとうこうです(強弁)
「……いつぞやの約束通り、引退前の最期の非公式試合だ。
―――“
電話口にそう告げる。電話口の向こうの相手は、迷っているような、微妙な間を空けて
『……受けて立ちますわ ですが―――』
そう、返事を返してきた。
『――ひとつだけ、一つだけ聞かせていただけますかしら……?
―――“わたくしで、本当によろしいの”?』
ダージリンの言葉は弱々しい。おずおずとと言ったような、こちらを窺っているかのような気を使った言い方に、俺は「はんっ」と鼻で笑ってやった。
「お前が『約束を守る気があるのか』ってここ数年、毎回顔合わせるたびに言ってたことじゃねぇか。何を遠慮する必要があるんだよ?」
『―――貴女が本当に決着をつけたい相手は……他に居るのではなくて?』
ダージリンの言葉は要領を得ない。が、言わんとしてることは理解できた。
こいつは事ここに至って“自分が最後の相手で良いのか”が不安になっているのだ。なまじっか俺がこれまでまぽりんとコンビを組んで長いことやってきたし、なんだかんだで日本とドイツのチームに別れてからは「かつての盟友が今やライバル」みたいな言い回しされてるからっていうのもあるんだろう。
実のところ、俺としてもまぽりんとの対決に思うところが無いわけではない。
とはいえ、ダージリンとの決着は高校生のころからの約束だし、何より―――
「お前さんとの約束を反故にするつもりはないし、“お前さんとの決着は、私が人生でやり遂げなきゃいけない事柄のひとつだ”。それに何より……」
【何より―――西住まほはプロリーグの世界大会に出場中だろ】
最後まで言葉を続けることなく、「まぁそれはいいだろ」と切り上げる。ダージリンもそれ以上続けることなく、通話は終わった。
携帯の通話を切ってからそのまま後ろ向きに倒れた。ぐったりと脱力感に苛まれながら、手を上げるのも億劫な状態にため息を吐く。
「―――マジで年寄りみたいだなぁ……」
いやマジで草。ここまでポンコツな身体になっちまうとは思わなかった。
とはいえ、いつまでも達観してなどいられない。最悪でもまだ真っ当な勝負になるようにトレーニングで身体を維持しておかなければならない。あとは―――
「……メンバー、探さなきゃなぁ……」
ヤークトティーガーは黒森峰学園艦に頼み込めば何とかなるだろうが、一緒に乗り込むメンバーはどっかで探さなきゃならない。というのも簡単な話で、ドイツでチームアップしてたメンバーは軒並みドイツプロリーグで世界大会に出てる面子だからこの時期に頼んでも絶対どうにもならないからである。めっちゃどうでもいいけど「急造メンバーでチームワークぅ?」ってエリカの声が脳内再生される件。
いやまぁ現実逃避してもどうしようもない。探す宛てなんぞほぼ一択なのだから。
******
黒森峰学園艦で何故か(元)会長と再会した。
「やーやー奇遇だねぇ」とかいつもの調子で言う会長にちょっとだけ昔のことを思い出す。ついてくる会長と一緒に黒森峰学園艦の戦車道科に向かうとものすごいスムーズにガレージに通された。後ろで会長が「いぇー☆ミ」とピースサインしてるので多分先んじて交渉を済ませてたんだろう。申し訳なく感じるが俺自身交渉は得意じゃない側なんでめっちゃありがたかった。
さて後はメンバーだなと考えてたら会長がニヤニヤ笑いながらいつメンの連中を連れて来た件。なんか俺が引退した後に決着付けるための勝負をする約束を憶えてるのが居たらしく、4人で集まってトレーニングしてさび落とししてたらしい。
「虎の翼を支えるのは我々以外にはいませんから」
そんな風にドヤ顔で胸を張る車長の姿にかつての学生時代の車長がフラッシュバックする辺り、ノスタルジックに染まってるなぁと思う。
*******
〇月××日
運命の日。ダージリンはチャーチルでやって来ていた。
澄まし顔で紅茶飲んでたブリカスは相変わらずブリカスだったらしく最後の最後だっつーのにとんでもないサプライズを用意していた。
さてこれから始めるかってタイミングで後ろからやってきたのはまぽりんだった。今回の戦い(マッチアップ)を完成させるために関係各所に根回ししたり、ダージリンに土下座したりしたらしい。何やらせとんねんこのブリカスが(おこ)
《中略》
ウルトラマンレベルしか保ちませんでした(無念)
車内で【めのまえがまっくらになった】(ポ●モン感)俺氏。どうやら酸素が足りなくなってレッドアウトを通り越してブラックアウトしたらしく装填のために砲弾を手に持ち上げたタイミングで砲弾を取り落としてその場に膝から崩れ落ちたらしい。当然、試合は中断。っていうかこっちの試合続行不能による自動敗北。
フリューゲル小隊の残りメンバーで気絶した俺を引きずり出してったらしい。その後まぽりんに膝枕されてたとか後で聞いて病室で吐血しそうになったりした。
〇〇月――日
正式に引退宣言しました(笑)
同じタイミングで「エミが引退するなら私ももう戦えない」とか言ってまぽりんが引退しようとしてたので必死に説得しました、しぽりんと一緒に(死んだ目)
肉体の寿命を削らずに全力で動けるのは一日一装填(ワンプレイ)が限度のようです。オールマイトかよ草。
〇〇月●●日
西住流道場で一日一回、「演武」と称して装填を見せるお仕事に就任しました。
―――なんで?(素)
******* >> Others
―――“虎の穴”と呼ばれる場所が、熊本のとある地方に存在した。
それは数年前に発足された西住家主導のプロジェクトであり―――次代を担う戦力を生み出すための研究機関でもあった。
ガチガチに緊張した面持ちで、道場への道をゆっくりと歩いている姿が二つ。
くせっ毛を揺らしながらも表情も硬く、足元も緊張でフラフラしている。
―――名前を“秋山優花里”。かつて「あんこうチーム」として高校戦車道大会に旋風を巻き起こし、【虎の翼】と同じ装填手として名を馳せた少女は、今や日本代表として西住みほの戦車に乗り込むほどの戦車道選手となっていた。
西住本家、“虎の穴”の本堂。
道場の様なそこに通された優花里は、目の前に揃った面々により緊張を厳にした。
西住流【元】家元、現相談役 西住しほ
西住流 本家家元 西住まほ
西住流 師範 西住みほ
それらに囲まれるようにして中央に座している少女の様な娘。 天翔エミ
「―――わざわざごめんね」
「い、いえいえいえ!!恐縮です……」
周囲のプレッシャーの中にこやかに話しかけてくるエミの顔色に生気はない。青白く、痩せこけた姿でそれでも朗らかに笑うその顔に、高校時代を思い出すも周囲の迫力に下を向いて俯いてしまう優花里に、エミは軽く噴き出していた。年齢に見合わない、薄く皺が浮かぶ貌は悲壮感すら浮かばせそうなものだが、エミはそんな雰囲気を浮かばせない程に朗らかで明るく笑っている。
「楽にしていいよ、楽に」
「そ、そうは言われましても……」
逡巡するように俯いて正座を崩すこともなく着座している優花里を見て、エミはもう一度吹き出しそうになるのを抑えるように口元に手を当てて息を漏らした。
「まぁいいや―――急に呼び出させてしまって申し訳ないね。私はほら、こんな身だからさ……」
「なんの!天翔殿のお言葉とあれば、不肖秋山優花里、どこであろうと馳せ参じる所存であります!!」
ガバッと顔を上げて、勢いよく立ち上がり敬礼を取る優花里の様子にエミは目を細めた。エミの見る景色が一瞬ブレて、“あの頃の秋山優花里”が一瞬過って、口元が綻んでいる自分に気づいてエミは口元を手で覆う。
一歩、座位を起こして前に出る。一瞬よろけたエミを、先んじて前に出たまほが支える。肩口に手を当てて支えたまま、エミが歩くに任せ並立するまほに、立ち上がって敬礼ポーズをやらかしたと感じた優花里が真っ赤になって正座からシームレスに土下座に転化して見せた。
「ああ、秋山さん。顔上げて、話が進まないから」
「あ、はい……?」
顔を上げた優花里の目の前に、エミの手が差し出された。香油と白粉でごまかされてはいるがかさかさの老木の様な腕と手指のその先に、一対二枚の革布が載せられていた。
「―――これは……」
優花里はその革布に見覚えがあった。遠い記憶、かつて自分がまだ大洗学園艦に在籍していた頃の記憶。あんこうチームとしてⅣ号戦車に乗り込んで戦っていた頃、隣に並ぶヤークトティーガーから顔をのぞかせる天翔エミ。
―――その両手を覆っていた―――
「―――秋山優花里さん。古臭くて小汚いモノでごめんだけどさ。
“これ”、秋山さんに【受け継いで】欲しいんだ」
手に掴んでいるほどの握力も難しいのか、掌の上に載せたままのそれを、手首を下げるようにして、“落とす”様にして優花里に渡す“それ”を、
優花里は必死に両手で掬うように、決して落とすまいと受け止めた。
ただの既製品の革製のグラブ。それも繕ってはいるがボロボロで薄汚れているグラブ。それがとてつもなくズッシリと重く感じて、両腕にかかる重さを感じながら、優花里はそれを胸の前に抱くようにしてしっかりと受け取った。
「―――私に、勤まるでしょうか……?」
ぽろぽろと、頬を伝って流れる涙に視界がにじむ。震え掠れる鼻声に、エミがくしゃりと破顔して見せた。
「―――秋山さんだから任せるんだよ。みほのこと、支えてあげてくれ」
「―――委細、承知致しました……。
不肖、秋山優花里!【二代目・虎の翼】襲名致します!!」
涙を拭って宣言し、エミに笑顔で敬礼する優花里に、その場の全員が深く頷いて襟を正して着座。師範、家元、相談役全ての見守る下で行われた継承式は終わり、
新しい【虎の翼】が、ここに誕生した。
*******
「―――終わったぁ……」
「―――あぁ、終わったな」
すべてが終わり、みほと一緒に帰っていく秋山優花里を見送って、エミとまほは西住家の和室縁側で寛いでいた。鹿威しの小気味よい音を聞きながら庭をぼうっと眺めるエミを、まほは和室で座って見つめていた。
「本当はさぁ……秋山さんに背負わせたくはなかったんだよ……」
ぽつりぽつりと、エミが言葉を吐く。
「―――でもまぁ、私はもうどうしようもないからなぁ」
「エミはよく頑張った。もういいでしょう?」
自分の不甲斐なさを悔やむようなエミに、まほは優しく声をかけた。
「―――そうかな?」
「―――あぁ、そうだよ」
ぼんやりとした様子で呟くように言葉を漏らすエミに相槌を打つまほ。
お茶でも入れようかと腰を上げて台所に向かうまほを背中に感じながら、エミは空を見上げていた。
「―――まぁ……このくらいが、“俺”にできる限界かなぁ……」
小さく呟いたエミは、縁側の庇柱に身体を預けるようにもたれて目を閉じる。
湯気を立てる湯飲みを二つ、お盆に載せて戻ってきたまほは、お盆を挟んでエミの隣に座る。
「エミ、暖かい季節とはいえそのままだと風邪を引くかもしれないよ」
瞳を閉じて柱にもたれかかっているエミに優しくそう声をかけて肩に手をかけて、まほの手が止まる。
「そう、か――――」
寂しそうな、嬉しそうな、泣きそうな表情でそう呟いたまほは、お盆を和室の側に寄せるように動かして、エミの隣に座り直した。
エミの細い手に己の手を重ねて、身を寄せて、同じように瞳を閉じる。
「―――お疲れ様。エミ」
閉じた瞳から涙が一筋、つうと流れ落ちた。