【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
結果として私は間違えた。
彼女を救うどころか追い詰めてしまった。
彼女が居なくなってしまって、私に残ったのは後悔と絶望だけだった。
嗚呼、神よ。もしも居るのだとしたら―――
―――私を裁いてくれなどとは言わない。
―――もう一度だけでいい。
もう一度だけでも、あのころの彼女に会いたい。
『そして、今度こそ間違えない』
キィキィと、ホイールの車軸がこすれた音を立てている。老人介護用の椅子らしきものを押して、ヨロヨロとおぼつかない足取りで歩いてくるその姿には、遠目からでも目立つ銀色のドリルテール。
ドゥーチェ・アンチョビその人だった。
何故ドゥーチェがここにいるのか?何故車椅子を押しているのか?そもそもここはどこなのか?色々考えることはあるが、死んだ魚のような目で車椅子を押しているクッソシュールなドゥーチェをどうしたものかと思っていたところ、背後からクイクイと袖を引かれてる件。
引いている袖の根元をたどれば、ロリペド体型で超小柄な俺の陰に入るようにしゃがみ込んで身を縮ませたダージリンが居た。なお、当たり前の話だがめっちゃはみ出ている。
「どうせ貴女の担当なのでしょう?早くなんとかなさい」
とかクソ偉そうに命令してくるブリカスに、目の前のドゥーチェが真に無害であると確信していたならば前方に軽く蹴り出してやるのにとか微妙に考えつつ、意を決して一歩前に出る。
「えっと……ど、ドゥーチェ?」
恐る恐る声を掛ける俺。微妙に声が揺れてたりする(恐怖)
だって考えてみて欲しい。目の前のドゥーチェの死んだ目が誰の仕業なのかという推論を重ねていく場合、ドゥーチェを罠にハメるくらいのとんでもない存在っていうのが、絶賛俺の背後で隠れ潜んでいる
じゃあ誰があのドゥーチェをこんな風に……!となるのが普通だが、それを尋ねるのにも勇気がいるのが現状である。
そんなこんなな内心でのいろいろな考えを織り交ぜつつ声を掛けた俺の目の前で、車椅子を押していたドゥーチェが微妙に焦点の合っていない瞳を“フィッ”とこちらに向けた。
そのまま数十秒の間、沈黙が場を支配して―――
「……エミ?」
その瞳に、わずかにハイライトが戻った。
*********
カラカラ―――キィキィ―――
絨毯で車輪の音が相殺され、ただただ車軸が擦れる音だけが響く。
「いやぁまったく!!何がどうなっているのかも分からないんだがな!」
「……左様で」
何処までも続いているような廊下を歩きながら、アンチョビが快活に笑う。その快活さにはさっきまでの陰鬱な表情はうかがい知れない。
「ペパロニやカルパッチョもいるかもしれないな!いやぁそれにしても!皆と合流できてよかった!」
「―――そうだね」
傍目には涼しげな顔で紅茶を傾けるダージリン。微妙な顔で後ろから付いてくるミカァ。ドン引きの表情のオレンジペコ。
三者三様のリアクションなのはなぜか?それは
「―――ドゥーチェ?あのさ……この状況、なに?」
「あっはっは!!おかしなことを言うなぁエミは!!」
そこに車椅子に載せられて運ばれとる俺がおるじゃろ?(震え声)
いや本当……何なの?この状況……何なの……???
ドゥーチェが正気を取り戻した後、なんかおもむろに「エミがまた身体を壊してしまったら私が悲しい」という理屈で車椅子に押し込められ、今こんな状況でなう(白目) どういうことなの……?(困惑)
「しかし本当になんのヒントもありませんわね」
「そうだね……この廊下もどの程度続いているのか判り辛い。かといって横に広がっている部屋もルームキーが無ければ開かないモノなのだろうし……」
車椅子で運ばれている俺から極力目を反らす様にしつつ会話を続けているダージリンとミカァの二人。オレンジペコはどうしていいかわからないままである。マジ詰んでるなこの状況!
「―――なぁ、安斎さん」
「アンチョビでいいぞ!大洗の!」
「なら私も、麻子でいい」
そっとドゥーチェに近づいたスク水姿の冷泉殿が話しかけると、パッと笑顔を見せて快活に笑い返すドゥーチェ。お互いに名前で呼び合うことを認め合うのてぇてぇわぁ……こんな状況でなければもっとてぇてぇを感じていたところだろう。
実際全く集中できねぇ状況に勿体なさが溢れてどうしようもないんだが。
「―――アンチョビの知っている“エミ”はどんな人物なんだ?」
唐突に話を切り出した冷泉殿のその妙な言い回しに
「……自分の弱さを絶対に周囲に見せずに、いつも笑顔を皆に分け隔てなく与えている。そんな娘“だった”よ」
「そう――か―――」
ドゥーチェとしてではなく、アンチョビとしての答えになんか感じ入るものがあったのか、神妙に頷いていく冷泉殿。……とはいえ、ドゥーチェが見てる俺の存在……美化されてる……されてない??(困惑)
「決して弱音を見せなかったエミの弱音を垣間見てしまったからこそ、私はこのままでいるべきではないと思った……
―――だからこそ、可能な限りあらゆる世話を焼くつもりで様々な準備をしたし、これまでそうやって生きてきた」
ドゥーチェの中での俺は一体どんなトンチキな存在になってしまっているのか、これをこのまま聞いていていいのかわからんのだが、車椅子に載せられている状態では身動き一つとるのにも色々と気を遣う。その上頭の上に手を置かれてさわさわと優しく頭を撫でられている現在―――俺のPPはどれだけ蓄積していくのか現状全くと言っていいほど予想がつかないし、現在既にこの状況が死一等を減じられてなお自決を良しとするレベルではなかろうか?(疑問符)
そもそも俺そこまでドゥーチェと絡んだことあったっけ……?と思わんでもないし、何らかの記憶が混濁している。或いは【瞬間、アンチョビの脳内に溢れだした……存在しない記憶】した可能性がある。実際死んだ魚のような目をしてたし
「どう思う?ダージリン」
「まだ結論は出ていませんが……事実は小説よりも奇なり、かもしれませんわ」
ミカァとダージリンはなんかひそひそと会話している。あっちはあっちで現状打破のためのアイデアでも考えているのかもしれない。
俺としても現状の打破ももちろん、みぽりんやエリカの状態が心配すぎる。もしもひどいことになっているのなら今すぐにでも助けに向かうべき事象だ。
だがもしも、もしもだ―――
二人だけでこのホーンテッドハウスな事象に巻き込まれてみほエリが二人で協力して苦難に立ち向かっていると考えた場合
―――その場面を見たいという心と、俺を含めた複数人数でお邪魔してフラグをへし折ってしまう可能性を天秤にかけてジレンマを感じてしまう。それが俺の脚を遅くさせて躊躇わせていた。
二人を助けるべきではある、が、非日常的な状況下で頼もしい姿を見せる友達レベルには仲の良い相手を前に吊り橋効果でドキドキモヤモヤするアオハルタイムを邪魔してしまったらと思うと……どうにも積極性を出しづらい。
「私の知っているエミは……無理をしないでくれと言うまでは無理をする人物だった。愚痴をこぼしてくれたこともある、けれど何もかも全部をぶちまけることもしない。どこか一線を引いている娘だったよ―――私以外にはだが」
「そうか……」
冷泉殿とドゥーチェの会話は続いている。今度は冷泉殿の天翔エミ像が語られているが……ドゥーチェのそれと違っているけれどまた妙に美化されている感がある。ドゥーチェの時とは違って、確かに俺は冷泉殿の世話を焼きまくっていた記憶がある。あるが、果たしてそれは冷泉殿がそこまで評価するほどだっただろうか?と、なった場合疑問符しかない。
そもそも自分の内情を全部ぶちまけて弱音を吐いている場面なんぞ記憶にないんだが……
つまり―――どういうことだってばよ?(ウスラトンカチ感)
さっぱりわけがわからない。どういう事なんだ……
と、この奇妙な状況を思案していると、不意に
「ジリリリ」
と、ドゥーチェの腰の携帯がアラーム音を立てた。
「ああ、済まない。時間の様だ」
「時間?一体―――」
『何の時間なんだ?』そう尋ねようとした俺の座っている車椅子がぐるんと90度回転した。腰と背もたれが後方にそのまま倒れて両足と視点が天井を向く。
「ちょ、ドゥーチェ?!アンチョビ!?何?!これどういうこと!?」
「あっはっは!!おかしなこと言うなぁエミは。いつもやってたことじゃないか」
怖いくらいニコニコと変わらない笑みを浮かべたままのドゥーチェが座ったままの俺のボコパジャマを引き剥がしにかかる。当然着ぐるみパジャマなので脱がすためには全部ひっくりめて引っぺがす必要がある。その結果、脱がしきる前に状況について行けず絶句していたダージリン、ペコ、ミカ、冷泉殿が正気を取り戻し、アンチョビに詰め寄って声を荒げることができた。
俺?状況について行けないなりに必死に抵抗してたよ?ただ下手に力入れてパジャマが破けたりとかしたら下だけ脱がされかねないから本気で力をセーブして抵抗してたから誘い受けと誤認された可能性が否定しきれないが!!(最悪の状況)
「何をなさっているのですか!?」
「何って―――時間だからな。
―――エミのおむつを替えてやらないと」
ぞわりと
抑揚のない日常的な調子で語られたアンチョビの言葉に
「ぅ……わぁぁぁああああああああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああ!!!?」
俺はとっさにその場の全てをかなぐり捨てて逃走を選択していた。逆さまになっている態勢から両腕で倒立するように車椅子から身体を引きはがし、そのまま足の振りでとんぼを切って大きく跳躍、両腕両足で着地を決めた。が、恐怖で一時的に腰がアレだったため、そのまま四つ足の獣とか黒いアレよろしくカサカサと全力で逃走した。
「おい!待つんだエミ!!どこへ行くんだ!?」
「待つのは貴女の方です。何が狂ったらあんな訳のわからない行動に出られると言うのですか?」
俺が全力で逃げる後ろでダージリンとアンチョビの言い争いが聞こえる。ミカや冷泉殿も少なからず口論に参加しているようだが、俺は振り返る気力すら湧かず、ただただ逃げるしかなかった。
*********
「はぁ――――はぁ――――はぁ――――」
肩で息をしつつ呼吸を整える。音を抑えて耳を澄まさないと、あのドゥーチェの様子と出会った直後の目の焦点が合ってないザマから察するに、追いかけられる系ホラゲーばりにハイド&シークする必要性がある。呼吸を整えて音を限りなく減らす、それだけで生存率はいくらか高くなる。
どこをどう走ったのかパニックになっていた俺にはそれすらもわからないが、明らかにラブホにしては広すぎる。延々と広がってるようにも思える廊下も含めて今のこの状況がまるで呑み込めないんだが……どういうことなんだ本当に……
「―――エミリ……こっち―――」
微かに聞こえたそんな声に超絶反応して振りむいたのはきっと俺が予想外の出来事も含めてまるで余裕なんぞなく、柄にもなく恐怖していたからだろう。
だが、仮にそうだとして―――廊下の一角、部屋のひとつを少しだけ開けて、
怯えたような顔に決意の目を向ける島田愛里寿がいたとしたならば
そりゃあ助けにいかないなど
そうして、脊髄反射で飛び込んだ部屋。
ガチャンと閉まるオートロック―――ではなく、“内鍵”
「―――よかった」
安堵の表情を見せる愛里寿に
「―――これでずっと一緒だね。
エミリ」
退路無き部屋に所狭しと並べられている大小さまざまなサイズの俺の写真だのポスターっぽい加工のものだの瓶に入った謎のあれやこれやという半端なく精神に来る風景に
―――あ、これアカンやつや工藤。 と思うのもしょうがないんじゃないだろうか?(諦観)
ホラー映画で『俺は独りで逃げるぜ!!(キリッ』した人間が最初に襲われて死ぬやつだコレ!!!(絶望)
次回 最終回
えみかすいんわんだーらんど 終 でお会いしましょう(なお順当に考えたら来年のエイプリルフールである)