【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
―――前略。
ある日、俺は転生していたと自覚した。
自覚して、前世の記憶を思い出すほどに前世の想いを強く強く自覚した。
すなわちそれは“みほエリをこの視界に納め、肉眼で視認し、そしてそれらを脳内視野に焼き付けてその後ゆっくりと或いは早急に人生を終える”ことに他ならない。
そのために戦車道を始めたし、そのために人生を費やしてきた。
我が半生、まだまだ半生にも程遠いが聊かの躊躇も無し。遍く全ては何よりも尊いみほエリのために。
―――そんな俺ですが。
「―――楽にして良いですよ」
「そうそう。オバさんたちのちょっとした興味本位だから、ね?」
「アッハイ」
―――今、人生最大の危機を迎えている。そんな気がしてならない。
まぽりんと同級生という運命の神様の嫌がらせにめげることなく
まぽりんの戦車道と相性最悪という事実に打ちひしがれながらもヤークトティーガ―での固定砲台という立ち位置を手に入れ
そして気が付いたらまぽりんの相棒のような立ち位置になっていた。なんでや?(素)
そんなこんなの困惑した中等部一年目が終わり、二年目には入学してきたみぽりんとエリカが【フェイズエリカ】してしまうのを頑張って阻止し
三年目にニアミス仕掛けていたまほチョビの足掛かりを作り
そんで高等部に上がって早々にギスっていたまぽりんを助けてテッペン取る手助けをほんのちょっとやっただけである。
俺が一体何をしたというのか……?
俺は“ただみほエリが見たかっただけなのに”、そのために必死になってやってきただけなのに……
「―――エミ、母に会わせたいので元旦年始を西住家で過ごしてくれ *1」
「……なんで?」
いやマジでなんで?(素)
元々説明が下手なまぽりんから説明を受け取りつつ翻訳→解釈の結果、『まぽりんの母=西住しほさんが関係している』ということが分かった。だからなんでや?(素)
解析に解析を重ねてどうにかこうにか自分なりの解釈を交えた結果―――
・中等部のころから右腕ポジで頑張っとる平民()がおるやん
・西住家に呼んで直々に話してみたけど中々わきまえとるやん
・せや!高等部に上がったし家に呼んで西住流の下の
というそんな感じの解釈ではないか?という推測が成り立った。
西住流としても西住まほのサポートをしているフリューゲル小隊の面々のことは重要視しているのだろうし、ジッサイ=スゴイメンバーが集まっているのだから西住流のその筋の方々からスカウトというか唾つけみたいなのを受けてる子もいる。フリューゲル小隊に限らずみぽりんの車輛メンバーやエリカの車輛のメンバーなんかもそれら下部組織とでも言おうか、そう言う感じのしがらみの家の出が多い。
―――フリューゲル隊?「掃きだめに落されたいらんこの集まり」にそんなバックボーンあるわけねぇだろ(マジレス)
閑話休題
まぁそんなこんなでお誘いを受けたので「私をそういう顔見せの会に呼ぶならウチの隊のメンバー全員呼ぶべきじゃね?」とまぽりんに返事したところ
「流石はエミだな」
という返答を戴き、「早速母に聞いてくる」と言って踵を返していった。ワイワイガヤガヤしてた練習後の飲み会がまぽりんの言動からシーンと静まり返っていたのだが、俺の返事で再び「ざわ……ざわ……っ」と騒ぎ始め
「―――天翔さん。ごめん、天翔さんに悪気はないとわかってるの。でもお願い、そこの床に正座して?」
暗く沈んだ目をして絶望の表情を隠そうともしない車長にそう命令されて
―――俺は答えも疑問も返すことなく、ただ静かに椅子から降りて地べたに正座して土下座の態勢に入っていた。
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――月――日
今年ももうそろそろ終わろうとしている中、学園艦の寄港にあわせてフリューゲル隊全員で上陸して西住家に向かっていた。
俺以外のフリューゲル隊のみんながもうガッチガチのガチである。あがりまくりカッチコチで常に青い顔でゲロインに進化しそうな車長。ブツブツと礼儀作法の所作のハウツー本とにらめっこしながらややうつむき加減で牛歩してる通信手。ピシッと黒森峰の制服とロングコートで併せて着こなし「私はみんなと違いますんで」という雰囲気を纏いつつ足元が生まれたての小鹿ばりにシェイキットナウ!!してる砲手と、明らかに隠れられるスペースの無い俺というちびっこの背中に中腰で張り付くめっちゃみっともない姿を余すところなく見せつけてガタガタ震えている操縦手といういで立ちである。人目を集めないはずがない。
動物園のパンダや水族館のペンギンの如く好奇の視線に晒されれば余計に委縮してよりえらいことになっていくメンバーを支えるべく内心を抑え込んでとりあえず「こちとら家元(予定)から呼ばれた側なんですがなにか?」という顔で悠々と前に出る俺を筆頭に進んでいくと端っこも端っこの席次に4人分の椅子が用意されていました。―――数おかしくね?
……まぽりんに連れて行かれた先では西住しほ=サンがお待ちかねでした。俺一人だけしぽりんのテーブルの下座、まぽりんの風下の辺りでお歴々の方々に混じってちょこんとお座りさせられています。 たすけて(ガチ)
――月――日
新年のカウントダウンと除夜の鐘を聞きつつ深夜にお開きになったため、フリューゲル小隊のメンバーで一室お借りして皆でお布団敷いて横になりました。
誰一人眠ることができず朝まで「西住家やばい」「西住流やばい」ってのをぽそぽそ話しつつ朝日を迎え
―――俺一人残してみんな眠い目をこすりつつ帰省していきました。ちくせう
朝食にめちゃくちゃ厳かなでっけぇ重箱が並び、見たことのないおせち料理に舌の感覚がバグってなんも味しない状態で上げ膳据え膳されてお食事。女中?らしき方々が妙に甲斐甲斐しく俺のお世話してくるんだけどお気遣いで胃の辺りがすごくすごいやばいです。(ナリタ感)
食後にしほ=サンのとこに呼び出されてマンツーマンでOHANASHIしました。いがいたかったです。何を話したか全く覚えてません。こわい(こわい)
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「―――天翔エミはこのまま放置で」
「良いのですか?装填手としては是非世界大会の選抜メンバーにスカウトしたいので、スカウトマンとしては名刺のひとつでもお渡ししておきたいのですが」
西住しほの私室で、対面に座してそう答えるのは日本戦車道協会のスカウトマンを兼任する井手上菊代その人である。
次弾装填までの時間、平均3秒3。最速で2秒43。それを二人がかりで装填を行うはずのヤークトティーガーの砲弾でやってのける膂力と腕力。現代の女性版ヘラクレスと言ったところだろう。戦車道後進国としてこれから世界に打って出る日本としては、少しでも世界に対抗できる手札が欲しいところだった。
「―――あの子が今のまま正しくまほの傍についていることこそが、まほにとって最良の道となる」
「西住流にとって、ではないのですね」
にこやかに微笑む菊代にしほが少しだけ目元を険しくさせた。
しほの目の前でにこやかに座っている菊代は同じ年代を共に生きてきた“夫以上にとは言いたくはないが己のことをきちんと理解してくれている女性”である。
「……真実を語るなら、まほの傍に彼女を置くべきではない。と答えるのが西住流師範の意見です」
「あらあら……」
絞り出すような言葉にしほの顔が苦渋に歪む。困ったようにほほに手を当てて首をかしげる様子の菊代の方にもやや困惑と焦りが見て取れた。菊代としてはちょっと軽くチクリと刺すつもりだったはずの一刺しが、致命傷に抉り込んでしまったような風に感じられたからだ。
そんな菊代の焦りをよそに、そのままの表情でしほは語り続けた。
「……西住流とは勝利そのもの。勝利のために歩み、勝利のために戦い、そして勝利のための犠牲も厭わない。その強さの体現が―――まほです。
ですが、その生き様は、その強さは、確実に人を孤独にする。孤高に立ち、俯瞰せねば立ちえない」
目の前の湯呑で湯気を立てるお茶をぐいと飲み乾して、湿らせた口からすべてを吐き出すように―――
「まほはその体現者です。己の行く道がそうであると理解してなお、同じ道を歩むことになる妹をその道から逸らすため、歩を進めることを決めた。
その道は茨。わたしとて、夫や貴女のような理解者が居なかったら―――」
瞳を伏せるしほの両手は膝の上で握りしめられたまま、ぎゅうと力強く絞られている。血の気を失い白くなるほどに強く握りしめたままの手に視線を落とした後、菊代へと視線を戻す。
「―――だからこそ、あの娘の傍に置かねばなりません。天翔エミの献身と奔放は、西住流だけに固まりつつあるまほの戦車道を壊してくれる。今の西住流をさらにその先へと進めてくれる」
「彼女の献身が、お嬢様をより先鋭されたものにしてしまうかもしれませんよ?」
菊代の言葉にしほは少しだけ口角を上げた。
「まほがより先鋭化されたのなら、その時は“西住流まほ派”が生まれるだけよ。
そんなものは【守破離】の結末に過ぎない」
「西住流の本家はあくまでしほ様が家元になり、跡を継ぐ者を選定するだけ―――と?」
菊代の言葉にしほは答えを返さず、湯呑に残っていたお茶の残りを飲み乾した。
【守破離】……それは演劇や噺家など芸能・武道におけるプロセスを表す時の言葉である。
“守”で、その流派の作法・所作をよく学び、修める。
“破”で、その教えとは異なる所作・作法を納めるべく学ぶ。
“離”で、それら全てを掛け合わせた己独自のスタイルを作る。
西住流の跡継ぎとなるはずであるまほにとっては本来、“守破離”の“離”までは必要ない。己のスタイルを確立させるよりも踏襲されたスタイルに己を合わせるべきである。しかししほはそれを是とした。つまりそれは【今の西住流とは違う形でまほの西住流を立たせる】ということに他ならない。
西住まほは今の西住流を体現している存在である。それを壊し西住まほの西住流を作るとなると、流派内の壮絶な反発が予想されるだろう。
それを覚悟しての変革を、他ならぬ師範であり次期家元候補の一角であるしほが後押しする理由を、菊代は類推する―――が、
(どう考えても、子煩悩以外の何物でもないですね)
しほの性格をよく知っている菊代にとっては、まほの自由意志を慮る以外の理由などないのだろうと独り言ちた。
―――同時に“とんでもなく面倒臭いことになった”とため息を吐くのだった。
後半へ、続く―――
なお「黒森峰の悲劇」が起きるのはこの一年後である()