【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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 ―――朝の光に目を覚ます。目覚まし時計が鳴りだすより前に体を起こし、時計を止める。

 軽く顔を洗い、歯を磨く。軽く肌の手入れとストレッチ。

 服を脱ぎ、着替えて敷いていた布団を畳んで片づけるために押入れを開き―――








「――――そうか。もう家ではなかったんだったな―――おはよう、エミ」

「―――お、おはよう」


押入れの中に『住んでいる』同居人と顔を合わせて、そこで漸く『ここが実家ではなかった』と気づいたのだった。

 眠そうに両目を擦っているというよりこれから眼球を抉り出す予備動作に見えたのだが……世の中には色々な手癖があるのだろうな……




第一話 『戦車道、始めます(生徒会長が)』

 

 

 焼きたてのパンの香りが街並みに漂っている。周囲の視線を集めているという感覚が、どうしても消えない。

 まぁ、だからどうしたという気持ちではあるのだが―――エミはどう考えているのかと、少し不安に陥る。

 

 

 

「学園に着いたら、まずは戦車道の同好会から始めるとしよう。千里の道も一歩からと言うからな」

「―――そこまで後退する必要はないとおもうけどね」

 

 エミの意味深な言い回しの答えは、学園で始業式を終えてから唐突にやってきたのだった。

 

 

 

 *******

 

 

 

「戦車道を、復活させる?」

「そそ。今年度からね」

 

 学校に到着し、始業式を終えた私とエミに、生徒会長と名乗る少女が声をかけて来た。あれよあれよという間に生徒会室に通され、お茶とお茶菓子で歓待され、

 

 

 ―――そして今、【戦車道を始めたい】という旨の相談を受けている。

 

 

 唐突過ぎて理解が追い付いていない。脳の内側で深淵の宇宙空間が渦巻いている。エミはというとお茶請けに置かれた干芋羊羹を切り分けてモグモグと咀嚼している。まるで最初からわかっていたような落ち着いた様子に、エミが朝語っていたことを思い出していた。

 

 

「―――成程。流石エミだな」

 

 

 ぼそりと小さく呟いた声は微かに過ぎて生徒会の面々には届かなかったらしいが、エミには届いたようで小さく首をかしげていた。

 

 

 

 ******* >> Side change

 

 

 

 「西住まほと、天翔エミ……?」

 

 最初、報告を聞いた時に耳を疑ったんだよ。

だって当たり前だろう?戦車道で10連覇を果たして11連覇に燃える黒森峰の隊長さん。西住まほと揃って月刊戦車道に掲載されてるお子様体型の装填手天翔エミ。

どっちも戦車道における超が超超超と付くくらいの有名選手だ。

 

「え?黒森峰の選手だよね?なんで大洗に編入して来てるの?」

「わかりません……」

「ですが、これはチャンスです。これ以上ないくらいの」

 

 河島の言う通りだ。都合が良すぎて怖くなるくらいのチャンスではある。

 

 

 ―――先日、文科省のお偉いさんとやらから告げられた“大洗学園艦の廃艦”の通達。

 

 

 到底納得できるはずもないそれを「戦車道のプロリーグ設置のため」だとか「学園艦の統廃合計画」だとか説明されていく。

 絶望に染まっている友達二人を放っておけなくて、私まで諦めた顔でいたらだめだと思って、不敵に笑って

 

「じゃあ戦車道の大会で優勝すれば問題ないよね?」

 

 なんて、そんな風に言い返していた。

 

 

 ―――それからは激務と言っていい毎日だった。

 

 生徒会でやっていた予算計上の再計算。出来る限り削れるところを削って予算を捻り出す。けれど当然ながら戦車を買うほどの予算は作れない。

 同時に生徒たちに戦車道を選択させなければならない。

 

「戦車道選択してくれた生徒にはバリバリに優遇措置入れてこー」

 

 そんな風に軽いノリで空気だけは重くならないようにして、現実逃避していたところに

 

 

 

「―――もしかしたら、これで我々の学園艦も救われるんじゃ……!?」

「希望が見えてきましたね!!」

 

 

そんな風に希望を抱いた二人に不安な顔は見せられないからへらへら笑顔を作って「んじゃ、一応お話しておこっか」とだけ返しておいた。

 

 

 

 ―――そうして、生徒会室で向かい合ってるんだけど……

 

 

 

 いや怖い怖い怖い怖い。ついてくる間もなんかずーーーーっと仏頂面で何も喋らないし、学校に転入してくるってタイミングでも黒森峰のエンブレムが入った戦車で乗り込んで来るし、戦車動かすメンバーもみんな連れて来てるし、なんか話聞いたら「自発的についてきた」とか言うし、言われたメンバーも「自分で決めました」の一点張り。何?宗教かなんかやってるのこの子たち……???

 

 そんで「なんでウチにきたの?」って感じで聞いてみたら、そこで聞かされたのは思ったよりもどうしようもない“大人の事情”みたいな話。

 

 文科省の人はこの二人が転入するってのを後から聞いたらしくて直接西住家に連絡を取ったらしいんだけどあっちの師範……西住まほの母親から「娘が決めたことです」とにべもなく断られたとかで事情を聞きたがってこっちにまで連絡してきたんだけど……

 

 理由が「このままだとプロリーグ設置の前に日本の戦車道が駄目になる」という旨の話を、天翔エミがどうにかこうにか通訳しながら話すと絶望していた。なんで同じ日本人同士の話し合いに通訳が入るのかも疑問なんだけど……何だろうねこのハイスピード展開。今自分でどんな表情してるのかもわからないんだけど?

 

 

「―――我々の事情に付き合わせてしまって申し訳ないと思う」

 

 

 そんな風に頭を下げる西住さんに言葉を返せないでいる私と違って、河島たちは口々に「我が校の救世主だ」と感激している。

 

 

―――とはいえ懸念もあるんだよね……この二人だけで勝ったのなら、それは大洗が優勝したんじゃなくて「西住まほと天翔エミの勝ち」って見做されかねないってこと。文科省の連中が重箱の隅を突っつく様な事をしてこない保証はない。

 

 だから―――

 

 

「―――あのさ西住ちゃん。それと天翔ちゃん。

 

     二人ともにお願いがあるんだ―――」

 

 

 そう、一歩進んで切り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私たちを、鍛えてくれない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *******

 

 

 

 ――月――日

 

 いやいやいやいやいや無理無理無理無理

西住流ってみんな“こう”なの!?頭おかしいんじゃないの!?

それとも戦車道やってる連中ってのはみんな“こう”なの!?

 

 追記

練習後にヘトヘトになってる私たちを連れて、学園の大食堂で飲み会を始めた。

天翔ちゃん曰く「身内ノリで申し訳ないけどこういうものなんで」だそうだ。

 私たちも、今後やって来るであろう戦車道選択生徒も、

こんなのでこれから先やっていけるのかね……?

 

       (大洗生徒会長 角谷杏の手記より抜粋)

 






 【 かつての残滓 ① 】



「―――胸を張れ、前を向け。自分たちは黒森峰をあっと言わせた存在だと誇示すればいい。正直なところ驚かされた。エミが居なければ奇襲を受けて半壊もありえただろう」

 まほが珍しく冗長になっていた。長々と喋るのは悪徳であると戒めてきたというのに、目の前の少女に言葉が止まらなかった。

「貴女は、貴方達は自分たちを誇りなさい。黒森峰(われわれ)と戦い、一時でも圧倒したと誇ればいい。私たちは常勝黒森峰、不退転の西住流。この名この身に自負がある以上、私たちを圧倒した貴女を認めよう。その強さを称えよう」
「―――お前……」

エミから視線をまほに戻す千代美に、まほは相好を崩して微笑んだ。

「私は黒森峰隊長、西住まほだ」
「私は……安斎千代美だ」

互いに名乗り合い、微笑みを交わす。猫背だった背をしゃんと伸ばし、胸を張って前を向く千代美。その視線はまっすぐにまほに向いていた。


******


「あのさ……安斎さえよければ、黒森峰に来ないか?」
「―――なんだって?」

 唐突にそんなことを言われ、安斎千代美は思わず声を上げていた。
 目の前には提案をした少女、天翔エミが恐る恐るといった様子で千代美を見上げている。

「―――そうだな。君が居れば、助かる」

エミの隣で千代美を見送ろうとしていた西住まほがそれに同意する。

「歓迎しよう。安斎千代美―――

 ――――私たちと未来を作らないか?」

 ―――それはある種の殺し文句のようなものだっただろう。
自信に満ち溢れた少女の言葉と態度は、カリスマとしての効果を果たす。まるで彼女を中心にして世界が回っているような圧倒的な存在感。

「―――時間もないし、今答えを出すべきじゃない。と、思う。
 ―――すまないが、少し考えさせてくれ」
「そっか……じゃあ、連絡先交換しよう!」

 絞り出すように答えた千代美に、人懐っこい笑みのまま、エミが携帯を取り出して千代美とアドレスと電話番号の交換を行う。エミの携帯からまほへと伝達が続き、まほの携帯にも千代美の番号とアドレスが渡ることになった。

―――帰宅して、一人になって……千代美はベッドに仰向けになって天井を見上げていた。


―――次は負けない。次は勝つ。


 心の中にそう強く思ったのは事実だ。だが―――


―――“私たちと未来を作らないか?”


 どうしようもなく心が揺れた。

 西住まほ、天翔エミ。あの二人とともに駆ける戦場。

 その光景が―――脳裏に浮かび上がってどうしようもなく千代美を苛むのだ。


―――敵として戦いたい。けれど、ああ、全く度し難い―――


―――どうしようもなく、西住まほの誘いに惹かれている自分がいる と。


―――時は流れ、中等部を卒業し、涙を流して見送る西住みほと逸見エリカを筆頭とした下級生を背に、天翔エミと西住まほの二人は春休みを終え―――高等部へ。
そして―――


「―――天翔、西住。来てやったぞ―――!!」


 第三の戦車道乙女が、黒森峰高等部の門を潜るのだった―――。
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