【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
Ураааааааа!!
「貴女、“虎の翼”天翔エミね!?」
「え?あ、はい……」
―――それは初めての出会いの話。
「貴女見所あるわ!!カチューシャの同志にしてあげる!黒森峰に愛想が尽きたらプラウダにいらっしゃい」
「そうだね、もしそうなったら考えさせてもらうよ」
社交辞令の断り方だ。と感じた。彼女の前には必ず精神的な壁がある。
立ち入れない。踏み込めない。近づけない。
そのくせ、私たちのガードは飛びぬけて踏み込んでくるのだ。こちらからは踏み入らせないくせに。
―――彼女の抱えているモノを知りたい。きっと彼女だけが背負っている何かがある。だって彼女は、常に何か遠くの目標を見ているような目をしているのだから。
『カチューシャ生誕記念 【Хочу быть равным】』
初めての出会い?は、一方的だった。
プラウダ高校に入学する前、中学の頃に一度だけ。全国放送された中学生の部、戦車道大会の決勝戦。
―――圧倒的な強さを誇る黒森峰のリーダーとして燦然と輝く西住まほと、
その隣で、同じくらい輝いている小さな少女。
私にとって小さな身体はコンプレックスの塊だった。小さすぎる身体のせいでどこに行っても子ども扱い。どんなに助言をしようと、どんな提案をしようと、子供が言っていることだとまともに取り扱ってもらえない。
だから努力した。何物にも負けないくらい。
あの日あの時、戦車道の優勝チームとしてしどろもどろでインタビューを受ける彼女の姿は、正に私の理想形だった。自分よりも大きな連中の中で、圧倒的に光る存在感。皆に認められ、王者の軍勢の中央で並び称される彼女の姿に、私は自分の姿を重ねて―――かぶりを振った。
そうじゃないわわたし。あの子の功績をかすめ取るなんて、わたしじゃない。
イメージを調整する。彼女の隣に立つ私を、想像する。
想像だけで終わらせない。彼女みたいに、実力を示せば皆が認める。【彼女は確かにそんな前例を今作った】
これから卒業後、入学して通うことになるだろうプラウダ高校も戦車道の名門。私の望む未来は、私の手でつかみ取る。
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プラウダの下級生を掌握して、上級生が卒業して。一年目の高校生活が終わった。
様々な事件があり、カチューシャは漸くこの場所で認められることとなった。
唯一無二の同志もできた。名前はノンナ、スラっとした高い身長とその恵まれた体格による高い身体能力には目を見張るものがある。
プラウダの他の面々も戦力として上場の強化ができたと自負できる。
ただ―――次弾装填3秒という脅威の速射砲への対策は出来ていない。
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「どうした?迷子か?」
「あ、え?えぇと……」
黒森峰の練習風景を偵察にやってきた私は、その圧倒的な実力差に這う這うの体で逃げ惑い、森の中で子熊のように震えることしかできなかった。そんな私に声をかけてきたのが―――私と同じくらいの身長の、あの娘だった。
偵察行為は認められてはいるが、捕縛された捕虜への待遇は各学園艦預かりとなり、待遇面は各々の学園艦次第。
目まぐるしく思考が回転する。混乱冷めやらぬ中で私が取った行動は―――
「貴女、“虎の翼”天翔エミね!?」
「え?あ、はい……」
「―――サインちょうだい!お姉ちゃんに自慢したいの」
―――“黒森峰の演習場に入ってきてしまった困ったお子様”を演じることだった。
私の目論見がうまくいったのかどうかは分からない。けれど目の前の彼女はにっこりと笑って「ああ、はいはい」とメモ帳を受け取ってそこにサラサラとサインして、ぽんぽんと頭を撫でて帰っていった。
―――助かった……?
そう安堵してその場に腰を抜かした私のところに、ノンナがやってきたのだった。
「災難だったわね」
「全くよ―――よりにもよって子供の真似をすることになるとは思ってもみなかったわ」
帰りの船で悪態を吐きながらパラパラとメモ帳をめくる。メモ帳の最後に書かれた彼女のサインを見ると、目元が緩むのを止められない。
Tigerflügel 天翔エミ カチューシャへ
―――幽かな、違和感を感じた。
「――――あっ!!」
私は自分の名前を彼女に告げてないことに、今更になって気付いていた。
つまり彼女は私の名前を知らなかったはずで、でもこのメモ帳には私の名前が……
つまり―――最初からカチューシャがカチューシャだってバレていたの?
その状態で間抜けにも子供の振りをするカチューシャに合わせてあやされていたの?彼女に?
――――顔から火が出るとはこのことだろう。今更ながらに恥ずかしくて死んでしまいたいくらいだった。
「―――カチューシャ?」
「……ノンナ、次の大会で、絶対に黒森峰をぶっ潰すわ!」
「……да」
恥ずかしさを紛らわせたのは怒りの炎だった。よくもカチューシャにあんな辱めを受けさせたわね!おぼえてなさいよ天翔エミ!!ぎったんぎったんのぼっこぼこにして土下座させてやるんだから!!!
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そして――――あの運命の決勝戦を迎える。
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「エミーシャが、黒森峰からいなくなった?」
「да。黒森峰に紛れ込ませたKPB(プラウダ安全保障委員会)の諜報員からの報告です。黒森峰全体に箝口令が敷かれ、彼女に関する話題は学園内では一種の禁句になっている模様」
あの決勝戦で優勝した後、エミーシャに勝利を誇ろうと彼女のところに向かおうとする私は止められて、あの日試合前に会った彼女が、私の見た最後の彼女の姿だった。
「―――それで?エミーシャの行方は?」
「目下探索中です」
エミーシャの身体能力については私も把握している。本気で逃走に専念すればそこいらのプロ顔負けで逃げおおせることもできるだろう。
―――“あの決勝戦で戦車を捨てて単身でフラッグに潜伏車輛を報告するためにこちらに向かってきた時のように”
「―――まてよ?」
はた、と立ち止まった。
あの時の決勝戦での言葉を思い出す。ゆっくりと、鮮明に―――
「貴女見所あるわ!!カチューシャの同志にしてあげる!黒森峰に愛想が尽きたらプラウダにいらっしゃい」
「そうだね、もしそうなったら考えさせてもらうよ」
―――顔が紅潮していくのが分かった。これはアレね、季節外れの寒暖差から来る急な発熱ってやつよね?そうよね?
「―――カチューシャ?」
「べべべべ別にエミーシャのことはどうでもいいのよ!どうでも!―――あ、いや、よくない!よくないけどいいのよ!?」
「―――はぁ……」
希望的観測よ!希望的観測すぎるわよカチューシャ!自省よ!自省しなさい!貴女はプラウダのトップなのよ!?できるでしょカチューシャ!できる子でしょ!?
「―――そうね。エミーシャの探索はほどほどでいいわ。代わりに黒森峰の内部諜報に回しなさい。エミーシャが居なくなったのなら、内部は今ガッタガタのはずよ。スッパ抜けるうちに抜かせてもらおうじゃないの」
「Я понимаю」
一礼して退室するノンナのロシア語に「日本語!」と怒鳴り返す余裕もなかった。ノンナに見せまいとしてそっぽを向いていた顔がニヤケている。表情が戻らない。
―――もしかして、来ちゃうの?プラウダに?エミーシャが?
ひょっとしたらの予想は、今希望的観測が大きく上回って確信として脳を支配していた。
その日から数日間の浮かれ具合は、ノンナが「まるでカチューシャがサンタさんを待つ小さな子供みたいでした」とコメントするくらいだったらしい。死にたい。
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―――時は流れ、全国戦車道大会高校生の部 準決勝。
「斉射やめーー!!!――――三時間の猶予を与えるわ!!」
「―――構わないのですか?」
念押しするような調子のノンナに「構わないわ!」と返す。
「そうね……表向きは降伏勧告でいいわ。砲弾もタダじゃないんだから無駄は省かなきゃね?」
使者に立たせる生徒を二人連れてきて、白旗外交のための特使腕章と旗を渡す。
「よく聞きなさいあなたたち。そして一言一句余すところなく伝えなさい。―――コホン。『これ以上の戦闘は無意味なので降伏勧告を行います。全員土下座すれば降伏を認めてあげる』いいわね?
―――まぁ、エミーシャのことだから降伏勧告なんて無意味だろうけど。戦車を応急修理する時間くらい与えてあげるわ。全力で、対等の立場で叩き潰してあげるんだから!」
「―――了解しました。確かに伝えます!」
二人して頷いて、特使の子たちは立てこもりを続ける大洗の連中のところに歩いて行った。途中ノンナが何やら話をしていた様だけど―――頭を使いすぎて眠くなってきたし、ボルシチ食べてひと眠りして、それから―――
―――エミーシャと対等で本気の勝負がやっとできる。楽しみだなぁ。
『IF まほルート』におけるプラウダ戦裏話的なそれ。
なお準決勝で戦っていたのはみぽりんであって決してエミカスではないあたりがカチューシャの敗因である。
プラウダ戦前の「カチューシャのものになりに来たの?」はこの辺から来てます()