【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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こんな事実は(まほルートの)本編にはなかった。イフということです()





「野卑な野猿でしたが、それなりに愛着も沸くものですわね」
「そうか―――そうだろうな」

 語る言葉は冷ややかに。周囲の温度が体感的に3度は下がったと感じた。
煽ったつもりはなかったし、ただの報告のつもりだったのだが、ダージリンには目の前に居るのが同じヒト目の生物ではなく『我が子を見失ったままの手負いの母獣』か何かかと錯覚してしまう。

「それで―――エミは?」
「無事の知らせだけでご満足いただけませんこと?亡命には守秘義務というものが―――」


バン! と。


 ダージリンの顔の横を目で追えない速度で腕が通過した。日除けに使っていたそこそこの大きさの樹に縫い止められるかのように微動だにできない状況。内心で背に冷や汗が伝うのを止められない空気。それでも表層は平静を取り繕い、震えぬように細心の注意を以てカップとソーサーを支える。

「―――紅茶が飲みにくくなりましたわね。それで?こちらの腕は暴に訴えて情報を聞き出す意思の表れなのかしら?」

首を狩る前準備かとも思える顔の横の腕に手を這わせて、飄々とした雰囲気を崩さぬようにダージリンはまほに声をかけた。
まほはそれに何も答えず―――


「―――私は棄てられていない。棄ててもいない」


 ぽつりぽつりと、言葉をこぼす。
 まほの様子に「ああ」と頷いたダージリンは、


「不器用な人ね。貴女」


 ただそれだけ呟いてそっと腕に沿わせた手をのばしてまほの頬に触れる。撫でるように滑らせて、肩に手を載せ―――一歩踏み出して、抱きしめるような態勢で密着する距離まで踏み込んだ。そしてその耳元にそっと囁く。


「―――大洗に。私が知っているのはそれだけ、オフレコでしてよ?」


ふと何も知らぬ第三者が見れば首筋にキスでも落としている様に見える一連の動作の後にスッと離れ、まほの脇をすり抜けて「ごきげんよう」と去っていくダージリン。その背中に

「感謝する。―――いや、違うな」

 眉根を寄せて悩んだ後で、まほは去っていく背中に向けて胸の前でグッと拳を握り締めて、決意を載せる。


「―――ありがとう。ダージリン」


フッと薄く笑みを浮かべていたことに、まほ自身は気付いていなかった。





 ちなみにその光景を遠くで見ていた逸見エリカが手に持っていた書類の束をバサバサと地面にぶちまけることになっていたりするのだが―――それはまぁ別件である。



まほるーとばっどえんど【病姉夜眠無】

み属性を得たおちゃんのせいでれない俺はもう理じゃないかな?この先

 

 

 

******

 

 時はやや巻き戻る。

 

******

 

 

 

 

 

 西住まほの朝は早い。西住流として薫陶を受けただけではない。西住の家で規則正しい生活というものを叩きこまれた身体は反射的に起床時刻の前に目が覚めるようにできている。幼いころから細胞レベルまで浸透したそれよりも、割と早くに目を覚ましたまほは、身支度を整えて部屋を出る。

 

 向かう先は、学園寮の一室。すなわち、エミの部屋である。

 

 天翔エミが忽然と姿を消してからもぬけの殻になったこの部屋に、別の人間にあてがうことを禁止し、彼女が住んでいた状態のままを維持することを選んだ。

 理由は簡単。「ふらっといなくなった野良猫が、またふらっと戻って来ることが十分にあり得るから」だ。少なくとも、そういう感じの理由でこの部屋はいまだに天翔エミの持ち部屋として黒森峰学園艦の帳簿に記載されている。

 まほはこの部屋を「いつでもエミが返ってきて再度住むことになっても、依然と変わりない生活ができるように」と、毎日部屋の清掃を担っていた。日常の学業、戦車道、訓練に支障が出ないように考えた結果、睡眠時間をやや削って起床時刻をずらして対応している。

 

 清掃をしていてまほがいつも思うのは、エミの「モノへの執着の薄さ」というか「欲望のなさ」である。

 

 天翔エミという少女は、兎に角ストイックに戦車道に打ち込む少女だった。彼女が戦車道以外で熱心にやっていたのは皆と行う打ち上げ会と自己トレーニングぐらい。あとは、自室に置いてあるコーヒーミルとドリッパーを使った珈琲くらいのものだろうか?

 清掃道具を一揃え、テキパキと部屋を掃除して回るまほの脳裏には、在りし日の思い出がその度浮かんでは消えている。考え事をしながらも手は止めない。代わりに、思い出が現在に近づいてくるほどに手に力が、思いに熱が乗算される。

 

 

―――カタン。と

 

 

 机を掃除していてそんな僅かな音が耳に届いた。

簡素な勉強机の上には講習用の教科書と並んで簡易トレーニング用の道具やプロテインや栄養サプリメントなどの錠剤類が鎮座している。とてもではないが高校生の勉強机とは思えないのだが―――音がしたのは表層ではないようだった。

 

「引き出し―――か?」

 

 プライベートに踏み込むのはどうかという思考が頭に浮かぶが、もしも何か小さな生き物でも隠れて飼っているなどしていた場合、戻ってきたエミがそれの死骸とご対面、もれなく腐乱している など目も当てられない状況になりかねないと理論武装をして思い直し、意を決して引き出しを開けるまほ。

 

 

 

 何もなかった。

 

 

 こまごまとした雑多なモノがいくつか入ってはいるが、音を立てる生き物の類があるわけではない。が、違和感に気付くのは西住の特権か何かなのだろうか?

 

 

「―――外観と内部の奥行きが違うな」

 

 

 探偵か何かのようにコンコンと引き出しを外から中から叩くまほ。音の違いを聞き分ける耳は幼いころからティーガーやパンターの排気音や履帯の音を聞き分けることで鍛え抜かれた逸品である。故に―――

 

 

「二重底、か……?」

 

 

 仕組みに気付いてしまう。

同時に、この先へ踏み込めば天翔エミの「隠しておきたい何か」に触れてしまうという危険性を理解させた。唯一無二の親友であり、相棒ではあるが、親しき中に礼儀ありともいう。勝手に踏み入って、彼女と再会したときに再び同じ関係に戻った時にぎくしゃくすることを避けたほうが良いのではないか?

 

 そんな逡巡をするような―――西住まほではなかった。

 

秒で二重底を解除して上げ底部分を取り外したまほの前には

 

「これは……日記……か?」

 

 一冊の小さな日記帳が鎮座していた。

 

「何故こんな仕掛けまで……?」

 

 天翔エミの性格からはこんな風に隠れて何かを記しているようなイメージはない。が、件の天翔エミの部屋にそれ以外の人間の日記があるというのも変な話ではある。結論、これがエミのものであるのは自明の理であり―――

 

 ―――俄然、中身が気にならぬはずもなかった。

 

 

 

 

 その日、西住まほは学園に現れず、翌日やってきた西住まほは、何かの憑き物が落ちた様な―――あるいは、『憑き物を憑けたような』顔をしていたという。

 

 

 

*****

 

 

 

 或る日から、西住まほの様子が変わったと感じた黒森峰の生徒は多い。

だが、その原因が何に在るのかを知る者はいなかった。

 

 そうして聖グロリアーナとの練習試合の後、ダージリンと何かの話をしていた西住まほが、唐突に壁ドン、その後ダージリンと抱き合う様な姿を見た一部の生徒があらぬ妄想を捗らせても仕方のないモノであろう。

 

 そうして、何かを決意した表情の西住まほを乗せて―――黒森峰の飛行船が向かった先は―――

 

 

 

******* >>Emi

 

 

 

 数か月早かったorz

そうだよね、新年あけてすぐとか編入時期としてもおかしいよね。普通荷造りとか移動手段とか諸々考えて新学期からスタートよね。俺ホント馬鹿(さや感)

 

みほエリは何処……?ここ……?

 

 死んだ目で廊下をフラフラと歩く俺はこの時心神喪失状態と言っていい程周囲への配慮も危機管理もなっていなくて

 

 

「―――――――やぁ、エミ」

 

 

 その声に反応できなかった時点で、俺の運命は決定されていたのだろう。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 実を言うとそっから先のことは朧げである。

何でここに居るの?黒森峰どうしたの?俺捕捉すんの早くない?とまぁ色々言いたいことがあったし聞きたいこともあったしで学校早退して(みぽりんが原作で住むマンションだと思われる建物のみぽりんが借りると思われる部屋の近くの)自分が借りた部屋に案内して家に上げて、そんで珈琲が飲みたいって言うからミルでゴリゴリしてはいよっ珈琲一丁!って感じで談笑して―――

 

 

―――そんで、記憶がなかったりする。

 

 

床面から感じる適度な揺れとかを加味するに、高速艇の中だろうか?

 

 

―――ジャラン、と音が響く。言うまでもないだろう、鎖だ。

 

 

 気づいたときに既に破壊するかどうかの選択肢が脳内に浮かんでたんだが、これをやったのがまずまぽりんであろうという事実。これが歯止めをかけていた。

仮にこれを為したのがまぽりんとしよう。まぽりんの事情がわからんまま鎖を引きちぎって逃げたとしよう。

俺が逃げる → まぽりんがどういう行動に出るかの想像がつかない。

 

 とりあえず今は大人しくしておいて、黒幕が居るのか、いるとしたら誰なのか、これがまぽりんの独断なのか、そしてそうする理由とは何なのか。この辺りをはっきりさせてからでないとまぽりんが曇るだけでは済まない話になる。すでに原作開始ルートに向かって賽が投げられている以上、まぽりんがラスボスなのだ。それが曇って再起不能とかになったらみほエリの指針がまるで立たない。

 まぽりんを曇らせるってこと自体が特一級のピロシキ案件で、勝手に逃げ出した時点でそうなってもおかしくなかったのだ。追いかけてきて拉致るくらい元気ならまだマシなのかもしれない(現実逃避)

 

「―――エミ、起きているか?」

 

鉄製の重苦しいドアを開けて、まぽりんがやってきた。

 

「手荒な真似をして済まない。だが目の前に居るというだけで抑え込むことができなかった」

 

 ―――抑え込むって何を?殺意?殺意なの?勝手に逃げた俺に怒ってる?おこなの?ねぇおこなの?俺黙って断罪されて死ぬべきなの?

 

「―――大変だったんだぞ?この半年間。エミがいなくなって、初めてエミが支えてきたものの重みを知った」

「―――ああ、それに関してはすまなかったと思ってる」

 

 我ながら本当に馬鹿な真似をしたと思う。というか全く何の解決にもなってない無駄なムーブだった。我を忘れていたとはいえ……馬鹿じゃね?当時の俺。

 とはいえ情報は増えた。まずまぽりんは俺が居なくなった時の書置きを読んでいない。必然、誰か別の人間が俺が居なくなったことを最初に知ってその手紙を隠している。まぽりんは俺が居なくなった理由を知らないから俺を追いかけてきて、そのまま拉致。と―――あれ?解決策なくなったんじゃね?

 

ここで俺が逃げるだろ? → まぽりんが曇るか、或いはまぽりんが拉致問題で査問されるだろ? → まぽりん不在で黒森峰が勝ち進めるかって話だろ? → 知波単はまぁ何とかなるとして継続と聖グロは難しくね?

 

 → 決勝戦の相手がダージリンの可能性が高いなぁ―――あれ?みほエリ仲直りフラグが消滅してない?(重要)

 

 

結論:逃げ出せない(迫真)もしくは逃げるならだれにも見つからず問題にならない騒ぎにならないようにサイレントに逃げる必要がある(確信)

 

 

「で、私をどうするつもりなのか聞こうか?」

 

 

 さっきから首で自己主張が激しい【首輪】と、そこからリードのようにつながるじゃらりとやかましい鎖を軽く揺らして見せると、まぽりんの様子がすこしだけしゅんとなった。

 

「それに関しては申し訳ない。だが放っておくと目を覚ました後また足取りがわからなくなると思ったからな。幸い、今は洋上で、学園艦に着くのはあと数時間後だから外しても構わないだろう」

「じゃあ遠慮なく」

 

 そう前置きしてから鎖の繋がっている根元、壁に溶接してある方の留め金を引きはがして一息を吐く。やや唖然としていたまぽりんが一瞬で我に返って、

 

―――なぜか密着して来ていた。 なんで?

 

「―――まほ?」

「……鎖がなくなったらどこかに行きそうな不安が消えないんだ。こうしていないと不安でどうにかなってしまいそうになる」

 

 うん、今分かった。これはアカン(確信)どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!誰だよまぽりんをこんな風にしてしまった俺は!!

 とはいえこんな状況では会話も耳に残らない。どうにかこうにか説得して「鎖の端っこ持ってていいから」と納得させて対面する。首輪と鎖でまるで犬猫だが。

 

 

 

  そうして始まる尋問お話タイム。

 

 

 

 そして大体の事情を聞いたり話したりしつつ、わかったことは―――とりあえず

 俺は俺的には死ななければならないけれど今は死んではならないという事(矛盾)

 

 

 これまで頼られること、背に重荷を背負うことに慣れまくってたまぽりんと対等に並んで立つ肝の太いアホが居なかったとこに俺というアホが並んで立ってしまったのがそもそもの間違いだったと言うべきだろうか……?

 頼られることに慣れてしまっていた人間が「頼ることができる存在」を得た結果、今のまぽりんが生まれたという感じなのだろう。そんで寄りかかっていたモノが唐突に消失してそのままばったり倒れて起き上がれなくなる―――のが普通だった。ここまでならばまぁ、俺が死ぬべきじゃね?むしろ死のう。で済んだのだ。

 

 

―――相手が“西住まほ”でなければ。

 

 

 まぽりんが幼いころから培ってきたメンタルはそんなものでへこたれるほどではなかった。倒されるままに倒れることなく踏ん張り、よりどころを支えにして立ち上がった。けれど結果的に、寄りかかるモノがあったから支え切れていたモノを無理やりに抱え込んでいるだけに過ぎず、その足場はグラッグラなのだ。ジェンガの如く崩れて消えるのも時間の問題だっただろう。

 

 

―――そんでそこに、ダージリンが「預かってました。けど放流しました」の情報を伝えたわけだ。あのブリカスめが(恨み節)

 

 

 ダージリンの選択は間違っていない。転校手続きを出さずに学園艦を飛び出した以上、黒森峰生徒会にガッツリ関わり、学園運営にも口を出せる立場にいるまぽりんに話を持って行って、内内に話を纏めておかないと―――俺が留年しかねなかったから。

ただ、タイミングが最悪だっただけで。

 

 そんなこんなで、俺の居所を突き止めたまぽりんはなんか執念で大洗学園艦と航行ルート上近づける場所を割り出し、そのタイミングで学園艦同士の交流という名目で連絡艇を用意してこっちにやってきた―――らしい。

 なお俺の部屋で珈琲入れた時点で懐から取り出したモノを見えないように【サーーーッ】した結果が今の俺だそうな。

 

「エミがまた戻って来ると信じて待つつもりでいた。けれどエミの話をダージリンから聞いただけでこのザマだ……私はきっと、どこか壊れてしまっている」

 

ぽつりぽつりと悔恨するようにこぼすまぽりんにめっちゃ心が痛い。胃に穴が空いている感覚がする。喉元までせりあがってきたモノを嘔吐しそうなほどに気分が重い。

 

「―――エミ。この鎖を軽く引きちぎることだってできた君が逃げなかったのは、そういう意味ととってもいいのでしょう?私の傍に居てくれるって意味で、いいんでしょう?」

 

 西住流の言葉遣いもかなぐり捨てて縋りつく様な様子のまぽりんを振り切って大洗に逃げる―――わけにもいかなかった。原作ルートを踏襲させたうえでみほエリを成し遂げるためにはまぽりんは重要なラスボス枠なのだ。それをこんなメンタル崩壊状態にしておいて大洗に逃げ出したりした場合―――最悪大洗学園艦が轟沈しかねん。今の状態のまぽりんがどのレベルの病みかわからんが、少なくとも「逃げられないように」で即座に首輪と鎖という発想に至る辺りガンギマッてる可能性が高すぎてどうしようもなかった。

 

「―――(もうそれで)いいです」

 

 曖昧な表現で逃げに走っていると言わないで欲しい。

 

 

 

******

 

 

 

「今日の訓練は以上!!総員、礼!」

「「「お疲れさまでした!!!」」」

 

まほの号令で唱和、一礼を以て訓練が終了する。皆がワイワイガヤガヤと食堂に向かい、行うのは―――

 

 

「「「乾杯(プロージット)―――!!!」」」

 

 

 天翔エミが始めた皆での訓練終了後のこの宴も、彼女の不在とともに無くなってしまったものだったが、まほの主導によって「自粛をしていただけ」ということになり、復活していた。

 まほの号令も簡潔なものに洗練され、かつてエミが翻訳を務めていたころのものより格段にわかりやすくなっていた。黒森峰は平和となった。

 

―――ただ一人、この宴に立役者が存在しないという点を除けば。

 

「天翔先輩、噂だと大洗に行ったって聞いたけど」

「でも、あの人ほどの装填の腕があって戦車道チームに参加してないんでしょ?ガセだってば絶対」

 

宴の席の肴とばかりに話題にエミの話題が乗ると―――

 

「―――あん人は、もう戦車道が嫌んなったんかもしれんばい」

 

 ノンアルだというのに飲んだくれたやさぐれリーマンのような様子でテーブルに突っ伏す少女を、対面で座って静かに呑んでいる少女が肩にポンポンと手を当ててあやしている。

 

 

 

「―――何処に行ったんよぉ……天翔さぁん……」

 

 

 

 

――――――

 

 

カツカツと、急ぎ足で歩いているのは西住まほである。

練習が終わって皆に宴席を用意した後、乾杯の音頭を取ってからすぐに踵を返したまほは、自室へと向かっていた。

厳重に鍵が掛けられた彼女の自室には、ナンバーロックのほかに光彩認証が新たに追加されている。中の何を護っているのかは誰も知らない、知りえない。

 鍵が開くのももどかしい様子で、ロックが解除されると同時にドアを開けて中に飛び込む様にして入室したまほは

 

「―――ただいま」

 

 誰にも見せない笑顔で、中の人物へ笑いかける。

声を掛けられた人物は、ベッドの上で眠たげに目をこすりながら起き上がる。首に嵌ったままの革の首輪に続く銀色の鎖が“じゃらり”と音を立てる。

 

「―――おかえり、まほ」

 

 寝起きで水分が足りていないのかかすれ声で、それでもそれだけの言葉で、それだけの行動で―――

 

 

 

―――西住まほは、満ち足りていた。

 

 

 




********


 ――月――日

黒森峰に帰るなり、俺の部屋ではなくまぽりんの部屋に連れ込まれました。
どう考えてもどう見ても拉致監禁です。なにこれこわい(戦慄)
「ずっと見ていないといなくなるかもしれないから」と言って放してくれないの。
室内で首輪に鎖とかこれ見つかったらまぽりんが立場的にアカンやつやん。
 とはいえ逃げたらどうなるかもわからん。少なくとも学園艦で洋上に出ている以上陸の孤島で逃げ場はない。

結論:詰んでね?


 ――月――日

 た す け て


 ――月――日

 まぽりんの依存度が日々積もり積もっていっているのがわかる。
ただでさえ依存してた感が高かったあの日から累乗して言ってる感すらある。
日々「念のために」と増えていく施錠。節子、これアカンやつや(震え)
加えて「寝ている間は無防備になるから」と言ってあすなろ抱きでしがみつかれて眠っている状況に精神がゴリゴリとヤスリ掛けを食らっている感が凄い。
正直全く眠れないので昼間まぽりんが学業と戦車道に打ち込んでる間眠っている有様である。監禁状態ではパルクールも満足に行えないので徐々に筋力が落ちていっているのが理解でき、日を追うごとに脱出とか逃走とかが難しくなっていくのが何というかこう―――萎む()

 幸いなのはまぽりんのメンタルが外と内でくっきり分けられたことで対外的には完全回復したという事だろう。俺の犠牲は無駄な事ではなかったと考えるなら、ここで朽ちて果てることがまぽりんへの最後の慰みになるのではなかろうか?とも思えて来る。

―追記―

 まぽりんにみぽりんのことを聞くと露骨に不機嫌になって「大洗に転校したのがみほのためではないのか?」と延々問い詰められ続けたのでそれ以後質問しないでおこうと決意した。


 ――月――日

 外で凛々しい分まぽりんが自室の中でアホの子になっている(確信)
妹に甘々だった過去から察するに、自分が思いっきり好意をぶつけられる相手をどこかで求めていた節があるのだろうが、それにも(俺の胃の)限度というモノが在るだろう。
 セルフピロシキをするとなんかさめざめと泣かれてただ静かにぎゅーっと抱きしめられて『ごめんなさい』と謝られ続けたので以後もう絶対しないと誓う。これ(まぽりんのメンタルに)アカンやつやで工藤。


******


 全国戦車道大会高校生の部 決勝戦。

激戦を潜り抜けてきた大洗女子学園と、常勝黒森峰女学園の戦いは―――ある意味でとんでもない珍事となった。
 試合開始とともに森を突っ切って抜けた逸見エリカの一団が西住みほと交戦中、突如大洗女学園側に一部の部隊が寝返り、先遣部隊を撃破、その後大洗女子に合流し、市街地に隠れているマウスの情報により、大洗女子は被害を減らしてこれを撃破。ポルシェティーガーや三突による狙撃を含めたゲリラ戦で黒森峰車輛を削っていき、黒森峰から離反した逸見エリカの操るティーガーⅡと黒森峰からの流れ者である西住みほのタッグで西住まほと激戦を繰り広げた。

その裏側にいかなる事情が介在していたのか―――それを知る者は少ない。



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『ティーガー道場ー!!!』
「はい」

『日記の存在に気付かれたら逃れられません。ラン・スーの神に祈りなさい』
「はい」

『それと……娘がごめんなさい』
「はい」

※ティーガースタンプを1個獲得しました。

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