【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
負けた。完膚なきまでの大敗北だ。
三年の期間をかけてホームグラウンドに作り上げたトラップも
即座に展開できるように仕込んだ書き割り式の戦車の壁も
何もかも打ち破られ無惨に討ち取られた。どうしようもない力の差に心が折れそうだった。
だが、そんな負け犬の私に黒森峰の隊長は言ったんだ。「胸を張れ」と。
次こそは負けない。次こそは勝つ!下を向くのはもうやめだ。胸を張ること、常に自信であふれた私であれ!西住まほに、天翔エミに誇れる私であれ!!
******
「あのさ……安斎さえよければ、黒森峰に来ないか?」
「―――なんだって?」
唐突にそんなことを言われ、安斎千代美は思わず声を上げていた。
目の前には提案をした少女、天翔エミが恐る恐るといった様子で千代美を見上げている。
「―――そうだな。君が居れば、助かる」
エミの隣で千代美を見送ろうとしていた西住まほがそれに同意する。
「歓迎しよう。安斎千代美―――
――――私たちと未来を作らないか?」
―――それはある種の殺し文句のようなものだっただろう。
自信に満ち溢れた少女の言葉と態度は、カリスマとしての効果を果たす。まるで彼女を中心にして世界が回っているような圧倒的な存在感。
「―――時間もないし、今答えを出すべきじゃない。と、思う。
―――すまないが、少し考えさせてくれ」
「そっか……じゃあ、連絡先交換しよう!」
絞り出すように答えた千代美に、人懐っこい笑みのまま、エミが携帯を取り出して千代美とアドレスと電話番号の交換を行う。エミの携帯からまほへと伝達が続き、まほの携帯にも千代美の番号とアドレスが渡ることになった。
―――帰宅して、一人になって……千代美はベッドに仰向けになって天井を見上げていた。
―――次は負けない。次は勝つ。
心の中にそう強く思ったのは事実だ。だが―――
―――“私たちと未来を作らないか?”
どうしようもなく心が揺れた。
西住まほ、天翔エミ。あの二人とともに駆ける戦場。
その光景が―――脳裏に浮かび上がってどうしようもなく千代美を苛むのだ。
―――敵として戦いたい。けれど、ああ、全く度し難い―――
―――どうしようもなく、西住まほの誘いに惹かれている自分がいる と。
―――時は流れ、中等部を卒業し、涙を流して見送る西住みほと逸見エリカを筆頭とした下級生を背に、天翔エミと西住まほの二人は春休みを終え―――高等部へ。
そして―――
「―――天翔、西住。来てやったぞ―――!!」
第三の戦車道乙女が、黒森峰高等部の門を潜るのだった―――。
『 まほルートIF:その時歴史が動いた ~ 黒き森の覇王 ~』
――月――日
黒森峰高等部に進級して―――安斎千代美が仲間になった!(FFの例のBGM)
みぽりんエリカは中等部で仲良くやっていけるだろうという希望的観測の下、俺が手を出せないみほエリに代わるように手の届く範囲にまほチョビがね!!
だが浮かれてかまけてばかりもいられない。ツーラビッツ・ノーラビットの精神を忘れることなく邁進すべし。Xデーまであまり時間もない。
で、まぽりんの圧縮言語に慣れてない高等部編入組の方々、及び高等部戦車道でバリバリやってた方々を一瞬でブチギレさせたまぽりんの圧縮言語式ご挨拶により
―――状況がアホほどこじれました(達観)
もうね、まぽりんの傲岸不遜としか聞こえない物言いに横のチョビの目が呆れまくりなんです。アキレマクリスティなんです。
高等部の全員ぶっ飛ばして上下関係を叩きこんだうえで全員で『乾杯ッッ!!』したけどチョビの目が寒いんです()
「お前たちは毎回あんな感じなのか?」みたいな感じで呆れまくってたのでまぽりんの圧縮言語の本来の意味について語って聞かせるとね?チョビがバッサリ言うんですよ?「や、他の連中に分かんないなら言葉を話す意味が全くないだろ」と
もうフルボッコですわ(まぽりんが)
――月――日
【悲報】まぽりん、大隊長ではなくなる【涙目】
チョビがやってきて全体の統制を取るようになって―――まぽりんが攻勢指揮を、チョビが全体の統率をするような構図がしっくりくる形態に黒森峰全体がシフトしていった。
まぁ実際はそこまでかっきり上下ができてるわけではない。黒森峰のOGには西住流が多く、そのOGが大きな発言力を持っている以上、チョビだけではどうにもならない部分はある。あるのだが―――うんまぁわかりやすく言うとまぽりんが割とチョビを信頼して全体の指揮を預けているため、戦場ではそんなこと【どうでもいいのだァ~~~!!】しているのだ。
クォレハァ……まほチョビをぉ……感じますよねぇ?(ねっとり)
――月――日
なんかまぽりんとチョビが二人でコソコソしているところをよくみかけるようになった。っていうか俺が宴会で『乾杯ッッッ!!』してる回数に応じてまぽりんがフリーになってるので、そこにチョビが出向いて行ってたりまぽりんから呼ばれてたりするっぽい。
俺をないがしろにして二人でご相談……いいゾ~これぇ(トゥンク)
じゃけんもっとまほチョビの鼓動を高め合って、どうぞ。
――月――日
高校一年目の大会を危なげもなく勝ち抜く。
まぁそれも当然と言えば当然。アホンツィオとか揶揄されるもノリと勢いに乗れば乗るほど統制が取れて強くなるアンツィオをノセてその気にさせる統制の天才ドゥーチェ・アンチョビに、統制の取れた部隊を率いての突撃に定評のあるまぽりん。この二枚看板が揃ってるのだ。生半可な連中で相手になるはずもない。
俺?まぽりんの援護が精々のいち装填手ですが何か?
全員集合して優勝旗を掲げるまぽりんとドゥーチェの横でさも優勝の立役者ですってツラしてるモブの一人として写真に納まる。
なぜかチョビもまぽりんも微妙に不機嫌であった。やっぱ俺が隣に写ってるせいだろうか?
――月――日
二年生になって、みほエリを迎えて無敵の布陣が完成した(確信)
全体統制をとるドゥーチェ。攻勢指揮を執るまぽりん、防御指揮、及び非常時のゲリラ指揮に長けるみぽりん。それを補佐するエリカ。
さらにここに
――月――日
高校二年目の春。戦車道高校生大会―――俺にとってのXデーは―――――
******
突出する形になったまほを二重包囲陣でエミから隔離するプラウダの戦術に嵌り、包囲の輪の中に絡めとられたティーガーⅠとヤークトティーガー。
時を同じくして別動隊の攻撃を受け、退避を余儀なくされたフラッグ車のみほたち本陣部隊。
逃げ道を塞がれ、桟道方向へと撤退を始めるみほたち。
「―――駄目だ!!そっちに行っちゃいけない!」
声を荒げるエミに
「―――了解だ。水際防御になるが、まぁ任せろォ!!」
明るい声が緊迫した空気をぶっ飛ばした。
戦場を駆け抜けるパンターG型。その上部ハッチを跳ね上げて、雨風に踊る銀色のドリルテール。
「―――お前たちぃ!!
―――――お前たちは、何だッッッ!!!」
オープンチャンネルで声を張り上げる千代美の声に
『―――――黒森峰女学園です!!!』
統制の取れた返答が響く。
「―――お前たちのすべきは、何だッッッ!!!」
『―――
「ならばお前たちはどうすべきだッッッ!!!」
『―――
「―――ならば―――それをやれぇぇぇぇぇぇぇッッッッ!!!!」
『―――
千代美の声に熱が伝播する。その熱は黒森峰全体を包み、染め上げ、崩れかけた統制を立て直した。桟道を背に反転したみほたちフラッグ車小隊の周囲に護衛車輛が集まり密集防御陣形を取る。追い立てるように集まったプラウダのまばらな数の追撃部隊が、桟道の向こうに伏兵がいたことを如実に示していた。
「―――天翔ぉ!!西住ぃ!!こっちはもたせて見せるッッ!!
―――いいかぁ!きっちり片付けて、間に合わせて見せろ!王子様諸君ッッ!!!」
―――千代美からの通信に熱を受けたのは黒森峰全体である。
「―――聞こえたか?エミ」
「ああ、取り乱してすまなかった」
目をギラギラと攻撃的に光らせているまほと、熱を受けて逆に冷静にもどったエミ。
包囲しているのはプラウダのはずなのに、逆にプラウダが追い詰められているような感覚を受けているほどだった。
「―――援護は任せる!!」
「任せろ!!」
―――その日、戦略面で完全に敗北していたはずの試合を、戦術的勝利でひっくり返すという大逆転劇を演じた黒森峰は、見事10連覇を成し遂げたのだった。
エミ「カチューシャは泣いていい」
――月――日
十連覇達成!みほエリを護ることができた!
俺はやった!やり遂げたぞ!!勝ったッッ!!第三部完ッッ!!
祝賀会でノンアル掲げて『乾杯ッッ!!』も今日は格別と言えた。
――月――日
対外練習試合を何度か行ってきたが……どうにも様子がおかしい。
相手のチームの……なんつーか、やる気?そういうものが薄い。
―――嫌な気分だ。
――月――日
「強者に弱者の気持ちなど理解できませんわ」
そんな風にバッサリと切って捨てられた。
ダージリンならばと恥を忍んで頭を下げたというのに全く分からない回答を返された件。「黒森峰と他の学園のことをもっとよく比べてごらんなさい」と言われて帰された。何もかもわかってるなら答えを寄越せと言いたい。
――月――日
―――そういうことか。
*******
「黒森峰を、出ようと思っています」
西住家にお邪魔して、まぽりんのツテでしぽりんと面会した俺はまず最初にそう切り出した。
「―――理由は?」
ざわりと周囲の空気が軋む。重圧が半端ないッスねしほさん(舎弟感)
圧し負けないように気勢を上げて、しぽりんに向き直る。
「―――このままでは、“戦車道自体”に影響が出ます」
「―――続けて」
俺の言葉に目が真剣味を増す。驚いた様子がないのは多分、しぽりんも似た様な結論に達していたからだろう。
「―――結論から言うと、【強すぎる】んです。今の黒森峰が。
私と、まほと、千代美と、みほ。あとエリカや赤星とか粒よりの面々も含めて、強すぎるんです。実力があるメンバーが、他の学園艦より精強な戦車を有する学園に集まって戦車道やってるんですよ。
―――心が折れかけてるんです。おそらく強豪4校の中にすら出てるはずです」
―――そう。装填速度3秒で連射されるヤークトの砲撃。その砲撃支援を受けて間をすり抜けて飛び込んでくるまぽりん。部隊の統制を崩すことなく建て直すアンチョビ、防御を固めながらゲリラ戦術による奇襲ができ、できる以上奇襲への対策も万全なみぽりん。攻守走全てにおいて万全過ぎて隙が無い。
あと一年で俺とまぽりんとチョビが卒業するとはいえ、その一年はお通夜状態になる。また、ワンサイドゲームってのはどうしても客の反応が渋くなる。客を沸かせる勝ち方に拘らなきゃいけなくなるならそれは本末転倒。西住流の理念からの逸脱にも繋がるだろう。
「―――プロリーグ発足のために各校が戦車道への造詣を深めていると聞いてます。そこでこの状態は非常にまずい。そう思うんです」
「―――それで?」
しぽりんの様子は変わらない。ヒエッヒエに感じる空間で、どうにかこうにか声を絞り出す。
「―――黒森峰を出て、高校生大会の間だけ、別の学園に短期転校して、黒森峰と戦います。八百長ではなく、本気で倒すつもりで」
短期転校手続きの書類を取り出して広げる。意思表明のために持ってきたものだ。
それを見て、しぽりんは何故か溜息をついた。
「―――まほ」
「はい―――」
隣で正座して成り行きを見守っていたまぽりんが懐からスッと封筒を取り出す。
―――短期転校手続きだった(なんで?)
「―――やはりエミだな。私と同じ考えに行きついていたとは」
「は?え?へ??」
わけがわからん!!どういうことだ!説明しろ苗木ぃ!!?(ヘタレ眼鏡感)
「―――お母様。いえ、師範!我ら二名、戦車道の未来のため、何卒」
頭を下げるまぽりんに、深い深いため息を吐いたしぽりんは―――
―――なんか悟った様な諦めの表情をしていた(おい馬鹿やめろどうしてそこで諦めるんだよ頑張れ頑張れやればできる気持ちの問題ry)
「―――まほ。けじめとして、貴女を西住の家から勘当します」
「――――はい」
―――なんで?()
いや、違うのよ。俺としては打算があったのよ?みほエリを護ったし、まほチョビもできそうだし、だったら俺がここで居なくなって完成させたうえで、できれば大洗に多少なりと力添えしてもいいなぁって思っただけなのよ?
―――どうしてこうなった……orz
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黒森峰女学園から転校し、東の端、大洗女子学園で、二十数年ぶりに復活した戦車道が二人(+なんかついてきたティーガーⅠ&ヤークトと乗員合計10名)を待ち受けていた。
学園廃校の憂き目に抗おうとしていた生徒会長角谷杏は、降ってわいた幸運に思わず小躍りしたという。―――なお役員辻何某の胃は死んだ()
20年以上廃れて久しい戦車道を復活させるつもりでやってきたら学園側が戦車道を復活させていた件について、まほは「流石はエミだ」とコメントを残したという。
そして遠くない未来。戦車道高校生大会にて―――
―――おいて行かれた少女が、【
―――人知れず吐血するエミの姿があった。
「もしもエミの『ウチくる?』にドゥーチェが『いいよぉー』してたら」でございます()