【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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 は?勝手にシャワールームを使うな?

―――はぁ、まぁ勝手に使ったのは悪かったとは思いますけれど……

―――もしかして、潔癖症でして?


(~某月某日、とある場所にて~)

 


【 IF おまけ②ルート異聞 後編 】

──月──日

 

ダージリン(仮)が修学旅行に行った。

と同時になんか俺にダージリン(仮)について色々聞きたい連中が押し寄せて来るようになった。面倒くさい。

俺もダージリン(仮)もアールグレイパイセンのお気に入りで、どういう経緯で知り合ったのかと聞かれて「ある日一方的にライバル宣言されて付きまとわれてる」というのを精一杯オブラートに包んだ言い回しで語ると『宿命のライバルなのね!好敵手という鎖で結ばれた絆……素敵ですわ!』という感じで妙な方向に熱を上げていた。解せぬ(

 

 ―――早く帰ってきてダージリン(仮)そしてこいつら全員引き受けて

 

 

──月──日

 

 ダージリン(仮)帰還。帰ってきたダージリンはいつもの三つ編みおさげを戦車に乗る時のように首の後ろでまとめてシニヨンにしていた。

 ―――一緒に修学旅行に行った同じ戦車のメンバーに聞いた話によると、奈良のシカに鹿せんべいを狙って包囲され逃げ惑う生徒を見て楽し気に愉悦していたら、自分は背後から迫るシカに気付かずおさげをもしゃられてたらしい。髪がシカの唾液と噛み跡で痛んでしまってるのでシニヨンでごまかしているらしい。

 馬鹿じゃねーのwwwwと笑いをこらえて居たら真っ赤になったダージリン(仮)にお土産の扇子でバッシバッシ叩かれた。白紙の扇子で中に抱負とか目標的なものを書いて記すインテリア扇子らしいので、やや悩んだ上で「初志貫徹」と記す。俺の目標はみほえり一筋なのだ。この学校でどこまで絡めるかわからんができる限り原作に介入してみぽりんを救わなければならないし、エリカとの仲を取り持たねばならない(使命感)

 いや、やらなければならない、ではない。やるのだ―――。

 

 

──月──日

 

アールグレイパイセンが高等部に上がっていった。年代的に西住まほが絡まない大会はこの一年だけなので頑張ってもらいたい。来年はまぽりんが高等部に上がるから難易度跳ね上がるしなぁ……とはいえまぽりんが居なくても大会を連覇していた黒森峰が相手だ。さすがにパイセンでも厳しいだろう―――。

 

 俺の乗る車輛がマチルダⅡから新隊長ダージリン(仮)の乗るチャーチル歩兵戦車に変更になりました。アールグレイパイセンの肝いりで隊長に任命されたダージリン(仮)に引きずり込まれてガッコンガッコン装填する日々が始まる―――。

 操縦手でもないのに肩を踏んでくるダージリン(仮)。何その目、サド?サドなの?『口に珈琲豆ぶち込むぞこの英国淑女』という意思を込めて睨み返すと笑顔と平静を装ってるが微かにカタカタ震えていた。

 

 

──月──日

 

靴を脱いで踏んできた。そうじゃねぇよ、踏むなって言ってんだよ。

何がしたいんだこのブリカスは……。

ダージリンファンにとってはご褒美かもしれないが俺ダージリンについてはみぽりんと(戦術的に)相性の悪いブリカスってイメージしかねぇし……。

 

ただ今後みぽりんが事故に巻き込まれて大洗に行くルートが変更できなかった場合、こいつの存在はみぽりんにとって確実に必要になる。その点でコイツを放置し続けるのは得策ではないし、適度に距離を保って友好関係を維持するのはみほエリのための布石になる。

 結論として一先ず我慢として無反応でガッコンガッコン装填してたらトレーニング後に部屋までやってきて平謝りされた。だから何がしたかったんだよこのブリカスは?(謎)

 

 

──月──日

 

 朝、出待ちしていたダージリン(仮)がロードワークに出る俺に絡んできた。

ロードワークという名のパルクールについてくる気満々だったがひょいひょいと壁を蹴って屋根を飛んで張り出し型のベランダを足場に下まで降りていくのを見て絶句していた。

 

 終わった後で「体幹を鍛えたいのならジムを紹介しますからあんな危険な行為は今すぐやめろ」という感じの旨を説明されたがそういうのにかける金がもったいない。学費とかそういうの馬鹿にならない。という内容で反論する。

 さらっと孤児院の話まで出す結果になりダージリン(仮)が申し訳なさそうな顔になってこの話は終わった。

 

 

──月──日

 

 パイセンに連れられて紅茶の園へお呼ばれした。ダージリン(仮)も一緒に、

ハイソな雰囲気の英国式サロンと言った風な豪奢な部屋に通されると優雅に紅茶を嗜む英国淑女な連中が居並んでいた。

「こちら二名。私のお気に入りの後輩ですの」と優雅にご挨拶するパイセンに倣って俺もダージリン(仮)もカーテシーで一礼する。流石にここで紅茶を断るようなKYな真似は出来なかった。

 ご挨拶と季節の話題を交えてマチルダ会とチャーチル会のOG様とやらが無駄にでかい顔して我が物顔で戦術を語ったり自慢げに過去の自分たちの栄光を語るのを聞き流しつつ心を殺して置物になるに徹する。

 

 ダージリン(仮)がダージリン(真)に進化した―――!がんばれダージリン。お前が来年からここで政治的に戦うんだ。お前ならやれる。やれるって信じるから俺を巻き込まないでくださいお願いします(懇願)

 

 

 ―――ぼくのそうるねーむはかわらず「ぶりゅんひるで」だそうです。ちくせう

 

 

******

 

「―――冠名を与えなくてよろしかったんですの?」

 

紅茶の園を退室後、気分が悪くなったと早足で寮に戻ったエミを見送って、ダージリンはアールグレイにそう尋ねた。

 アールグレイはダージリンの言葉に肩をすくめると、言った。

 

「あの子が紅茶の園の空気に慣れるはずがないでしょ。あの子は茨の檻に閉じ込められても自力で茨を引きちぎって王子様なんか待たずに強引に逃げ出す茨姫よ?」

「それはまた―――随分なお答えで」

 

アールグレイの言葉に苦笑するダージリン。その脳裏には美しいドレスに着せられてる感半端ないお子様少女がその矮躯に見合わぬ怪力で自分を拘束する茨を引きちぎり、眠気を珈琲で中和しながら茨に覆われていない壁の部分をぶち抜いて脱出するシーンがありありと想像され、盛大に噴出してしまう。

 アールグレイはそんなダージリンの様子を見てケラケラと笑っていた。

 

「―――昔ね。あの子に聞いたことがあるわ。『何故そんな無茶をしてまで戦車道にこだわるの?やればやるほど辛くなるでしょ?』って」

「―――お言葉ですが、あの子の装填技術は世界でもトップクラスです。それを―――」

 

反論しようとしたダージリンが押し黙る。アールグレイの目がそれを許さなかったからだ。

 

「―――うん、まぁね。ただあの子の装填は「あくまで優雅に余裕をもって」なウチの戦車道とは噛み合わない。連射性能が高くなっても優雅さを追求する以上速射砲の真似事やっても上から顰蹙を買うだけだもの」

 

肩をすくめてやれやれと首を振るアールグレイにダージリンは何とか反論を試みようとする。

 

「―――ファイアフライなどの固定砲台での装填ならば―――」

「うん。それは確かに考えられるけど、うちの戦術や戦車の種類に当てはまるものがないし、ファイアフライを使っても今度は装填速度と砲身冷却の時間がかみ合わないので宝の持ち腐れなのよ」

 

アールグレイの反論にぐうの音も出ないダージリン。必死に頭を回転させて反論を捻り出そうと四苦八苦するダージリンにアールグレイはクスリと微笑む。

 

「―――随分大事にしたいみたいじゃないの。私が先に見つけたんだけどぉ?」

「い、今は私の乗員ですし……ええ、他意はありません。強いて言うならあの子は私のライバルですから。ええ、骨のあるライバルがいなくなるとモチベーションの維持が困難になりますので」

 

意地悪そうな顔のアールグレイにダージリンはあさっての方に視線を逸らした。

 

「―――そ、それで……彼女は、何と?」

 

話題を反らしたくてダージリンがさっきまでの話題に引き戻すと、アールグレイは愉しそうに笑ってこう言った。

 

「―――意地、だってさ」

「……意地……」

 

 ぽつりとつぶやいたダージリンの脳裏にエミの行う苦行にも似たトレーニングの数々が思い起こされる。『自分にはこれしかないからな』とだけ語ったことがあるエミの、あの決意を胸に秘めた表情。それが意地によるものだとすると―――

 

「―――あの子ね。黒森峰の入学試験を受けに行って落ちてここに来たんだって。

 戦車道推薦も狙ってたみたいだけど、別の子に枠取られちゃってたらしいわ」

「黒森峰……」

 

 高校戦車道に置いての王者と言われるほどの強豪校。圧倒的な戦車の質・乗員の質で相手を圧死させる西住流の境地。

 ああ、だとすれば―――

 

「―――この学院で戦車道を続けている理由は―――」

 

呟いたダージリンに、アールグレイもニッコリ微笑む。ただしいつもの微笑みではなく、どこか獣めいた好戦的な微笑み。

 

「そう。きっと彼女の意地とは『自分を排斥した黒森峰への復讐。見返してやるっていう反骨精神』―――面白いじゃない。あの小さな体にどんだけの野心を詰め込んでるのかって話じゃない?そりゃ私も協力したくなるわ」

 

ケラケラと笑うアールグレイの言葉が耳を通り抜けていくのをダージリンは感じていた。一方的なライバル視をしていた関係の少女の過去。叶わなかった現実を打ち破ろうとする何処までも天を目指す反骨性。ハングリー精神。

 

―――今の自分に、彼女と並び立ちライバルと言い張れるだけの何かがあるのだろうか?ダージリンは自問する。答えはない……。

 

 ―――ただ、すごく『彼女らしい』と感じていた。

 

 

「―――ああ、さっきの話だけど。

 

 仮にだけど、カール自走臼砲とか使えるのならあの子の怪力ならぴったりかもね。一人で装填できちゃうかも♪ ―――まぁ、オープントップの戦車にレギュレーションが許可出せるはずないけど」

 

 

 

 数年後、アールグレイは自分の発言が予言になっていたことを知る

 

 

 

******

 

 

 

──月──日

 

 ダージリンが高等部に上がっていった。順当に行けば俺が隊長なのだろうが

「貴女に隊長なんて務まるはずがないでしょう」とはダージリンの言。さすがダージリン。よくわかってるじゃないか(信頼)

 

 

──月──日

 

 ―――おのれダージリン(憤怒)

 

 

──月──日

 

 ダージリンによって新規増設されたポスト「ご意見番」に今日も投書が投げられる。っていうか現行隊長しっかりしろよ。おどおどしながらこっちのご機嫌伺って会話しないでくれる?なんかどんどん新入生に恐れられてるんだけどぉ!?

ああでもこの若干自信なさげな態度でわかるわ。お前オレンジペコだろ(確信)

 

 

──月──日

 

舎弟が出来ました(困惑)

え?何で???何でお嬢様学校で舎弟とかできるん?どういうことなの……?

 

日課のパルクールで壁を蹴って落下中追いついてくる人影が一つ。

そして壁を蹴っても衝撃を殺せないでそのまま落下しそうな人影―――おい待てゴルァ!

 必死に壁を蹴って加速しつつ肩に担ぐ形で着地。カナディアンバックブリーカーになってしまったことは悪かったと思うが、死ぬよりはましだと思ってくれ。

日課でこの辺パルクールしてる姿を見て「なにあれかっけぇ」と思い俺の行くコースなら可能なんだと考えて自分でやってみたところ、身体がついていかなかったそうな。

 

 

 ―――ば~~~かじゃねぇの~~~~?(本音)

 

 

 戦車道履修生ということで俺の傍で色々勉強したいとか言い出して付きまとい始めた。やめてよね、マジでダージリンが付きまとうことがなくなってそれなりにひとりでいることに安心し始めたってのに……。

とはいえコイツ放置しておくと自分のトレーニングメニューを勝手にこなそうとして死にかねん。寝覚めが悪いにも程がある。

 

 何で下級生がこんな濃い衆ばっかなんだよ……(疲労)

 

 

──月──日

 

中等部最後の大会。準決勝で黒森峰と当たる。みぽりんとエリカの距離感は原作より若干離れているように感じた。泣きたい

 あ、試合は割とあっさり負けました。他の隊長が運用してるの見てはっきりわかる浸透強襲戦術という戦術の脆さとそれを戦術レベルまで昇華してたダージリンのありえない戦術力。あと浸透強襲戦術に遊撃隊による分断作戦をぶっこんだパイセンの優秀さ―――こういうの見ると自分がいかに凡人なのかわかるよな…… 

試合後、隊長と副隊長同士で「いい試合でした」って感じの挨拶を交わすので俺も出て行ってついでに挨拶を交わす。

 

 みぽりんとエリカに「同年代だし、一緒に切磋琢磨できる仲間は貴重だから」とアドレスを交換する。

ここまで長かった……いや本当に。パイセンが居たらパイセンが邪魔で、ダージリンが居た時にゃ戦車から出るなと言われて出してもらえなかったからなぁ……

 

 

 これを次の作戦の布石とする!(まぽりん感)

 

 

──月──日

 

聖グロは完全エスカレーター方式で、進学を選んだ場合外部編入組と違い中等部からは自動で高等部入りが完成している。ので勉強する意味はないのだが―――

 

 装填手としての腕前を落とすわけにはいかないので日々トレーニングにリソースをつぎ込んでいる俺の学力が地味にやばいラインに達そうとしていた。

しょうがないやん。アドレス交換してから日に3通は届くみぽりんからのメールの闇が深そうな内容にめっさ緊張するやん。あかんやんこれ……エリカ何とかしてやってくれと思うもエリカはエリカでこっちからメール送らないと返信してこないわ何通もメール送ったら逆にキレて電話してくるわ……この状況で俺に何ができるのだろうか?って考えるやん……考えるやん……

 

 

 ―――いや諦めてないんだけどね。みほエリを見るために俺は今ここにいるのだから―――!!

 

 

 

──月──日

 

中等部を卒業する。後を惜しまれながらも、二年連続で隊長を担うオレンジペコ(仮)のところに行くと舎弟となんか言い争いをしていた。何やってんのアイツら―――

 

 

 『天翔先輩!第二ボタンをください(ませ)!!』

 

 

―――何で?(素)

 え?お嬢様学校にもそういう風習あるの?そういうの男子の風習じゃないの?どういうことなの……?(震え

 

「どっちを選ぶの!?」みたいな修羅場感にうろたえてると背後から忍び寄ったダージリンが俺の服からボタンをむしり取って「これが大岡裁きというヤツね」と呟いて去っていった。ダージリンに感謝する日が来るとは思わなかったぜ……。

 

 

 

──月──日

 

高等部に上がり、上級生としてダージリンと再会する。パイセンも三年生として君臨している。オレンジペコ(仮)が紅茶の園にお呼ばれしてオレンジペコ(真)にランクアップした。これで公式にオレンジペコって呼んでも問題ない。

 

 舎弟がパイセンに気に入られていた。波長が合うんだろうなぁ―――。

 

「あ、そうだ。貴女にも冠名付けましょ。そうね……ローズヒップで」

「え?え?よ、よろしいんですか!?……あっ、で、ですの?」

 

 

―――ああ、こいつローズヒップだったのかよ(今更)

 

ノリは確かにそれっぽかったけど下町空気バリッバリで優雅感これっぽっちも演じてなかったから全く気付かなかったわこれ……オレンジペコと空気が合わないのもやむなしか……原作でも劇場版まで苦手意識持ってたらしいし。

 

 

 

  追記

 

―――あれ?ペコとローズヒップに慕われてる今の状況って十分にピロシキ案件じゃね? と思ったので久々にセルフ指ペキを敢行。小指一本では足りないかもしれないが大会前だから多少は自重しなければ……

 

 

 

──月──日

 

俺と、ダージリンと、パイセン。

それぞれに想う所を残して―――戦車道大会が、はじまる―――!!

 

 

 

──月──日

 

結果として、俺の目的は果たせなかった―――。

準決勝で出会ったプラウダ高校。なんかカチューシャにめっちゃ気に入られたのとノンナさんから猫耳バンド貰ったのは割愛するとして―――こいつらがクッソ強かったからだ。

 浸透強襲戦術による防御が役に立たない。分断作戦にも乗ってこないで防御を固め、じわじわと詰める俺たちを飲み込む様に包囲陣を完成させて包囲殲滅を完成させた。あまりにも鮮やかすぎてどうしようもねぇ―――これが包囲の天才ってやつか。

 試合の後で強引にカチューシャとノンナとアドレスを交換させられて戻ってくると、パイセンが自分のテントの中で肩を震わせて涙を流していた。

パイセンにとってもう後がない大会でのこの敗北は、俺にとって他人事ではない絶望感だ。「先輩の無念は、いつか形にして見せます」と言って頭を撫でると抱き着かれた。身長差のせいでぬいぐるみに抱き着いて泣いてるような状態なんだが、まぁ今回はしょうがない。

 

 

 ―――みほエリを為せなかったとして、この世からピロシキするまでのひとまずのロスタイムライフができた。だから未練とか残したくなかったんだがなぁ―――

 

 

 

──月──日

 

運命の決勝戦―――。

 

事故は―――起きた。

 

―――俺は、何も、できなかった―――。

 

 

 

 

──月──日

 

 翌日。みぽりんにメールを送る。

返信が来ない。

 

 

──月──日

 

 みぽりんにメールを送る。

返信が来ない。

 

 

──月──日

 

 黒森峰との模擬試合が組まれた。試合の際にみぽりんの様子を見る。

―――あれは何て言うか、駄目だ。

 

試合は黒森峰の勝利だが、それはまるで重要なことじゃない。俺は黒森峰のテントまで走った。走って走って、みぽりんが上級生らしき連中に絡まれているのを発見し、間に強引に滑り込む様にして割り込み、背中にみぽりんを隠すようにして立つ。他校の生徒が学内の問題に介入とか越権もいいところだ。いいところなんだが―――

 

 ―――これは俺の責任だ。失敗してしまった俺の責任なのだ。

 

 何を言われようと退くことなどないという意思を込めて上級生を睨みつけると、一瞬怯み、怯んだことを恥とでも感じたか平手が飛んできた。

甘んじて抵抗せず受ける。ジンジンと頬が痛い。首受けなどしなかったので脳が少し揺れて視界が揺れる。無抵抗のまま目の光だけは変わらない俺に恐怖してか、上級生から二発目が飛んで来る―――

 

「―――そこまでにしておきなさい」

 

 凛とした声が響く。

サクサクと落ち葉を踏む音が静寂に響き、貴族的な立ち居振る舞いで現れたのはダージリンだった。ダージリンは新たな闖入者に怯む上級生をジロリと睨むと

 

「こんな格言をご存知?―――“一発だけなら誤射”

 

  ―――二度目は、ありませんわよ?」

 

底冷えのする声にたたらを踏んで下がった上級生の背後からやっと現れたまぽりんに低い声で凄まれ進退窮まった上級生がその場にへたり込んで終了。

 騒動の後始末に「他校の問題に巻き込んで済まない」とまぽりんに頭を下げられ、みぽりんからは控えめな「ありがとう」を貰い、最後にエリカが「勝手に他校の問題に首突っ込んできて何様のつもりなの?―――とはいえ、醜聞にならずにすんだわ」とテンプレなデレがとうを戴きましたありがとうございます。

 

 ―――とはいえほぼ原作通りのこの状況。打ち破れるとしたら俺だけだ。

 

みぽりんには「何かあったら絶対にメールでも何でもいいから連絡をして。いつでも相談に乗るから」と約束をして、解散―――

 

 

 

 

 

 

 

「―――エミさん。正座」

「はい」

 

 

―――はい、わかってました。勝手な判断で動いた挙句に大事に発展しそうな状況作っちゃってサーセン!はんせいしてまーす(反省しているとは言ってない)

 でもまた同じことがあったとしたら首突っ込むし同じことするぞ。とは力説した。なぜそこまでと聞かれたが、答えは決まってる

 

 

「―――あんなの俺が求めたみほエリ(もの)じゃない。あんなものは認められない」

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「―――あんなの、俺が求めた戦車道(もの)じゃない。あんなモノは認められない」

 

 天翔エミの言葉を聞いて、ダージリンの胸にわだかまっていた何かがすとんと腑に落ちた。

 戦車道大会においてプラウダに負けてから、ずっと落ち込んでいた少女があの日、決勝で黒森峰があんな負け方をしてからというもの、様子がずっとおかしかったのはこのためだったのか と。

 

 自身をつまはじきにした黒森峰への復讐からの意地―――それもきっとあるだろう。だがそれよりも、かつてこの少女は戦車道が楽しいからやっていると言っていた。

 その少女が、人道を正義と奔った少女がその結果味方に弾劾されるなどという非道を許せはしないし、その結果その少女が何もかもを見失って絶望するなどあってはならないことなのだろう。何処までも高潔な少女に、ダージリンは【戦乙女(ブリュンヒルデ)】と名付けた先輩の真意を見た。

 エミを解放したのち、ダージリンは自分の携帯を取り出し、通話を始める。

 

「―――もしもしアッサム?ちょっと手配してほしいモノがあるの」

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

──月──日

 

 みぽりんを包む周囲の状況は日々悪化の一途をたどっているらしい。

おまけにエリカも見直し始めていたみぽりんが勝手な判断でフラッグ車を放置して人命救助に走ったことを「適切な対応を取らずに自分勝手な判断で現場を放棄した」としか見てないため当たりが酷い。

 事ここに至っては一度距離を取らなければみほエリは為されまい……

 

俺にどこまで介入できるかわからんが、大洗転校ルートの後の展開で出来る限りサポートしていくことしかできない……畜生め

 

 

 

──月──日

 

ここは、せんとぐろりあーなです。

 

めのまえに、にしずみみほさんがいます。

 

      ――――なんで?????

 

 

 

──月──日

 

西住みほ、神奈川に立つ。

ダージリンが気を利かせて転校手続きの書類一式をまとめて諜報部を通じてみぽりんに手渡したらしい。何で?

「見える範囲に彼女がいたほうが都合がいいのでしょう?貴女」とはダージリンの言。

 

 ―――なんだコイツ聖女か?(掌大回転)

 

みぽりんも、ほぼ唯一自分の味方をしてくれて、身体を張ってかばってくれた俺と一緒ならば戦車道を続けていけると精一杯気合を入れている。ええで、これは光明が見えたで!

 

 

 ―――あ、でも聖グロの車輛で黒森峰に勝たなきゃいかんのか……無理ゲーじゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~そして、時は流れて戦車道大会準決勝~

 

 

 

 

黒森峰女学園の電撃作戦を相手に、真正面から受け止めるダージリン。

浸透強襲戦術の防御は堅く、防御に徹するならば簡単には貫けない。その膠着した戦線を―――

 

「―――今ですよ。【戦乙女の槍作戦(ヴァルキリーズジャベリン)】開始―――」

「―――その名前マジでやめろお前ぇーーー!!」

 

 

 

―――圧倒的火砲が、吹っ飛ばした―――。

 

 

 

 防衛陣が守護するその後方、高台の上に布陣する一台の戦車。それは原作で聖グロには存在しない重厚な戦車。世界で6輛というレアリティで入ればレジェンドレア級の重戦車―――。

 

 

      ―――A39。トータス駆逐戦車

 

 

「―――マジでこんなのどこから借りてきたんだよ」

「壊さないようにお願いしますわ?それ、博物館に戻す必要がありますので」

 

通信機越しに能天気なダージリンの声が響く。俺は両手でずっしりと重い32ポンド砲砲弾を一人で持ち上げ装填し、砲手に合図を送る。

 砲撃の華が咲き―――黒森峰の車輛が2輛、巻き込まれてフッ飛ばされた。

 

 

「―――こんな格言をご存知?“勝てば官軍。負ければ賊軍”」

「―――すいませんダージリンさん。それ、私にもちょっと痛いです―――」

 

通信機越しに会話するみぽりんからは悲壮な感情はない。もう完全に立ち直れたようだ。みぽりんはパイセンが餞別に貸し出してくれたあのクロムウェルに乗り込み、戦線が崩壊したタイミングでフラッグに突撃する役割として潜伏してもらっている。

 

 この戦い。なんとしても勝ってみぽりんの正しさを黒森峰に突き付け、エリカと仲直りさせる!!そのためにも

 

「―――勝つぞ!ダージリン!!」

「―――ええ、よろしくてよ」

 

 




 
なお仲直りはしますが別にみほエリがなされるわけではなく、
黒森峰に戻れる準備できたよー→「え?何で戻る必要があるの?」という感じで依存されてることに気付くエミカスが居ます。

その後、みほエミ、ペコエミ、ローエミの3択が目の前に広がっている可能性だと気づき、色々諸々から逃げる形でダージリンのとこで精神安定を図ったりする(妄想)

なおダー様はエミカスに恋愛感情的な好意がないわけではないが、恋愛感情で逃げを打たれるよりは戦車道ライバルの座が空位なんだからそこに座るのが賢いやり方だと無意識に理解している(妄想)

エミカスがピロシキしないよう適度に揶揄い適度にあしらい適度に愉悦し目を光らせるのがブリカス式エミカス飼育術である(なお寿命)

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