【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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気が付いたらスイッチがオフするようにオフトゥンに包まれていた。

続きを書いてる時間がないのであとで統合してまとめるとして、
後編の前の方を投稿します。




【 破の章 弐 後編-1 】

 木々の間を駆け抜けるクロムウェル。この程度の場所で速度を落とす必要などない。

 

 

「あの―――何故相手は撃ってこないのでしょうか?」

 

おずおずと、通信手がアールグレイに尋ねた。

アールグレイはただ静かに微笑んで通信手に答える

 

「当然よ。こちらが動き回って砲撃の距離感も角度も射線も、全て乱し続けているから。

 操縦手の技術あってのことだけど―――まぁ、今回に関してはそれだけじゃないわ」

 

 

アールグレイは片手に持ったカップに、備え付けられたティーポットを片手で支え、全速で駆け回る車内で正確に注ぎ淹れて見せた。

 それをクイと傾けて喉を潤し、唇を親指で軽く拭い、カップの端をPJに備え付けのナプキンで拭い

 

 

――――人差し指をひとつ、立てる。

 

 

「あのチームの弱点その1―――『砲手の経験値が足りない』―――」

 

 

 

 

     『 疾風Ⅱ 「刮目なさい!我は「疾風」アールグレイ! 後編」 』

 

 

 

―――Side Emi

 

 一言で言える 「 こ の 腐 れ ブ リ カ ス が 」

 

 もうね、この上なく戦車内部の空気が最悪です。

 

 

まず試合開始直後、アールグレイパイセンの指揮するクロムウェルは、雑木林方向に飛び込んだ。当然頭に血が上ってるエリカとそれを止めることもできない我々はⅣ号で追いかけた―――

 

 追いかけて雑木林の中に入り込んだ直後、背後で轟音。バキバキと言う音。

 

全速で駆け回りⅣ号の側面に大回りしたクロムウェルからの砲撃で『Ⅳ号の退路にあたる道が物理的に封鎖された』。砲撃がぶち当たった直後、割とでっかい樹がへし折れて退路を振座ぐ様に倒れたからだ。

 

 ―――狙ってやがったな 英国淑女(ジョンブル)―――!!

 

退路を断たれたⅣ号戦車の中で流石のエリカも追い込まれて罠にかかったことに気づき、前進して離脱しようとするも、木々の間を駆けまわるクロムウェルが的確にこちらの死角に潜り込もうとしてくる。

 加えてこちらの射線上に入る時は”近距離だったり遠距離だったり、場面場面で距離感を変動させている”

 

 ―――正直素直に舌を巻くレベルだわ。高等部になるとこうも違うのかと

 

ザクッと説明を省くが「ウチの砲手は砲手経験が浅い」

うん、これに関しては俺が悪い部分が多い。人間スピードローダ―による脅威の高速装填。その結果連射が可能になるので「精密射撃の必要が極めて薄い」

 それは砲手の成長を阻害するし、「外しても次がすぐ射撃てる」ってのは安心であると同時に慢心になると今気づくことになった。

 

 

―――で、今ですが。もう一度言います。

「 戦 車 内 の 空 気 が 最 悪 で す 」

 

 

 もうね、エリカはやすやすと挑発に乗って飛び込んだ結果が虎口で盛大に凹んでるわ、砲手の子は射撃ができない、照準を合わせる余裕がない、撃っても当たらなかったらエリカが何言うかわからないのでテンパってトリガーが引けない。

操縦手はどっち進んだらいいかわからない。下手に動くとクロムウェルから砲撃が飛んできて装甲をガリガリ削ってくる。

 

―――結論:地味に詰んでる。

 

 さて、どうしたものかなと黙考するのだけど―――みぽりんがさっきからずーっと黙ったまま地図とにらめっこしてブツブツ呟いているのが正直ちょっと怖いと同時に、なんかやってくれる一縷の望みを感じさせてくれた。

 

 

 

 ―――本当、頼むよみぽりん。お前が現状を突破する最後の光だ―――

 

 

 

 

******

 

 

 

―――Side Miho

 

 敵車輛はクロムウェル ミーティアエンジン搭載型 主砲は6ポンド砲

雑木林 倒木 腐葉土 行進間射撃 止まらない戦車 疾風 勝利条件 敗北条件

聖グロリアーナ アールグレイ ダージリン 逸見エリカ 天翔エミ アンブッシュ

 

―――左後方30度 右前方45度 正面0度 後方斜め22度 左側面90度 右側面38度 左前方13度 47度 88度 右後方33度…………

東南東、北北東、西南西、南東、西方、北方、

 

 

 

北東東北東東南東南南東東南東東南北東東南西南西西西西――――――――

 

 

 

*******

 

 

 

―――Side Earl grey

 

 

存外に呆気ないわね。あの娘を苦しめたとは思えないくらいに

 

 

そうなると次の可能性はアレか―――

 

 

―――特定条件下での才能の開花―――いやぁ、面白いわ。新人(ルーキー)

 

 

 ―――貴女の撃鉄(ささえ)は何なのかしら―――?

 

 

********

 

―――Side Emi

 

 いやぁ……クロムウェルは強敵ですね(現在進行形)

 

圧倒的ではないか敵軍は!とでも言おうか。全く手も足も出ないまま四方八方から攻撃を食らい続けてる。遠距離からの砲撃は呼び水で回避運動を取った瞬間、その死角になる位置に既に移動していて、接射撃で装甲にダメージを的確に入れて来る。

 もうね、Ⅳ号がボロッボロなの。正面装甲にも何発も被弾しててボコボコのボコだし側面の履帯をカバーする部分は装甲が薄いんでぶっ飛んでるし。

 

 エリカは自信喪失して涙目だわ操縦手は指示が来ないんでどうしていいかわかんないで固まってるわ砲手に至っては完全に心が折れてる

 

 ―――あれ?詰んでない?

 

 

「―――儘ならないなぁ……」

 

 

装填手用の座席をギッと軋ませてぽつりとつぶやく。

 

本当に儘ならないなぁ―――

 

 

 

―――なんで涙目のエリカを慰めるはずのみぽりんが俯いて我関せずなのかと!

 

 

 

 いや本当にね?このシチュエーション自体はご褒美なのですよ。さすアールにいいね!してもいいくらいに。普段強気で攻撃的なエリカが自己嫌悪で涙目になってるのは尊い。それを優しく慰めるべきみぽりんが今ここに、いない。

  ―――片手落ちでしょぉ……?

王手飛車取りをどや顔でキメてるけど自分は前の局面で王手食らってた みたいな致命的な片手落ちだわー、パイセンこれはないわー。

 

 

 そんなタイミングで、通信が入った。 パイセンから

 

 

「―――ハァイ、私アールグレイ。今雑木林にいるの」

「ドーモ、現在周囲が通信できる状態にないんで代理で通信させてもらいまーす」

 

 

やかましいくらいの駆動音が聞こえなくなったので、通信してる間どっかのブッシュに隠れてるらしい。芸が細やかなパイセンに舌を巻かざるをえない。

 

 

「―――で、まーだ続けるぅ?今なら投降も許可するわよ?」

 

 

 投降―――ギブアップ。まぁ正直其れも手ではある。

 

 未だブツブツと呟いてるみぽりんは現実に戻ってきてないし、この勝負そもそもエキシビションマッチとしては『大人と子供の戦い』なのだ。

「高等部まで研鑽を詰めばここまで強いんですよ」ってのをアピールする戦いとしてはこれ以上ない程の成果を見せてると言っていい。

 負けた時の条件「俺を一か月レンタル」ってのに関しても、まぁ通信相手のパイセンがガチレズで聖グロリアーナが百合の花園だったとしてもあまり問題にはならない(といいなぁ)

 みほエリの過程を一月も観察できないのは残念無念に過ぎるけれど俺がいないことで二人の関係が一歩進む可能性も―――『投降は、しません』―――お?

 

『投降は―――しません。エミちゃんは、渡しません」

 

グッと顔を上げて通信機の向こうにいるパイセンに強気の目を向けるみぽりん。覚醒みぽりんのケツイを込めた瞳はエリカにも勇気を与えたのか、エリカがみぽりんの手を取って二人で通信機に向かって声を上げる

 

「ええ―――よくもやってくれたわね。絶対勝ってやる ってとこよ」

 

通信機の向こうでケラケラ笑ってる声がする。あ、これすげーツボに入った時の笑い方だ。アールグレイパイセン的にはすごく面白い返しだったんだろう。

そして俺からも言いたいことがある。

 

―――ありがとうパイセン。さすアール。感謝します

 

みぽりんとエリカが手を繋いでお互い支え合って巨大な敵と立ち向かう。これだよこれぇ!!わかってるじゃないかぁ!俺のボルテージもMAXですよ!!

 

 

「そうねぇ―――じゃ、掛け金の変更として―――

 

 

 ―――――あなたたちどちらか一人が身代わりになる でもいいわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――  は  ?

 

 

 

 

 

 

 

 

*******

 

 

―――Side Earl grey

 

「あなたたちどちらか一人が身代わりになる でもいいわよ」

 

通信機でそう伝えた直後――――”空気が変わった”

ミシリと音をたてて、強烈なプレッシャーがあの戦車から放たれている。

 

 

―――私は理解した。【虎の尾を踏んだ】と―――

 

 

 

―――いいわ。あなたたち、すごくいい。きっと最高に愉しませてくれるのでしょう?抗って見せなさい―――新人(ひよっこ)ども

 

 

******

 

―――Side Erika

 

ミシリと、音をたてて空気が軋んだ―――ーいえ、『変わった』

 

ぐしゃりと音をたてて、砲弾を入れている鉄製のケースの端がひしゃげていた。

ケースをひしゃげさせた本人は、今迄見たこともないような笑顔を見せている。

犬歯をむき出しにして、今迄のような飄々とした表情とは違う、

 

 ―――とても綺麗で、好戦的な笑顔―――。

 

笑うという行為は本来攻撃的なものであり 獣が牙をむく行為が原点である。

何処で見たのかは覚えてないけれど、そんな言葉を思い出した。

 

「―――アールグレイ先輩……ルールを確認しようか。

 

 ―――こちらのⅣ号が行動不能になる前に、砲弾を当てれば勝ち、そうだな?」

 

エミから今までにないくらい深い低音の声が漏れる。重圧に砲手も操縦手も怯え切っている。ただ一人、私と手を繋いでいる娘を除いて―――。

 

「―――ええ、そうよ。でもそれはあり得ない。貴女たちは【疾風】をとらえきれない」

 

通信機からやや真剣味を帯びたあの女(アールグレイ)の声が響く。その言葉は何よりも雄弁に今の現実を語っていて―――

 

 

 

 

 

「――――― 知 っ た こ と か 」

 

 

通信機をひったくったエミが、そう宣言した。

 

 

「―――先輩。こんな格言を知ってるかい?

 

 ―――人間には触れちゃならない傷みがあるんだ。其処に触れたらさぁ―――

 

 

 

 

    ―――あとは生命のやり取りしかねぇだろうが――――ッッ!!!」

 

 

 

 

 

グシャリと通信機が『握りつぶされた』。エミは本気で怒っている。冷静に、本気で怒り狂っている。

 

 その原因が「私たち」にあるって言うのが、なんだか少し、胸のあたりが暖かいのだけど―――

 

 

「―――みほ!考えてる作戦。あるんだろ?」

「ふぇ!?は、はい!あの……ただ、この作戦は一度しかできないし……今のままだと、相手の動きを止めることしかできないから……一撃で相手に当てる必要があって―――」

 

 

みほが口ごもる。車内に重い沈黙がのしかかった。

砲手の娘はもう完全に心が折れている。今のままでは役に立たない。みほがどんなに頑張っても――――これじゃ、もう―――

 

 

「―――大丈夫。マカセテ」

 

 

砲手の肩に手を置いたエミが、砲手の顔を自分の方に向けて、そう言った。今度は攻撃的ではない。仲間に向けるそれ。優しい微笑み。

 

 

―――不思議ね。アンタが言うと、信じてみたくなる。

 

 

色々と規格外過ぎて目を背けていたけれど、エミは人間だ。私たちに対していつも飄々としているけれど、怒る時は怒るし、泣くときはきっと泣くのだろう。

 

 

「みほ、アンタの作戦、聞かせなさい

 

 ―――砲手!!信じてるから、決めてやりなさい」

 

迷う事なんかない。どうせこのままだと詰みなんだし、ノッてやろうじゃない。

 

「はい!では……「ばったん作戦」について、説明します」

 

 

―――ごめん。今真剣なシーンよね?その作戦名はないわ。うん、ない。

 

 

 

****

 

 

 

―――Side Emi

 

―――おまん、みほエリを奪おうっちや?(維新志士感)

 

今、決定的に決まったぜ―――!!

 

俺が自分をピロシキする前に、テメェをピロシキする方が先だ――――ッ!!

 

滅・滅・滅・滅、亡・亡・亡ォォォ――――!!!!

 

 

 




今回はエリカのターン(と作者は思っている)

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