【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
欧州ではしばしば、「神から下賜されし者(ギフティッド)」などと呼ばれる。
それは努力だの、経験だのを軽々と凌駕し、ごくごく特定の状況に限定すれば、
同じ状況下の何者よりも優秀だと結論付けるだけの素質。
天翔エミには それがある―――ただし、戦車道とは致命的に噛み合わない
【あの娘とは、そういう意味で正反対だ】
~著書「アールグレイかく語りき」より~
『 疾風Ⅱ 「刮目なさい!我は「疾風」アールグレイ! 中編」 』
―――Side Emi
ぜんかいのあらすじ ~どげざしました~
やめてください辞退させてください二つ名とか痛々しい黒歴史になるに決まってるじゃないですかやだー!!
そんな万感の想いを込めて全力で土下座してみたが、アールグレイさんからのお答えは「その願いは私のチカラを超えている」だった。クソッ!何て時代だ――!!
まぁわかっていたことだよ。聖グロに蔓延してる通り名っていうのならこの先輩一人にどうこうできる問題じゃない。
つまり害悪を垂れ流してる聖グロのマスゴミ広報部をシメればいいんだろう?俺は詳しいんだ―――!!
そんな雑な思案をまとめていたらさっきから小刻みにプルプル震えてたダージリン(仮)が「どういうことですか!!」と大声で怒鳴り声を上げていた
―――これは今(ダージリンから)聞いた話なのだが、
二つ名というのはとても名誉なものであり、中等部の時点でそれを周知させることはまず不可能であり、それが周知されてるというのがイコール、すごい戦車道選手なのだ。という一種のスケールになるのだということ。
わかりやすく言うと今回俺がやったのは、「戦国時代に朝廷から下賜された官位をその場で朝廷の使者に差し返して、『お帰り下さい』と言ったようなもの」らしい。
うん、ありえねぇわ。これ受け入れておかないとみぽりんにもエリカにもみほエリにも黒森峰にも全方位で迷惑がかかる行為だわ。織田信長ですら正面から突っ返したら朝敵待ったなしだから待たせておいて相手が帰るまで根気勝負した案件だわ……
―――これは後でケジメ案件かな?
だが神は俺を見捨てていなかった。
アールグレイさんの方から「じゃあ二つ名をなかったことにしてあげる、貴女にはもったいない称号だし」と言い出した。
勝った!第三部完!!さすアール!
釈然としない表情のダージリンだが先輩には何も言えないらしく黙っている。
よし、このままいけば俺の黒歴史は―――『ふざけないで貰えます?』―――は?
********
―――Side Free
『ふざけないで貰えます?』
アールグレイの言葉を遮って、やや怒気を孕んだ声が上がった。
エミが起き上がって其方を見やると、設営テント群のエリアからこちらにやってきたらしいエリカとみほの姿があった。どうやらエミを心配してやってきたようなのだが、そこでエミは周囲を見回し、状況を整理する。
① 天翔エミは、背後になんか怖い表情で静かな怒りのオーラを放つダージリン、前方には現在意地の悪そうな顔をしたアールグレイ先輩 という布陣にサンドされた状態で土下座を慣行していた。
② 「君には勿体ないからしまっちゃおうねぇ~」とかそんな感じのライトな物言いで「二つ名」をエミから取り上げる発言をしていた
③ 二つ名とはとてもありがたいもので、自称するのではなく他人から呼ばれることで初めて名誉あるものと呼ばれるものである
以上の状況証拠から「今来たばかりのこの二人が一体どういう結論を出すだろうか?」
―――天翔エミは空を仰いだ。
******
―――Side Emi
こ じ れ ま し た 。
ダージリン(仮)を濃縮して英国面を強化しつつ愉悦を余った部分に余すところなく注ぎ込んだようなこのパイセン。
いうまでもなく、『エリカと相性が最悪である』―――。
あーもうめちゃくちゃだよ―――。エリカダージリン(仮)のドッジボールよりももっとひどい。言葉の千本ノックだ。なおアールグレイパイセンにノックを受ける気がないので打ち出した言葉は一方通行で、よりエリカのフラストレーションが天元突破。もう止めどころを完全に失った暴走特急モードである。
みぽりんはみぽりんでいつの間にかダージリン(仮)と俺の間に割り込む様に身体を滑りこませて俺を庇う様に立ってるし、ダージリン(仮)は何を言うでもなく俺のことを険しい表情で見てるだけー……なにこの
「―――勝負なさい!!エミの名誉は、私たちがチームで守る!」
「―――へぇ……」
売り言葉に買い言葉とかそういうレベルではなくただただ一方的にヒートアップしていくエリカがついにはパイセンに手袋を投げつけるレベルの宣戦布告に出た。
「―――お待ちなさい」
そんなエリカを止めたのはダージリン(仮)だった。紅茶の園のメンバーに手を出すと最悪聖グロと黒森峰の全面戦争に発展しかねないと言う。
やべぇよ……どんどん話が大きくなっていってる……やべぇよ……
内心の動揺が表情に出てたのか隣に立ってるみぽりんが腕をぎゅっと掴んで励ましてくれてる。尊いがこれはケジメ案件だな。俺の罪状は追加された。
『―――それなら、私から提案するわ。エキシビションマッチをね』
―――そんなことを言い出したのはアールグレイパイセンだった。
*********
―――Side Earl grey
若いって良いわね。何処までも愚直になれて。
グロリアーナと違って他の学園というのもいい。条件が違えばここまで面白い子が育つ。
後輩はこういう突拍子もない子を育ててみるのもいいかもしれない。
高等部の、高校での戦車道のレベルを見ることができるということで、演習試合の許可はあっさりと下りた。黒森峰には渡りに船だったかもね。実質タダでこっちの戦略を調査できるのだから。
「あの、よろしかったのですか……?」
おずおずと私に尋ねて来るあの娘に微笑みで返す。
「なぁに?私が苦戦すると思ってる?
―――冗談。この程度、グロリアーナの流儀を崩すまでもないわ」
グロリアーナの流儀、「いついかなる時も紅茶をこぼすことなく優雅たれ」―――。
私の言葉に何か思うところがあるのか顔を歪める。可愛いなぁ、けれどそれは良くない。淑女たるもの、表面は涼しい顔でないとね。
「お言葉ですが、アールグレイ様。
彼女を、天翔エミを侮らない方がよろしいかと」
とげとげしさを感じさせる声質に、彼女の偏執が感じ取れる。これはあれね、この子の悪い癖が出てるわ。こういうところがなければいつでも飛び級仕様で紅茶の園の冠名を授けて上げるのに―――。
「―――古人に曰く 「下手な鉄砲も数撃てば当たる」―――。
―――その逆もまた然り、「数撃たぬ鉄砲など脅威たりえるものか」―――」
私はそう告げて、PJの最後のボタンを留め、愛機「クロムウェル巡行戦車」に乗り込んだ。
「さぁ―――刮目なさい!!
―――我は【疾風】、アールグレイ!! Panzer Vor!!」
*******
―――Side Emi
ど う し て こ う な っ た ?
あれよあれよという間に演習試合、エキシビションマッチということで1対1のハンディキャップマッチが開始された。
ルールは簡単。
・Ⅳ号F型の砲弾が、アールグレイ駆るクロムウェルに掠りでもすれば勝利
・その前にⅣ号が戦闘不能に陥れば敗北
とてもシンプルだな。―――とことんまで舐められてるという点を除けば
こんな条件の試合になってしまったせいで、ウチのエリカさんが以前のハリー・ホプキンスとの一戦以上にブチギレておられて戦車内の空気が半端なくギスっている。
みぽりんなんかもうありえないくらい縮こまってしまっていてどっちが車長だかわからねぇなこれ。
「―――あー、テステス、聞こえる?こちらアールグレイ。準備はいいかなー?」
「―――あ、はい。こちらⅣ号戦車、準備完了です」
「うんうん、いい返事だわ。
―――さて、それじゃ掛け金(ベット)を決めようか?」
―――は?(困惑)
勝負を煽っておいておぜん立てを整えて、その上で相手が盤上に乗ってから掛け金交渉を始める。汚いな、流石ブリカス汚い。
「ハンディキャップマッチだし?こっちが勝ったら――――
―――そうね。『機関砲』のあなたを一か月くらいウチにレンドリース。とか」
―――は?(戦慄)
なんでそこで俺の名前が出るの?やっぱそっちのケの人なの?リリィなの?やばいの?(やばい)
「―――ざっけんじゃないわよ!!!」
「エミさんはモノじゃありません!!」
車長と副長が猛反発。二人の息の合ったコンビネーション良いぞーコレェ
でも二人とも俺の身体を両側からガードするのやめて、俺という物理的な壁でみほエリが純粋に完成しないの。 俺の罪状がまた一つ加算された。
*******
―――― Side Darjeeling
―――それを一言で表すならば……一方的過ぎた。
「あっははははは!!!どうしたの?撃ってこないの?どんどん行くわよ!さぁ、さぁ、さぁさぁさぁ!!
―――Kites rise highest against the wind – not with it.―――!!
風に流されるオマエたちは……【疾風】には勝てない―――ッ!!」
高速で駆け回り続けるクロムウェル。その動きはかつて私が懸けた作戦「カーテシーに潜む薔薇」とよく似ていて、しかし大きく違っている。
私が指示したハリー・ホプキンスは「Ⅳ号の有効打を受けないように逃げ回っていた」だけだった。
だが、彼女のクロムウェルは違う。「駆け回りながら攻勢を行い、かつ逃げ回っている」
時に肉薄し、時に大きく離れ、速度をほとんど落とすことなく走り回って照準を定まらせない。加えて近距離に近づくたびに行われる接射撃でⅣ号の装甲をじわじわとはぎ取っている。
砲塔がつかめない敵を掴もうと動き回るたび、クロムウェルはその動きを更に超えて動く。中学生と高校生の年齢の差、経験の差がここに如実に表れていた―――。
「―――すごい……」
知らず、声が漏れていた。
やはり、やはり隊長はすごい。凄い選手だ。日頃の酷い行動とは裏腹に、敵を誘い、かわし、穿つテクニックは隊長の隊長たる所以。
そして止まることのないクロムウェルは、正に『疾風』―――!!
戦況は、どんどん一方的なものになっていった……!!
区切りが悪くなると困るしここで中編 ということで(震え
Kites rise highest against the wind – not with it.
「凧が一番高く上がるのは、風に向かっている時である。風に流されている時ではない。」
―――ウィンストン・チャーチルの言葉。