【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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―――あら?天翔エミ?エミさん?どちらへいらっしゃるの?これからエキシビションマッチの参加者全員で打ち上げ入浴会ですが―――え?キャンセル!?ちょっとお待ちなさい、勝利チームの立役者がそんなことで―――ああ!逃げるんじゃありませんわよ卑怯者ー!!!

 ~ エキシビションマッチ終了後、潮騒の湯の駐車場での会話 ~




「失礼、あの子猫はどこに居ますか?―――いえ、淑女たる教育を少々したいだけです。ええ、他意はありません」

 ~エキシビションマッチ終了後、潮騒の湯の脱衣場での誰かの会話 ~


【ダージリンファイルズ IF②異聞 derFilm ③】

 わかってほしいダージリン。原作キャラ満載のお風呂で裸の付き合いとか俺の中でジャッジメントタイム!デリート許可!が即決されるレベルやねん……そこは譲ったらアカンやつやねん……。

 そんなこんなでダージリンの追及を振り切って大洗町を散策している俺である。原作の聖地巡礼も巡りまくったガルおじにとってはもはや庭のようなもの。むしろ原作とリアルの街並みで違うとことかないか探してやろうという余裕すらある。

 

 

―――――~~~~♪♪♪

 

 

幽かに聞こえる弦楽器の音―――って、これは―――?

 聞こえてくる音に誘われるままにフラフラと誘蛾灯に引っ張られる蛾の如く大通りを歩いていくと、それなりにまばらな人垣ができており、その中心で

 

―――チューリップハットが特徴的な少女が、一般的には珍しい部類に入るカンテレという楽器を弾き語りしていた。

曲は「サッキヤルヴェンポルッカ」、ロシアに奪われたサッキヤルヴィの魂という望郷の歌である―――つか、何やってんだミカァァァァ!!!(内心)

 

 まばらな人込みは朗々と歌い上げる歌声と、カンテレの調べに目を閉じぼんやりと聞き入っている。かくいう俺も歌付きでこの曲聞くとか贅沢もいいところなので一言一句を聞き漏らさないように耳に届く音を拾い続けた。

 

なお歌詞は万が一の問題を考慮して載ることがない。悪く思わないで欲しい(説明)

 

―――~~~♪♪♪

 

 曲を聴いてると脳内で原作シーンが溢れ出て来る。やべぇわこれぇ――――

ジャンプ一番、スピンしながらパーシングにズドン。逃げ回る間にカールに肉薄する八九式とCV33にヘッツァー。横合いからぶつけられて転倒――――かーらーのー復活。熱い熱い戦いのシーンに懐かしさから微妙に涙出て来るわぁ……

 そして、カールが撃破されて、かたや転輪を撃ち抜かれ、それでもゴロゴロと片輪で進んでいくBT-42―――曲は終盤に差し掛かる―――!!

 

 

――――――ッ(ポロン)♪

 

「―――Tulta!!!」『――――えっ?』

 

 

 唐突に声を上げてしまった俺に周囲の視線が集まる。やべぇ、つい声に出てた。

空き缶をおひねり入れにしていたミカも唐突に入った声にきょとんとした顔をしてこっちを見てるし、身を翻して逃げるわけにもいかないわこれ、うん。

ちなみにTulta!(トゥー(ル)タ)とはフィンランド語で言う所の「火災」とか「炎」みたいな意味で、転じて「ファイア!」みたいな意味として使ってたっぽい。

 

「―――やぁ、思わず声を上げてしまったよ。ごめんね、演奏の邪魔しちゃって」

「え?あぁ―――いや、この曲はあそこで終わりだったからね、気にしないでいいさ」

 

そう言って微笑むミカ。さりげにススッと空き缶を前に出してくるので、懐から財布を取り出し―――あ、小銭ないし!ええいままよぉ!!!

 

―――空き缶の中にスッと千円札をねじ込む。周囲から「おおっ!」と歓声が上がった。そりゃそうよね、そうそういないよね。弾き語りに紙幣放り込む人ってブルジョアジーだと思うの俺。

 

「―――そ、それじゃ私はこれで」

 

サッと切り上げて逃げようと背を向けて走り出す。

 

「―――ありがとう。次に会うときは名前を教えてくれたら嬉しいな、聖グロリアーナの装填手さん」

 

――――バレてぇら――――そりゃそうだよね、俺有名人だものね(自虐)

 

 なおミカのいた場所から遠く離れた場所までパルクールを駆使しつつ逃げまわった後で、俺は自分が聖グロのPJを着たままだったことに気付いてその場に膝から崩れ落ちる羽目になるのだった―――そりゃバレバレのはずだよお前さぁ―――。

 

 

 

*********

 

 

 

 ―――一方の、潮騒の湯では―――

 

「はぁ、はぁ、はぁ――――は、――――は、ハ……どうした?息が上がってんぞぉ?温室育ちだから熱いのは得意なんじゃないのかい?えぇ?」

「―――そっちこそ、肩で息をして真っ赤な顔をしているぞ―――諦めるのなら今のうちだ―――!!」

 

押田と安藤の小競り合いは試合終了後も続き、サウナで我慢比べとしゃれこんでいた。数十分後には二人仲良く脱水症状で倒れることだろう―――。

 

 

「―――はじめまして、BC自由学園のマリーよ」

「こちらこそ、聖グロリアーナ女学院の隊長を務めます、ダージリンですわ」

 

湯船の上をプカプカと浮かぶトレイの上に、かたやティーポットとカップ、かたやクリーム白玉あんみつを載せた二人のご挨拶。その背後には政治力を背景にした人物にしかわからないオーラを纏わせていたり―――。

 

 

「―――もう上がっていい?」

「ちゃんと肩まで浸かって100まで数えて下さい」

「один、два、три―――」

「日本語で数えなさいよぉ!!」

 

カチューシャとその保護者二人のスペースがあったり。

 

 

各学園―――と、いうわけでもないがそれぞれのスペースでそれぞれの交流を行う姦しい空間がそこに在った。

 

「それにしても残念だなー……エミりんともこうして話してみたいのにねー」

「ごめんなさい。エミさんはちょっと事情があって、あんまり他人に肌を見せたがらないみたいで……ダージリンさんもそう言うのはやったことがないって」

 

沙織の言葉に申し訳なさそうにみほが答える。自分よりも長い付き合いがあるダージリンも経験がないという点で、踏み込むことはできないあたりはみほのみほたる所以であろう。

 

「―――ひょっとしたら、割と潔癖症なのかもしれませんわ。彼女の部屋でシャワーを戴いたことがありますけれど、その時も勝手にシャワールームを使うなと言っておりましたし」

「シャワー!?やっぱりそういう関係なの!?聖グロって完全寮制の女子校だからそういうのも一定の需要があるって雑誌にあったし―――」

「―――待ちなさい。グロリアーナに【そういった風潮】があるという事実無根の風評被害は捨て置けませんわ」

 

会話に混ざってきたダージリンの言葉に暴走する沙織とそれを嗜めるダージリンという構図にみほは苦笑で返すことしかできない。

 みほにとって天翔エミは唐突に現れたヒーローのようなもので、それまでの積み重ねなどはあまりない。中等部における最後の大会で戦い、その後アドレスを交換しただけの相手のために身を挺して守ってくれて、自分の我儘のためにダージリンと相対してくれる。

ダージリンもダージリンで、エミの言葉にはなんだかんだで一定の信頼を置いていて、彼女の行動に様々な世話を焼いている。ただしダージリン自身の譲れない事情を超えない範囲内でという限度があるが。

 

「―――いいなぁ」

 

少しだけ彼女が羨ましい―――と、みほは感じた。もしも出会う順番が違っていたならば、エミと自分はどういう出会いをしていただろう?どういう過程で友達になって、どういう道程を歩んできただろう―――?

エミは黒森峰を受験した結果、失敗して聖グロリアーナに入学して、今迄やってきたと言っていた。ダージリンとの縁もその時のものだとも―――

 

 ―――もしも黒森峰に合格していたら?彼女はどういう過程を経て、どういう戦車道を選び、そして、黒森峰を見てどう思い、どう行動しただろうか―――?

 

みほは一人、思案に耽る―――。仮定の果て、黒森峰で自分の身に起きた事件を振り返り、そして空想の果てに至る。その結末へ

 

 

 

 ―――あの事故が起きた決勝戦で、自分を押しのけて濁流に飛び込む少女の姿を幻視する

 

 

 

「―――みほさん?」「みぽりん!?どうしたの!?」

 

ダージリンと沙織の言葉で我に返ったみほは、自分が身を縮めるようにして蒼い顔をしていたことに今更ながらに気が付いた。予想図に過ぎないものなのに、嫌な気分が抜けない。温かい湯に全身浸かっているというのに、身体の芯から冷えているような心地だった―――。

 

「―――エミさんは、なんであんな風になれるんだろう―――?」

 

ぽつりとつぶやいたみほの言葉に

 

「―――意地ですわ」

 

そう答えたのはダージリンだった。

一緒の湯船に浸かっている皆が一時会話を中断して、その声に聞き入る。サウナを二人仲良く茹蛸になりながら出てきた押田と安藤も輪に加わり、ダージリンが考える天翔エミの人物像についてを興味津々という風に聞く態勢に入っていた。

 

「―――彼女は、天翔エミは所謂【意地】に依って立つ人種なのです。私の所見ではありますけれどね―――」

 

ダージリンは紅茶を一口一口、合間に含んで舌を湿らせては訥々と語りを続ける。

 

「―――まず彼女の小さすぎる体格。彼女はその体格が原因で【戦車道などできるはずがない】と見做された結果黒森峰を落とされた と思っています。原因が別にあるとしても、本人はそう思っています。

 だから彼女は証明したい。『自分は戦車道ができる。間違っているのは勝手な判断を下して自分を放り出した大人の方だ』と」

 

再び紅茶を一口。立て板に水と言った調子で弁士の弁は止まらず―――

 

「私の先輩……天翔エミを始めに見出した方なのですが、先輩の言に曰く、『彼女の適性は戦車道には向いていない』だそうです。

 ですから―――彼女は証明したい。『戦車道を自己の証明とする』ことで」

「―――つまり、根性ですね!!」

 

バレー部、磯辺典子の合いの手に曖昧に頷きを返してもう一口。

 

「大洗学園が廃校になる話は大人の事情ですから彼女にどうこうするつもりはなかったのでしょう。ですが、大人は約束をしてしまった。『廃校を撤回する条件』を提示して、『失伝した戦車道の無かった学園が優勝などできまい』と高を括ってあざ笑った―――。

 ―――許すと思いますか?あの【できるはずがないという大人を許さない娘】が―――」

 

ごくりと息をのむ音が聞こえる。みんな神妙な面持ちでダージリンの言葉を傾聴していた。ダージリンはあくまで優雅に紅茶を傾け、「あら、なくなってしまいましたわ」とカップをひっくり返し、ここでおしまいとばかりに肩まで湯船に浸かりこむ。

 

「―――そういうわけで、彼女の【意地】には周りが大変迷惑しておりますの。折角の優勝を掴める機会をふいにしてしまうほどには」

「―――あら?その割にはあの娘が自分のためのお願いを言い出すたびに嬉しそうだけど?『―――アッサム』―――はいはい」

 

軽く杏に嫌味を飛ばすのを忘れないダージリンに悪戯っぽく茶々を入れるアッサム。それを短く掣肘すれば二つ返事で引き下がる。

 

「―――まぁ、うちも天翔ちゃんに助けられちゃったクチだしねぇ……」

 

ぼんやりと湯船に浸かって干し芋を齧っていた杏の言葉に隣の柚子も桃も頷いている。もしも当の本人がこの場に居たならば「いや、あれは精々五分の勝負に戻しただけだし」というであろうが……。

大洗にとっての、聖グロリアーナにとっての天翔エミの存在というものを、その場の全員が再度実感する機会となった。

 

―――“大洗女子学園生徒会長の、角谷杏様。大至急―――”

「何だろ?……とにかく、先に戻ってるわ」

 

 アナウンスの声に杏が先に退室していく。

ダージリンがそれを見送り「―――彼女の予想通りね」と呟き、みほはその呟きを耳にして、言い知れない嫌な予感を覚えるのだった―――。

 

 潮騒の湯での打ち上げ会が終わり、最後にⅣ号戦車を見送って帰路に就いたみほの下に、その夜一通のメールが届いた。

 

 

 

*******

 

送信者:武部沙織

件名:なし

本文:

帰る場所が、なくなっちゃった

 

*******

 

 

 

 メールを読んだ瞬間ベッドから跳ね起きたみほは個室を飛び出してエミのところへ走る。消灯時間を過ぎた後での外出は厳禁だがそんなことを気にしている余裕などなかった。今すぐ彼女に相談しなくてはならない。

 

「―――エミさんごめんなさい。開けて、エミさん―――!」

 

 エミの部屋のドアを叩き、エミの名前を呼ぶ。しかし返事はない。

ノブを回すと簡単に開いた。廊下の向こうから騒ぎを聞きつけた寮長が歩いてくる音に部屋に飛び込みドアを閉める。

 

薄暗い部屋の中、殺風景な最低限の機能だけを残す部屋の真ん中、テーブルの上にエミのものと思しき書置きがあった。

 

 

【 ―――後のことを、ダージリンに任せる 】

 

 

 それはまるで二度と帰らない離別の手紙のような、そんな内容だった―――。




「―――このまま寮で翌朝とか確実にみぽりんとダージリンにお説教コースやん―――


 ―――よし!書置き残して外泊しつつボコミュージアム行って、レアなボコグッズ買って機嫌を直してもらおう!ダージリンは……まぁ適当に聞き流してもいいし、別にいいか。


【 後のことをダージリンに任せる 】と……よし、行くか」



―――某時刻、聖グロリアーナ学生寮内にて―――

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