【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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―――― Side Darjeeling


みしり、 と―――

空気が震えて強い重圧が映像を介してここまで届いた―――。


嗚呼、―――拙い、これは拙い。


目が離せない。この戦いの行く末から


きっととんでもないことをやってのけてくれる




―――ねぇ、そうでしょう?天翔エミ――――!!



【 破の章 弐 後編-2 】

―――Side Emi

 

 脳内でピロシキの方法を20通り程羅列してそれをあのパイセンに行った際のシミュレートを流した結果、周囲のドン引き具合を加味することで少しだけ冷静になった。おれはしょうきにもどった。自分にやるならともかく、他人にやったらダメなやつだなこれ と―――。

 

 覚醒みぽりんの見せ場は確実に必要になる。と同時に俺は俺の目的を果たさないといけない。

 

俺へのピロシキ案件とパイセンへのピロシキ案件、それを両方こなしつつみぽりんに見せ場を用意する。そしてエリカへのフォローも行う。全部やらなきゃいけないのがみほエリの辛いところだ。覚悟はいいか?俺は出来てる。

 

「―――ここまでが【ばったん作戦】です」

 

みぽりんの説明が終わった。周囲に沈黙が落ちる。っていうか操縦手も砲手も引いてる。エリカもちょっと引いていた。

 

「―――みほ。

 

  教えてくれ。私は何をしたらいい?」

 

作戦の関係上、砲手が砲撃を行うのは「1回」。装填手としての仕事はほぼないと言っていい。なお、砲手が最も大事な仕事だと理解できた砲手が再びプレッシャーでカタカタとマナーモード携帯めいた震えを発症してたのでもっかい肩に手を置いて根拠はないがその場しのぎの言葉を添えると震えが止まり、目に光が戻った。

 やはりカミナの兄貴は偉大だと思う。

 

 再度視線をみほに戻すとなんか神妙な顔で「私も信じてますからね?」と念を押された。何が?

 

 

 

 

―――まぁ、最後の詰めをミスった場合も問題はない。 俺には最後の手段「うえぶ作戦」がある。

 

 

 

 

     『 疾風Ⅱ 「刮目なさい!我は「疾風」アールグレイ! 後編ー2」 』

 

 

 

 

―――Side Erika

 

 本当、この娘はよくわからない。

 

普段気が弱い態度で、どこまでも下向きなのにここぞというタイミングで突拍子もない視点から突拍子もないモノを導き出す。

 

「エミさん、そっちは、どうですか?」

 

頸にかかるスロートマイクに手を添えてみほが声をかける。通信相手の天翔エミは今Ⅳ号の中には居ない。みほが言った「疑念」を確信に変えるために外に出ている。

 

『こちらエミ。みほの言う通りだ。

 

 ―――倒木の根元に『決まった方向に折れて倒れるように細工がしてある』。確認した』

 

エミが調べているのは「私たちの退路を断った倒木」 みほが最初に抱いた疑念はそこからだった。QF6ポンド砲の一発で樹木が折れたとしてあちらの狙った方向に倒れるだろうか?という疑念。

 そして”あらかじめその方向に倒れやすくなるように細工をしていた”という可能性に至ったのがみほである。

 私は正直、このみほの持つ【明らかに普通とは違う視点】を少しだけ怖いと感じるときがある。でもそれは、きっと自分にはできないことに対する嫉妬であって、根源的な意味での恐怖ではないのだろう。

そもそも恐怖というのであればエミだけで普通は恐怖しても仕方がないくらい規格外なんだから今更恐れていられないというのもあるけれど―――。

 

 本当、なんであの子は【よじ登ることすらせずに脚力だけで木を駆けあがる】だの【枝から枝に飛び移り、戦車の死角である上空から移動】なんていう移動ができるのか―――。

 

 あんなの予測しようと思う方が無茶でしょ。私はおおよそ戦車道の戦略を根底から覆しかねない規格外の娘のことを頭から追い出し、作戦の概要をもう一度反芻した。

 

 

 

  ―――この時のエミの行動・戦術が、ずっと後になって黒森峰の戦車たちを対象に襲い掛かるとは、この時は想像すらしていなかった―――。

 

 

****

 

―――Side Free

 

十分に時間を与えた。さぁ、どう出るかしら?

 

アールグレイは操縦手に脚で指示を与え、再び全速でブッシュから飛び出した。十分な加速距離を稼ぐために大きく離れているが、視界の端にⅣ号の車輛は捉えている。東方向に向かう車輛の動きを見て取り、脚で合図を送る

 

「―――It's a show time. 幕引きといきましょうか」

 

 クロムウェルが駆ける―――標的を見据えて、木々の間を縫って。

 

「だ、大丈夫なのでしょうか?」

 

心配そうに尋ねる通信手に対してアールグレイは微笑みを絶やさない。ただ静かに、人差し指を立て、次いで、親指を立てた。

 

「あのチームの弱点、その2。【天翔エミは揺装填状態では高速装填ができない】」

 

 アールグレイは普段の言動から様々に言われているが、実際は聖グロリアーナで隊長を務めるだけあり、戦術・戦略に関してはすこぶる理性的で計画的である。

 彼我の戦力差を見て、各個撃破のために突破力を求めクロムウェルに行きつき、戦場を駆け抜け敵陣を横断して分断するぶっ飛んだ思考と胆力の持ち主ではあるが―――。

なので当然、天翔エミの乗り込むⅣ号戦車の全試合の内容を見ていた。あまり数があるわけではないが、模擬戦の内容、戦車の動き、砲撃の質、全てを見て、並べて、思考して―――

 

 そして行きつく。「Ⅳ号戦車は静止状態でしか連射能力を発揮していない」

 

高等部であっても行進間射撃が十全に可能な戦車道チームは国内にいない。大学生になれば違うのだろうが……だからこそ射撃は停車し射撃準備が整ってから放つものである。故に見落とす。

 違和感を感じたのは ハリー・ホプキンスの一戦だった。逃げ回るほうが軽戦車で速度の違いがあるとしても「静止射撃ならば命中させてもおかしくない場面が多々あった」し、「相手を脅すのが目的であれば的確に恐怖を煽るために、追いかけながら眼暗滅法で打ち続ける方が具体的に恐怖を煽れる」という点。

結論は「装填手は静装填しかやっていないか、或いはそもそも揺装填ができない」

 

 帰結したならそれを軸に戦略を組み立てればいい。相手が動くのなら射撃を恐れる理由はないし、止まっているのなら射線を作らなければいい。ただそれだけであの戦車は規格外の連射を生かせず堕ちる―――。

 

「さぁ、どうするのかしらね―――」

 

キューポラから上半身をのぞかせてⅣ号の背を視線で追う。詰み(チェックメイト)まではあと3手―――。

 

 Ⅳ号の無防備な背中が見えた。 あと2手―――。

 

 有効射撃範囲内まであと少し―――あと1手。

 

 

 有効射程。必倒の間合い―――

 

 

 「―――撃て(チェック)

 

クロムウェルから砲弾が吐き出され―――

 

 

 

     ―――――目の前に突然樹木が現れ砲撃を防いだ。

 

 

「―――は?」

 

思わず思考が停止するアールグレイと、目の前の倒木に足を止めざるを得ない。急停車したクロムウェル。

 

 

 

  ―――【疾風】は止まり、風は凪いだ―――。

 

 

 

 倒木の向こう側にⅣ号が見える―――【砲塔をこちらに向けて】

 

「―――!!緊急回避!旋回、急いで!!」

 

操縦手に指示を与えると同時に、砲華が咲いた―――!!

 

 

******

 

 

―――Side Miho

 

「―――エミさんからの確認が取れた以上。疑いようがないと思います」

 

私は地図を広げて、ペンで数か所を丸く囲っていく

 

「ここと、ここと、ここと、ここ。戦車の移動を阻害する大きさの樹木がある場所ですけど……多分この辺りにも細工がしてあるはずです」

 

私がこの作戦を考えるとしたら同じことをするから、わかる。【誘いに乗ってこなかった場合、どこから敵が飛び込んできても退路に蓋をする方法を考えるから】

 エミさんは戦車の中に居ない。今回の作戦に必要なため、外に出てもらっている。

 

『こちらエミ。配置についた、いつでも行ける』

 

エミさんからの報告を聞いて、私は操縦手の肩を蹴る。

 

「では、【ばったん作戦】開始します―――パンツァー・フォー!!」

 

 

 Ⅳ号は東に逃げる。遠くに見えるブッシュからクロムウェルが飛び出してきた。逃げるⅣ号と追いかけるクロムウェルという構図。

クロムウェルの速度は時速64km、対してⅣ号は整地状態で38km。倍に近い速度の差でどんどんと距離を詰められていく―――。

 

 じわじわと背中から追いかけてくるプレッシャーに、車内に緊張が走る。

うまくいかなかったらどうしよう……そんな不安がどんどんと大きくなっていく。

 

 

【大丈夫。私を信じろ。自分が信じられないのなら、貴女を信じる私を信じろ】

 

 

それは私に向けた言葉じゃないけれど、砲手の人も、操縦手の人も、エリカさんも、みんなその言葉に支えられて作戦を実行している。

 

 大丈夫。信じてるよ―――エミさん。

 

 

 

 作戦範囲にⅣ号が入ると同時に、クロムウェルが速度を緩めた。

 

 射撃が―――来る!

 

 

「エミさん!!!」

 

スロートマイクに手を当てて叫ぶ。私の声に反応して―――倒壊音が響いた。

 

メキメキと音をたてて樹木が倒れる。運良く砲弾を樹木が防いでくれた。

―――衝突を防ぐためにクロムウェルがブレーキをかけて停車した。

 

「行きます!」

 

運転手に指示を出して旋回する。目標は【すぐそばにある十分な大きさの樹】

 運転手の経験では超信地旋回はできない。信地旋回も難しい。

 

―――だから【腐葉土に突っ込んだ】

 

履帯が滑り、ドリフトのように滑走する。旋回途中なのでスピンターンのようにぐるりと半回転し―――【目標とする樹木に車体側面を激突させて停車する】

 

「―――砲撃用意!!」

 

あらかじめ衝撃に備えていた砲手は照準を必死で再動しようとするクロムウェルに合わせ

 

 

「――――撃てッッ!!」

   ―――ガォンッッッ!!!

 

砲弾が、放たれた―――。

 

 

*****

 

―――Side Emi

 

 さすみほ。

 

着眼点が普通の人と違うとは思ってたが、うん。見てるとこがおかしい、いい意味で。

 調査に出て欲しいと言われて戦車から降りてパルクールで木々を飛びまわり、最初に倒れた樹のところまで戻ってきた。調べてみると【特定の方向に倒れやすいように、折れやすいように切込みが入れられた形跡が残っていた】

 

 

「こちらエミ。確認した」

『わかりました。確認が取れましたので、【ばったん作戦】を開始します。エミさんはそのまま、配置についてください』

 

通信機越しに届くみほの声に「了解」とだけ返して再び木の幹を蹴って枝まで登り、木の枝から枝へ飛び移り、空を駆ける。

 

 できるんじゃないかと思って練習しておいたパルクールが戦車道で役に立つとは思っていなかった。人生何が役に立つものかわからないものだなぁと思う(確信)

 

 目的のポイントにやってきた。ここは【みぽりんが見抜いた、相手が細工を仕掛けている樹のある場所】である。木の根元の方を確認すると、確かに切込みが入っていた。自然倒壊することはなく、爆風をぶつけるくらいの衝撃で倒れるようになっている。

 肩に担いでいた車輛牽引用のロープを木の幹に引っ掛け、木の上に登ってロープが見えないように空中を介して準備完了。

 

【ばったん作戦】 それは簡単に言うと「相手が用意してた細工の入った樹にロープを引っかけて俺が引き倒し、倒木を利用して相手の進路を断ち、強制的に停車させる作戦」 だった。もちろんそれだけでは砲撃する準備を整えている間に相手が先に立ち上がってしまう。

 みぽりんが考えた作戦の軍神臭溢れる部分はここから。

雑木林の中でも腐葉土が多い場所を選んでそこに「履帯を突っ込んでまきこむ」。そうしてわざと車体をスピンさせて超信地旋回のように反転させる。もちろんこのままでは戦車が思ったように止まってくれるはずがないので、『傍にある樹に強引に当てて止まる』 というもの。

 作戦を提案したときにエリカや他の面々が引いていた理由、お判りいただけただろうか?

 

 うん、さす軍神。(くる)ってるわ(誉め言葉)

 

 そして作戦は成功する―――前にクロムウェルが砲撃しそうだったので倒木を落とすときにうまくタイミング合わせて砲弾を止めておくのを忘れない。

そしてクロムウェルが停車し、Ⅳ号は樹木に激突する形で止まり―――

 

―――Ⅳ号の砲撃が放たれた―――。

 




まだ長くなるのかよ……(

脳内出力が間に合わなかったのでここまで

次で破も終了。次は【急】の予定(予定

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