【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
―――荒れていた。
荒れ狂っていた。心の中はさざなみなどという表現ではない。もはや大嵐だ。
―――どうして?
答える相手はいないのに、問いかけが止まらない。
―――どうして?
繰り替えずたびに心の中で渦を巻いた感情がねじくれてどうにかなってしまいそうだった。
電気の消えた部屋。無気力にベッドの上に寝転んで、何をするわけでもなくテレビの映像を流して、モニターの光だけが部屋を照らして
『それでは、10連覇を達成した黒森峰女学園でMVPを獲得した西住まほ選手に、インタビューを行いました』
画面の向こうで、能面のように表情を変えない生徒がインタビューを受けている。
『戦車道に大切なこととは何ですか?』
インタビュアーの言葉に、カメラに視線を送った生徒は恐らく打ち合わせ通りなのかゆっくり“溜め”て、答えた。
『どんな状況でも諦めない事、そして―――― 逃げ出さない事です 』
テレビのリモコンが壁にぶつかって大きな音を立てた。
「―――戦車道を……やりたいかーーーーー?」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおーーーーー!!!」」」
大洗女子学園の体育館の檀上でマイクを片手に叫ぶ角谷杏生徒会長を、彼女の後ろに立って状況を眺めていた。
―――戦車道を、再開する!!
そう言って大々的に宣言した角谷生徒会長は、
「戦車道を復活させて、高校生大会に殴りこむ!そのための切り札が、ここにあるッッ!!」
強い口調で声を上げる角谷生徒会長に促されるように一歩前に出る。マイクを受け取り、すっと短く呼吸を整え
「―――ご紹介にあずかりました。“元”黒森峰女学園戦車道科隊長、西住まほです」
そうして、一歩下がった位置取りにスルリと音を忍ばせて歩み寄った相棒にマイクを流れるように手渡す。マイクを譲り受けた彼女は、横に並ぶように前に出て一礼する。
「―――えー……天翔エミです。“トラノツバサ”とか呼ばれてました。まほと一緒にこちらで戦車道を始めようと思っています」
一瞬、名乗る手前に酷く抵抗がありそうな様子で表情を歪ませたような気がするが、エミの様子はいつも通りに見えた。おそらくは気のせいだろう。
そうして、先ほどの大歓声に至る。
大歓声の原因は非常に簡単なものだ。私とエミという「わかりやすい英雄」とともに戦って、自分も英雄譚の一員に加わりたいという、流行り廃りに乗りたいだけの者たちの集団に過ぎない。
―――となれば私の役目は、“間引き”という事だろう。
黒森峰でそうであったように、私が“間引き”を行い、エミが“繕う”。
簡単に諦めて心が折れてしまうような者はどのみち兵としては二流以下。心が折れる前にエミが支え、エミの支えを以て立ち直れば、再び打ち据えることができる。
宛ら、それは【刀鍛冶】。 焼きを入れ、焼き均し、再び焼き戻し、均し……
―――そうして出来上がるのだ。……一騎当千の兵たちが。
私とエミに集って来る有象無象の砂粒から、砂鉄を選り分け、刀を作り上げる。
角谷会長とエミが描いている絵図は、そういうものなのだろう。
だが―――ふと考える。 これは【どこまでエミの予想したものだったのだろうか】と。
大洗学園艦は20年以上前に戦車道が廃れてしまった場所だ。
故に大洗学園艦の高校に編入する話をエミから聞いた時には、同好会という体でスタートして、戦車のメンバーを部員として設立を認めさせ、戦車道大会にエントリーする。
最初は私とエミの二組だけ。ティーガーとヤークトのみで戦車道大会に挑み、2回戦もしくは準決勝までに新規参入者を募り、決勝で黒森峰と当たって、勝てるかどうかまではわからないまでも良い勝負を演じて、高校戦車道を盛り上げる。その程度のものだと思っていた。
それが蓋を開けてみれば編入と同時に「戦車道を復活させる」という計画が進んでおり、生徒会長直々に広告塔になって欲しいと頭を下げられ、文科省からやってきた戦車道プロリーグ担当の者と名乗る大人から事情説明を頼まれる。
そんな状況で、エミは涼しい顔で隣に座ってお茶請けを頬張りお茶を飲んでいた。しかしその裏で今回の様な状況を作り上げ、全校生徒を巻き込んで傑物を見つけ出すための試金石を買って出ている。それもこれもすべて【日本の戦車道のため】に。
―――まったくもって、底知れない。と、改めて感じ、背筋を冷たい汗が伝う感覚を禁じ得ない。
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「38tキタァーーーーーーーーーー!!!」
奇声じみた声を上げ、背後の
―――発端は角谷生徒会長の言葉ではあった。
「ガレージに残ってるのはこの一輛だけなんだよね。あとは学園艦を隅々まで探して、戦車探そっかって感じでね?」
履帯も主砲もバラバラに分解されてガレージで放置されていたⅣ号戦車を前に、あっけらかんと言ってのけた角谷生徒会長と、学園艦の表層マップをタブレットで表示して淡々と説明していく河島さんと、確か……小山さんに群がった生徒たちが散り散りに散って行く。
「―――私たちはティーガーⅠとヤークトティーガーがあるから、探す必要はないが……」
手持無沙汰になるのもどうかと思い、エミやチームメンバーの意向を確認すると、エミはやや黙考した様子で
「―――いや、頭数はあった方がいいし、見つけた戦車に誰が乗るかはメンバーの適性テストなりなんなりするだろ」
そんな風に答えたエミは、何処へ向かえば良いのかわからずオロオロと周囲を見回しながらフラフラと所在無く歩いていた二人組の女子生徒に声をかけていた。
声を掛けられた二人組は最初こそ戸惑い緊張していたが、すぐに打ち解けていた。エミの人たらしを加味しても、あちらの二人組の人柄もあるのだろう。
そうして―――先程に至る。
背後から視線を感じてはいたし、気配が付いてきているのはわかっていたので、最悪は発見した戦車を漁夫の利で奪いに来るのかと思っていただけに、虚を突かれた形になった。
恍惚とした様子で戦車に頬ずりをしていた少女。秋山優花里と名乗った彼女は戦車道好き、ミリタリー趣味が興じたタイプのようだった。
人懐っこい微笑みの表情に、遠く離れてしまった妹の面影を見てしまい、少しだけ身を固くしてしまった。未練が過ぎるな―――。
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【 まほの日記 】
――月――日
「全員で戦車を洗車する―――――――座布団一枚っ!」という角谷会長のユーモアセンスにエミが目を輝かせているところを見た。
正直、私にはユーモアセンスがいまいち理解しきれないが……学ぶべき点なのかもしれない。
二日後には戦車道の教官がやって来るらしい。教官の名前を聞いて懐かしさを憶え、不覚にも口の端が緩むのを止められなかった。猛省である。
――月――日
久しぶりの知己との邂逅は、私に様々な思い出を去来させた。
同時に私が一時的とはいえ家を放逐された扱いなことも周知されているらしく、
対外的な対応は素っ気ないものだった。
模擬試合の後でしばらく話すことができ、その後の黒森峰の状況についても多少なりと知ることができた。
やはりエミも気になっていたのか同行して来ており、残された黒森峰の生徒たちの現状について、千代美のことについてを詳細に聞きたがっていた。
模擬試合について、エミが先日助けた生徒が傑物の一人であったことが分かった。得難い資質を持つ素晴らしい選手ではある。私生活にやや難があるようだが、最終的に戦車道を始めることになったようだ。流石はエミだ。
―――それは良いのだが、最近こちらで知り合った生徒たちとの時間を取り過ぎではないだろうか?円滑なコミュニケーションが重要なことは理解しているし、エミのことは信頼しているのだが……如何ともし難い感情もまた、胸に在る。
******* >> Side Change
「―――大洗……?戦車道科の復活?」
「ええ、関東で活動中のGI6からの報告よ」
ひと段落した書類仕事をテーブルの端に追いやり、下級生がサーブしてくれた紅茶の入ったカップを手に取った私に、そんな報告が告げられた。
「20年以上も前に途絶えたものを今更?【この体たらく】の戦車道を全くの無名学園が始めようと?」
「ええ。そのようね」
開いた口が塞がらないとはこのことだろう。或いはへそで茶を沸かすという心境に近しいかもしれない。
「勇気と無謀を履き違えた蛮勇の徒。と言ったところかしら?」
優雅に沿うコメントして紅茶の香りを楽しみ、最初の一口を口に含んだタイミングで、目の前の少女――アッサムが一言。
「――外部転校生に天翔エミと西住まほの名前が確認されたわ」
―――
ダジ「許しません……絶対に許しませんわ、天翔エミ……」
カス「なんで?」