【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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 ―――草木も眠る丑三つ時―――というほど深夜でもないが、月明かりだけが照らす闇夜の海を


―――明かりもなしに障害物を避けながら、文科省の管轄内であるドックに近づく影が一つ。微かに流れる弦楽器の音と、姿を見せない闇に溶ける姿から、都市伝説に“海魔(セイレーン)”と語られる―――。


~~~~♪♪♪

カンテレが夜の静寂を踊るたびに

「ミッコ、左40度調整」
「はーいよっ!!」

 ミカの声にミッコが素早く舵を切り、真っ黒に塗られたタグボートが障害を避けてさらに進む。
 遮蔽物の無い海の上に響くカンテレの音が反響する場所。それを障害物として、さながら蝙蝠のように耳で聴き分けてミッコに通達。即座に反応する操舵が闇夜に明かりもなく忍び寄る“海魔(セイレーン)”の正体である。

こうして彼女たちは海路からドック内部に安置される学園艦に近づき―――

「―――彼女たちが言っていた船底部分の隠し通路というのは、これかな?」
「だろうねぇ。このサイズの学園艦って楽しみ!中を探検とかできたら楽しいだろうねぇ!」

前もって生徒会長、角谷杏経由で渡された「大洗船舶科が記した船底部、Bar“どん底”を含めた詳細な経路図」を頼りに、海水排出用の排気ダクトから潜入し、さながらデトロイトのスラム街かヨハネスブルグかというレベルの船底部分を越え、船内を抜けて地上部分へ―――

「―――内部に温泉とかあるねぇ」
「―――侵入できる場所は大体頭に叩き込めたし、今度はお忍びで来てみようか」

などと軽口を叩き合いながら地上部分―――甲板上に出て、一路大洗女子学園へ―――。
 ドックに保管してしまえばもはや手が出せないと高を括っているのか、驚く程ガバガバなセキュリティを余裕でスルーして、戦車が安置―――“放置”されているガレージへ―――

「手ごたえが無さ過ぎて面白味がないね」
「―――手ごわい相手に慣れ過ぎて、手ごたえの無い相手に油断する―――それもよくあることさ。油断はしないで行こう」

潜入時故にカンテレは自重して、アキの言葉にそう返したミカは、戦車の状態を確かめる。 しばらく放置されたままだったようで、ところどころに潮風による痛みがうかがえるが、問題なく運用可能だと判断できた。

「―――良し。それじゃ、運び出そうか」



―――その日、大洗学園艦を収容したドック内部で小規模な小火騒ぎがあった。その直後に学園艦から飛び出した一台のトレーラーが暴走し、最終的に路上に乗り捨てられているのが発見されたが、痕跡は何も残っておらず、積み荷も初めから何も載っていなかったかのように空っぽの状態だったという―――


―――そしてこの日、大洗学園艦内部に納まっていた戦車たちは残らず姿を消した。


「―――一仕事終えたという感じかな―――あの日の糧のお礼には、少し払い過ぎかもしれないが―――」

学園艦に携行されている連絡用の輸送艇の上でカンテレを鳴らし、楽な仕事だったね。と呟くミカだった―――。


―――余談ではあるが、この後“大洗学園艦のエンブレムが入った連絡艇”でプラウダの陸上ガレージに乗り込み、戦車を何輛か徴発して逃走するミカ達の姿が在り、後にカチューシャから抗議を送られる杏の姿が在ったりするが、その辺りは語られることはないだろう―――。




【ダージリンファイルズ IF②異聞 derFilm ④】

 

――月――日

 

 戦車どうするかなぁ?と考えながら翌日、陸の上の聖グロの校舎に大洗の面々を案内していたら校門前に鎮座した大洗の戦車たちがあったでござるの巻―――。

 

……何で?(謎)

 

「あらあら、親切な傘地蔵もいたものね」

 

なんてダージリンが言うものだから生徒たちは皆“ダージリンが一晩でやってくれました”と勘違いしている。だがこいつがそんな青ダヌキレベルのナニカができる存在なら日々紅茶の園で政治的に聖グロを圧迫してくる面倒なOGたちなんぞ一蹴して、今頃聖グロの戦車はブラックプリンスやコメット、センチュリオンになってるに違いない。

 

 Ⅳ号戦車の車体に貼り付けてあったメッセージカードらしきものには「ご依頼の品、確かにお届けしました From No name」という犯行声明にも似た文章が書かれていたので、誰かが依頼したのだろうが――――できそうなのがここにいない会長しかいない件。劇場版での単独交渉といい、何なのあの人……

 

 

 

――月――日

 

 みぽりんをあんこうチームの車長として据えて、大洗メンバーのスキルアップ教導員とする。決勝戦で一騎打ちさせてわかったが、基本的に搦め手や奇策に頼っていたというか、会長の作戦立案で行動していた大洗メンバーの実力はバラバラで、その辺りは本来隊長として武部殿が総括すべきなのだが―――彼女にノウハウがないためなあなあで済まされていたようだ。

やはり大洗の勝利の背景にはみぽりんズブートキャンプが不可欠なのだなと再確認するに至り、一先ずあんこうチームとの連携もかねてⅣ号で一緒に練習させる措置をとってみたというわけだ。

 

―――という建前で、ただ単にあんこうチームの戦車にみぽりんレスが違和感しかなかっただけである。やっぱりあんこうの車長はみぽりんじゃないと!!

 

 

 

――月――日

 

神奈川からボコミュに行くには少々遠すぎるため、外泊を余儀なくされる。

外泊を余儀なくされるということはみぽりんが放置されるということで、みぽりんが放置されるという事は戻ってきた時不安げになっているということだ。

それを解消するためにレアなボコグッズが必要なわけで、買いに行く→外泊する→みぽりんが不安になって戻るなりハグられる→俺にピロシキ案件が追加される→ピロシキした俺の怪我を見てみぽりんが不安になる→それを解消するために……

 という無限ループって怖くね?な現況を打破するためにも、武部殿のコミュ力に期待したい。俺が精神的支柱になるのではなく、他を精神的支柱としてほしい。

 でなければ今後俺が安全にフェードアウトしてみほエリの芽を残すことが難しくなる!!武部殿なら……武部殿ならきっと何とかしてくれる―――!!

頑張れ武部殿、お前が(コミュ力)ナンバーワンだ――――!!

 

 

******

 

 

「―――気を遣わせちゃってるよね」

 

 沙織の言葉にみほは「うん、そうかも」と返す。Ⅳ号戦車の車内はなんというか、女子力が満載されたクッションとこまごました小物があふれた状態であり、最初に見た時に唖然としたのをみほは覚えている。今はなんというか――――慣れた。

 沙織が言っているのはⅣ号にみほを慣れさせようとするエミのことであるが、沙織はみほを大洗メンバーと打ち解けさせて、人見知りをさらに下方修正したようなこの娘に友達を作らせようとする親心的なものを感じていた。

 聖グロリアーナが大洗を受け入れた話の背景にもエミが一肌脱いでいるらしく、彼女が大洗の戦車道女子に目を懸けていて、だがそれは順序が逆だと感じている。

 

―――彼女が大洗女子を助けているのは、全てみほのためではないのか?

 

 エキシビションマッチの後の打ち上げ会で、ダージリンが語った言葉。

「彼女は意地に依って生きている」という見解。それに倣うとするならば、彼女なりの何らかの矜持があり、それがみほを手助けする理由である。

 逆にいうならばみほがそうあったからこそ大洗は救われたということ。一介の女子生徒であり、戦車道のせの字も知らなかった武部沙織のこれまでの人生からすれば、西住流だろうと島田流だろうと「なにそれ?」という印象に過ぎない。そんな沙織にとってはみほはどこまでも普通の女の子であり、護ってあげたいと思うほどに危うい雰囲気の気弱な少女であり、戦車に乗っているときには頼れる車長であり―――彼女を護ろうとするエミも同じ心境なのかもしれないと思考を打ち切った。

 

 根本的に彼女が何故みほを特別視して、何故彼女のために動いているのか?という謎は解明されていないが、沙織自身は別にそのことについて重要視していないからだ。

 

 聖グロリアーナの学園艦は今洋上で、エミとみほとその他のグロリアーナ戦車道のメンバーが、「受け入れた大洗戦車道メンバーにグロリアーナの規律を教導する」という名目でまだ陸の上に残っている。風紀委員の園みどり子を筆頭にカモさんチームが嬉々として風紀取り締まりのために校則を教導されていたことを覚えている。

 それでも大洗女子の面々は、あの日失われた学園艦を忘れていない。今この場にいないダージリンと、角谷杏生徒会長と、そして天翔エミがそのために今動いている―――だからきっと今やるべきは、戦車道。

 戻ってきた戦車たちの意味が、きっと廃校回避のためにあるのだと沙織は思っていた。他のチームのメンバーはそこまで考えていないようだが、楽しそうだしいいかと切り替え、沙織はみほの指示を通信で各車両に送る仕事に戻るのだった。

 

 

 

*******

 

 

 

――月――日

 

 会長からの通信は「今から熊本に来れる?」というものだった

蝶野さんと一緒にお出迎えしてくれました。これからを思うと胃が痛いです。

 

 

 

――月――日

 

 

―――いがいたかったです(感想)

 

 

 

現在家元就任は成ったが、自分の娘が二人とも優勝できず準優勝とベスト4止まりという点をつつかれて色々大変なのか、目の下の特徴的なシワが2割マシマシで深くなっているしぽりん。本来その元凶である大洗に力を貸す謂れは無いのだが―――やっぱり廃校云々になってリベンジの機会が無くなると割と本気で拙いらしく、協力を約束してくれた。

 

「貴女が娘のためにしてくれたことに比べれば、微々たるものですが」

 

そう言ってくれるとなんかむず痒いのと恐縮なのと色々ないまぜになるのだが―――正座からの土下座はやめてクレメンス……胃が死んじゃう(恐縮感)

 

 家元就任を控えた師範の立場では娘を擁護することもできず、叱責を浴びせることしかできなかったというのを負い目として引きずってるらしく、そこからスマートにみぽりんを助け出した俺(助けたのダージリンだけど)に対して、いつか何かの形で恩を返すべきだと思っていたらしい。義理堅さは流石しぽりんと言ったところ。

 

 ―――しばらく出番もないし戻ったら左掌をハンマーでメシャっておこう。そうしよう。そしてそれを理由に劇場版にはこれ以上関わらない方向で行こう。

 

トータスが戻ってきていない以上参戦車輛にそれが加わることはない。もしも大洗側に参戦する車輛が規定数であったならば、俺とモブ車長の参戦で、知波単のモブあたりが押し出されることになる。ただでさえ原作よりも1輛多い大洗メンバーのために知波単が割を食うことになるのだから、これ以上無理をすると試合の行く末がマジでわからなくなりかねない―――。

 

 

 

 ――月――日

 

 

文科省の役人にしぽりんと蝶野さん、戦車道連盟のおっさんを連れてオラついてくる会長と別れ、せっかく熊本に来たのだからと黒森峰を見学に行く。

個人的には付いて行って役人が胃を痛めるのをリアルタイム視聴して愉悦したかったところだが、それよりも重要なことがある。

 

―――エリカとそれなりに親密になり、相談を受けられるようになることと、彼女のみほエリ度が今どの程度上がっているかの好感度調査だ―――!!

 

まぽりんとエリカに面通しをして、見学にきた旨を伝える。ついでに大洗の置かれている状況のうち、学園艦接収事件と大洗メンバー保護の話も話しておいた。

みぽりんが帰郷するイベントは、聖グロにみぽりんがいる以上存在しない。つまるところまぽりんが大洗廃艦について知る術は、しぽりんからの話が無い限りないだろう。なので伝えておくことで援軍として参戦してくれるフラグになるだろうと思ったからだ。

廃艦の顛末についてまぽりんは黙して語らず、エリカは「自業自得じゃないの」なんて悪態をついていたが、内心では「みほがアレだけ頑張ったのに」みたいな風に考えてるんじゃろ?俺は詳しいんだ。

 

「―――アンタはなんでそこまでしてあげるの?」

 

エリカがどうしても聞きたかったのか、俺にそう尋ねてきたので

 

「―――当たり前だろ。負けっぱなしで相手に逃げられて、その後の人生が面白いわけがないじゃないか」

 

と答えて置く。『意地』に生きる天翔エミとしてはこの答えがふさわしい。

 俺の答えは大層お気に召したようで、とてもいい笑顔を見せてくれますた。ありがとうございます。それから、割と根掘り葉掘りみぽりんの近況について尋も―――質問されました。エリカの中でみぽりんラヴが高まっているのを感じる―――勝ったぞ!この戦い、我々の勝利だ―――!!

 

 

 

 

 

「あの娘のこと、頼んだわよ?」

 

「―――任せてくれ(みほエリフラグ管理的な意味で)」

 

 

 

 

 

 

そんな会話をして、別れた。

 

 

 

――月――日

 

 

俺は大馬鹿野郎だ。

 

 

 

 

***********

 

 

 

 

熊本での交渉を終えた報告をダージリンに送り、「これから野暮用を済ませて戻る」とだけ答えた天翔エミは、そのまま消息を絶った―――。

心配する大洗及び聖グロの生徒たちは、エミと別れて臨んだ交渉から帰還した角谷杏から「廃校回避のための試合」について説明を受けることになる。

 

一方で、独自に調査をしていたダージリンは、GI6の報告から、熊本を離れてから彼女が立ち寄ったとされる施設、ボコミュージアムのエントランスにて包装用のラッピングが為されたボコグッズを発見していた。

 

 

 

【 みほ へ 】と書かれ添えられたメッセージカードには、僅かに血痕が付着していた。

 

 




「社会人を破ったチーム!?」
「いくら何でも無理ですよぉ!!」

ざわつく講堂で、皆を諫める角谷杏の様子をどこか心ここにあらずで聞いている西住みほの姿が在った。彼女は一時的にだが大洗の生徒扱いで陸の学校に降りており、グロリアーナの学園艦に戻っていなかったため、今回の話に巻き込まれる形で講堂に集まっていた。


 あの日から戻ってこない天翔エミに、心配を募らせる。
同時に、廃校回避で湧きたつ皆のために自分も力にならなければと心を落ち着かせるために何度も深呼吸するが、まるで落ち着かない


「みぽりん!?大丈夫!?」
「―――だ、大丈夫。平気……」

知らず蒼い顔で居たらしく、心配そうな沙織の顔が見える。心配を懸けさせまいと平静を取り繕うことができる程度には成長ができていた。だが内心でぐるぐると渦巻く不安をどう解消するべきか、その答えもまだ、みほには見えてこなかった―――。

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