【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
―――聖グロリアーナ学園艦
練習試合を終えて、帰路についた学園艦の生徒会室―――通称“紅茶の園”で、ダージリンはニコニコと笑顔で紅茶を嗜んでいた。
ダージリンの笑顔と対照的に、隣で紅茶をサーブするオレンジペコの表情は優れない。それはダージリンの傍でコンピューターのデータとにらめっこを続けているアッサムも同じで険しい表情でモニターを眺めている。
「……御機嫌ですね。ダージリン様は」
「あら?貴女はそうでもなさそうね、アッサム」
皮肉めいた調子でチクリと刺そうとするアッサムに、それでも余裕の笑みで返すダージリン。その様子に思わずオレンジペコが一歩前に出てその傍らで囁くように問いかけた。
「―――ダージリン様は、どうしてそんなにご機嫌がよろしいのですか?練習試合はその……あんな体たらくでしたし……」
オレンジペコが言っているのは先の大洗との練習試合。その「二戦目」のことを言っているのだとはその場の全員が理解していた。アッサムは嘆息し、ダージリンは「あらあら」とニコニコ笑顔をさらににこやかに強める。
「オレンジペコには、あの試合が私たちの『惨敗』に見えたのね?」
「え?えぇ……はい。実際に、たった二輛に有効的な打撃も与えられず……」
しどろもどろになるオレンジペコに、ダージリンはクスクスと小さな笑い声を漏らした。
「アッサムは気づいているわ。だから今ああやって必死にデータを纏めているのよ?」
オレンジペコに直接答えを告げることはなく、ダージリンはアッサムに水を向けた。話を振られたアッサムは何も答えず肩をすくめる。そんなアッサムの様子にオレンジペコが自分なりに考えを巡らせ始めたため、ダージリンは満足そうに微笑んで紅茶を飲み干した。
「―――やはり、練度の強化が急務です」
始めに口火を切ったのは西住まほだった。
「藪から棒だねぇ」
干し芋を齧る手を止めて鷹揚に受け止めたのは生徒会長の角谷杏。すぐ隣では憮然とした表情の河島桃と困った顔の小山柚子が、それでも黙ってまほの言葉に耳を傾けている。
「一応聞くんだけど、理由的なものもあるんだよね?」
「―――先日の試合が全てです」
苦々しい表情をして睨みを聞かせ、掴みかかりそうな桃を、隣の柚子がしがみ付いて止めている。そんな状況でも憮然と表情を変えず、短い言葉だけで説明もない。「困った困った」と両手をあげて「はいこーさーん」と明るく言った杏は、まほから一歩後ろに下がって立つ少女に目を向けた。
「んじゃ、天翔ちゃん。説明ヨロシク」
さっきまで状況を眺めながら微妙に虚ろな目で宙を眺めていた少女は、名前を呼ばれて一歩前に出て、口を開いた。
「えー……“先日の試合”で聖グロリアーナと練習試合をしました。その結果はご存知の通りですが、戦車道を始めたばかりの新人が強豪と戦ったのだからあの結果は当然です。問題はその後、我々と聖グロリアーナの精鋭とのエキシビションの結果、それを受けてこの結論に至りました。理由としてはそれ“が全てです”』かな?たぶんですけど……」
ところどころで頭を捻りながらそう答えた少女―――天翔エミが、一歩前に出たことで隣になったまほの表情をちらりと見やる。僅かに口角が上がった満足げな表情に、どうやら翻訳が間違っていなかったとエミは胸をなでおろしたのだった。
「毎度毎度惚れ惚れする翻訳っぷりだねぇ。……いや真面目にどうやって翻訳してんのそれ?」
「まぁ……なんていうか、慣れです」
短く答えるエミに「そっかぁ」と達観した顔の杏。「慣れてたまるかぁ!」と思わず叫ぶ桃とそれを押さえる柚子の様子に、ぎゅっと拳を握りしめながら内心で【駄目だ……まだ笑うな……堪えるんだ】と反芻しながら呼吸を整えている天翔エミの姿があった。
******* >> Side change
「ぶっちゃけさー……この間の試合、圧勝だったじゃん?西住ちゃんと天翔ちゃんがいたら大会の一回戦と二回戦はどーにかなんない?」
「ほら、みんな新人だからもっと練習時間が必要だしさ?」と、肩をすくめる角谷さんの様子に、どうやらまだ理解が得られていないようだと判断した私は、論よりも証拠をと思い、生徒会のメンバーを連れてガレージで自動車部の面々によって修理を受けているティーガーⅠとヤークトティーガ―の下へとやって来ていた。
ダメージらしきダメージこそなかったが、ティーガーもヤークトもマチルダとチャーチルの砲撃の雨に晒されながら戦った結果として、外装の装甲部分に被弾痕を色濃く残していた。
「これは先日の模擬試合で刻まれた傷です。ティーガーに損傷らしい損傷こそありませんが、こんなにも砲撃を受けてしまっている」
「でも、ノーダメなんだよね?」
「小破以下は無傷と同意という方便です。聖グロリアーナの、装甲の厚さを特徴としている戦車群であれば被弾した箇所がよほど致命的な部分でなければ、ティーガーの重装甲に傷は負いません。この被弾数のティーガーを見たら、黒森峰であれば味方が卒倒していることでしょう」
角谷さんの言葉に反論して、黒森峰での戦車道の様子が頭をよぎり、言葉を続けられず俯いてしまった。そんな私の姿に隣のエミがポンポンと肩を叩く。私の説明では埒が明かないとばかりに一歩前に出たエミが、髪をかきむしりながら少し考えて、言葉を繋いだ。
「えー……わかりやすく言うと……黒森峰に居た頃は、これほど被弾痕が残るようなザマになることはなかったんですよ」
そこで一息入れた上で、「あ、一応言っておくと大洗のみんなを責めてるわけじゃないです」とフォローを入れて、エミは続けた。
「まほは隊長として【黒森峰の部隊】を率いていたし、西住流の、黒森峰の在り方は【隊長が心臓であり、部隊は手足】ってモノでしてね?まほが砲撃の照準に狙われたら、“相手の照準を逸らす”“先んじて砲撃手を潰す”“射線に割り込んで盾になる”なんかの複数の選択肢でもってまほを守護ってたからってのが大きいんです」
エミの言葉の間、周囲は口を挟めなかった。ただただエミの言葉だけが生徒会室に響く。その言葉を引き継ぐように、まほが隣で顔を上げる。
「それ故、他のメンバーの練度を高める必要があるのです」
「っつってもさぁ……ぶっちゃけ、黒森峰と比べたら戦車の数も質も、雲泥の差ってやつじゃない?」
頬杖をついて干し芋を齧る角谷さんに「まぁ、そっすね」と答えるエミ。「じゃあ結局ダメじゃないか!」と叫ぶ河島さんと、それを止める小山さんを横目に、「ですので」と続ける。
「戦車の調達も必要です―――平行作業になりますが」
「難しいこと言ってくれんねぇ~~……ま、どうにかこうにか予算やりくりしてみるけどさぁ……」
ちらりと、角谷さんがこちらを見た。その瞳が、言葉にしないまま語りかけてきている。
“西住流のツテとか使えないの?” と
言葉にしない理由もわかる。それを口にした時点で【上下関係が決まってしまう】から。なので私も言葉にはできない。目を伏せて視線を逸らすことで、“それはできません”と暗に伝える。
言葉の意味を理解したのか、角谷さんは空を見上げながら干し芋を摘まみ上げてパクリとかじりついて、ほんの少しだけ不満そうに鼻を鳴らした。
――実際のところ、西住本家に話を通せば、お母様に相談すればパンター辺りの戦車ならば融通が利くだろう。
だが、“それは悪手だ”と、思考が警鐘を鳴らしている。
ヒントはいくつもあった。
―――私たちの名声を利用しつつも、私たちの力だけに頼らず「自分たちを鍛えてくれ」と言った角谷杏さん。
―――私とエミが転校してきて、「戦車道を復活させる」という生徒会長の言葉に乗っただけだというのに事情を聞きに来たと言っていた文科省の辻某という役人。
―――戦車道から離れて20年になろうという学園で、初出場での優勝を目標にしている河島さん。
―――そもそも、まるで誂えたように【戦車道の復活】を計画している“大洗学園艦に向かう”という選択を示したエミ。
ひとつひとつならばただの偶然。だがそれがここまで重なることなどありえない。ならばそこに生まれる“必然の意味”とは―――
「―――西住流は【勝つための流派】です」
何を置いても【勝利しなければならない理由がある】ということ。
「ですが―――少なくとも、“西住流”に拘った戦い方は、ここ大洗の戦車道では使えないと見て良いでしょう。ですから―――」
すぅと一呼吸整えて、決意とともに言葉を紡ぐ。
「―――【改革】が、必要です。西住流ではなく、大洗の戦車道に沿った、我々だけの戦車道が……!!」
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それからは激務と言って良い毎日だった。
戦車道を専攻していた多くの生徒が専攻から転科して行き、残されたメンバーのみに教鞭を振るうことになったのは僥倖と言えた。練度を高めるためにも練習密度を高める必要があった。
加えて、【残されたメンバーのための車輛を探す】ことも必要になったのだが……これに関しては、エミが駆けずり回ってくれたらしい。ルノーB1と三式中戦車を学園艦のどこかから見つけて来たらしく、自動車部の面々が修理に勤しんでいる。御蔭で私は指導に専念ができたのだが……やはり火力に問題がある。少なくともⅣ号戦車の改修は急務になるだろう。
だが不思議と楽観している。
「問題ない。まだどこかに眠ってる戦車はあるはずだから」と、エミが言っていたからだろうか?
そうして―――戦車道大会高校生の部、抽選の日。
『大洗女子学園 代表者、前へ』
スピーカーからのアナウンスに「は、ひゃい!」と答えた声の主―――
―――“河島桃”が登壇する。
ぎくしゃくとした動きで階段を上った河島さんは、緊張で今にも泡を吹いて倒れそうな顔色のまま、箱の中から札を選び取り、頭上に掲げた。
『大洗女子学園、8番―――!!』
空欄だった8番の位置に大洗女子学園が収まる。
「一回戦は、サンダース大付属か……」
その様子を、遠くの物陰になる位置で、私とエミは眺めていた。
【私とエミの存在は抽選時には伏せておくべき】
そう言ったのは私で、それを承認したのは角谷生徒会長だった。
代表として抽選の場に私が立つ場合、参加校たちがこぞって対策のために行動を始めることは火を見るより明らか。その上で、学園艦への偵察行為が横行するだろうし、それに対する対策に時間を取られることになる。そんな時間があれば練度を高めるための練習に費やしたい。一回戦を終えるまでの期限ではあるが……
―――そんな風に、“逃げ”を選ぶなど西住流に在りえないこと。
だからだろうか。
「―――お姉……ちゃん……?」
「隊長。……いえ、“元”隊長でしたね」
こんな形で、こんな状況で、
「―――見つからないわけだ」
「こぉーんな僻地の無名校でこそこそ隠れてたなんてなぁ」
迂闊にも捕捉されてしまう醜態を晒してしまったのは――――。
物語はここでプロローグに舞い戻り、改めてスタートを刻む。
過去の因縁は、少女たちの葛藤は、原作知識をもとに己の理想を求める愚行によって
予想外の方向へと未来を導いていく。
少女たちの選択は“原作通りに大洗を救うことができるのか”?
そして、【もう一人の少女】が選ぶ選択とは―――?