【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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 物心がついたころから、わたしは『名家』だった。

 島田の跡取りとして、日々研鑽に明け暮れる姉上の後を付いて回った。

 姉上と同じことをしたい年頃だった。だから当然、同じことをしたいと思った。








 そうしたら―――姉上が、いなくなった。






三周年記念リク作品『グリモワール・オブ・アリス』 体験版()

 ●●月××日

 

  ある日、突然従姉ができた。

母上の話では『もともと親戚筋だった娘が天涯孤独で孤児院に入っていたことがわかったので、改めて分家筋に養女として受け入れた』らしい。

 当初死んだような目をしていたけれど、わたしと目が合うとパッと花が開いたようなキラキラした笑顔を見せてくれた。何だかわたしで元気になってくれたみたいで嬉しかった。

 

 

 

 *******

 

 

 

 彼女は本当に努力家だった。

 毎日トレーニングを欠かさない。指揮官としての才能はないと母上が言っていたように、彼女自身もそれはわかっているらしくて、日々身体能力を鍛え続けている。

 

 彼女の身体能力は一言で言って……異常だ。

 

 2mくらいの高さの垂直の壁なら助走なしで駆け上がることができるし、わたしと同じくらいの身長と体格なのに本当にすごい。

 

 

 彼女はわたしとお話するときに、本当に楽しそうに話す。わたしと話をするのが本当に楽しいし、嬉しいと体全体で表現しているように見えるから、こっちも何だか嬉しくなってくる。

 

 彼女とお話をするのは、とても楽しい。

 

 

 

 ********

 

 

 

 ボコられ熊のボコについて彼女とお話しした。好きなモノについては熱く語りすぎてしまう。少しだけ早口気味に、それも一方的にしゃべってしまったことに気づいて真っ赤になったわたしを、やさしく微笑んで見守ってくれている彼女が、“お姉さん”という風に感じられる稀な時間だった。

 『欲しい』と望めば大抵のものは揃うし、我が儘がまかり通る家ではある。だからこそ、己を律することを考えて、できる限り望まないように生きて行くことを考えたのは、姉上の一件からだった。

 

 でも彼女に『頭を撫でて欲しい』と欲しがってしまうのはどうにもならない。彼女に撫でられている間は、とても落ち着く―――ずっとこうしていたい。

 

 

 

 *******

 

 

 ――月●×日

 

 彼女の本当の名前は、今の名前とは違うらしい。分家筋に養女になった時に過去の名前は改名してしまったと言っていた。その名前を、わたしだけに教えてくれた。

 

 

 わたしだけに、教えてくれた。

 

 

 

 ********

 

 

 

 中等部を卒業した彼女は、そのままヨーグルト学園高等部に進学して戦車道をやっていくらしい。対してわたしは飛び級進学が認められて、大学戦車道でより洗練された戦車道をやっていくことになっている。 

 

「いつか愛里寿と戦車道できるといいな」

 

そんな風に屈託なく笑っている彼女をみていると、どうしても抑えられない気持ちが溢れ出てきてしまって―――

 

 

 

 

 わたしは、姉上の一件から久しくしていなかった“わがまま”を、母上に言った。

 

 

 

 ********   » Emi

 

 

 

 ――月――日

 

そうだ。東尋坊いこう()

 

結論から言うと俺は黒森峰女学園中等部への進学に失敗した。

多分テストが駄目だった。死にたい。

運動能力があるからスポーツ特待枠で黒森峰を目指したら?と孤児院のパイセンたちから勧められた。

 

 だが断る(露伴感)

 

 スポーツ特待ならまぁ俺の身体能力は人一倍であると自負しているし、できなくはないだろう。だがそれは同時に【スポーツすることを、強いられているんだ……!!】が日常になるということ。

 

 黒森峰に入学して生みぽりんや生エリカを拝むのは確かに強力なメリットだ。

でもね……

 

 

 それじゃみほエリがないでしょッッ!!!?

 

 

 ――いやそれ以前に試験落ちたからどうしようもないんだが……orz

 

 しにたい。

 

 

 ――月――日

 

 死にたい。一週間くらい何もやる気が起きなかった。

 

もしもの時の滑り止めで、原作にも出てきた学園の試験もいくつかは受けてはみたんだが、仮に原作通りの有名なとこ行ってもみぽりんの原作0話のあの決勝戦での事故を俺の手で止めることも俺が代わりに成り代わることももうできないだろう。

 だから次善策。みぽりんが大洗に転校した後にみぽりんを支えつつみほエリの完成のために駆けずり回る。そのためには有名校に所属するのは、枷が重くなりすぎる……!!

 

 

 結論:四大強豪と言われる学園艦を避け、かつトーナメントにエントリーできる学園に入学する。

 

 

 が……ダメ……ッ!!

 

 九州という立地条件的にサンダースか黒森峰以外の選択肢はないに等しい。

BC自由学園という選択肢を視野に入れつつ滑り止め試験の結果を待つ。

 

 

 

 ――月――日

 

 ぼくはいま、グンマーにいます。

 

 

 

 ――月――日

 

 激動のお引越しから一夜明けてぼくはいま日本の秘境()グンマーに居ます。

 

 滑り止め試験の結果に思いを馳せつつ失意のまま孤児院に戻ったら、日傘をさした育ちのよさげなご婦人がにこやかな微笑みで院長とご歓談中でした(丁寧語表現)

 何でここにおるんですか?ちよきち=サン(震え)

 

 え?ここ熊本ですよね?西住のホームグラウンドですよね?なんで島田がおるん?ほたるなんですぐしんでしまうん?(混乱)

 ――いや冷静に考えてみたら名家としての確執があるだけで、二人は元々友達以上、戦友でライバルだったはず。なら別に旧交を温めに~とかならおかしくはないのかもしれない。(推理)

 

 まぁそんな感じで悩んでると不意に「うちの子になって戦車道しない?」と声をかけられました。なんでや?()

 

ちよきちさん曰く「黒森峰に取られちゃったならしょうがないけど、黒森峰が落したのなら拾ってもいいわよね?」とのこと。

 「いやでも(島田本家の養子とか恐れ多くて)無理です」と断ったところ「じゃあ分家!分家で!」とめっちゃ詰め寄り(差し)された。

ちよきち=サン、顔近い近い近い(近い)

 

 んで結局割といい金額の寄付金を付け届けみたいなノリで孤児院に落してまるでお買い上げされる感じで【お持ち帰りぃ】された。

 

 

 ――月――日

 

 ありすかわいいよありす(語彙滅却)

 

 

 ――月――日

 

 あぁ~~愛里寿可愛いんじゃぁ~~~。

 

 

 ――月――日

 

 分家の養女となって数日間脳がいい感じにぶっとろけていたらしい(反省)

島田流戦車道と俺の身体能力はぴったり合致しているらしく、諜報専用のチャーフィーの装填手として任命され、島田がスポンサードしているヨーグルト学園に推薦入学という形で入学が決定した。

 

 

 ――月――日

 

 島田の分家筋の養女になるにあたって、過去の名前から略歴を辿られることを危惧したとかで名前を変えることになりました。旧名:天翔エミ。現名:長野エミリでございます。

 

 なんでやねん(ツッコミ)

 

 色々大人の事情というのがあるらしく、関西で青田刈りしたのが西住家にバレると後々クッソ面倒なことになるらしい。じゃあなんで九州くんだりまで来て青田買いしたんですか?(素)

 苗字に関してはある程度ロンダリングを済ませて元に戻す予定なのだそうな。じゃあなんで改名したんですか?(素)

 

 

 ――月――日

 

 長野エミリとして島田愛里寿と初ご対面。精神統一とこれまでの愛里寿ウォッチングによりなんとか正常な意識のまま愛里寿と挨拶が交わせた。

 それにしても愛里寿の可愛さが天元突破しすぎててやばい(やばい)

愛くるしさに精神がヤバい(ヤババい) 兎に角やばい(ヤババババババイ)

 

 

 ――月――日

 

 島田が裏から手を回している学園艦。まぁヨーグルト学園なんだが、そこに入学が内定していた。一応原作でもトーナメントにエントリーされるくらいには強力な学園である。

 なお俺の能力は指揮官E 射撃C 装填S 運転B 通信B というぎりぎり装填で浮いている状態である。

 

 

 ――月――日

 

 戦車道なのに戦車に乗っていることの方がレアです。なんでや?

 

 

 ――月――日

 

 島田が俺の能力で買ったのは『身体能力』だったらしい。

結論として言えば、原作の秋山殿のポジをヨーグルト学園で担うことになった。試合中に戦車を飛び出して平野を駆け回り、建物を駆けあがり、木の上を飛び回り、敵の位置をリアルタイムで送信し続ける。

 

 情報というのは『目』だ。

 

 相手の『情報()』を遮り、自分たちの『情報()』を届かせる。ただそれだけで必然、相手の頭を押さえた状態ができる。島田流は変幻自在。複数の戦術からその時に合わせた最適解を選び取るために情報が重要視されるため、俺のレギュラー入りは確定だった。

 

 

 ――月――日

 

 中等部戦車道で黒森峰とカチ合って生まぽりんや生みぽりんを拝むことができましたありがとうございますありがとうございます。

 

 ただやっぱり【フェイズエリカ】してしまったらしく、めっちゃギクシャクしてた。かなしい。

 ごめんねみぽりん、ごめんね。俺がそっちに行けなかったばっかりに……

 

いたたまれない気持ちからセルフピロシキを慣行。翌日目ざとく愛里寿に指のケガを発見され、傷口を舐められそうになり、衝動的に逃走した。やめてくださいしんでしまいます(滝汗)

 

 

 ――月――日

 

 ヨーグルト学園での三年間が終わり、高等部へ進学する。卒業式に愛里寿がやってきて花束を渡してくれた。枯らしてはならない……(使命感)

 

そのまま愛里寿はちよきちさんを連れて学園の方に向かっていった。ちよきちさんの用事のついでに卒業式のお祝いを渡しに来ただけだったようだ。

 

 

 ――月――日

 

 まって。待って(震え)

 

 

 




 春。

 桜の花が舞い散る季節、始業式の日。


「―――いい天気になってよかったね」

モンブランカラーの髪が桜色の花弁と躍る。嬉しそうにステップを踏んで、学園へと向かう少女の名前は―――島田愛里寿。
 数歩進んで振り返り、立ち止まったままのもう一人のところへと小走りで戻って、その手を取ってぐいと引っ張る。




「―――これからずっと一緒だよ!エミリ」



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