【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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 ――月――日  黒森峰学園艦


 中等部の学舎から見上げる空は曇っていて、曇天の空に星は見えない。
見上げている恰好から視線を降ろしたところに、湯気を立てるマグカップが差し出された。

「何か考え事かい?」

 珈琲の入ったマグカップを差し出した少女の問いかけに、空を見上げたまま呟いていく。


「―――西住流として敗北は許されない。だが、広く世を見れば猛者は多い。

 弱気を出すつもりはないが……超える壁は多いなと思ってな」


 湯気を立てるマグカップを両手で包むように手に持ち、見上げていた視線をマグカップに落す。そんな様子の私に、彼女は笑った。


「―――私には何を心配してるのかわからんね。

    西住まほに勝てない相手なんかいるのかい?」



 *******



 「ははぁ……そんなことがあったんですねぇ」

メモを取りながらの少女の問いかけに、いつもの無表情でコクリと頷くまほ。

「なるほどなるほど……そのころから彼女は真にあなたの理解者だったというわけですね!」
「ああ……エミには感謝してもしきれない」

見る者が魅了されるような柔らかい微笑みに一瞬ペンを落としかけた少女が慌ててメモを取り直す。しばらくの質疑応答の後に、少女は「ありがとうございました」と頭を下げた。

「力になれただろうか?」

枕詞が『あなたの』ではなく『エミの』だと理解できる言い回しに目の前の少女はにっこりと笑顔で返した。

「はい!万事この王大河にお任せください!!必ず素晴らしい記事にしてみせます!」




【まほルート閑話 IF:この本が出版されたかは定かではない 】

 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 中等部の学舎から見上げる空は曇っていて、曇天の空に星は見えない。

そんな虚ろな空を見上げている恰好から視線を下ろすと湯気を立てるマグカップが手の中にあった。私の手にマグカップを乗せた少女は自分のマグカップを手に隣に座る。

 

「何か考え事かい?」

 

その問いかけに再び空を見上げて、独り言のように呟く。

 

 

「―――この世界に猛者は多いなと思ってな」 

 

ぽつりと呟くように言っただけの言葉に、隣の少女は立ち上がり私を見下ろすようにして、マグカップを手に振り返って微笑んだ。

 

 

「この世に猛者が多いって?私が知る限り今この時、この世代ではたった二人

 

 

 ―――西住まほと天翔エミ。お前と私だ!」

 

悪戯っぽく笑う少女―――エミの様子に、自然と口元が緩んでいた。

全く以てエミには敵わないなと、そう思ったものだ。

 

 

             < 戦車道天翔記~黒森峰編 第一章「虎と翼」 >

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 >大洗学園艦 >> Emi

 

 

 

 

 「―――何ですかこれ?」

「広報課の記者が西住ちゃんのお姉ちゃん―――まほさんにインタビューして作ったらしいよ?」

 

 冊子を手に絶句する俺の言葉に干し芋を齧りながらそんな返事を返してくる会長様。どういうことですかね一体?(素)

 

「黒森峰と大洗の両方に聞き取りインタビューしてさ、作るらしいよ?天翔ちゃんの半生を天翔ちゃん以外から聞き取りした伝記ってヤツ?をさ」

「どういうことなの……?」

 

 

 一体何の罰ゲームですか?(素)

 

 そんな訳の分からんもの売れるはずもなければ印刷して販売するって時点で口から血とか色んなもの吐いてぶっ倒れる自信があるぞJK。

というかこんなやり取りもこんなこと言った覚えも全くもって記憶にないんだが……一体まぽりんは何をどうトチ狂ってこんな捏造の記憶を掘り起こしたのか……?

 

 

 恐らく、これは記念冊子みたいなもので、売れる売れないよりは広報課が黒森峰と大洗の共通の繋がりになる俺という存在を喧伝することで二つの学園艦の間の紐帯を太く結託させたいとかそういう目論見なのだろう。故に売れることは目的としていないからマスゴミレベルで美談化してる―――と推測できる。謎は全て解けた!(金田一感)

 そういうことならば問題はない。いくらでもモリモリに盛ってくれればよかろう。捏造記事で見た人間が「アホスwwwwwwwwこんなのいるわけねーだろwwww」みたいな反応で流して一時世を騒がせたあとはタ●クリアやメロ●イエ●ーのように存在を忘れ去られて消えゆくだけ。俺の存在を消し去る一助になりえると考えるとむしろドンドン行けよ行けばわかるさと推せるまである。

 

「まあ私の伝記なんざ興味もないでしょうけど、好きにしてくれたらいいですよ」

「……そーかなぁ~……?まぁ、天翔ちゃんが文句ないならこのまま行くよ」

 

袋から取り出した干し芋をもぐもぐしてる会長に「ないないないないそれはないw」と手を振って、記念にと貰った仮冊子を手に俺は生徒会室を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 「大言壮語を吐いたその根性は褒めても良い。けど、大言壮語を吐く以上、その吐いた言葉の重みを知るべきよね?」

「―――それに関しては、仰る通りです」

 

 居並ぶ三年生を前に一人、前に出て他のメンバーを護るように立つ。胸を張り、威を張る。目の前の暴力に屈することなどないと意志を燃やして闘志を目に宿らせる。

 

「西住だから多少は許されるわ。でも、それだけじゃ収まらない連中もいる。それを抑えるのも“隊長(トップ)”の資質。言っている意味は分かるよね?“西住のお嬢さん”」

「―――正論ですね」

「……物分かりが良いようで結構。では、演習場に行こうか」

 

 1対30と言ったところか……と脳内で冷静に計算していく。どのように戦うか、いかにして勝つか、黒森峰の上級生という経験豊富な対象を相手にどう立ち回るかも、どのフィールドを選ぶかも重要になるだろう。後ろで委縮しているメンバーの調子もこれまでと違う環境と言える。目まぐるしく脳内で弾かれる算盤が脳内面積を圧迫し、返答が素っ気ないものになったのが原因か、相手の不機嫌さが増したように感じられた。

 

 

「―――よぅ、奇遇だねぇ西住」

 

 

上級生を連れて演習場に出た私を待っていたのは、今日は練習ができない旨を伝えて皆にそれを伝えに向かったはずの天翔だった。ヤークトティーガーに乗り込んでいた天翔以外のメンバーが焦ったような表情を見せている様子だが、天翔は飄々としたいつもの天翔であることから、おそらく天翔の独断であることは推測できた。

 

「今日の練習は中止よ?」

「上級生相手に胸を借りる機会ってそうそうないでしょ?ほら、私らってお互い二人でつぶし合ってる間に『センパイたちが勝ったの負けたのやって終わるでしょ?こっちは決着ついてすらないのに』。先輩たち相手に戦う機会があるなら私も混ぜろよって思いません?」

 

つとめて優しい調子でやんわりと嗜める隊長に対して、全力で煽り返す天翔の言い草に、隊長以下の上級生たちが色めき立った。やや怒りを込めた視線を受けても平然とした様子の天翔と、巻き込まれて青い顔になっているメンバーの皆の様子に、私は黙って前に出て天翔に対峙する。

 

「何を考えてるの?私が相手をすればそれで丸く収まるでしょう?」

「収まらねぇよ」

 

すっぱりと切って捨てた天翔が下から私を睨み上げる。強い決意を秘めた瞳に少しだけ気圧された。

 

「あの数に単騎で挑んで無事に終わるわけがねーだろ。勝ち目がなくても勝つために前に出て勝つのが西住流だっていうのならありがたく援軍を受けとけよ」

「それでも―――天翔に関係はないでしょう?」

 

私の言葉に天翔はややうつむくように下を向いた。何事かと顔を近づける私に―――

 

 

 がつんと衝撃が走り、後ろにたたらを踏んでいた。顔に傷みがある。目の前では頭を押さえている天翔の姿があった。頭突きを受けた。ようやくそう気づいた時には天翔が先に回復し、涙目でこちらを睨みつけていた。

 

 

「―――私の知らないとこで私以外に落されんな!!それが理由じゃおかしいか!!」

 

 

 一瞬、言葉を失った。どう答えていいのかわからない。胸の内に不思議な熱さを感じる。小さな小さな火種のような、それでいて消えることのない強い火種。

 

 

「―――天翔。援軍に感謝する」

「後で何か奢れよ!絶対だからな!」

 

 

 ティーガーⅠでヤークトティーガーの隣に並ぶ。敵は凡そ30輛強。こちらは僅か2輛。だが全く恐怖はないし、負ける気もしない。胸の内で燃える火種が、全身に熱を与えている気がする。

 

 

 そして、私は勝負に勝利して―――彼女は『虎の翼』と成ったのだ。

 

 

 

 

           < 戦車道天翔記~黒森峰編 第一章「虎と翼」 >

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「いやおかしい、絶対おかしい!!誰だこのイケメン!!俺にもちゃんと情報の裏取れよ王大河ァァァーーーー!!!」

 

 

 

学園艦の賃貸マンションの部屋から響いた大声に隣のみぽりんが飛び込んでくるほどの大音量を上げていた俺は、微妙に吐いた吐血に焦るみぽりんに「大声で喉を酷使したせいでちょっとアレなことになっただけ」と苦しい言い訳を晒す羽目になった。

 

 

 

 *******

 

 

 

 <えみかすさいど>

 

 

 

 ――月――日

 

何やら神妙な顔になって空を見上げているまぽりんを発見した。

この間の練習試合でチョビに結構してやられた感じになったのが原因なのかもしれないと思ったのでとりあえず珈琲入れてメンタルリセットを測ったところ、

 

「私に皆を率いて戦う立派な隊長で居られるだろうか?並みいる強者に勝てるだろうか?」

 

みたいな弱音吐く(NOTバーチャロイド)ので

 

「いや、まぽりんが(原作的にも最強だから)勝てない相手なんぞおらんだろ」

 

って言ったら目を輝かせて快気復活してた件。まぽりんちょろくないか?これがなぜああなってしまうのか……?

 

 

 

 ――月――日

 

 何かまぽりんから「今日は上級生と模擬試合があるから練習はない」と言われ、それを同級生全員に伝えるように言われた件。

まぁそれを伝えるよな→明らかに動揺してる同級生おるよな→そりゃ問い詰めるよな?

 

 →上級生が「生意気なことを言ってる下級生がいる」と言ってたのを聞いた同級生がいたらしい。

 

 

 → あ、これ「かわいがり」だ(確信)

 

 

 とりあえずヤークトのメンバーに相談して全員連れて行くという選択肢はあった。けどどう考えてもこのメンバー、上級生に盾突くとか無理無理無理無理カタツムリなのは確定的に明らか。いくらまぽりんが西住まほであろうとも、中等部初期のころは俺とモブのメンバーごときに足止めされるレベルの戦車の理に過ぎない。

 仮にこの状況のまぽりんを放置してボロ負けした場合、その後のまぽりんの人生がいくえふめいになるだろう。それはひいては今後のガルパンのストーリーに関係してくる。これを座して待つなどと言う選択は無い。

 

 西住まほ(原作キャラ)がやられそうなのに、日和ってるやついる?いねーよなぁ!!(東リベ感)

 

 というわけで私らだけでチーム練習しようぜ とメンバーを誘ってヤークトに乗り込んで演習場へ。まぽりんがまだやってきてなかったので軽くヤークトの内部チェックを全員でやってると向こうからぞろぞろと上級生を引き連れて処刑台に向かう罪人っぽい立ち位置なのにめっちゃ胸を張って闘志を燃やしてるまぽりんが来たんで「やぁ奇遇だね!」と気さくに挨拶してみた。上級生が「今日の練習は中止だよ?」と言ってたんで「私も入れてよォー!!(オカマエルフ感)」と返したらまぽりんに「私が耐えれば済むことだから」とか言ってくるまぽりんに「一人で勝てるわけねーだろ」と返したら「天翔には関係ない」とか返されてぐうの音も出ねぇ件。どうしたものかと思って俯いて脳内を回してみるがいい答えが出ない。とりあえず勢いで押し返そうと頭を上げたら顔を近づけてたまぽりんと盛大にGE☆KI☆TO☆THU・ROBOT!(レベル3)して目からリアルで火花出そうなダメージを受けた。が、どうにかこうにか必死に意識を保ちつつ、涙目で「お前を倒すのはこの俺だ!(野菜王子)」という理論で押し込み、なんとかかんとか説得完了。

 

 結果として俺とまぽりんは当然のように勝利し、ボス猿理論でまぽりんは黒森峰中等部のトップになった。

 

 

 

 

  ―――あれ?これ史実でまぽりんが一人無双してボス猿になったイベントだったんじゃね?(今更)

 

 

 

 

 

 

 

 ――月――日

 

なんか俺の二つ名が【虎の翼】になりました。みんなそう呼んできます。

 

 罰ゲームかな?

 

 

 

 ――月――日

 

 車長の子がストレス溜めまくってたのでとりあえず飲みニケーションに連れてくことにした。まぽりんが学校内の食堂ではなく学園艦内の西住家関連のビアホールを貸し切りにしてくれたので、そこにヤークトのメンバーとティーガーのメンバー全員で飲み会をやってみた。とりあえず飲みニケーションは大事、古事記にもそう書いてあるから致し方ない。

 

 

 

 ――月――日

 

―――昨日のことは、思い出したくない(文字は掠れて今にも消えそうになっている)

 

 

 

 

 





王大河「大洗側の話も聞いたうえで、大洗編も纏めようと思っておりますので!」

みほ「私で良ければ―――エミさんのすごいところはたくさんありますけど……」





次回『戦車道天翔記~大洗編~』へ続(きません)

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