【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
久々の地面で浮足立つ感覚を抑えつつ、しっかりと踏みしめ―――
―――さおりんがめっさ浮足だっていた。
「―――急ごう!みんな!!」
―――というか燃えていた。眼がこう、メラメラと、メラミを超えてメラゾーマレベルで―――
「―――早くしないと、良い材料がなくなっちゃう!!」
――――――材料???
「沙織さん?!あの、何!?何の話?!」
さおりんの様子に慌てたみぽりんが袖をつかむが、普段よりもより強いパワーで引っ張られたのかそのまま引きずられ前方にたたらを踏むみぽりん。
「なにって!決まってるでしょ!!
―――――バレンタインデーだよ!!!」
――――――ああ、あったねそんなイベントデー(達観)
【 装填騎兵エミカスえくすとら 『 ウァレンティヌスより哀意(アイ)を込めて 』 】
【 装填騎兵エミカス ダージリンファイルズ 】
『EXTRA MISSION 【バレンタイン作戦です!?】』
―――バレンタイン。それは日本の菓子メーカーが画策したイベントである。
以上!閉廷!!解散!!!
「―――解散しちゃダメ―!!ハイ!集合!集ー合ー!!!」
1人テンションの高いさおりんに強引に集められる俺を含めたあんこうチームの皆。
げんなりしている麻子、むしろ食い専な華さん。緊急糧食としての優位性を語り始めるゆかりん。
―――そして―――
「―――え?バレンタインの贈り物って、花束じゃないの?それに沙織さん、付き合ってる彼氏とかできたんですか!?」
「―――~~~~!!」
みほの言葉に何かに貫かれたかのように胸を抑えてくの字に折れたさおりん、そのまま強烈なアッパーカットを食らったボクサーのように大きくがくんと首を振り上げ、膝から崩れ落ちる。
「武部殿ー!!!衛生兵!衛生兵ーーーー!!!」
ゆかりんが崩れ落ちたさおりんを抱き起こし、なんかドラマのワンシーンの様な芝居を行っている間も、みほだけが「え!?え!?」と訳が分からない状態で周囲を見回していた――――。
―――話(せつめい)をしよう―――(指パッチン)
ドイツ軍団の流れを汲む西住流では、割と色々なところがドイツである―――。
それは日常の様々な部分でそうであるし、一説では、エリカのハンバーグ好きもドイツが影響している可能性を示唆していると言える(偏見)
で。先も説明した通り、バレンタインのイベントってのは日本だけが特異なもので、チョコレートを贈るイベントとか基本他の国ではしない。中でもドイツの場合は完全に「夫婦」「恋人」が愛を確かめ合うイベントで、花束を贈り合うイベント行事なのだ。
それで、まぁそういう学園の綱紀粛正がドイツな黒森峰と、厳格で厳粛な西住の家で育ったみぽりんは―――『バレンタインはそういうもの』という固定観念を持って育っている。
―――サン●スとかのコンビニでバレンタインフェアとか見かけることがあってもそれを誰か友達に尋ねるという選択肢がなかったのか?という問いに関しては、
原作一話のさおりん華さんとの 「名前で呼んでいい?」「みほ、って」「すごい!友達みたい!」 というやり取りで察してほしいと思う。(切実)
俺が教えるという選択肢があるかどうかについては語る必要はあるまい。友チョコならばともかく、何で野郎にみほチョコをくれてやらねばならないというのか?時機を見てエリカとみほを巻き込み友チョコ交換会を催し、ひそやかにお互いの手作りチョコを食べ合う二人を鑑賞する野望が無いわけではなかったが、あの事件でみぽりんが俺と一緒に大洗に来てしまった時点で頓挫していた。
ひょっとしたら今回のイベントを機にエリカを巻き込んで皆で友チョコを送りあう親睦会とか催せたらガルおじ垂涎の一大イベントになるのではなかろうか?というひらめきが俺の脳内に電流とともに走ったりもしたが―――
【閑話休題】
「―――と、言うわけで!バレンタインは恋人の日なの!!」
「―――ソウダッタンデスネー」
さおりんの熱い説得(?)を受けてみぽりんがカクカクと頷いている。原作第一話の「戦車道取ってね?よろしくねぇ」の後の死んだ目に近い表情で―――
「はいっ!そういうわけで―――チョコを作ろうッ!!決定ーーー!!」
―――そういうことになった(夢枕獏感)
******
~大洗女子学園・調理実習室~
「まずは湯せんでチョコレートを溶かすよ。チョコは細かく刻んだ方が溶けやすくなるから、しっかり刻んでね」
トントンと包丁で板チョコを刻むさおりん。布巾で包んだハンマーで業務用ブロックチョコを砕いてる華さんとゆかりん。そんでもって
「ぃよっと(ベキベキ」
「すごいすごい!さすがエミちゃん!!」
みぽりんの隣で、華さんたちが格闘してるブロックチョコを素手で握り砕く俺と、それを受け取って湯せん鍋に投下していくみぽりん。
「――――Zzzzz……」
そしてチョコ作りとか総スルーで部屋の隅っこで壁にもたれて眠ってるまこりん。
「こういうのも、楽しいですね」
「はい!みんなで一緒に作業するというのは戦車以外ですとあまり経験がありませんので!!」
さりげなく闇が深いセリフをすごくうれしそうな顔で吐いていくゆかりんのスタイルにみぽりんがうんうんと頷いている。
はいやめ!この話題やめ!ウチの(学園内にいる)ぬこの話とかしようぜ!!
と、さおりんの方を見ると、チョコではなく何か別のものを鍋でコトコト茹でていた。あれ?チョコ作りじゃないのん??
「さおりさん、何それ?」
「あ、これ?お芋茹でてるの」
即答されるがサツマイモとチョコレートが全く以て繋がらん……!!
ムムムとうなっているとさおりんが気づいたらしく、苦笑していた。
「あぁ……こっちのは近所のお爺ちゃんたちにお配りする分なの。お砂糖とか、チョコレートとか高カロリーで身体に悪いだろうから、お砂糖減らして、サツマイモの甘味だけで。寒天も買ってきてるから、芋羊羹にワンポイントでチョコレートを上にのせてアクセントにしようかなって」
―――なんだこの娘の嫁力。天使か(素)
女子力オーラが全開過ぎて他の面々が霞んでしまうぞこれぇ……2万、3万……馬鹿な、まだまだ高まるだと……!?
女子力スカウターがボンッ!する前に視線を移すと―――
「武部。そのレシピで作った場合、干し芋でも同じように甘味として成り立つのか?」
「―――ふぇ!?あ、はい。できますけど」
いつの間にかやってきた桃ちゃん先輩がメモ帳を片手にさおりんに詰め寄るところだった。
いつ来たの?どうやってきたの?何で来たの?と様々な疑問が周囲のあんこうチームに浮かぶ中、桃ちゃん先輩はメモを取り終えると「邪魔をしたな」と去っていった。
―――何だったの一体?
******
「はい、50度で湯せんから上げてー、後は40度まで冷ましてー、テンパリングを済ませてからが本番だからねー」
さおりん先生の指導の下、チョコレートの調温(テンパリング)が行われる。チョコレートってのは原材料になるカカオバターがとても不安定なもので、湯せんで溶かした後一気に冷やすと、まとまり切らない奇妙な形で固まってしまい、味がばらついてしまったり、脂分が表面に浮いて見栄えが悪くなったりするんだそうな。
「こういうひと手間ひと手間が、男の子のハートを魅了する必殺のチョコレートを作るんだからねっ!」
ビッとひとさし指で空を指さしポーズを決めるさおりんに「おお~~!」と拍手が巻き起こる。
――――――素晴らしい言葉だ、感動的だな。だが(彼氏がいない状態では)無意味だ。
内心で独り言してる俺に対し、やはり昔からの知り合いってのはズバッというらしい。華さんが片手を上げて「あのぉ……そもそも、渡す相手がいるのですか?」ともっともな質問をし―――
―――――――瞬間、さおりんのテンションが地獄の底もかくやというレベルまでトーンダウンした。
「いいもんいいもん!!バレンタインデー当日に!素敵な彼氏に出会ったら、その場で手渡して、告白するんだもん!!」
駄々っ子のようにそう言ってテンパリング作業を続けるさおりんに、苦笑する面々。
―――ああうん。これだよ。この空気だよ!(違いの分かる漢感)
*********
さても姦しいひと時が終わり―――。
「でき、たぁーーーーー!!!」
さおりんの掛け声を全行程終了の合図に全員が安堵の息をつく。
―――いや、何この作業量。本場のパティシエール舐めてたわ。こんな疲れる作業繰り返してたらそら筋力付くし、体力もつくわ……。
「砲弾ほどではないにしろ……この運動量は、少々―――きついものが、ありますな……」
「は―――はぁ―――はぁ―――でも、楽しいです」
ゆかりんと華さんが笑顔を交わし、
「楽しかったね、エミちゃん!」
みほの言葉に「ああ」と笑顔で返し―――
「―――できたか?」
甘い香りにひくひくと鼻を鳴らして起き上がったまこりんを加えて、調理実習室のテーブルの上に各々のチョコレートが並ぶ―――。自分で作ったチョコを実食するまでが料理会です。
ちなみに、まこりんの分はさおりんがあらかじめ多く作っていた。なんだかんだで甘々じゃのぅさおりんや……さおまこは良い―――はっきりわかんだね(ほっこり)
チョコをフォンデュしたマシュマロに、定番のショコラケーキ。Ⅳ号戦車の転輪を型取りしたチョコクッキー―――これはゆかりん以外の誰でもないな―――なんてものもある。
「これは……壮観ですね」
「早く食べよう」
華さんとまこりんがもう今か今かとスタートを待つ出走馬のようにうずうずしている。グルメ細胞でも活性化してるんじゃないかと思うレベルで目がギラついている―――大食乙女どもめ!!
そして、実食―――!!!
自分の作ったのはシンプルなチョコブラウニー。ビターな味付けで甘さ控えめに仕上げてある。フォークでサクッと削って一口――――――うむ。普通()
細かい味の微調整とかそういうのは中身アラサーおじさんに要求すべきベクトルではないと思う(迫真)
孤児院でもそういう細かい調整は俺の得手ではなかったし、当番もその辺ではなく材料の切り分け担当だったし……
もぐもぐと咀嚼していると、華さんの視線が俺のブラウニーに向いていたのでお皿を向けて寄せると「いいのですか?」と聞いてきたので頷いておく。ぱくりと一口味見して、ニコニコとしている。尊い(確信)
―――さて、俺の罪状はこの食事会でどの程度溜まっていくんだろうか……?(なおただ今のピロシキは累計で3桁に乗った)
向こうではさおりんに、チョコフォンデューのマシュマロを刺したフォークを差し出されたみぽりんがぱくりと食いついて、モグ住殿と化している。その隣ではまこりんが親から餌を貰うひな鳥のように口を開けて次の餌を待っている。尊い(確信)
「―――え、エミ殿!!ど、どうぞ!!」
―――意を決したという表情で俺に向かってチョコマシュマロが差し出されていた。
―――え?
プルプルと震えてフォークを差し出したままのポーズで目を閉じているゆかりん。え?俺に?何で?どうして?
困惑する俺と目を閉じて待ちに入っているゆかりんを、他の4人が注目してみていた。
―――待って、いや本当、待って(迫真)
状況から考えて、これを断る選択肢は無理。ゆかりんが曇りまくる。他の面々もないわーってなる。無理。
では食べるのか?これを?俺が?
―――いやいや待ってほしい。こんなん食った後に即自決案件じゃね?ピロシキ判定をするまでもなく自害せよランサーじゃね?
だが手をこまねいてもいられない。この半端なく緊迫した空気をどうにかするためにも、食べねば―――
―――どくん、どくん
鼓童が早鐘のように鳴り響いてるのがわかる。目標まであと10センチ。
―――ドクン、ドクン
やばい。鼓動がやばい。ドッキドッキしすぎて気分がおかしくなってきそうだ―――目標まであと5センチ
―――――――ドクン―――ドクン―――
変な汗が出てきた。目の前がやや暗くなってきて、緊張で呼吸ができない―――やばい。これ、やばい
――――目標まで、あと1センチ――――
――――――――トクン…………
――月――日
ぼくはいま、びょういんにいます。
突然に起きた不整脈による心臓発作で倒れた俺は、そのまま救急車で緊急搬送されたらしい。
当時の記憶がすっぽりと抜け落ちているせいで何が原因だったのかわからないし、他の面々も理由は不明という感じだ。何だったんだ一体―――。
―――あ、でも口の中がほんのり甘かったのは覚えてる。
・追記・
後日エリカにその話をすると「来年は私も参加するから!」と念を押された。
ははーん、みぽりんがあんこうチームと仲良くチョコ交換会とかやってたの聞いてやきもちやいてるな?
フフフ……「 計 画 通 り !!」
俺は来年のバレンタインの光景を想像し、みほエリの勝利を確信して空を見上げガッツポーズをとったのだった―――!!
恋心を自覚はしてないので、即死まではいかなかったのだろう(推理)
なお心臓発作によるリセットでピロシキ指数はゼロリターンしました(温情)
あとみぽりんのバレンタイン知らない説は竜胆路の勝手な妄想です。悪しからず
でも恒夫さんに贈る花束を一生懸命選んでるしぽりんは見たい。超見たい(確信)