【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
※今回のお話には【ガールズ&パンツァー最終章第2話】に登場した設定が使用されています。その辺のネタバレを気にしない方か、読んでも別に気にしないという方だけスクロールしていってください。
【わーにん】【わーにん】【わーに!ん】【わーにん】【わーにん】【わーにん】
「―――おい、転校生」
―――私の所属する学園艦、大洗学園艦に季節外れの転校生がやってきた。
「―――はい??」
「はい?じゃあない!ええと……確か名前は……」
―――そいつは相当目立つ外見と、奇行が目立つ女で
「―――天翔。天翔エミですよ」
「そうそう、天翔だ。お前―――ここで見たことは忘れろ。いいな?」
―――その日、私は弱みを握られた。
『 かーしま? 』
―――学園艦が廃艦になると告げられる少し前。
「―――かーしまぁ!」
大きめの声にビクリと身を震わせて首を向けると、やや責めるような目の生徒会長―――角谷杏ちゃんがいた。
「何度も呼んでるだろー?どうした?調子悪いのかかーしまぁ?」
「―――いえ、大丈夫です」
短く答えて書類に向き直る。考え事をしていたせいで会長からの言葉を聞き逃していた。猛省しなければならない。
「―――それで、どうしたのですか?」
「いや、転校生の天翔エミについてなんだけど……」
ドクンと心臓の跳ね上がる音を感じた。動揺を抑え込むために必死に呼吸を整える。ヒッヒッフーヒッヒッフー……
「―――おいかーしまぁ?どうした?」
「い、いいえええ!!ななんでもありませせん!!―――そ、それで、天翔がどうかしましたか?」
「あぁ、あの子の経歴、洗ってくれる?特に前の学園艦からここに来るまでの経緯」
「……は?あ、はい……では、取り掛かります」
「よっろしくー」と明るい声の会長に見送られて生徒会室を出る。ぱたんと扉を閉じて、少し、考えてみる。
何故会長が、そこまであいつを気にするのか?
疑問ではあったが原因がわからん。どういう意図があるのだ?と、考えてはみるものの、結局会長の―――杏ちゃんの考えは私程度には推測もできない。が、同時に気付いてしまった
―――これは、チャンスだ。 と―――
生徒会長から直々の要請での調査という名目で堂々と【天翔エミの弱み】を調べることができる。私が握られている【弱み】と相殺、いやそれ以上の弱みを握ることだって不可能ではない!
「ふふふふふふ……よぉし!首を洗って待っていろよ天翔ォォ!!!」
気合を入れて、私は改めて足取りも軽く駆け出した。
*******
―――天翔エミ
身長:公称で124センチ。かなり低い
体重:約20㎏前後。高校生なのか!?
身体能力:
ベンチプレス150kg
平均速力30km/h 持久力:平均速度のまま2時間
趣味
トレーニング、珈琲
元黒森峰女学園戦車道科生徒で、中等部のころには副隊長を務めたこともある。
また、中等部のころから隊長である西住まほの相棒として【虎の翼】という二つ名で呼ばれている。
装填手でありながら二つ名を持っているという点で破格の選手であり、その装填速度は世界でも通用すると言われており、中等部時代に月間戦車道の特集にインタビューが掲載されたこともある。
「―――完璧超人かこいつはッッ!!!」
何なのだこいつは!なんでこんなエリート選手が黒森峰を飛び出して大洗に来てるんだ!?というか黒森峰を飛び出したにしても戦車道の無い学校に来て何がしたいんだコイツは!?
*******
「ただいま」
くたびれた街並みを足取りも重く帰宅する。収集した情報の処理で頭がパンパンだ。
私はもともと、おつむが良い方ではない。―――見栄を張らずに言うのであればむしろ悪い部類に入る。
―――だから考えることは会長に、杏ちゃんに任せることにした。
丸投げではなく、彼女だからこそ信じられるから―――その選択を受け入れることに責任を持つ。私が失敗するとしたらその責任は選択をした杏ちゃんではなく、杏ちゃんに選択を委ねた私が負うべきものだから。
その代わり私はその選択を全力で支持しよう。この身この魂を懸けて推し進めよう。
「桃。おかえり」
「ももねーちゃんおかえりー!」「桃ちゃん?」「桃ちゃーん!!」
いつもよりは血色がよい母と、ドタドタと廊下を軋ませてやって来る弟、妹たち。ただ、その数はいつもより少ないほどで―――奥からさらに声がする。
「よーし具材刻んだし、味付け任せたー」
「はーい!えみねーちゃん!!」
「ねーまだー?まだー?」
台所でエプロンを付けて、出来あがりをワクワク待っている末っ子を後ろに上の妹と一緒に料理をしている【それ】に―――
「な、なななななななな―――なんでお前がここに居るんだ!!!!!!?」
―――私は思わず大声を上げていた。
翌日、私の報告書を読んだ杏ちゃんはとても驚いていた。
どうやら【虎の翼】とやらの有名さは戦車道を知らない世代にもそれなりに認知されているらしい。
――追記
天翔の持ってきた「家で余ってた食材」とやらはうちの食べ盛りの弟妹たちに大盛況だった。顔から火が出そうだ。
翌日、何故か指に痛々しく包帯を巻いた天翔と顔を合わせたらおもむろに低姿勢で謝罪された。こいつの行動が全く意味不明で理解できない。
*******
――月――日
みぽりんが黒森峰を辞めたとパイセンから報告受けて飛び出した俺は、勢いに任せて飛び出したせいで年明けから編入する形になり、めっちゃ悪目立ちするうえにみぽりんはまだ到着してないというアホすぎる醜態をさらしていた。
馬鹿なの俺?死ぬの??
編入してみぽりんのいるであろう教室をのぞきに行っていなかった時の衝撃はいかほどなものであったか。呆然自失で真っ白になった俺は学校の授業をそのまま受けて、頭が真っ白なままパルクールに仕えそうなルートを散策して、
“ わし ぶんぐ ” という看板の古めかしい店の前でたくさんの弟、妹を連れて買い物袋片手に只今帰宅中という感じの桃ちゃんに鉢合わせして、気が付いたら「ここで見たことは誰にも言うな」と脅されていた件。
――月――日
“最終章第2話”で初めて描写された桃ちゃん一家(?)の家族構成と家の台所事情。テレビ番組で特集とか組まれてるドキュメンタリーによくありそうな子宝に恵まれ過ぎた弊害ってのはどこにでもある。調子悪そうに桃ちゃんを出迎えていた(最終話での話)母上様の姿を見る限り、日常生活にあのあばれ盛りを放置しておくのは大変だろうと想像に難くない。
みほエリウムが欠如していた俺はこの時きっと色々おかしかったのだろう。
気が付いたら自室でちまちま調理してはサプリメントのアクセントとして食ってた食材を適当に詰め込んで桃ちゃんちに突撃していた。で、料理のお手伝いとかしてる上の妹さんを巻き込んで欠食児童(食べ盛りという意味で)の腹を満たすお仕事として、具材をカットカットカットカットカットカットカットカァットォ!!する枠として頑張ってみた。まあ味付けは俺がバカ舌なのもあって最終的に平均以下の料理になってしまうんだが、食べ盛りで質より量の連中には、具材を適当にカットして適当に煮込んで、雑に味付けしたポトフこそ至高だと言えよう。
日記にここまで書いておいてなんだが今日の俺どう考えても不審者だよな?
編入して来てあんまり経ってない状態でよく知らないクラスメートの家に上がり込んで料理作ってるって普通に考えて逆に怖いよな?大丈夫?俺の常識大丈夫??
明日桃ちゃんに全力で謝罪しておこうと思う。あと小指一本ピロシキしておこう。
*******
「―――そういうわけで、来年度いっぱいで其方の学園艦は廃艦となります」
頭が真っ白になるとはこのことだろうか?
学園艦がなくなる?
私たちの学校がなくなる?
いやそもそも私の実家は―――わたしたちの家は学園艦上にあるんだぞ!?
「学園艦上にある家屋については、立ち退きに際して一定額の立退料が支払われます。そのお金でまぁ、陸の上で家を探すことをお勧めします」
ただただ淡々と告げるだけの目の前の役人の男の声が耳に響かない。
“かわしま文具店”は、確かにうらぶれていて、売り上げも低迷している。デジタルに傾倒したこの世の中で文具は廃れるだけで、それでも家業として継いだ父が、身体の弱い母のために店を続けている。そんな店だ。
古ぼけて汚くて狭くてどうしようもない家だが、こんな理不尽で潰されていい店などでは決してない。
―――けれど、国の命令など、覆しようがないじゃないか……!!
「―――じゃあさ、戦車道大会で優勝したら、廃艦にできないよね?優勝校を廃校にするわけにはいかないでしょ?」
それまで黙って話を聞いて居た杏ちゃん―――会長が人を食ったような不敵な笑みを浮かべて、役人と正面から視線を合わせてぶつかり合っていた。
できるはずがない。そんな風な人を馬鹿にした笑顔で二つ返事の約束をして役人は去って行った。塩でも撒こうかと憤っていた私に
「かーしま?―――戦車道、やるよ」
「―――はっ!」
覚悟を決めた会長の声が私を冷静にさせてくれた。
*****
実際問題、八方ふさがりだった。
金もない。人もいない。戦車もない。
ない、ない、ないとどこを見ても行き止まり。頭を抱えたくもなろうというものだ。それでも会長はのんびりと書類のあれこれを調整して削減して余剰分を引っ張り出していく。
私にできることはないのか?
何かできることはないのだろうか?
考えて考えて考えて―――
「―――会長!!!天翔エミを連れてきます!!」
“それ”に思い当って生徒会室を飛び出していた。
―――家の弟妹たちとあまり変わらない小柄な天翔を両手で抱えて、悲鳴を上げる天翔を無視して、生徒会室に駆け込んだ。
やった後で自分がどこまで追い詰められていたのかを理解して、必死に天翔に平謝りしていた。天翔が温厚な性格だからよかったようなものの、大問題だ。
とはいえ、あとは会長が直々に交渉を行う。私と柚子ちゃんは左右で控えているだけ。必要と感じたら圧を掛ける役割となる。
「―――もう一度、ここで戦車道ができるんですか?」
その天翔の言葉が引っかかったのは、私だけではなかったらしい。天翔がこちらの要請を受けて戦車道を受けてくれるとまとまった後で、天翔への情報収集をより精査に行っていく―――
“第62回戦車道高校生大会決勝戦において、搭乗車輛から降車して逃亡”
この一文だけが、彼女の戦果の中で異様なほどに存在感を放っていた。
その後、黒森峰学園艦から失踪。行方不明となっていた間は聖グロリアーナ女学院で過ごし、今年の初めに大洗へ編入。前半部分の安穏としてきらびやかなエリート街道から一転した転落人生と言っていい。だが―――
「わけがわからん……」
そもそも、弾を込めるだけの装填手が他のメンバーを放り出して、試合を放棄して逃げ出すなどどういう状況なのだ……?
考えてもわからないことは会長に任せることにするライフサイクルが板についてしまった私は、考えることを放棄して、書類を封筒に仕舞って鞄の中に放り込んだ。
「桃ちゃーん。ご飯だよー」
夕飯の準備ができたと呼びに来る上の妹に返事をしようと振り返って
「あ、今日は直売所のおっちゃんに芝海老貰ったんでおすそ分けに来ました」
「なんでお前は当然のように馴染んでるんだぁ!!!?」
当然のように台所で鍋を振るっている天翔エミに声を荒げていた。
*******
それから、春が来て。
西住みほが転入してきて―――戦車道を広報して―――
サンダース戦。
アンツィオ戦。
プラウダ戦を、終えて―――
「―――明日が決勝戦……か。……あっという間だった気がするな」
「お疲れ様。ミルが終わったけど、どうする?」
「戴こう―――というか、もうすっかり慣れてしまったな」
「料理は大人数の分作る方が安上がりだから」と言って強引にうちに通ってくるようになった天翔は、いつの間にかうちの新たな一員のように浸透していた。
最初の方こそ違和感が酷かったが、天翔は子供の扱いにも慣れていて、私の負担は目に見えて減っていた。弟妹たちが天翔にかまけているのを見るのは当初寂しい思いもあったものだが、天翔エミの生い立ちを知ると、そんな考えも起きなくなった。
孤児院で育ち、天涯孤独の身で努力に努力を重ねて黒森峰に入学。
それはどれだけの努力を重ねればできることなのだろう?
天翔は頭がよろしくない。下手をすると私と同レベルの成績を見るに、無事に黒森峰戦を終えれば待ち受けているであろう期末テストも惨憺たる結果になるだろう。
それはまぁ、私も同じだが……。
ともあれ、勉強でどうにもならない壁を、戦車道の成績でこじ開けて、黒森峰の門戸を叩き、戦車道に明け暮れていた天翔は、本人曰く指揮センス皆無、砲手も落第、ギリギリボーダー以下が操縦手と通信手で、努力で何とかなりそうなポジションが装填手だけだった。と語っていた。
それほどまでに戦車道が大好きだと公言しているこの娘が、敵前逃亡しなければならなかった理由は何なのか―――?
「―――熱っ」
思案しながら口を付けた珈琲は、火傷するほどに熱く感じられた。
そうして決勝戦を終えて、優勝を飾って。
廃校問題が白紙に戻ったと泣いて喜んで
卒業後の進路の問題にぶち当たって、同じように成績の問題で悩んでいる天翔と話し合いという名のどうでもいい愚痴大会を繰り広げtttttttttttttttttttttttttttttttttt
「―――ただいま」
「おかえり、桃」
家に帰ると母が出迎えてくれた。
喪服を着替えて、台所に立つ。あのころから比べると多少はよくなった様だが、母ももう高齢だから無理をさせたくないと、私が料理を取り仕切ることになったのはいつの日だったか……?
あいつの影響で戦車道を始めようと息巻いている上の妹や、中学から始めるためにと戦車道の教本を開いて勉強している妹を見ると自分たちがやってきた道のりの成果というか、そんなものを感じられた。
あの時からずっと使っているフライパンや、使っていて壊れてしまったから、皆で出かけて新しく買い直した鍋や、まとめ買いした調味料なんかも―――
―――なにもかもが、エミを思い出させる。
「―――桃。今日くらいは私が」
「いや、いいんだよおかあちゃん。私にやらせてくれ」
包丁を握って、具材を刻んでいく。
あの頃のように、軽快な響きは聞こえない。
鍋に水を張って、具材を放り込んで―――煮込む。
あいつが初めてここに来た時の料理。
声を荒げて驚愕したあの時の自分と、どこであろうと変わらない気楽そうなあれの表情。
『バカ舌』と自認していたあいつの味は、よく覚えている。
「―――――ふっ―――――――くっ―――――――」
グツグツと煮える鍋からアクを取り出していく。
湧き上がる湯気で私の目の前もすっかり曇ってしまって、視界はにじんで見えない。
ぽたりと鍋に堕ちる雫は、ほんの少しだけポトフを塩辛くした。
******
「―――なぁ天翔。女が女を好きになるのは、間違っていると思うか?」
あーはいはい会長のことかな?杏桃おいしいです
「いや、それは人の価値観の問題だと思う。少なくとも私はいいと思うよ」
「そ、そうか……!」
グッとガッツポーズを取る桃ちゃん。ああ~~杏桃いいッスねぇ~~。柚子桃も捨てがたいとは思うけど!ツーラビッツ、ノーラビッツ!悩ましいッッ!!
「天翔はその―――気になる相手は、いるのか?」
「いやいや桃ちゃんさぁ……私のこのナリで告白してくるやつがいたらそいつは正常な趣味してないだろ」
「そ、そうだろうか?いや……まぁ、そうなのかもしれない、が……」
キョドってる桃ちゃんは珍しくもないが、なんかいつもにもまして挙動不審である。
「―――あのな、天翔。聞いてくれ。
―――私はな―――――――――――――」
~ 天翔エミが謎の喀血により病院に運ばれ、それまでいかにボロボロの身体を酷使していたのかを訥々と医者に告げられるまで、あと5分 ~