【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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なんざーん(なんざーん)


エミパートはまほルートと並行で書いてゆきますゆえー。一週間ほどお待ちを


エミパートでエミカスが当時何考えてどう行動してたかを暴露してゆきます。


つまり今回のパートはひぐらしうみねこでいうとこの「問題編」です()







【 ダージリン生誕記念(2020) 】

 〇〇月――日 晴れ

 

 今日は待ちに待った日だ。

アークロイヤル級空母アークロイヤル型のスマートで麗しき学園艦。

聖グロリアーナ女学院、その中等部へと入学する記念すべき日。

校門を悠々と、優雅に潜って

 

 

―――死んだ様な虚ろな目で歩く小学生がそこに居た。

 

 

 

【ダージリン生誕記念2020 『ダージリンの追憶帳(ファイルズ) 体験版』】

 

 

 

 〇〇月――日 晴れ時々曇り

 

 まさかあの小学生が同級生だったとは……この私の目をもってしても見抜けなかった。そして小さな体にあんな規格外のパワーを持っていたことも予想外。

 これから中等部、高等部と同じ道を歩む仲間であり、ライバルと成りえる相手であり―――戦車道としては有能な装填手を得たと言える。

 

―――実に非常識ですけれど。

 

 

 

 〇〇月――日  曇り

 

 彼女は入学早々に紅茶の園の面々と知り合い、その中でも次代のアールグレイ様を受け継ぐと目されている方と懇意になったようだ。周囲の目を気にせず友好を深めている様子に周囲の反応が酷い。良い意味でも悪い意味でも。

 

 ここは聖グロリアーナ。暗闘渦巻く貴族社会の縮図を体現する学園艦。

 

 力あるOG会はアールグレイ様に首輪をつけるために『彼女』を紐付きにしようと画策し始めている。今のところ彼女は歯牙にもかけていないようだけど。

 

 

 

 〇〇月-―日 晴れ

 

 件の彼女に紅茶を贈った。「私の獲物です。手を出さないように」という意味を込めた周囲への牽制のために。

 彼女は私が飛翔するための踏み台にする。もう決めたことなのだから邪魔をしないで欲しい。OG会にしても同級生上級生に至っても、彼女が大きくなる(戦車道的な意味で)ための障害でしかない。あの子を私の糧にするためにはまだまだ飲み干せない程に大きくなってもらわなければ困る。

 

 ―――それこそ、高校を卒業するまでを使い果たしても足りないくらいに、ね。

 

 

 

 ******

 

 

 

 「―――ですので、まずは貴女のその部屋の中の奇行をどうにかしませんとね?」

「……何が?」

 

 目の前で“部屋を彩る調度品であるはずの壺に水を満たして紐で繋いで広背筋・上腕二頭筋三頭筋育成のためのトレーニング器具”に変えた目の前の少女というより幼女に近い見た目のお子様は、不思議そうに眉根を寄せた。

 聖グロリアーナ学院寮の一室。共同生活を通じて協調性を育成しよう という学院側の試みに真っ向から喧嘩を打っていくスタイルと言えるその有様を見ていると学院側の理念とは人の意思でかくも無惨になるものなのかと思わざるを得ない。

 

「貴女のその姿を見て、皆がどう感想を抱くかを考えなさいな」

「他人の目なんざ気にしてたら何にもできんだろうさ」

「最低限のTPOは弁えなさいと!!」

 

 思わず声が大きくなる。手に持っていたダンベルを取り落としてしまいそうなほどに。

 

 トレーニングは大切なものだ。だがそれは本来専用の器具を用いてやるものであって、こんなヘンテコなモノで用具を模してやるものではない。

 

「トレーニングジムなら紹介しても良いと言ったでしょう?」

「何度も言うがそんなトコに通うカネはねぇ」

 

 取り付く島もなく断られてはこちらも立つ瀬がない。

 かくなる上はと強引に連れ出して戦車道トレーニング用のジムに登録させる。私の身銭で。

 「今後の活動における投資ですわ」と制して強引に会話を打ち切ってしまったので多少空気が悪くはなった。これでは貧困に窮するライバルを金で上から殴りつけているようで気が引けてしまうけれど、能力のあるものがその能力に見合ったものを使えないというのは、見ていて苛々とするのだからしょうがない。

 

 翌日。あのヘンテコ道具でトレーニングをしていて失敗したといって左手に痛々しい包帯が巻かれていた。だから言ったことではない。私の選択は正しかったことが証明された。

 

 

 

 〇〇月――日 快晴

 

 今日は全国戦車道大会中学の部。その決勝戦。相手は当然、常勝黒森峰女学園―――厳しい戦いになりそうだと嫌が応にも緊張が高まる。隣に立つ幼女の顔をした類人猿も心なしか表情が硬い。

「緊張しているんですか?」と問えば

「してるよ。ここからがスタートだからな」と返ってくる。

 意味が分からない。実戦ならばこれまでに何度もやってきたし、これが初めての試合というわけでもない。だって彼女は聖グロリアーナ(うち)のレギュラーなのだから。

 

 

 

 

 *******

 

 

 

 

 『こちらウーヴァ!敵右翼と思しき団体と接敵!』

「じわじわ詰めなさい。主戦力はこちらに来ているから落ち着いて」

 

やや強張った声の通信に落ち着いて返答を返し、一つ息を吐く。心臓の音がやけにしっかりと聞こえている。目前に迫る戦車の一団を率いるのは間違いなく、この時代の最強の一角。

 

 ―――西住流、西住まほ。

 

 逃げることはできない。私がこの場で敵を抑え込めなければ中央を抜かれた防衛線は決壊し、反転した部隊により挟撃に持ち込まれて他の部隊も各個撃破されるだろう。だから退けないし、迎え撃つとしても前に出すぎるわけにもいかない。

 

 それが私にできるだろうか?

 

 ふいに不安とともにそんな後ろ向きな考えが浮かぶ、手が震える。

唐突に通信機から声がした。別動隊として遊撃している“アールグレイ”を受け継いだあの人から。

 

 

『―――こちら“アールグレイ”、聞こえる?こちら“アールグレイ”

 ―――敵の突撃愚連隊と会敵!敵はティーガーⅠ“西住まほ”よ』

「……何ですって!?」

 

 

 敬語も忘れて叫んでいた。こちらへの攻め手である主力だと思った相手に西住まほがいない事実。そしてその西住まほはこちらの本隊を横合いから襲撃するために本隊を離れて別動隊をやっていた。

 つまり目の前にいるのは西住まほが率いる黒森峰ではなくて―――

 

―――聖グロリアーナ(わたしたち)にはその価値もないと―――

 

「―――舐めて下さいますわね……!!!」

 

ギリギリとシートの肘置きに爪が食い込むほどに、握りしめられた手に力がこもる。

 

 

 

許してなるものか。

 

許してなるものか。

 

あいつらに教えてやれ

 

勉強代を高い物として教え込んでやれ

 

 

 

「―――総員!防衛線を敷きなさい。迎え撃ちますわ!!いいこと?本隊を受け止め、じわじわと詰めて磨り潰しなさい!!」

 

 

 

***

 

 

 

 結果として言えば―――この対応は敵に読まれていた。浸透強襲戦術による防御陣はまだ完成しきっていない。練度が足りない防衛線は重戦車中心の黒森峰に食い破られ、屍を晒すことになった。

 

「申し訳ありません」と悔しさに涙を流す私を優しく慰めて下さるアールグレイ様にさらに悔しさが増す。

 

 

 ―――あの子はアールグレイ様の隣で、私たちが殲滅されるまで彼女を援護し続けることができたというのに―――

 

 

 力の足りないこの身が恨めしく―――結果を残したあの子が羨ましい。

 

 

 

 *******

 

 

 

 〇〇月――日 曇り

 

今日この日を私は忘れまい。

私の中で彼女を決定的なまでに焼き付けたこの日を。

 

 

******

 

 

 中等部の卒業を間近に控えたその日。聖グロリアーナの中に異質な“それ”を見つけた。

 

 着物姿の女性。直接の見覚えはない。けれどその姿は有名である。

 

 戦車道連盟のスカウトマン。井手上菊代―――その彼女が、よりにもよって“西住しほ”を伴ってやってくる理由。

 

 

 そんなものは、きまっている。

 

 

 ****

 

 

―――聖グロリアーナ学舎の裏手。焼却炉が鎮座するよくある校舎裏風景にそぐわない黒いスーツの女性と、その後ろに控える着物姿の女性。

 

 西住しほと、井手上菊代の前で所在無さげな様子―――というより達観した表情の少女。当然―――天翔エミである。

 

 考えてみれば当然も当然。決勝戦での大立ち回り、アールグレイ様との連携による西住まほの足止めの成功者で―――あの西住まほにライバルと認識されたような発言を受けた存在で―――今年は決勝で待つ彼女に会うことすらできなかった。

 

 

 それが私たち(グロリアーナ)の責任であるということ―――。

 

 

 アールグレイ様が居なくなって、遊撃による攻勢を失った私たちは、浸透強襲戦術の弱さが露呈した。結果として二回戦での辛勝から戦車の補充がままならなくなった私たちは、準決勝で敗退した。準優勝の非業か、優勝校である黒森峰とは決勝まで出会うことはないため、そこでリベンジの機会は失われた。

 

 

「―――それで、何の御用ですかね?」

 

 やや下手に出る形で天翔エミが切り出した。その言葉を待っていたかの様に井手上菊代が前に出て、名刺を取り出す。

 

「―――日本戦車道連盟からスカウトに来ました。優秀な専任装填手は貴重ですから」

 

 にこやかにそう言う井手上菊代から名刺を受け取って微妙な表情を見せている天翔エミ。

 菊代が言うように専任の装填手というのはなり手が少ない。そもそも装填手という日陰の存在に好んでなりたがる人間が少ないのだ。その装填手という筋力と体幹のみがものをいう役職で世に名前を売っていける存在がそもそもほとんどいない。

 そういう意味で言うならば天翔エミに戦車道連盟が目をつけるのはわからない話ではないのだ。問題は―――何故今なのか?ということ。

 

「中学卒業前のスカウトに裏がないとか思えないんですよ。グロリアーナ(ここ)で鍛えられちゃってますんで」

「あらあら……まぁ、確かにもう一つオハナシがあるのは確かですけど」

 

 微妙な顔で苦笑する天翔エミと対照的にころころと朗らかに笑う井手上菊代。口元を隠してフフと笑う彼女の真意は笑顔の陰に隠れて遠目で見ている私には追いきれない。

 

 

「―――単刀直入に言いますね。中学卒業とともに学園艦を降りませんか?黒森峰が受け入れる準備を推し進めているところなのですが」

 

 

 

 そうして―――真っ直ぐに差し出された秋波を

 

 

「お断りします」

 

 

 天翔エミは、にっこりと微笑んで両断して見せた。

 

 

「―――理由をお聞かせ願えます?天翔エミさん。失礼ながら貴女のことは調べさせていただいております。

 

 黒森峰の中等部入学試験を志願していたこと。試験に失敗して先んじて受かっていた聖グロリアーナに滑り止めで入学したこと。

 黒森峰に入学できるのであれば迷わず受けて下さると思っていたところがありましたので、お断りの理由を先方に伝える必要がありそうですので」

 

 ややひきつった表情で、それでも笑みを崩さない井手上菊代の言葉に、天翔エミは少しだけ言いよどんだ。

 私としてもその理由を知りたい。彼女は『黒森峰を見返すため』戦車道を続けているのだと思っていた。ならばこれは黒森峰の白旗にも等しい。彼女は勝利した。悔しいがグロリアーナに拘る必要などどこにもない。

 

 

Better be the head of a dog than the tail of a lion.*1とか、どうですかね?」

「寄らば大樹の陰。とはいきませんか?」

「一強が過ぎればエンドコンテンツ化が進みますからねー。西住まほと西住流で固められた黒森峰が連覇を続け過ぎればマンネリに成り過ぎますよ」

 

 あとはまぁ、と前置きをして天翔エミは天を見上げる。

 

 

 

「決着をねー……つけなきゃいけない約束とかもありますんで」

 

 

 

 そう言ってケラケラと面白そうに笑う天翔エミに困ったようにフゥとため息を吐くと、井手上菊代はひとつお辞儀で返した。

 

「今日は有意義な時間になりました。その戦車道連盟へのスカウトの話は本物ですよ。高校卒業の暁には準備を終えるプロリーグへの勧誘状になってますので」

 

 

 そう言って引き下がった井手上菊代と一瞬だけ、物陰に隠れている私の視線が交錯した。何だか見透かされていたようで居心地が悪い。

 

 

 ―――私が過去に言ったことを彼女が憶えていたこと。その事実が胸に火を灯した。

 

 

 そして同時に―――彼女に並び立てない自分が嫌になる。

 

 

 

 〇〇月――日 小雨模様

 

 高等部の門をくぐる。 彼女と一緒に。

自惚れではないのならば、彼女が誇る人間であろう。

 黒森峰を蹴ってグロリアーナに残る選択をした彼女に、報いることができる人間になりたい。

 

 

 

 ―――強くなりたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *******

 

 

 

 

 〇〇月――日 晴れ

 

 全国戦車道高校生大会準決勝。プラウダを退けた私たちは、決勝へとコマを進めた。勝ちあがることを疑う必要がないほどに強い西住まほの試合をGI6に任せ、私は彼女と一緒に、来年進級してくるであろう黒森峰の三年生、及び来年自分たちの戦力になるであろうグロリアーナの生徒たちを見るために中学生の部の視察にやって来ていた。

 熱心に黒森峰の試合を食い入るような様子で見つめている天翔エミの様子に真剣身を感じて、私も試合の様子をカメラに収めながら試合を観戦する。

 

 ―――黒森峰の次代の副隊長は、油断がならない練度の人物だと思えた。

 

 対して彼女の方は隊長の少女にも目を向けている様子だった。彼女が目を懸けるほどの何かがそこに在るのだろうか?

 

 

 

 〇〇月――日 曇りのち雨

 

 決勝戦。また私は勝てなかった―――。

 アールグレイ様を援護する天翔エミの姿はすでにグロリアーナの看板となりつつある。一方で私もダージリンとしてグロリアーナの中核を担っている。

 

 何のことはない。それは天翔エミが【冠名を持たない】からに過ぎない。

 

 天翔エミは冠名を拒否している。それは私がグロリアーナのトップに立っている現状を見たうえでそれが最も適しているからだと言っていた。

 けれど私はそうは思わない。

彼女はアールグレイ様に認められた少女だ。その事実だけで十二分に周囲を黙らせる力がある。私を使いこなすに足る存在であると思えるほどに。

 

 

 彼女に並んで立つと誓った。その彼女を踏み越えてより高みを目指すと誓った。

 

 

 だというのに肩を並べるだけで精一杯な私が居る。

 

 

 不甲斐なさに愚痴をぶつけてみれば、彼女は笑って言うのだ。

「お前はすごいよ。私なんかよりずっと」と

 

 そんなわけがない。自分への不満が、止まらない。

 

 

 

 〇〇月――日 雨

 

 己の理想と、勝利への渇望と。

 理念と不満と、血路と不信と。

 

己の道を進む以上に、彼女から向けられているであろう期待を得たい。

それでも矜持を捨てることもまたできない。

 

 彼女のために勝利を重ねたい。彼女へ並んで彼女を越えたい。

 彼女のために己を曲げられない。己を曲げずに勝利ができない。

 

 グロリアーナの貧弱な戦車でだましだまし勝利を重ねてきた。アールグレイ様はきっととっくの昔に気づいているはずだ。

 

 自分たちの優勝を遠のかせている存在が、誰であるかを。

 

 

 

 〇〇月――日 晴れ

 

 OG会の抑圧を跳ねのけて、遂に1輛入手することができた。

 

 コメット巡航戦車。

 

 77mmHV砲を装備した、今までグロリアーナに足りなかった17ポンドの火力を補う存在。ミーティアエンジンを搭載していて、この車輛ならば『アールグレイ様のクロムウェルの最高速の速度にも無理なくついていける』

 

 この戦車ならば―――天翔エミを十全に使いこなせる。

 

 

 

 〇〇月――日 快晴

 

 戦車道高校生大会。ついにこの日がやってきた。

今日この場で勝利することで、グロリアーナは前に進める。

天翔エミを足踏みさせることもなく、私もより上を目指し隊長として立つことができる。

 

 個としての勝利よりも、全体の勝利を。

 

 それが私がたどり着いた答えだから―――。

 

 

 

 〇〇月――日  曇り

 

 プラウダ高校との準決勝。

私はアールグレイ様の立てた作戦に、異議を唱えた。

 

 確固たる証拠があったわけではない。けれど私の考える作戦と、敵隊長カチューシャのこれまでの戦闘のデータ。それらを鑑みての意見具申ではあった。

 

「―――ブリュンヒルデ。君の意見を聞こう」

 

 芝居がかった様子で腕を広げ、皆の目線を誘導するアールグレイ様。こういう時の彼女は役が降りている状態なのか、時折しゃべり方も変わっていることがある。

 水を向けられる形になった天翔エミは、そこで話の内容を話半分で聞いていたことを謝罪しつつ、少し考えるそぶりを見せる。

 

 

 

「―――勝てるかどうかまではわかりませんが、勝算が高いかもしれないって点では―――ダージリンの作戦を推します」

 

 

 ―――意外だった。彼女はアールグレイ様に可愛がられていた子飼いのようなものだったから。

 

 けれどどうだろう?

 

 ただ彼女に認めてもらっただけだというのに、まるで階段を数段駆けあがったかのように一気に進歩したように感じるのは。

 

 

 

 結果として、アールグレイ様の作戦通りであれば包囲殲滅されていたことが後で試合結果を見てわかった。

「私も焼きが回ったわー」と苦笑していたアールグレイ様だが、その顔に悔しさがまるで見当たらなかった。

 

 

―――包囲作戦を先んじて発見した功労者は、紅茶の園でまったりと自由気ままに珈琲を飲んでいる。

 

 

 戦車から飛び出した天翔エミが町の残骸をもとに急遽作り上げた要塞の上から報告した敵の動きを軸に、私が包囲作戦を読み取り、要塞に籠城すると見せかけて撤退用の通路を用意し、全員その通路から逃げ出した『空城の計』

 これを可能としたのはたった1輛の『クルセイダー巡航戦車』。

 

 空っぽのお城を背に、包囲までの時間稼ぎをするかのように走り回って敵の軽戦車と追いかけっこを繰り返し「あたかもまだそこに敵が籠城しているように見せかける」ことで、敵の榴弾を余さず使い切らせて後方の森から片翼をもぎ取る。もぎ取った片翼を瀕死で残し、救助へと向かう敵一団を、相手のお株を奪う二重包囲で焼き尽くす。

 

 

 

 日本の戦国時代にこの戦法はこう呼ばれていた―――『釣り野伏』と。

 

 

 

 

 〇〇月――日  曇り

 

 いよいよ明日は決勝戦。相手は黒森峰女学園。

 

 あの時の雪辱を果たすことができる。西住まほを相手にきっと天翔エミとアールグレイ様が拮抗してくれる。或いは討ち取ってくれるかもしれない。

 

 西住まほの傾向は読めている。相手は『戦術を読み切られてもごり押しで蹂躙する』を得意とする鉄血の西住流。その戦法を読み切るのは難しい話ではない。

 また、フラッグが西住まほの可能性は限りなく低い。何故なら西住まほにとっては自分を抑え込める相手がいるチームとの戦いだから。だとして西住まほが列を組んで集団で進軍蹂躙をするかというならその可能性も低い。

 

 一度抑え込まれた相手をライバルと見込んだ以上、それをなぎ倒すための研鑽を積み、それを大舞台で叩きのめさなければ西住流に影を落とすことになる。

 

 

 大きな流派という枷が彼女の戦略を縛る。それは私たちが付け入る隙になる。

 

 

 

 ――月――日  雨

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――月――日

 

 決勝戦は波乱が過ぎた。

 

突撃する西住まほの一隊を受け止めた天翔エミとアールグレイ様の部隊。

敵本隊を発見したクルセイダー偵察部隊。

こちらを目指して移動中のフラッグ車の本隊を受け止めるべく前進した部隊が敵本隊と衝突した盆地で―――

 

 

 ―――敵戦車の一部と私たちの戦車の一部を、決壊した川の濁流が飲み込んで―――

 

 

―――敵フラッグ車から飛び出し濁流に飛び込んだ車長の姿。

 

 

―――戦場を移しながら追いついた西住まほと、アールグレイ様を尻目に、

 

 

 

 

―――敵車長とともに皆を救うために濁流へと飛び込んだ天翔エミ。

 

 

 

 

 

 

 敵も味方も救助を優先する中で―――

 

 

―――一発の凶弾がチャーチルを捉えていた。

 

 

 

 ――月――日

 

 OG会によりコメットの使用禁止が提示された。

 

 OG会の抑圧を跳ねのけて「勝利のために」と強硬手段で手に入れた戦車なのだ。結局敗北してしまった私に反論の手段はなかった。

 

 あの時私は勝利よりも救助を優先した。敵の隊長もそうした。

 

―――ただ一人、勝利を何より重視した存在がいた。ただそれだけの話。

 

 

 

 ―――黒森峰副隊長、逸見エリカ―――

 

 

 彼女の行動を、しかし黒森峰は賞賛した。

 小学生のころに独逸で行われた西住まほの遠征試合。その現地で起きた事故においての彼女と同じ選択をした逸見エリカを、西住まほは「正しい行いをした」とインタビューの場で公言した。

 当然、賛否は両論。しかし、現在の戦車道における最大派閥のひとつであるという事実が、マスコミを、常識を鈍らせる。

 

 

 あれは正統な勝利であったと皆が認識してしまうほどには。

 

 

 

 ――月――日

 

 天翔エミの行動は間違ってなどいない。

 けれど私には彼女を助けることはできない。

 

 敗北の責任を取る形でアールグレイ様は苦い思いのまま卒業して行き―――

 

 

―――黒森峰では、逸見エリカが正しいと言われている陰で、一人の女生徒が戦車道の道から姿を消した。

 

 

 

 

―――これまでのすべてが崩れていく。

 

 

 

 

 

 ――月――日

 

 天翔エミがグロリアーナを去った。

わたしがすべての元凶だと言う者がいる。

 

 

実際その通りなのだから―――そう評されるのは仕方がないのだ。

 

 

 

私が弱かったから勝利できなかった。

私が間違えたから隙を生んでしまった。

私が弱かったから天翔エミを救えなかった。

私が間違えたから積み上げたすべてが崩れて消えた。

 

 

 

私が弱かったから。

 

 

私が間違えたから。

 

 

私が弱かったから。

 

 

私が間違えたから。

 

 

 

 

 

私が弱かったから。私が間違えたから。私が弱かったから。私が間違えたから。私が弱かったから。私が間違えたから。私が弱かったから。私が間違えたから。私が弱かったから。私が間違えたから。私が弱かったから。私が間違えたから。私が弱かったから。私が間違えたから。私が弱かったから。私が間違えたから。私が弱かったから。私が間違えたから。私が弱かったから。私が間違えたから。私が弱かったから。私が間違えたから。私が弱かったから。私が間違えたから。私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――わたしは、つよくなりたい。

 

 

 

 ――月――日

 

 反論は力でねじ伏せられる。戦車道の世界において勝利は何よりも雄弁だ。

英国人は戦争と恋愛においては手段を択ばない。わかっていたはずだった。

 

 

―――天翔エミのために手段を選んでいたからこそ、私は負け続けていたのだと。

 

 

 

 

 そんな言葉は言い訳だ。

わかってる。

 

 

 

 

 

 

 何より自分の強さは戦車道の中では目を向けにくい場所にこそある。

盤外戦術は戦術の内。使える手段を使って悪いことなどはない。

 

 

 ああ全く―――過去の自分ほど度し難い者はいない。

 

 

 

 

あの時の復讐を。彼女は望んでいない

 

 

 

あの時の仕返しを。そんな事無意味だ

 

 

 

あの日のやり直しを。覆水は戻らない

 

 

 

 

今年やり直して見せる。いつまで目を背けているのか

 

 

 

 

 

 

 

もしも私が貴女の敵であったならば、貴女は私を止めてくれるでしょうか?

 

ねぇ私の好敵手(天翔エミ)?そうしたら、貴女は私の前に立ちふさがるのかしらね?

 

 

 

*1
ライオンの尻尾になるよりも犬の頭になる方が良い:類義語『鶏口なるも牛後となるなかれ』




なお本作品は誕生日記念(大遅刻モード)のため

ぶった切りダイジェストモードになってます。


まほルート終わった後にでもアンケに登録追加して「次どのルートやるー?」って聞くかもしれません。









本家様が許すなら(予防線)

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