【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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**今回、「ガールズアンドパンツァー最終章」第一話 のネタバレ的なそれを一部含みます。読む方は覚悟して読んでください**








高台の上に布陣する一台の戦車。それは原作で聖グロには存在しない重厚な戦車。世界で6輛というレアリティで入ればレジェンドレア級の重戦車―――。

      ―――A39。トータス駆逐戦車

 砲撃の華が咲き―――黒森峰の車輛が2輛、巻き込まれてフッ飛ばされた。

 この戦い。なんとしても勝ってみぽりんの正しさを黒森峰に突き付け、エリカと仲直りさせる!!そのためにも

「―――勝つぞ!ダージリン!!」
「―――ええ、よろしくてよ」

マチルダとチャーチルが守る防御陣を崩さんとするティーガーとヤークトの鉄血十字の一団。
 それを吹き飛ばす天上からの一撃。まさに『戦乙女の槍』

敵中を強引に突破するためにエリカのティーガーⅡが前に出てマチルダの陣形に穴をあけようとする。 その結果―――西住まほの乗るティーガー1の周囲に僅かな、だが決定的な綻びが生まれた―――!!

「―――ローズヒップ!!」
「かしこまり!!ですわ!!」

土煙を巻き上げ、地面を蹴っ飛ばす爆音とともに弾かれたように飛び出したクロムウェルMkⅧ。そのハッチから顔を覗かせ黒森峰のフラッグを狙うのは―――

「―――――――みほッ!!!」
「―――撃てッ!!」

敵陣を単騎掛けで駆け抜けたクロムウェルは乾坤一擲の神速で間隙を縫い、すれ違いざまにティーガーの背面装甲版の下、底板をぶち抜いた―――!!!

『く、黒森峰フラッグ車、走行不能―――!!聖グロリアーナ、勝利!!』

審判の宣言が高らかに鳴り響き―――

「ろ、ローズヒップさん!停車!停車してくださぁぁぁぁぁぁぁ‥‥…」
「あららららららららら―――――――!?」

砲撃の余波でバランスを崩しスピンしたクロムウェルが、独楽のように回転しながら下り坂を滑り落ちていく。

「あらあら……はしゃいじゃってまぁ」
「誰か止めろぉーーーー!!!」

トータスのハッチから飛び出した俺の絶叫が、試合終了後のフィールドに響き渡った―――

―――何だよこの状況……




【 IF おまけ②ルート異聞 の、さらにIF① 】

「―――みほは勝ちました。全力の黒森峰相手に、仲間を犠牲にしない戦い方で」

「―――そう、だな」

 

試合終了後、俺と、みぽりんと、まぽりん、ダージリン、それにエリカの5名が集まっていた。

みぽりんとエリカは何やら話をしている。二人の間のわだかまりは解けているのか、お互いの距離は近づいたようだ。何より何より……

 

「私は黒森峰を受験して、失敗したクチです。―――こういうのは恥ずかしい話ですが、わだかまりがなかったわけじゃない」

 

俺の切り出した話に、まぽりんが聞く態勢に入る。ここからの話術が今後の肝になり得る―――!!

 

「私は、黒森峰で中等部から戦車道を学び、高校まで、大学戦車道もあるいはそのまま地元で―――なんて夢見てた時期もありました。それだけ憧れてたんです。黒森峰という常勝の学園に……

  ―――だからこそ許せなかった。私の考える戦車道の在り方を否定するあの先輩たちが」

 

ここが最初のポイント―――「ワタシ黒森峰は嫌ってナイヨー、あのパイセンのやり口が気に入らなかっただけヨー」というアピールから入る。黒森峰ヘイト満開とかまず会話が成り立たなくなる。確実に

 

「西住流を否定する気もありません。状況に応じて、誰かが盾になってでも勝利をもぎ取る必要はきっとある。―――でもそれは、手を伸ばせばどうにかなる仲間を放置してまで、相手を追い詰める理由にしていいものじゃないでしょ」

「―――それは―――」

 

まぽりんのカットインを阻止するように、言葉を繋ぐ―――

 

「もちろん、だからと言ってフラッグ車の車長が持ち場を離れていいなんて言うつもりはないです。あれはみほも悪かった。誰か別の車輛に報告を入れて救助に回すなど、やりようはあったはずです。―――でも結果的にみほはすべての行動を全否定された。あの子はもう、戦車道そのものへの忌避感を感じる程の痛みだったと思います」

「―――ああ、そうだな」

 

まぽりんがどんどんマイナスに振り切れていく―――あかん、これ思ったより心にクる――――――決勝戦終わったら腕一本くらい逝っとく?って気軽に考えてしまうレベルやで工藤―――。

 

「―――お姉ちゃん」

「―――みほ」

 

エリカと話が済んだのか、まぽりんの下へ走ってくるみぽりん。二人の会話に無粋な真似はしない。ガルおじはクールに去るぜ―――数歩後ろにだけど。

 

「―――みほ。見事だった」

「ううん。みんなが居てくれたから―――だから勝てた」

 

みぽりんの言葉にまぽりんがフッと微笑む―――これやで!これやで工藤!感動のエンディングやで!!

 

「―――みほ、少し待っていてくれ。黒森峰の綱紀粛正は執り行う。お前の正しさが証明された以上、きっとすぐにお前が戻れるように―――」

「―――え?あの、お姉ちゃん?私、グロリアーナで戦車道続けるよ?」

 

―――――――――――――はい?(右京さん感)

 

まぽりんが目線をこちらに向ける。いや、知らんし!私にもわからん!(鉄男感)

 

「―――黒森峰でのことは、今も嫌になるよ?でも、あの時エミちゃんが私を助けてくれた。ダージリンさんが私を助け出してくれた。だから私、戦車道を捨てずに済んだの」

 

みぽりんの中で俺とダージリンはなんかいい感じに聖人伝説を積み上げているらしい―――やばい血ぃ吐きそう(胃痛)

おいダージリンお前さっきから黙って紅茶飲んで成り行きを見守ってないで何か言えよ畜生!!

 

「―――私、辞めないよ。聖グロリアーナで、私の戦車道を貫いてみる。

 ―――西住流で、西住みほ流で、聖グロリアーナ流の、私だけの戦車道―――」

「―――そう、か―――そうだな。みほはみほの道を往けばいい」

 

まぽりんはみぽりんの言葉に感じ入ったか、微笑みを浮かべると俺に向かって頭を下げる。

 

「―――みほを、よろしく頼む。君ならば、信頼できると得心した」

 

―――重ォォォォォォい!!!(迫真) いや待って、ほんと待って!みぽりんが黒森峰に帰ってさぁ、エリカと仲直りしてさぁ!距離を縮めて行ってさぁ!!

 

―――みほエリが遠いじゃん!物理的にさぁ!!!

 

目の前が真っ暗になりかけた俺に、みぽりんが微笑みを向ける。

 

「―――全部エミちゃんのおかげ!ありがとうエミちゃん!エミちゃんのおかげで、私お姉ちゃんと分かり合えたし、エリカさんともまた友達に戻れた!」

 

―――エリカさんともまた、友達に戻れた―――!!

 

「―――いいや、みほ。それはみほが頑張ったからだよ。私はきっかけに過ぎないさ。みほが諦めなかったから、だからエリカともお姉さんとも分かり合えたんだ」

 

みぽりんに声をかけながら、俺の脳細胞は激しく回転を続けていた―――。

みぽりんはエリカとなんとか友達関係を修復できた。あとは遠距離でのコミュニケーションで心の距離を縮めていき、来年の戦車道大会でぶつかり合ってお互いの距離を一気に縮めればいい……幸いその時、最も面倒な障害になりそうなダージリンは卒業している―――!!!

  ―――勝ったで工藤!!みほエリの勝利の法則が今決まった―――!!!

 

俺は最後にエリカに向き直る。エリカは俺と言葉を交わすのは黒森峰のパイセンにぶん殴られたときの一件以来なため、エリカの方が距離を測りかねていて及び腰になっている。

 

「―――逸見エリカ。来年、今度は決勝まで当たらずに居られたらいいな。

 ―――次も勝つのは聖グロリアーナだけどな!」

「――――――――!! ……上等じゃないの!次はアンタたちなんかボコボコにしてあげるわ!!」

 

俺の言葉にハッとなり、好戦的な笑みを浮かべて啖呵を切ってくる。それでこそエリカだ!みほエリを為すためにもエリカが凹んだままってのはよろしくない。いつもは強気で、でもみぽりん攻め攻めの時にはヘタレるくらいがちょうどいい!

 

「―――雨降って、地固まる。を目の前で見ることになるなんて、今日は貴重な日になりましたわね」

 

終始無言を貫いていたダージリンが紅茶を飲み干して一言漏らし、背を向けて帰っていく。

 

「エミさん。次の試合も勝ちますわよ?次はきっと―――彼女たちが勝ち上がってくるわ」

 

―――――――――彼女たち?ああ、カチューシャのことかな?

 

そういえば、プラウダと戦うのドコだ?やっぱりサンダースか?

 

 

 

高校戦車道大会準決勝―――プラウダ高校の対戦相手は―――

 

 

「―――大洗……女子?」

 

 

観戦にやってきた俺は思わず声に出していた。

 

―――え?マジで勝ち上がってきたの……?軍神なしで?原作補正ってやつか?

 

 

 

―――しかし俺はここから「原作改変によるバタフライエフェクト」というモノのすさまじさを思い知ることになるのだった―――。

 

 

 

******

 

 

「――――おいおい……マジか」

 

思わず声に出して呟いている。隣でダージリンが怪訝そうな顔を見せた。

 

 

それもそのはず―――プラウダ戦に出場している大洗の車輛―――実に9輛。

 

あんこうチーム。Ⅳ号戦車F2型

アヒルさんチーム。八九式中戦車

カバさんチーム。三式突撃砲雪原仕様

ウサギさんチーム。M3中戦車リー

カメさんチーム。ヘッツァー(38t)

カモさんチーム。ルノーB1

レオポンチーム。ポルシェティーガー

アリクイさんチーム。三式中戦車チヌ 

 

―――そして――――

 

 

「―――マークⅣ……!!」

「それほど驚く程なの?貴女らしくもない」

 

ダージリンが怪訝な顔をしたまま俺の方を見ているが俺にそれに反応する余裕なんざない。

ツッコミが追い付かない。何で38tヘッツァーになってるの!?アリクイさんチームなんで今いるの!?

並んで立ってるねこにゃーさんが劇場版仕様の細マッシブになってるんだけどぉ!?

Pティーガーも何でいるの!?早くない!?レストア早すぎない!?

 

 

―――何より、なんでお前らが今居るんだよ――――!?

 

 

 

マークⅣ―――サメさんチーム……大洗船舶科の海賊どもが、そこにいた―――。

 

 

 

これはあれか!?原作改変してパワーアップしたオリーシュ勢に対抗して世界の修正力が敵陣営にテコ入れしてるとかそういうのなのか!?

 

 

―――なんてこった。これでは―――みほエリが為されるかどうかの指針がまるで役に立たないじゃないか!!(迫真)

 

 

天を仰ぐ俺。 そして―――試合が始まった―――。

 

 

 

******

 

 

 

勝負は、一瞬の出来事だった―――っつーか、常識の範囲で考えられる戦術の外からの奇襲―――そうとしか言えない戦いだった。

 

―――劇場版見たことがあるガルおじ以外の人間の発想で言えば だが―――

 

まず序盤―――マークⅣの鈍足に合わせての速度で進撃していた大洗戦車道チームは原作序盤の千載一遇のチャンスを受けることなく、カチューシャが待ち受ける包囲網の中に飛び込んだ―――フラッグである八九式と三突を除いて―――。

 

 まず、あのカチューシャがフラッグを見失うことがあるはずがない。カチューシャもそれは理解していた。同時に自軍フラッグを撃破できるだけの火力を持つ三突の不在を重く見て、フラッグ車の防衛のために包囲を解いた―――。

 

 そして、第二ラウンド。鈍足のマークⅣが戦場にたどり着いた。カチューシャが念のために自分たちの戦車を防衛に回し、目の届く範囲にフラッグを置いたうえで。

 対して大洗はフラッグを晒し、応戦態勢を取っていた のだが。ここでマークⅣの横、側面のドアが開き、操縦室に詰めているはずの爆弾低気圧のラムが顔を覗かせ―――

 

 

 

―――手旗信号を行う。

 

 

 

双眼鏡で思わず確認してしまったカチューシャに非はない。誰だってそうする。俺だってそうする。

 

―――結果的には、それが致命傷になった というだけの話だ。

 

 

 

―――マ・メ・ツ・ブ・タ・イ・チ・ヨ・ウ・コ・コ・マ・デ・オ・イ・デ―――

 

 

 

 

―――カチューシャがブチギレた。ノンナの静止も完全に振り切って全車に砲撃指令を出す―――ただし、マークⅣに向けてだ。

 

全車の砲撃を受けマークⅣが沈黙。同時に、次弾装填までの長い時間を必要とするかーべーたんが沈黙に入ったため―――

 

―――彼女たちを撃墜できる存在が居なくなった―――。

 

「―――ッ撃ぇーーーー!!」

 

ゴゥンッ!という空気を震わせる砲撃音を響かせ―――プラウダのフラッグ車が『斜め上方から直線で飛んできた砲弾に天板を貫かれて炎上した』―――!!

 

 

―――マークⅣの上部。吹雪く雪原の中でもなお外さなかったマストから大きく広がる海賊旗を模した帆の根元に、隠れる形で乗っかっていた三突がそこに在った―――。

 

 

 

*******

 

 

 

「―――これは、予想外。ですわね―――」

 

ダージリンですら絶句している。無茶苦茶もいいところだ、こんな戦法考えるの、みぽりん以外にも居たのか……?

 

―――ああいや、戦略大作戦とかマカロニ作戦とか、割といるわ(安心)

 

―――ともあれ、決勝の相手は、大洗女子学園―――。

 

「エミちゃん!沙織さんたち勝ったよ!おめでとうって言いに行こう!!」

 

 すっかり明るくなったみぽりんが俺の手を引いて掛け出し、俺は引っ張られるままについていく。みぽりんがまだネガティブから立ち直れて無いころ、原作通りの練習試合の日程で組まれた試合を通じて、みぽりんの代わりにⅣ号の車長を務めるさおりんと仲良くなり、試合後にメアドと番号を交換して、今もメールを送りあったり電話したりしているらしい。彼女の回復にはさおりんが一肌も二肌も脱いでいるため、俺もやかましく言うことはできない状態である。

 それにしてもいやぁ、平和だわー。黒森峰の問題も片付いたし、優勝はしてもしなくても別にいいけどダージリンに恩もあるし優勝しておくかなーってレベルやし。大洗女子のテコ入れはビビったけどよく考えたら負けるきせーへんし?

 

 

そんな楽観的な思考で居た俺は、忘れていた―――。

 

 

「あ、いたいた!沙織さーーーーーん―――――」

「――――どういう事!?」

 

 

さおりんのところに駆け寄ろうと加速を上げ、声が届くくらいの距離に来たみぽりんが、さおりんの怒気を孕んだ声にビクリと身を竦ませる。

 

 さおりんは建物の影で見えないが、向こうにいる誰かと会話をしているようだった。

 

 

―――拙い。

 

 

俺の背筋にツララが刺さった様なレベルの悪寒が走った―――!これをみぽりんに聞かせてはいけない!!立ち去らなければ!!

 

 

俺がみぽりんの腕を引くよりも、先に―――――

 

 

 

「―――負けたら廃校って……どうしてよ!!!?」

「――――――――――――えっ?」

 

 

―――――みぽりんがそれを、聞いてしまった―――。

 

 




少女たちは選択を迫られる。

友情の果ての敗北か 矜持の果ての勝利か

それまで戦った相手を冒涜する真似などはできない。勝者の矜持に懸けて

けれど相手の事情を知ってしまった少女は迷う。答えのない、あるいは選べない選択に

世界の理不尽を破却するのは、いつであれ人の精神の在り方である。



少女の選択は―――――――!?




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