【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
また、ゆかエミ日記では「チームメンバーと戦った」とあったけど、
こちらではあんこうチームと一緒に戦った という描写になっているので、
その辺をコネコネしてアレな感じにつじつまを合わせるための部分補強でもあったり、なかったり(言い訳
【 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 終章 Side Emi 】
「―――決着をつけたい」
「……望むところですわ」
通話機から手を離す。壁に体重を預けていた状態から、起立に戻すためにぐっと腕に力を入れて、ふらつく身体を両手を軽く広げてバランスをとる。
―――たったそれだけの動作なのに、どうしようもなく体がだるい。
あとどれくらい保つ?勝負の日までに多少なりともマシに仕上げなければならない。
チームのみんなには迷惑をかけるなぁ……そもそもこんなバカな話に乗ってくれるかどうかも怪しい。
―――ただそれでも、あいつとは決着をつけておかないといけないと思ったんだ。
誰より『俺』のために、そしてダージリンのために―――
「俺はただみほエリが見たかっただけなのに If 三次」
【 エミの章 『 あなたがおしえてくれたこと 』 前編 】
「―――嫌です」
当然の如く、チームの皆からは断られてしまった。そりゃあそうだ、こんなスッカスカの搾りカスみたいになってしまった装填手のお守をしながら戦車道の試合なんかできるはずがない。よしんばできたとしてまともな試合になんかなりはしない。
「―――そっか。ごめんな」
短くそう告げると、最低限、みだりに周囲に言わないでほしいとだけお願いして、頭を下げ、俺は踵を返してその場を去った。足早に去るつもりだが、どうにも速度が出ない。
でも、まだ身体は動く。
そんな俺には、背後の彼女たちの様子は目に入る余裕なんかなかった。
『―――ごめんな、じゃないですよ……諦めてくださいよぅ……』
―――耳に届かないほど小さなその声は、俺には届かなかったんだ―――。
******
「―――結局、ここになるんだな―――」
目の前にはドックに寄港した大型の船舶。太平洋戦争中の日本の空母、瑞鶴をモチーフにしたフォルムの大型艦
―――大洗学園艦。
乗艦許可を得て、学園艦に乗り込む。目的は一つ。
ここに今、ある人がやってきているからだ。
******
「やーやーひっさしぶりだねぇ、天翔ちゃーん」
「……ご無沙汰してます」
大洗学園艦内、大洗女子校 その一室。生徒会室のソファに対面して座る。
目の前には生徒会室で執務に励む現生徒会長を尻目に、怠惰に優雅に干し芋を齧っている、見た目がほとんど変わってない少女の様な懐かしい顔
角谷杏、元生徒会長。
「それで?何の用だっけ?」
「―――戦車と、それを動かすチームを。それぞれ一台と、装填手を除く乗員を定員数。お願いできませんか?」
干し芋を齧っていた手が止まる。にこやかに笑顔を保ったままだが、その様子には真剣味が宿っている―――。
「―――本気なの?聞いてるよ、今の私は監督とかその辺にも顔が利くようになってるから」
「なら話が早い。お願いします」
頭を下げる俺に、上から刺すような視線が襲う。目が合っているわけでもないのに、威圧感が身体を責める。まるでリアルに首に刃物が当てられているようだ。
だが、それが彼女の成長の成果なのだなと納得して、なんだか楽しくなっている自分もまた、そこにいる。
暫く緊張した空気が流れていたが―――
「―――やーめたやめたぁ。降参こうさーん」
杏元会長の一言で、場が弛緩する。机に座って書類仕事にいそしんでいた現生徒会長も肝を冷やしたのか、どっと疲れた様子で椅子に倒れていた。
「こーいうところは本当、西住ちゃんと変わらないんだからなぁ……頑固でほんと嫌になる」
「―――すみません」
苦笑してまた頭を下げる。あのころと変わらない調子でケラケラと笑った元会長は、懐から取り出した通信機の様なもののスイッチを入れた。
「―――かーしまぁ」
―――バァンッ!!
通信機に向かって、あの頃と同じようにダルい調子のイントネーションで語りかけた瞬間、出待ちしてたように―――っつーかこれ出待ちしてたろ―――河島桃先輩が生徒会室に飛び込んでくる。
「まかせたよ、かーしま」
「はい!お任せください!―――ほら、とっとと来い!天翔!!」
ぐっと手を掴んで引きずられる。もう桃ちゃん先輩に抵抗できる力なんかないのでズルズルと引きずられるままだ。
そんな俺の様子を見かねて、気づいたら桃ちゃん先輩におんぶされていた。
「すいません、桃ちゃん先輩」
「桃ちゃんと呼ぶな!何年このやり取りを続けるつもりだお前は!!」
学園内をおんぶで進む。急ぎ足になっている桃ちゃん先輩が、途中でぽつりとつぶやくように言った。
「お前は、なんでそこまでして―――」
途中で口ごもり、考えるような、戸惑うような、そんな様子を繰り返して
「―――いや、いい。会長が決めたことだ。きっとそれが一番いい結果になる」
良くも悪くも自分の物差しより元会長の物差しを信用する彼女だからこそ、余計な口出しをしないことにしたようだ。そのやり取りがかつてを思い出してなんだか面白いと思えてくる。
******
「着いたぞ」
「ここは―――」
桃ちゃん先輩の背中から降りてあたりを見渡す。
見慣れたガレージに、広いグラウンド。
大洗女子校戦車道のガレージ。
「補給の為の寄港で、今の代の戦車道の部員は出払っている。だが、ガレージのキーは生徒会が管理しているからな。こうして中に入ることができる」
ガレージの扉を開く。鉄と油の独特の臭い。電気の付いていない空間に、ゆっくりと日の光が差し込み、内部を照らし出す。
そこに―――
「―――待ってたよ。エミちゃん」
―――彼女が、いた。
>>エミの章 後編へ続く
――――― ■ interlude ■ ―――――
冷泉麻子はその日、あんこうチームのメンバーとともに、メンバーの一人、秋山優花里に呼び出され、戦車カフェへ集まっていた。
何故かそこに毛色が違うメンバーが加わっていることを除けば、いつもの女子会的なソレだったのだろう。
「―――何よ」
「―――別に、なんでもないぞ―――そど子」
「そど子って言うな!!何年続けるのよこのやり取り!!」
園みどり子。当時の風紀委員長で、風紀委員会を取りまとめていた娘。
もう成人してるというのにまだトレードマークのおかっぱ頭のままというきっちりしすぎた性格の娘。
「なんかこの面子珍しいねー」
「懐かしいよねー。チームレオポン、再び!って感じ」
「久しぶりにみんな揃って何か整備してみようか」
「いいねいいねー!!」
チームレオポン。自動車部の4名。ツチヤ、ナカジマ、ホシノ、スズキの4名。
今は全員バラバラで整備工をやっているとか―――
五十鈴華は少し遅れているらしく、武部沙織がさっきから連絡を頻繁に取っている。呼び出した張本人の秋山優花里に、あんこうチームの車長、西住みほがまだ現れていない。約束や時間を護る彼女にしては妙な話だ。
妙なことが多すぎて、麻子は考えることを止めた。どうせ後で誰かが説明するだろうと踏んだのだ。
「やーやーおそろいでー。元気だったー?」
カフェの入り口から、秋山優花里を伴っていつもの調子でやってきたのは、麻子たちがよく知る人物。
「―――元生徒会長が何の用なんだ?」
―――麻子には本当は、おおよその検討は付いていた。
あの日事情を察して、それを秋山優花里に告げてしまった時から、
きっとすべてはこうなるように転がっていたんだ。
*****
「―――っていうわけでね」
話は麻子の想像通りだった。
・天翔エミは、もう戦車道を続ける力がない。
・まだ戦車道ができるだけの力があるうちに、決着をつけたい
・だから力を貸してほしい
要約するとこういう話である。
「それで、自動車部……っと、元自動車部のみんなには、戦車を完璧にチューンナップよろしくねー。費用は今の生徒会長からどーにか引っ張り出すから」
杏の言葉にレオポンの4人が二つ返事でオーケーを示す。もともと自動車を弄ってるだけで満足な連中だから、そのあたりは気楽なものだ。
―――問題は……
「―――元生徒会長
わたしは、何のために呼ばれたんですか?」
そど子が手を上げて杏を睨みつける。当然だ。レオポンは戦車をレストアするために必要。自分たちあんこうチームは、優花里の立場からすればきっと、天翔エミのサポートのためのチームメンバーとして呼び出されたのだろう。
―――ならそど子は?
杏はあの頃の、生徒会長だったころの様な意地の悪そうな表情でそど子を見下ろし、告げる
「納得してもらうためだよ」
「―――納得!?何を!?」
掴みかかろうとする勢いのそど子を麻子が止めた。腕を掴んで引き留め、逆の手で肩を抑えて抑え込む。
そんなそど子の様子を意に介さず、杏は続ける。
「だってそーでしょ?天翔ちゃんはさー
―――カモさんチームじゃん?」
杏の言葉にそど子の動きが止まった。杏の手番(ターン)はまだ続く―――
「だから本来なら、ルノーを使ってカモさんチームで戦うのが、一番連携とかチームの呼吸としては戦いやすいと思うんだよ。
でもさ―――ルノーとカモさんじゃ、勝ち目がない」
グッとそど子が言葉を詰まらせる。何も言えないそど子に向かって、杏の攻勢が続く。
「だからさぁ、天翔ちゃんと息を合わせられそうな西住ちゃんと、あんこうチームに協力をお願いしようと思ったんだ。でもね、何も言わずにあんこうチームだけ呼んでお願いしても―――他の2人はともかく、園ちゃんだけは、納得しないでしょ?」
そど子は何も言えない。言うことができない。そんなそど子の様子に杏はパンと手を慣らして
「っつーわけで、あんこうのみんな、よろしくねぇ。あ、西住ちゃんは先に大洗学園艦のガレージに行ってるから、天翔ちゃんとお話することがあるってさ」
杏はそう言って、言いたいことだけを言って、伝票に紙幣を何枚か挟んで帰っていった。
「―――帰る」
俯いて震えていたそど子がカフェの入り口を抜けて去っていく。
「―――沙織、五十鈴さんに説明頼む」
麻子はそれを、直感の赴くままに追いかけた―――。
******
大通りから外れた、閑散とした路地の奥で、そど子は何をするわけでもなくぼうっと立っていた。
「そど子」
「―――何よ。私を嗤いに来たの?」
「違う」
いつものようにそど子と呼んでも、それに反応しない程に、そど子は追い詰められていた。麻子はどう声をかけていいかわからず、ただ伸ばした手を宙に彷徨わせることしかできなかった。
「―――そど子」
「―――煩いッッ!!」
一歩踏み込んだ麻子に向かって、そど子が逆に飛び込んだ。不意を衝かれ、その場に尻もちをつく麻子。そど子は膝をつく格好で、麻子の胸元を両手でぐっと掴み上げる
「―――わかってるのよ!!私たちじゃ―――私じゃあの子のフォローまで回れない!」
吐き出された言葉は止まらない。
「ぜんぶ、ぜんぶわかってるのよ!納得しちゃってるのよ!!それでも納得できないのよ!!なんなのよこれは――――ッッッ!!!!」
「そど子……」
「初めて動かす戦車で、わけわかんないことだらけで、いろんなこといっぱいいっぱいで……でもあの子が居てくれた!
―――返したいのよ!あなたのお陰で頑張れましたって!戦車道しなくなっても、何か別の形でって、ずっと、ずっと―――」
何処までも生真面目で、几帳面で、どこかズレているところもあるけれど自他ともに厳しいそど子にとって、天翔エミから受けた恩は如何なるものだったのだろう?麻子は自問する。自分はどうだっただろうか?彼女に何か返せていただろうか?彼女の余命の短さを知っている自分だからこそ、失われる命の恐怖を感じたことがある自分だからこそ、何か考える余地があったのではないだろうか?
答えは出ない。代わりに、別の答えは見つかった。
「そど子」
麻子はグッと力を入れて体を起こす。そのまま、胸倉をつかんだそど子を自分の胸に抱きしめる
「そど子の分も、ついでに返しておいてやる。私も、エミに返さなきゃいけないものがたくさんあった。思い出せてよかった。ありがとな、そど子」
「ッッッッ!!!!あぁぁぁあああああああああああああ――――――ッッ!!!」
堰は切られた。溢れ出したモノは止まらない。
麻子は感情のままに声を上げて泣くそど子をあやす様に、背中をぽんぽんと優しく叩いていた。
後編?いつになるかはわからない(ティンときたら翌日には完成している)
そど子は光の当て方次第で輝くと思うんだ……思うんだ(希望