【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
『目隠しをした馬のように範囲の限定された目的は、必ずその持ち主の視野を狭くする。』 (米国の詩人 ロバート=フロストの言葉)
―――Side Darjeeling
戦車道高校生大会1回戦。対戦相手は―――BC自由学園。
1回戦は10輛制限を受ける。が、正直こちらにとっては数の制限はあまり意味がない。車輛はマチルダとチャーチルの混合。虎の子は温存すべきという私の考えから、マチルダ会の提案に阿る形で編成を満たす。
とはいえ、対戦相手にはARL44が複数輛存在する。90mmの砲撃はいかにマチルダの装甲であろうと容易く撃破しうる。油断は禁物……
―――わけがわからないわ(困惑)
敵を撃破して喜ぶのはまぁ良しとしましょう。ローズヒップも良く歓声交じりの報告を上げては通信手の耳を破壊しておりますし……
―――それで……何故味方同士で誹り合うの?
―――何故味方同士で撃ち合ってるの?
『び、BC自由学園フラッグ車、走行不能!聖グロリアーナ女学院の、勝利!!』
アナウンスの声もやや戸惑っている。勝利を告げる放送を、被弾はあれど隊長車がただの一発も砲弾を撃つことなく聞くことになろうとは―――本当に、事実は小説よりも奇なり、と言ったところかしら……?
―――ごめんなさい。こんな時他にどうコメントを残していいかわからないの。
――月――日
戦車道高校生大会2回戦―――対戦相手はヨーグルト学園。
ふざけた名前をしているけれど、ブルガリア由来の提携による戦車道を扱う学園で、保有車両も中々粒ぞろい。強敵、と言っても良いでしょう。ですが焦る必要などない。私たちは強い。誇り高き強豪校聖グロリアーナですもの!
―――などと、考えていた自分を殴りつけてやりたい。
『―――こちらニルギリ。撃破されました……申し訳ありません……』
通信機越しの報告に「そう」と応えて紅茶を一口。
「―――全車後退。高台を抑えられてしまう前に相手の撃破可能有効射程内から撤退なさい」
相手に無防備なお腹を見せるわけにはいかない、全車で後退しつつ敵の攻撃範囲を避ける。丘陵を盾にして森の中へ進む―――その先に
『偵察隊より報告!T-34です!』
「なっ――――!?」
報告の声に耳を疑った。キューポラを昇り外を視認する私の目の前に、展開しようとしている3輛のT-34/85の姿。
「全車、雁行陣形。ひと当てして転身しますわ」
『了解!!!』
雁行(がんこう)陣形。横一列に歩兵を並べる長蛇(ちょうだ)陣形の亜種で、陣形の実線をより太くし、斜方へずらしながら作り上げる防御陣。本来ならば後方に支援部隊や、疲弊した仲間が復帰するまでのわずかな時間を稼ぐための陣形である。当然、長期戦に向いた陣形ではない。
丘の上を抑えられ相手の陣形を把握できないまま、森林内を逃げ回る。徐々に徐々に追い詰められていく展開に、額に汗が伝うのをハンカチで拭う事すら忘れていた。
―――こんなところで終われないのに。
焦りは冷静さを奪い、冷静さを奪われた作戦は味方を不安にさせてしまう。
さながら、己の尾を食らう蛇のように、或いは真綿で首を絞められていくように、じわじわじわじわと聖グロリアーナの車輛が追い詰められていった。
「―――何輛残っていますの?」
『1番、5番。健在です』
『6番、8番、健在です』
つまるところフラッグを含めて5輛。あちらは撃破報告はなし。倍の戦力差を、この貧弱な砲と鈍足な足回りのマチルダとチャーチルで覆さなければならない。ということ―――
作戦を考える私の耳を打ったのは、直接回線(ホットライン)のベルだった。
直接回線の番号を知っている人間は限られる。OG会のメンバーと、学園理事だけ。ゆっくりと、通話機を手に取る。
『―――私よ』
手短にのみ告げる言葉に、身がすくむ。
『―――これ以上は優雅ではないわ。反省会は後でします。投降なさい』
―――投降。屈辱の言葉が胸に沁み込んでいく―――!!
それでも、聖グロリアーナのパトロンとなっているマチルダ会、チャーチル会、クルセイダー会の総意であれば、断ることなど―――
『―――もしもーし?聞こえるー?』
その時私の耳を打ったのは、違う声だった。
「―――アールグレイ、さま……?」
『そうよー?私の声もわからないくらい動揺してた?なっさけなーい』
揶揄う様な声に、何故か安心する。
『投降を勧められてるダージリンちゃんに、私からも一言言わせてもらいたくってねー
――――どう選択しようと自由よ。でも覚えておきなさい“あの子が見てるわ”?』
通信が切れたかも確認せずキューポラから身を乗り出した。森の中からでは、観客の姿など見えない。
―――けれど、もしもアールグレイ様の言う通りならば……
車長の席に戻った私は外部通信機を取り上げると
「ああ!戦車の揺れで通信機が!!」
紅茶を淹れるための熱湯をサーブするためのポットの蓋をちょんと摘まみ上げ、
―――中に通信機を放り込み、蓋を締めた
「さて、通信終わり。全車に通達
――――【アレ】をやります。ルクリリ、任せたわ」
「は――――はいっっっ!!!」
―――ああもう、本当に度し難い。
―――『あれ』が見ていると思っただけで、ここまで覚悟が極まるとは……。
「―――本当に、度し難いこと……」
冷めてしまった紅茶もそれなりに味わい深い。少なくとも、渋味と冷たさが、この身体の熱を刹那でも大人しくさせてくれる。
「―――隊長車よりルクリリ、及び秘密兵器へ」
凛と声を張って、強く姿勢を正して
「―――“駆け抜けなさい”」
あとは
『ヒャッハァーーーー!!!!で、ございますわぁーーーー!!!』
さぁ、胸を張って征きましょう。
******** > 試合終了後
「来ていないじゃありませんかッッッ!!!!」
「えー?アールグレイちゃんわかんなーい?」
チームテントで感情のままに怒鳴り散らす私に、そんな風にしれッと返して揶揄う様にミルクロワイヤルを口にするアールグレイ様にぐぬぬと唇を噛んで睨みつける。本当にこの人はぁぁ……!!!
これでは私、立つ瀬がありませんのですけど!?
思わず天を仰いで瞳を閉じる。気分は悲劇のヒロインもかくやというところ
勝手に天翔エミの姿を幻視して
天翔エミにみっともない姿を見せたくなくて
勝手に一人合点してOG会の意向を無視して
秘密兵器まで持ち出して
結果すべて私の独り相撲!?
「―――でも、諦めずに済んだでしょう?」
それまで揶揄う様子だったアールグレイ様の言葉尻に諭すような雰囲気を感じて視線を戻すと、机に片肘を突いて優しげな瞳でこちらを見上げるアールグレイ様の姿。
「優雅に華麗に大胆に。グロリアーナの矜持も立派だけど、勝つために泥臭く、どこまでも生き汚く、決して諦めない。
―――西住みほも、天翔エミも、そういう子たちでしょう?」
パチリとウィンクして「グロリアーナには似合わないかもしれないけれど」と笑うアールグレイ様に、もう何も言えなくて私は仕方なく視線を外して窓の外を見た。
日差しにキラキラと光る薔薇園の薔薇たちは、土砂降りと言っていい水撒きに光を反射して輝いていた。
「こんなものはばーーーっ!ってやってやれば問題ありませんの!ですわ!」
「ローズヒップさん!?ちょ、止まって!ローズヒップさぁ――――ん!?」
外の悲鳴などは聴かなかったことにした。
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――月――日
「GI6からの報告書です」と言ってサイドテールに麦わら帽子と白のワンピース姿の天翔エミがいつか見た大洗の少女(アンツィオの制服姿)と楽しそうにアンツィオ高校の出店で和気藹々と食事をしながらデート感たっぷりの雰囲気で視察しているスナップショット複数点を書類と一緒に渡してきた。
余裕ですか?ええまぁアンツィオ相手なら余裕でしょうね、ええそうでしょうとも
そのバカみたいな余裕を見せる状況で【決勝戦で当たる相手であろうわたくしの試合を見に来ない】という時点でふざけすぎてますけれど!?
キレてませんよ?この程度で激怒していたら血管も堪忍袋も足りませんから。
キレてませんからね?
※ 時系列で言うと「本選Aブロック」→「本選Dブロック」で一日に複数個所で対戦するわけではなく日にちが別々になってる(大洗VSプラウダ戦とグロリアーナVS黒森峰の対戦日が違ってたので)ため、エミカスのタイムテーブルはアンツィオ戦前の秋山殿日記閲覧「ぜんぶなくなっちゃった!」事件→アンツィオ偵察編 のあたりのお話です