【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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1人の女と、1人の女が 戦車道の道を流星となって流れた

一瞬のその光の中で、人々が見たものは

愛、戦い、運命―――

今、全てが終わり、駆け抜ける悲しみ

今、全てのはじまり、煌めきの中に渇望(ノゾミ)が生まれる

終章『 』

僅かな刻限(トキ)に、全てを賭けて―――!!



【 終章『  』 】

「―――決着をつけたい」

「……望むところですわ」

 

 

通話を切って、まず一呼吸。深く深呼吸をして、心を落ち着かせる。

 片手には薫り高くまだ湯気を上げる暖かい紅茶が満たされたカップ。だというのにその手の指先まで白く染まったかのように血の気を失い、カタカタと震えている。震える指で、しかし紅茶を飲むような気分にもなれず、ソーサーの上にカップを戻す。

 

 結局その紅茶は、香りだけを霧散させ、冷たくなるを待つ身となった。

 

 

聖グロリアーナの学園艦。紅茶の園と呼ばれる聖グロリアーナでも一握りのハイソサイエティしか入ることのできないその一室に今、かつての紅茶の園の同世代。

ダージリンとアッサムの二人が居た。

 ダージリンの語る内容を、じっと聞いていたアッサムは、フゥと息を吐いてソファに体を預けた。対してダージリンは、落ち着かない様子で立ち上がり、それでも何をするわけでもなく所在無くただ佇んでいる。

 

 

「―――ダージリン。本当にいいの?」

 

 

部屋のソファに腰かけてカップを傾けるアッサムの言葉に、ダージリンはただ一息深呼吸をする

 

「ええ、えぇ……構わないわ。だって―――」

 

アッサムの方を向くわけでなく、ダージリンは部屋の壁にある姿見の前に向かう。

自分が一体どんな表情をしているのか、それを確かめるように……

 

「―――受けた勝負は逃げませんの。騎士道精神に懸けて、絶対に―――」

 

鏡の向こうに映る自身の顔を睨みつけるように、強い決意の瞳がそこにはあった。

 

「本当にいいの?だってもうあの子は―――」

「彼女が」

 

アッサムの言葉を遮るようにダージリンは声を上げる。それはおおよそ淑女とは言い難い、荒い言葉だったが、その中に含まれる感情が伝わってか、アッサムはそれ以上言葉を続けることを止めた。

 

「―――彼女が、天翔エミが望んだ事なのよ……彼女と因縁浅からぬ相手の中で、このわたくしを選んでくれた――――――!!」

 

ドンとダージリンが姿見に拳を叩きつけた。全く力の入ってない拳は鏡を砕くことはなく、ただ壁を叩く音だけで。

 そんなダージリンの様子に、アッサムはソファから腰を上げる。

 

「相手はたぶん、Ⅳ号戦車とあんこうチームを集めて乗員を埋めて来るわ。私は砲手として協力する、ペコとローズヒップにも声をかけておくわ。当日までにできる限り仕上げて見せるから」

 

アッサムが退室した後、姿見にもたれかかるようにして、ダージリンはズルズルとその場に崩れ落ちた。

 

 微かな嗚咽の声だけが、静まり返った部屋の中に響いていた―――。

 

 

 

 

 

 

  「俺はただみほエリが見たかっただけなのに・If 三次」

   【  ■■■■■、■■■■■■■■■■―――  】

 

 

 

 

 

 

 

戦いは、熾烈を極めた―――。

轟音、轟音、衝撃、轟音、衝撃、衝撃、轟音―――。

 

 速度に劣るチャーチル歩兵戦車は、度重なる被弾で正面装甲も側面装甲も被弾痕が無惨に刻まれ、グロリアーナのパンツァーエンブレムも煤けてしまっている。

 

「何て―――無様―――」

 

ぽつりと呟く私に、アッサムが声を上げた

 

「泣きごと言ってないの!車輛指示!砲撃指示!!

 ―――ダージリン!!あなたの務めを!果たしなさい!!」

 

アッサムの声に私は脚で応える。操縦手の肩を踏み、方角を指示して射線から回避。わずかに遅れて着弾。爆風に車体が揺れる。

 

 

―――本当、何て……無様……!!

 

 

 

 

 

 

 

    ―――天翔エミ。貴女はこんなにも衰えてしまったの―――?

 

 

 

 

 

 

装填速度が遅い。全盛期の彼女ならばもっと早い、砲手の正確さを鑑みれば、もっと早くに決着はついている。私の敗北という形で―――

 

 

   ―――なのに何なの?このザマは。この戦いに、何の意味があるの?

 

 

私はいったい―――

 

 

   ――――――何のために、貴女と戦っているの―――?

 

 

 

「ダージリンさまぁ!!」

 

  ―――ゴゥンッッ!!

 

 

 

 大きな衝撃が車体を揺らした。手に持っていたティーカップを取り落とすことこそなかったが、車体底面には零れた紅茶の跡が点々と残る。この戦いのために、あんこうチームの面々と争うためにわざわざ手を貸してくれたローズヒップの悲痛な声が、私を再び現実に呼び戻してくれた。

 

「損害個所の確認。急いで」

「ダージリンさま!履帯が……!!」

 

着弾箇所はよりにもよってチャーチルMkⅦの大きすぎる履帯に命中していたらしい。幸いにも、転輪はまだ動くけれど、履帯交換をする猶予などない……。

 

「―――ローズヒップ。片方だけで構わないわ、僅かでも動くように見せかけなさい」

「わ、わっかりましたわー!!」

 

私の指示に元気よく答え、アクセルとシフトレバーを巧みに操り、ハンドル操作とアクセルの稼働だけで、数センチ動いて見せる。ただし履帯がないので不格好なほどにガタガタと車体は揺れ、中の状況は最悪極まりないけれど―――

 こちらがまだ動くことを理解したⅣ号戦車は、とどめを刺すために飛び込んできた。砲塔が、こちらを向く―――こちらは片輪しか動かせない。

 

 

―――だったら―――ッッ!!

 

 

「ローズヒップ!信地旋回ッッ!!」

「は、はいぃっ!!」

 

おおよそ優雅とはかけ離れた私の大声に、慌てながらもローズヒップは答えてくれた。

 

 ―――信地旋回。片方の履帯を固定した状態で、片輪だけを動かし、バスケットボールのピポットターンのようにぐるりと戦車を高速で方向転換する技術。回転運動で被弾を避けた私たちの車輛のすぐそばで着弾、爆裂の衝撃に車体が揺れる。

 Ⅳ号は停止状態から再動の気配はない。恐らくは、避けられると思っていなかったであろう、だが、驚くのはまだ少しだけ早い!!

 

「ローズヒップ!!ギアを逆に!!そのまま信地旋回で元の場所に戻る!!アッサム!旋回後に正面照準合わせ!撃ちなさい!!」

「は、はいっっ!!」「――無茶言ってくれるわ―――やるけど!!」

 

本当なら超信地旋回がしたかった。けれど履帯は片方イカれている以上、信地旋回しかできない。

 ギャリギャリと地面を噛んで履帯が奏でる金切り音が耳を襲う。キューポラから顔をのぞかせ、前方のⅣ号戦車を睨みつける。

 

信地旋回からの砲撃―――射線が定まらない!!停止しているⅣ号に命中せず反れた砲弾ははるか外れた場所に着弾する

 

「ペコ!次弾装填!!ローズヒップ!回避運動!!」

 

 指示を与えるも、衰えたとはいえ天翔エミの装填速度の前ではオレンジペコでは不足に過ぎる―――!!さっきの一度の信地旋回で回避運動の半径も、軌道も見切られている。次はない。

 

 

 

        ―――負ける――――――ッッ!!

 

 

 

 

『―――Ⅳ号戦車、白旗を確認』

「―――え……?」

 

目を閉じて、終焉を待っていた私の耳に、信じられない報告が飛び込んできた。

キューポラ越しに顔をのぞかせると、Ⅳ号戦車から必死にエミを引きずり出そうとしているみほさんとあんこうチームの皆さんの姿。

 

 

 

 

―――もうね、身体が以前のように、動かせないんだ

 

 

 それはこの試合の前に、彼女が告げた言葉。

 

 

―――永くは生きられないんだってさ。だから―――

 

 

 強い決意とともに、生気にあふれた言葉。

 

 

―――決着をさ、つけておきたいと思ったんだ――――――お前と

 

 

 

 

 

 

 

「天翔エミッッ!!!」

 

梯子を蹴って跳ねる。キューポラに躓いてうつぶせにべしゃりと倒れ伏す。

 

―――ッッッ!!こんなもの、邪魔だッッ!

 

手に持ったものを放り投げて車体に手をついて立ち上がり、駆ける。

優雅さなんかどこにもない、ただ、行かなければならないと衝動に突き動かされるままに―――

 車体を転がり地面に落ちたカップが砕ける間に、驚くような速さで私はⅣ号の車体にたどり着いていた。ぐったりとした彼女の身体をあんこうチームの皆が支えて降車させている。弱弱しい瞳に、色素が抜け落ちた白髪だらけの髪。運動の汗でメイクも剥がれ落ちたのか、成人女子とは思えないほどにボロボロになった天翔エミが姿を見せている―――。

 

 

「―――勝てなかったなぁ……」

 

 

ぽつりとつぶやいた言葉。かすれた声で、力のない言葉。

 

「―――エミさん」

 

私の言葉に、彼女は漸く目の前にいる私に気づいたようだった。私の方へ弱弱しい瞳を向けると、彼女は手を伸ばそうと、よろよろと動く

 

「あぁ……ダージリン……負け越しちゃった、な……」

 

ボロボロの姿で、ニッと笑って見せる。

 

「―――どこが……」

 

止まらない―――。

 

「―――この状況の、どこが、勝利なのですか―――!!」

 

被弾はすれど健在のⅣ号戦車と、履帯も失い、装甲はひしゃげ、満身創痍の様相のチャーチル。誰がどこを見たとしても、勝者は―――

 

「―――こんな結末で―――

 

 

  ―――私たちの決着が、こんな終わり方で、あっていいはずが、ない――――ッ!!こんな結末―――ッ誰も、望んで、ない……!!」

 

ぼろぼろと涙が溢れて止まらなくなる、言葉の最期は歪んだ視界で見えなくなったまま、最後まで繋げられなかった。

 何故こんなことになったの?どうしてこんな理不尽が罷り通るの?!

 

 

 ―――神は何故、この娘と私に、こんな結末を用意したの―――!?

 

 

 

 

「―――あの、さ……こんな格言を、知っているか?

 

 

 

 

   ―――世界はいつだって……こんなはずじゃないこと、ばっかりだ。ずっと、昔から、いつだって……誰だってそうなんだ……」

 

涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げて、目の前の彼女を見る。何処までも安らかな顔で語る彼女の手にはあんこうチームの手が添えられて、それが彼女に力を与えているようにも見えた。

 

 

「―――素晴らしい言葉です。でも、私は存じません……どなたの、言葉なのですか?」

 

私の言葉に、ニッと口の端が吊り上がった、ように見えた。

 

「リリ●ルなのは」

「アニメじゃん!!格言じゃないじゃん!!」

 

 武部さんがツッコみ、エミさんがばれたか、と舌を出す。こらえきれなかったように秋山さんが吹き出し、みほさんも苦笑している。

ぽかんと放心していた私に、ふつふつと怒りがこみあげてきた――。

 

「―――貴女ね……!!」

「―――それでいいんだよ」

 

文句を言おうと顔を上げた私を、エミさんが再度声で制する

 

「結果は締まらない結果だったけどさ……お前が勝ったんだよ。勝者が泣くなよ、勝った方ってのは、何時の時代も、どんな戦いでも、笑ってるもんだ……」

 

 

 

――嗚呼、本当に―――本当に、貴女って人は―――

 

 

 

「―――ええ。わかりました」

 

きっと優雅とは程遠い。だって何度も転びそうになって、泥だらけになって、涙をぬぐうこともしないで、顔はぐしゃぐしゃで―――

 

 

―――それでも、今この時この瞬間を超える笑顔などないと、私は思う。

 

 

―――だって、彼女は私を見て笑顔を見せてくれたから。「それでいいんだよ」と、その表情が教えてくれたから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その後のことは、正直あまり記憶に残らない事ばかりだった。

 

彼女はその後戦車道を続けることはできなくなり、私は私で、プロリーグの発足に従い、グロリアーナを代表する選手としてプロテストに参加するため、強化合宿などの関係上、彼女のことを気に掛けることはあれど、中々時間をとることができず、行動に移せなかった。

 

 

 

 

 

そうして数か月も経たないうちに――――突然に、彼女の訃報が届いたのだ。

 

 

 

 

 

 私の前に唐突に、交通事故のように現れた彼女は、止まることなく駆け続け、そして追いつけないままに消えてしまった―――。

 

 

 

 

 葬儀の席で、恥も外聞も忘れて泣き叫んだ。こんなにもあっけなく今生の別れを迎えるなんて、考えもしなかったから……

 

 何故私はいつでも会おうと思えば会えるなんて楽観視をしていたのだろうか?だって彼女はいつだって真っ直ぐに駆けて行って、追いつくことなどついぞできなかったのに―――

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その後も、私は戦車道を続けていた―――辞める理由が見つからなかったからだ。グロリアーナという名門の出身であることで私を持ち上げる人も大勢いたし、形ばかりのおべっかに辟易すれど、笑顔を崩さない程度の処世術はグロリアーナでの生活で身に着けていた。

 西住まほ、地吹雪のカチューシャ、ケイと並び、当年代四強と謳われはしたが、正直どうでも良かった。比較的仲の良かったカチューシャにしても、あの子を大層気に入っていたようで、対立を煽られようと何処吹く風で……

 

 

 私にしても、他の3人とライバル関係だったのかと問われるが冗談ではない。

 

 

 いつだって私が追いかけて、私が倒すべきだと決めた相手は彼女だけだった―――。 

 

 

 それからも、戦車道を続けていてもどこか空虚に感じていて……続けていくことに意義を感じなくなっていった。

 

 

 

   ―――いっそ、もうやめてしまおうか? そんな考えすら頭によぎっていたころに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          彼女が頭角を現した。

 

 

 

 

Ⅳ号戦車に乗り込む一騎当千の強者たち、あんこうチーム。その連射速度はかつての彼女を思わせる程。

 

秋山優花里、

 

彼女の傍で、誰よりも彼女の近くですべてを学んだ装填手―――!!

 

 

 

 

 

―――嗚呼、なんだ

 

 

 

 

       ―――そんなところにいたのね。「あなた」―――!!

 

 

 

 

 

―――そうね。

 

 

 

  ―――貴女との決着は、まだついてなかったのね。天翔エミ―――!!

 

 

 

 

嗚呼、何ということだろう。こんなにも時間を無駄にしてしまった。これからはもっともっと頑張らなくてはいけない。何せ、あの娘は、天翔エミは止まることを知らない。こっちが足踏みしている間にどんどん先へと進んでしまう。今度は逃がさない。追いついて、その肩に手をかけて、今度こそ誰もが納得する決着をつけるのだ。

 

西住まほ?カチューシャ?ケイ?島田愛里寿?―――【知ったことか】!!

 

 

ああ、天翔エミ、待っていなさい。貴女の全てを受け継いだあの子を完膚なきまでに倒して差し上げます。

 

 

 

        私の、わたしたちの決着を、つけましょう―――!!

 

 

 

 




寄稿した拙作に「ダージリンが病む」的なコメントがついてたから生まれたこの作品
いかがだったでしょうか?

なお、わりと病み堕ちレベルのオチになっていますが、作者の一押しキャラは「ダージリン」です(
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