【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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―――朝の陽ざしに、天翔エミはのっそりと起き上がる。

力の入らぬ四肢を踏ん張り、腕の力と腹筋を使い状態を起こした。

英国風の窓と、その周囲を覆うレースのカーテン。何処のお嬢様の私室なのかと毎回思うエミであった。

 ―――ここは聖グロリアーナ学園艦のはずれにある洋館風の建物。
ハコモノを後から作ったため外観が英国風になっている。

 と、いうよりもコレは「エミのために造られた」ものだ―――。


カチリと時計が朝7時を示す。と、同時に―――


   ―――バァン!!!!


「おっはよぅございますでございますわー!!」



【 IF おまけ⑤ルート with ダージリンファイルズ 】

*****

 

 

「おっはよぅございますでございますわー!!」

 

 両開きの扉を【片方だけ持って体当たりするように開いて】やや桃色がかった薔薇色のセミショートヘアをした少女が転がりこんできた。ドタドタと床を踏み鳴らし、ドアを壊さんばかりに勢いをつけ、肩で息をして汗をかいているその様は、淑女たれというグロリアーナの校風に真っ向から中指立てて喧嘩を売ってるに値するに違いない。

 

「―――おはよう。ローズヒップ」

「ええ、エミ様もご機嫌麗しゅうですわ!

 

  では、さっそくお着替え始めさせていただきますわ!!さ、ばんざーいしてくださいまし!」

 

 

 服のボタンを外すのも面倒なのか上3つを外した時点で頸が通る大きさに襟元を開いて、長袖Tシャツか何かを抜き取る勢いで衣服を引っこ抜いていくローズヒップに、内心でやれやれと息をつくエミ。

 小さな子供にするようにスルスルと服を全て脱がせたら聖グロリアーナの制服を着せていく。その合間にも「はいばんざーいしてくださいましー」だの「だっこしますわーはーいどっこしょー」だのお嬢様から大きくずれた言動を繰り返し、エミの服を着替えさせ終わるころには、時計は7時30分を指そうとしていた。

 

「はい!お着替え完了ですわ!

 

 ―――では、参りますわよー!」

 

 

そう言ってベッドの横に立てかけてある折り畳み式の車椅子を取り出し、部屋の真ん中で展開する。

 

「あ、どうぞどうぞですわ!」

 

ニコニコと笑顔でエミの手を引くローズヒップに、エミは【これでもう10度を超える同じ返事を返した】

 

「―――なぁローズヒップ。よく聞いてくれ。そう、きちんと理解して覚えてくれ

 

   ―――ここは【2階だ。途中に階段がある】、車椅子はあくまで2階を動き回る用の補助なんだ」

 

数秒間、時間が止まり―――

 

 

「わ、わたくしとしたことがー!!」

 

 

ローズヒップが両手で顔を挟んで絶叫し―――

 

 

「―――い、いいえまだですわ!では階段を下りてからこちらを使いましょう!それまでエミ様は私の背中へ!」

 

 

 いつものように「エミを担ぎ上げて」両手で車椅子を抱えてローズヒップは駆けだした。

 両腕の力だけでローズヒップにしがみついたまま、エミは嘆息する。

どうせ今日も「面倒なのでこのまま行きますわー」とか言って階段を下りた後も空っぽの車椅子を押しながらおんぶ状態で聖グロの校舎まで駆けて行くんだろう。

 

 そしてそれは現実となった―――。

 

 

 

 

  「俺はただみほエリが見たかっただけなのに 三次 」

 

【 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ IF・おまけルート5 】

 

 

 

 

 

―――天翔エミを襲った理不尽。

 戦車道高校生大会決勝戦に起こった悲劇。流された車両を救うために濁流に飛び込み、果敢に仲間を救った少女。その濁流の中流れてきた流木から仲間を護った彼女は、代償としてその下半身を動かすための神経接続を失った。彼女にとって人生だった戦車道は、もはや再起叶わぬ夢幻の果ての存在となった。

 あの事故に直面したものも、学園で共に戦った戦友たちも、皆彼女の喪失を悲しみ、嘆いた。

 

 ―――それは黒森峰だけにとどまらず、聖グロリアーナにも少なからず嘆きを覚えた人物がいた。ただそれだけの話である。

 

 

「―――ごきげんよう。天翔エミ」

「―――おはようさん、フッド」

 

 

 紅茶の園に入室するまでローズヒップにおんぶされ、羞恥プレイもいいところの扱いを受け続けるのももう慣れっこで、紅茶の園でダージリンとこうしたやり取りをするのももはやエミにとっては定期である。

 

 

「―――お体の調子はいかが?」

「問題ないね。足が相変わらず動かない以外は」

 

専用の椅子の上にローズヒップがエミを下ろすと、オレンジペコが傍らのテーブルに紅茶をサーブする。お茶請けはバスケットに積まれたスコーンと、アプリコットジャムだろうか?

 

「―――モカブレンドをくれ」

 

紅茶から視線をそらしてダージリンを見据えるエミ。視線がぶつかり合い―――

 

 

「―――ローズヒップ」

「わっかりましたわー!」

 

 

やれやれとダージリンが折れる。見飽きた光景なのか、アッサムは困った顔をし、オレンジペコはサーブした紅茶をソーサーごと回収して苦笑している。

 

 

「一応、ここは紅茶の園、ここは聖グロリアーナなのですからね?本来あんなもの、あってはならないモノなのですからね?」

「わかってるわかってる」

 

 

 生返事で返すエミにダージリンはため息をつく。これで何度目になるかわからないやり取りだからだ。

 

 天翔エミが半身不随となってからしばらくして、エミ自身から西住まほに打診があった。曰く「もう戦車道を続けることはできない。ここにいても嘗ての想いを思い出して辛くなるだけだから、別の学園に引っ越そうと思う」と

 これに対してみほとエリカが強く食い下がった。事故の渦中の存在である赤星小梅とその同乗者チームメンバーも同じように食い下がったが、エミの決意は固く

「みほとエリカならやれるさ。二人で協力して優勝して、私に優勝旗を二人で支える姿を見せてくれ。今の私にとって、それが一番望む光景なんだ」

ほかならぬエミにそう言われ、二人は引き下がるしかなかった。代わりに二人のモチベーションは急上昇。黒森峰も命を賭けてクルーを救った英雄のたっての頼みとあり、一丸となって士気はかつてない程に高まっている。

 

 そうして、車椅子を自力で動かし学園を去ろうとしていたエミに声をかけて、聖グロリアーナに引っ張ってきたのは、誰あろうダージリンだった。

 黒森峰の西住まほ、及び黒森峰OGとその裏側にいる西住流師範、西住しほをも巻き込み大舌戦を繰り広げ、協力を取り付けて「エミ専用のバリアフリーを整えた屋敷」を作り上げ、ローズヒップを身の回りの世話に付けて今に至る。

 

「おまたせいたしましたわー!」

 

 パタパタと駆けながらやってきたローズヒップが泥のように真っ黒な液体をドンとテーブルに置く。それに慣れた手つきで角砂糖を1つ放り込み、ミルクも入れることなくグッと飲み干すエミ。

 

「―――はぁ……生き返る」

「色々と洒落にならない言葉やめてくださいます?」

 

 エミの言葉にダージリンは眉根を寄せる。

折角助けたのだ。できる限り永く生きて、そして新しい幸せを探してほしい。見つけて欲しい。ダージリンの願いはそこにあった。

 まぁ、下半身が動かない程度でしおらしくするようならばこの娘は天翔エミではないという事も同時に理解することになったのだが―――。

 

「そういえば、フッドが卒業したら私はどうするんだ?あの部屋あのままになるのか?」

 

エミの問いに紅茶を傾けていた姿のダージリンは、一気に紅茶を飲み干し

 

「心配ありません。わたくし、卒業後はこちらの学院の理事の椅子に座るつもりですので」

 

こともなげにそう言ってのけた。

 

「―――ですから貴女は【リハビリを頑張りなさい】。神経系統の名医、神医の類であろうと見つけ出して見せますわ。

  だからその後、快気の暁には、私と心行くまで勝負致しましょう?」

「あーはいはい。できたらなー」

 

できるはずがないといった調子のエミにダージリンは優雅に微笑んで見せる。

エミはそんな様子のダージリンを尻目にスコーンを片手で掴んで齧りながら、そういえば、と尋ね始めた

 

「みほとエリカはその後どうなってる?」

「あの二人なら、順調ですよ。数日後の大会では知波単との一回戦のはずです」

 

ダージリンの言葉に胸をなでおろすエミの様子を見て、ダージリンは内心で毒づいた。『まだあの二人を気にしているのか』と―――

 

 

 ―――ダージリンはあの日、黙考した。

 

なぜこんなことになったのか? だれが私のライバルを奪ったのだ?

 

―――黒森峰だ。西住まほだ、赤星小梅だ、名もなき生徒たちだ、

 

 ―――――――――西住みほと、逸見エリカだ―――。

 

 

 だからダージリンは用意周到に糸を張り巡らせた。戦車道を続けられなくなった彼女がすべてに絶望しないかを心配し、自殺しそうなスポットをGI6に命じて探りを入れ、要所要所を全て封鎖し徹底的に管理した。―――もっともこれは、無駄に終わるのだが―――。

 

 その後、西住まほに転校における学園艦退艦の申請と、退学届けを提出したという話を聞き―――

 

 

 ―――学園を去る前のエミと接触し、彼女をグロリアーナへと引き込んだのだ。

 

 

 彼女のために家屋を立てた。費用は罪悪感からさしたる抵抗もなかった西住流と、戦車道連盟から引きずり出し、維持費は黒森峰OGに美談を提供する代わりに引き込んで絞り上げている。

 ローズヒップならば彼女のアグレッシブに過ぎる性質も無効化して付き人として任務を全うできるだろう。

 

 

―――実のところダージリンとしては、天翔エミが再起できようと出来まいと、すでにどうでもいいと感じていた。

 自分を苦しめた装填手が自分の掌の中にいる。その優越感に浸るだけでもなく、達成感に酔うでもなく、彼女にとって天翔エミは特別な存在なのだと嫌でも認識できる内心に、彼女は「とりあえず保留」を選択し、今もこうして生活している。

 

 

―――不意に脳裏をよぎる謎の怪文書があるのだが、記憶に蓋をされたかのように思い出せない。

 ただ何となく、「天翔エミがどうしてもというのであれば最大限譲歩すべき」と感じている自身の内心が介在するのだ―――。

 

 

 

*******

 

 

 

――月――日

 

 あの日事故で半身不随のポンコツになってしまった身体。このままではみぽりんが曇り切ってしまう、戦車道を止めてしまうかも?と考えた俺は即座に作戦を実行。まほ隊長に全力でお願いをし、黒森峰を辞めて戦車道のない学校へ編入を希望。行く当てがあるわけではないが、もしもの時のために取り寄せて置いた大洗女子校のパンフを手に説得する。最終的には折れてくれた。ありがとう隊長。

 

 校門をくぐって帰ろうとしてたところにダージリンが待ち伏せていた。

 

 

――月――日

 

ぼくはいま、せんとぐろりあーなにいます

しんちくぶっけんにひとりぐらししています。

 

―――なんで?

 

 

――月――日

 

 この艦での生活にも慣れた。時折ダージリンから伝え聞く黒森峰の様子から察するに、みぽりんとエリカは協力して頑張っているらしい。

良し、狙い通りの展開だ。みほエリ来るで工藤!!

高校戦車道大会があと数日で始まる。黒森峰が優勝し、優勝旗を高く掲げる二人。近い距離感は精神の距離も近づける。そして――――――これやで!これやで工藤!!これを見るために生きてきたんやで工藤!!

 

 

――月――日

 

 ―――ちがうそうじゃない。俺が見たかったのはコレジャナイ

 

 

 

 

*********

 

 

―――すこし未来の話。戦車道高校生大会準決勝―――

 

 

「―――三人ともよろしく。今日は良い試合をしましょう」

 

笑顔で手を差し出すダージリンのその手をエリカが払いのける。

 

「エリカ」

「隊長。少し黙っててください」

「うん。ごめんねお姉ちゃん。ちょっとだけ黙ってて―――」

 

バチバチと火花を散らす勢いの二人の視線を涼やかに受け流し、ダージリンは優雅に微笑んでいる。

 

「―――難しいことは言わないわ。アイツを返しなさい」

「―――そう、そうだよ?ダージリンさん。エミちゃんをどうして閉じ込めるの?おかしいよね?エミちゃんは黒森峰の生徒だよ?」

 

二人とも目が笑っていない。エリカに至ってはいまにも噛みつきそうなほどの目をしている。

 

 

―――そう。真実には、天翔エミは「退学届けを出す旨をまほに納得させた直後にダージリンに連れ去られた」のだ。『在籍が黒森峰のまま』

故に黒森峰に在籍している扱いの天翔エミは失踪扱いになっており、いまだに黒森峰生徒、黒森峰学園艦所属の戸籍が残っているのだ。

 

 

―――ダージリンが【創った】グロリアーナ所属の戸籍以外の天翔エミが。

 

 

偏在する天翔エミの所有権を巡り、ダージリンと西住みほ、逸見エリカの間で争いが勃発。両者の溝は致命的になっていた―――。

 

 すべての情報を知らされていた西住まほの胃のダメージは深刻だったりもするが、そこは割愛する―――。

 

 

「―――取り戻したければ、本気で首を取りに来なさい」

「―――上等よ。蹴散らしてあげる」

 

 

売り言葉に買い言葉の代表挨拶を終えて、ダージリンが帰ってくる。

 

 

「―――そういうわけです。私が敗けたらあちらに引き渡しになるのでご容赦ください。その代わり、特等席で観覧する栄誉を差し上げます」

 

 

そう言って彼女は【エミを持ち上げて、そのままハッチを開いて乗車した】

 

 

 その様子を見て、エミも、エリカも、みほですらほぼ同じ言葉を脳内に浮かべて吐き捨てていた。

 

 「―――人質じゃねぇかこのブリカスが」と―――。

 

 

 

―――試合の結果『一年の半分は黒森峰で赤星小梅を身の回りの世話役として過ごし、残り半分をグロリアーナで過ごす』という取り決めが両者の間で結ばれた。

 

これは後に【天翔エミのペルセフォネの乱】と呼ばれる逸話となり、本人の意思に関係なく、彼女の死後も長く語り継がれることになる。

 

 

―――天翔エミは早世だったと記されているが、彼女の半生を鑑みるに、致し方のないことだったのではないだろうか?そう、歴史家は語る。

 

 

*****

 

――月――日

 

 絶対に成立したと思っていたみほエリがなされていなかった。なんということだ

この世からピロシキしようにも部屋のものも何もかも刃物になりそうなものがない。足も動かないから窓から飛び出るのも難しいし、よく見たら階下はいざというときのためのマットだのプールだので埋まっている。ダージリンめ、ここまで想定してたのかよ。

 安穏とした生活かと思っていたらその実監獄に近い状況だった。事実は小説よりも奇なりってか。

 

 みほエリがなされなかった以上この世に未練もないのだが……潔くピロシキできるタイミングを計るまで、今はこの生活に甘んじるとしようか―――。




もしも選手生命にかかわる怪我を負っていたら 編に三次創作ルート時空のダー様が介入していたら?


という妄想で生まれました。
ちょっと色々暴走しているので話をザクっとあとで書き直し入れるかもしれないです。

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