【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
「そう、チョコレートだ」
ダージリンが不思議そうな顔をして聞き返してきた言葉を反芻させるかのように返し、俺は横浜中華街で配られてたチラシをテーブルに広げる
【バレンタインフェア開催中】という見出しがでかでかと載っているそれを一瞥して、ダージリンは鼻を鳴らした。
「―――天翔エミ。貴女は知っていて?チョコレートを贈る風習は―――」
「―――1960年前後に菓子メーカーがなじみの薄いチョコレートの売り上げ増を狙って作り出した捏造だ―――というのなら知ってる」
「――――――――であれば結構。議論の余地はありませんでしょう?ここは聖グロリアーナ。英国の精神と理念に生きる学院でしてよ?」
取り付く島もない―――といった風を“装っている”ダージリン。
なのでガルおじにはあるまじきことだが、致命的な爆弾を投下することにした。
「―――そもそも生徒のほとんどは日本人(神奈川県民)じゃねぇか」
「それを!言ったら!おしまいでしょうが!!!!!!」
【淑女の集まる】と噂の紅茶の園の内部で、優雅とはかけ離れた怒号が響き渡った―――。
『EXTRA MISSION 【バレンタイン作戦……です??】』
「大洗でバレンタインフェアが始まったって沙織さん―――武部さんからメールが来たんだよ。『今年は素敵な彼氏に最高のチョコを作るんだ』って追伸と一緒に」
「―――こんな格言を知っていて?I will prepare and some day my chance will come.―――『準備をしておこう。チャンスはいつか訪れるものだ。』」
「アメリカ合衆国大統領、エイブラハム・リンカーンの言葉ですね」
空にしたカップをソーサーに戻し、どや顔で語るダージリンに紅茶をサーブしつつペコるペコりん。そんなペコりんに微笑んで頷きを返し、ダージリンが紅茶を一口。
「―――尤も、彼女の場合は「素敵な彼氏が欲しい」と言っているだけで計画性が全く無いように見受けられますので、どちらかというとこちらの言葉の方が正しいかもしれないわね―――A goal without a plan is just a wish.―――『計画の無い目標は、ただの願い事に過ぎない』」
「サンテックスか」
「正確には、フランスの作家で操縦士の、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの言葉ですね」
隣に立ってカップと紅茶を用意しようとするペコりんをやんわり手で制して「注釈サンキュー」と礼を言う。ニッコリと微笑むペコりんに思わずにはいられない。
―――この子はホンマに紅茶と詩集が大好きなんやな と
「―――武部さんをさりげなくディスる流れになりそうなんで話を戻すと―――この文化はウチでも取り入れるべきだと言っている」
「英国では、男性が女性に匿名で「あなたを愛する者より」というメッセージカードを送る日ですわ。導入してみます?」
「―――ストーカー被害と誤認されそうだな」
精一杯穏当な表現でお茶を濁す。仮に当事者の立場であったならチキン肌に蕁麻疹が酷いことになって犯人を見つけ出してボコボコにしたくなるわ(確信)
「そもそもが―――元々は皇帝ネロの怒りを買い、棍棒で撲殺され列聖されたウァレンティーヌス氏の命日だというだけの話なのに、何故チョコレートを贈るのか……理解に苦しむ話ですわ」
涼しい顔で紅茶を傾けるダージリン。そら先も言ったように日本の菓子メーカーのイベントだからだよな。こいつの論調は変わらない。「バレンタインなどいらぬ!」一押しである。
―――だがお忘れだろうか?こいつはブリカスである。確実になにか裏の事情があるはずだ―――
―――というわけで突き刺す方向を変えてみる(黒髭危機一髪感)
「そうか。良いセリフだ、感動的だな、だが
「―――面白い挑発ね……目にものを言わせてあげようかしら?」
俺の言葉にあっさりと挑発に乗ってくるダージリン。お前……それでいいのか?(ブロ感)
こいつが俺を相手に見せる沸点の低さを見ていると、普段他の高校と戦ってるときの沈着冷静な判断力と明晰な頭脳で恐れられている格言紅茶おばさんと本当に同一の人物なのだろうか……?と時々心配になってくる。
そんな俺たちのにらみ合いを必死になって留める影が二つ。
「駄目です先輩!!まだ死に急ぐ必要はありません!」
「そうですわセンパイ!ダージリン様は本当に容赦のない方なんですのよ!?」
いつの間にかやってきていた舎弟ヒップとペコりんの心無い発言と、俺を擁護する姿勢にダージリンが静かにぶちぎれている。紅茶のカップを持つ手が震えソーサーとぶつかり合うカップがカチカチと音を鳴らし、心なしかダージリンの背後になんか金剛仁王像みたいなオーラが見える。あと仁王像が何故か四基八門の35.6㎝砲を背負ってる。
「―――わかりましたわ。では、勝負致しましょう!!見せて差し上げますわ。本場の、本当の、英国料理というものをね!!」
―――いや、チョコを学内で作る許可くれっつってんだよ。なんで英国料理勝負になってんだよ―――
「―――そういえば、西住みほさんはどうしたの?彼女もバレンタインとやらに乗り気だからあなたがやってきたと思っていたのだけれど―――」
「黒森峰はドイツだ。それで察してほしい」
「―――成程。ドイツね」
納得がいったという顔でうんうんと頷いているダージリンに舎弟ヒップが「あれだけのヒントでわかるとは、さすがダージリン様ですわ!」と目を輝かせてるが、俺にはわかる。アレ多分わかってないけど頷いて分かったふりをしてるだけのハッタリだわ……汚いな、流石ブリカス汚い。
―――ともあれ、英国料理なー……フィッシュ&チップスや菓子以外食えたものじゃない とかそんな噂はよく聞くし、スターゲイジーパイだのハギスだの個性的(精一杯穏当な表現)な料理を見たことしかない。実食の機会はないわけだし、ご相伴預かるのに異論はあまりないのだが――――――
――――――相手がダージリンとはいえ聖グロメンバーの中に交じって食事会とかピロシキ幾つ分が妥当だろうか……?
*******
――月――日
ぼくはいま、びょういんにいます。
びょういんにいたるけいいにあたるきおくがありません
こわい
*******
「退院、おめでとうございます」
「お勤めご苦労様!で、ございますわ!」
ペコりんと舎弟ヒップの後輩シスターズに出迎えられる。あと舎弟。刑務所から出てきた時のセリフだからそれぇ……。
「ダージリンは?」
「紅茶の園であわただしくお仕事をされてます。今回の一件はアッサム様もお怒りでしたので」
経緯を全く記憶してない俺には伝え聞きでしかないのだが、簡単にまとめると―――
①ダージリンが意気揚々と英国料理を持ってくる
→②最初の一口として俺がまず実食
→③何故か無言でその料理を平らげた上で「次を持ってこい。1つや2つじゃない。全部だ」と言い放つ
→④他の面々が食べることなくダージリンが持って来た料理を無言で平らげ、デザートに入ったころに蒼を通り越して土気色の顔色をしていた俺がダウン
→⑤入院()
―――思い出すと微妙に身体が恐怖を訴えているのでロクな記憶ではないのだろう。封印安置だわ(確信)
紅茶の園の扉を開けるとダージリンが優雅にティータイムしているところだった。ペコりんが仕事をボイコットしたと言ってたが、その分の作業など片手間に済ませてしまうあたりがこいつがダージリンと言われている所以なのだろう。
「―――退院おめでとうございます」
「おう、そうだな」
涼やかに祝辞を告げるダージリンにそっけなく返して椅子に座る。
非常に長い沈黙が場を支配していた―――。
「―――この度は、そう―――この度は本当に」
「謝るなよ?」
ダージリンの言葉を遮って言葉をかぶせる。
「こんな格言を知ってるか?“喧嘩両成敗”
―――もとはと言えば持ってこられた料理全部食い散らかした食い意地張った私の方にも責任があるしな」
食い散らかした経緯が思い出せない以上、割とこの辺は本心だったりするが――――――内心での本当の理由は別にある。
――――――いや本当やめてクレメンス……原作キャラが泣きそうな顔で謝罪してくるとかたとえ相手がダージリンでも俺的には自害せよランサーレベルのピロシキ案件なの。わかって(迫真)
「―――わかりました。では今度は改めてより改良を重ねた英国料理を―――」
「その前に武部先生のところに行こう。な?」
ガタガタと震えを訴える身体が拒否反応を起こしている。―――静まれ……静まれ俺の右腕(だけでなく全身)―――これを放置したら死ぞ!?という無意識下の警告に従い、俺は大洗女子との交流からの大正義武部殿によるダージリン矯正計画を強行しようと心に決めた。
―――なお聖グロ・大洗合同レクリエーション と銘打たれたこの交流会により、「聖グロ・大洗連合」という謎のタッグマッチ仕様で次回高校生大会への参加枠をもぎ取る角谷杏元生徒会長がいたり、辻何某とかいう役人が胃を痛めたり、俺とみぽりんが終生の友人を得たり忠犬秋山殿が運命とステイナイトしたりするのだが、
―――その辺は本件と全く関係がない―――はずだ。
―――なお、ダージリンのアレンジャー(NOTサーヴァントクラス)な料理の腕前について始まった武部殿ズブートキャンプについては……武部殿が燃え上がりダージリンが盛大に凹んだという事実を以て察してほしい。
あと呼んでもないのにパイセンがやってきて盛大に騒いで帰っていった。いつの時代もフリーダム過ぎるぜパイセン……。
あ、去り際にチョコレート貰いました。実質モブだからセーフ(強弁)
*********
「わざわざOGがお越しになられずとも……」
「楽しそうなイベント催しておいて私を呼ばない方が悪い」
ダージリンの言葉をバッサリと斬って捨てつつ、アールグレイはニヤニヤと笑みを浮かべる。
「で?私はさっき渡してきたけど?友チョコ」
「―――友誼を深めるという意味で贈るものにわざわざあんなカカオの塊を送る意味を見出せませんわ」
そっけなく答えるダージリンに「呑気にしてるとトンビが攫ってくわよ?」と告げるアールグレイ。
そんなアールグレイに余裕の笑みを浮かべて、ダージリンは微笑んだ。
「―――恋人よりも好敵手で居たい。口付けよりも拳を交わしたい。
―――彼女はきっとそういう人種でしてよ?先輩」
―――なおそんなことはなかったと理解するのは数年後の話―――。
時系列としては
「みぽりん聖グロ加入」→「大洗女子戦車道と練習試合」→「圧勝」
→「武部殿を車長としたあんこうチームとメールアドレスを交換」→コミュ障気味秋山殿、この時点では声をかけることができず
的な時の流れを経ています(都合上)
IF「聖グロルート」からさらに派生して分岐した「ダージリンは優雅に勝利のロードを突き進んでいたと思ったらいつの間にか後ろから追い上げてきた伏兵にぶっちぎられていたウサギと亀のようです。略して秋山殿大勝利」とでもいうべきルートです(