【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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「―――しばらく黒森峰(ここ)を離れようと思う」
 
―――訣別の言葉を、口にした。エリカは何も答えない。何も言えない、というのが正しいのだろう。

 やることはすべてやった。あとは―――荷物をまとめて今夜中にでも此処を発とう―――。

―――願わくば、育ち始めたであろうみほエリの芽が、すくすくと伸びやかに育たんことを―――。


*******


 ―――夜の帳が下り、夜道を歩く一人の小柄な少女。

―――まぁ、俺なのだが()


 黒森峰を去る準備は出来た。後は明日にでも学園艦を降りて、野に下るだけ。
降りた後の行く先は―――

「―――大洗に行ってみるかなぁ」

ぽつりと、誰に言うでもなく呟いた言葉は空気に溶けて消える。
 みほエリを為すために俺が身代わりになった結果、一番割を喰ったのはあの場所だろう。みぽりんが転校してない状況では、運良くサンダース・アンツィオに勝ったとしてもプラウダで詰む。確実に詰む。
 だとすれば、とりあえず微力ながら助けになってやってもいい。みほエリが為されるかどうか確認するまで特にやることないし。
 軍神西住みほに比べたら車長適正もないただの装填手ではあるが、いないよりはまだマシと言えよう。黒森峰の訓練法も中等部の間に習ってきたことを復習すればいい。まぁ、やれるだけやってやれ―――の精神で行こう。

とりあえず方向性を決めて、荷造りの方向で自宅のワンルームのドアを開けて

「あら、おかえりなさい。お土産のお惣菜で申し訳ないけれど、食事は用意してありましてよ」

―――何事もなくテーブルの上に出来合いの総菜を並べて食卓を形成したブリカスの姿があったので、とりあえず一度ドアを閉めた。




【 ダージリン生誕記念 その2 】

【IFルート「その手は届いた。けれど余計なものもついてきた」】

 

 

 

「―――ご馳走様」

「ええ、お粗末様でした」

 

広げられた食事を、そのまま放置して食べられなくしてしまう。ただのゴミに変えてしまうというのは育ちの関係から憚られた。他の諸外国と比べると食に関しては飽和して豊かな日本とは言え、孤児院で食べる食事は充分であったかというとそういうわけでもなかったし、孤児院の院長の「食べることができる幸福」という有難い説法を聞かされて育った身分。加えて中の俺個人の精神性から【それを食べずにただ捨てるなんてとんでもない】状態だった。

 

「―――で、家宅不法侵入って110番で良かったか?」

「残念ですけど、家宅不法侵入は家主の許可を得れば不成立なのですわ」

 

しれっと言い放ち、『家主である大家様に許可を取りましたので』とすまし顔で答えるブリカス。ご丁寧に、さっきは持っていなかったカップとソーサーをどこからともなく取り出し、これまたどこからともなく取り出したティーポットに入った湯気の立つ紅茶を注いで一口。

 

 

「―――さて、では行きましょうか」

 

 

―――いや、どこへだよ?!(困惑)

 

 

「―――もちろん。我が栄えある母校、グロリアーナへ―――」

 

 

―――コイツ精神に直接干渉してやがるのか?

 

 

「いえ、ただ単に今の貴女がわかりやすすぎるだけですけど」

 

 

 

口元を隠して優雅に笑うダージリン。その目が真剣味を帯びて、俺を見据える。

 

「―――真面目な話をしますけれど。黒森峰を離れる貴女を、私は放っておけない。聖グロリアーナへいらっしゃい、天翔エミ。黒森峰で受けた貴女の痛みを癒すでも良い。反骨精神に懸けて打倒黒森峰を目指すでも良い。私はそれを強制しないわ。

 

 ―――ただ、戦車道に背を向けないで欲しいだけなの」

 

 そこには有無を言わせない迫力と真剣さが在った。

同時に、俺を真摯に心配している様子を感じ取れた。

 

 思えばコイツとはなんだかんだでライバル視されてぶつかり合ってやってきた仲ではあるし、俺が居なくなると張り合いがなくなるとか、そういう感じの心境なのだろう。

 

―――まぁいいか。

 

 そんな気持ちが俺の中に生まれた。もともと大洗に編入するかと思ったのは思い付きではあるし、みほエリを観測するのであれば別に学園に拘る必要はない。

 

―――だったら、昔からの誼を優先させても良いだろう。その程度の考えでしかない。

 

 

「―――ん。んじゃ、よろしくな。フッド」

「……ありがとう。貴女が私を選んでくれたことを嬉しく思いますわ」

 

 

―――いや、選んだのはグロリアーナな?何でお前を選んだとかそういう話になってるのか……

 

 

「では、編入手続きの書類がこちらに。サインをお願い致します」

 

 そう言ってダージリンは自身の胸元、聖グロの制服の内ポケットからスルリと編入届を含めた書類が取り出される。この手の漫画的な手法の収納術ってどうやって内部に収納できているのかさっぱり理屈がわからない。実は青ダヌキみたいに四次元のポケットでも内蔵してるのだろうか……?

 

ともあれ、写しも含めて書類にサラサラとサインをすると、保存用の写しをファイルに収め、また胸元にスルスルと収納されていく。不思議な光景である。

 

そうして一連の行動を終えた直後に―――

 

 

―――コンコン と、部屋のドアがノックされた。

 

 

******

 

 

 ―――重い。

 

こう、重苦しい雰囲気が周囲を支配していた。

 

 

「うぅ……うぅ~~~!!」

「―――はぁ……唸っても事態は好転しませんわよ?」

 

目の前には二人の人物。かたや先ほど俺をスカウトしたブリカス。そしてかたや俺を「駆け落ち」に誘いに来た大天使ミホエル。

 

―――いや、何で?(困惑)

 

 そもそも何でやってきた第一声が「エミちゃん!駆け落ちしよう!」なのか。訳が分からない。そういうのはほら、エリカに言ってやって。どうぞ。

いやそれでもしも本当に駆け落ちなんかしたら俺は【みほとエリカの今後を温かく見守り隊】(団員俺一名)を発足して西住流からの追っ手と戦いながら影ながら護るシークレットサービスに転職してやるところなんだが……

 

 ブリカスの手には俺が先ほど記入した『編入届』

 

この契約が、みぽりんの駆け落ちを食い止める防波堤となっていた。

 

 ―――俺自身の意見を言えばみほエリを為す一番の近道である「みぽりんエリカが一緒に黒森峰を引っ張っていく比翼の鳥ルート」という道筋を作った以上そこに軟着陸してほしい。が、みぽりんがこのまま一人で大洗に転入するようなら、俺が全霊を懸けて原作ルートにテコ入れをかまさねばならないだろう。

 

みぽりんの主張は「私のせいで戦車道が嫌になってしまったエミちゃんを、今度は私が護るんだ!」

 

対してダージリンは「彼女が立ち直るかどうかは彼女自身の問題です。その辺りは昔からのライバルである私がケアしますのでお帰り下さい。どうぞ」である。

 

編入届というクリティカルヒットなものが存在する以上、ダージリンの優勢を覆すことはできない。勝負は決まったな。

「うぅぅぅぅ」と唸っていたみぽりんだったが――――ふいに、限界を超えたのだろう。盛大に暴走した。

 

「―――だったら……私も一緒に行きます!!」

「ファッ?!」

 

思わず変な声が出た。ダージリンですら絶句している。この展開は予想外過ぎる!誰が予想できたというのか?!

 

―――おいそこのブリカス、「わかっていましたわよ」みたいな笑顔で取り繕うんじゃねぇ、紅茶飲んで落ち着くな、止めろ!止めろ!いやマジでとーめーろーよー!!!!

 

「み、みほ……?ほら、エリカとか、まほ隊長とかすごく心配すると思うんだ」

「そんなの!元々おとうさんに協力してもらって夜逃げ同然で駆け落ちするつもりだったから今更だもん!!」

 

 恒夫=サン!!?恒夫=サンナンデ!?何で愛娘の駆け落ち推奨してんの!?何やってんの!?しかもみぽりんそれでいいの!?

 

「―――みほさん。聖グロリアーナに編入するということは、貴女の生活は一変します。身に覚えのない罵声もあるでしょう、黒森峰の皆さんの風当たりも強まりましょう。

 

 ―――貴女に、その覚悟は有って?」

 

真っ直ぐにみぽりんの目を見据えて語り掛けるダージリンの様子に、たじろいだように後ろに下がるみぽりん。しかしそこは軍神、負けてなるものかと強い瞳で圧し返し―――

 

「―――エミちゃんが居なかったら、その罵声は私に降りかかっていたものです。だったら、受け止めます。それが私にできることだから―――!!」

 

覚悟を決めた西住の血ってのは、本当にガンギマッている。つくづくそう思った(確信)

 ダージリンはそんなみぽりんの瞳をジッと見つめ続けて―――

 

―――やがて根負けしたかのようにハァと息を吐いた。

 

 

「―――ええ、ええ、わかりましたわ。西住みほさん。貴女の編入を認めます」

 

 

「やったぁ!」と喜び俺の腕を取って抱き着いてくるみぽりんと対照的に、俺の内心がグルグルとやばい方向に回り始めていた。

 

 

―――どうしてこうなった……!?

 

 

俺の内心を一切の忖度なく書き出すならばこう。

正に「どうしてこうなった」状態と言えた。

 

 

―――それもこれもダージリンのせいだ。くそう覚えてろブリカスが!!

 

 

 

 

*******

 

 

 

 ――月――日

 

 

黒森峰から逃げ出すと聞いて居ても立ってもいられなくなり、私は単身黒森峰学園艦に乗り込んでいた。

 

 誰よりも早く彼女に接触し、できれば十分に話をしたうえで、我が校への編入を確約させねばならない。

 

そんな衝動に突き動かされるまま、気が付いたら彼女の住むワンルームマンションの世帯主である大家様に「姉です」と偽装して部屋の鍵を開けて貰っていた。

 

犯罪である。もう一度言おう、犯罪である。(良い子は真似してはいけません)

 

 天翔エミは割とあっさりとサインしてくれた。これで一安心。と思った矢先に、一足遅れで到着したのは西住みほだった。彼女も天翔エミを勧誘、というか……「駆け落ち」に誘いに来たらしい。流石日本人、発想がぶっ飛んでいる(かくいう私も日本人だが)

 

 だが私には『編入届』がある。これがある限り、彼女の身柄は当局のものである。優越感に微笑んでいた私の笑顔は

 

「―――だったら私も一緒に行きます!」

 

この一言で凍り付くことになるのだけど。

 

 

―――ああ、胃が痛い。この後の顛末を考えると胃がキリキリと軋みを上げて来る。

 己の我を押し通してさぞ気持ちよかろうな西住みほさんは楽観的に天翔エミとイチャイチャしてお出でで、聖グロリアーナへと向かう高速艇は夜闇に包まれた海域をものともせずに学園艦へと一路進んでいて―――

 

―――きっとこの後夜逃げに気付いた西住家の方々の追及が来るであろうことは容易に想像ができる。

 

それを誰が対応するのか?当然―――私だ。

 

 

―――妹を奪われた姉の呪詛だの

 

 

―――親友を奪われた女の泣き言だの……

 

 

そんな鬱陶しい戯言への対応を一手に引き受けないといけないとか―――

 

 

―――ああ……何故?何故こうなってしまったというの……?

 

 

 

 

―――ああもう!天翔エミ!!貴女のせいでしてよ!?責任をとりなさい責任を!!

 

 

 




一体いつから……【生誕記念のSSが一つだけ】だと錯覚していた……?


依怙贔屓してる?当たり前だろいい加減にしろこの作品のタイトルを良く読み返せ!(逆切れ)

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