【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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もしも時を戻せるものならば

もしもあの日あの時にさかのぼることができるとしたら

私は私を斃すだろう。一切の慈悲もなく、ただこの衝動のままに。



まほルートバッドエンド『 修 羅 』

 森の中を駆け抜ける。振動は無視、地を跳ねる衝撃も無視。何もかもを無視して突き進む。ただ狙うは一点、

 

―――森を抜けた先に居る、敵のフラッグ―――!!

 

 

「―――撃て!」

 

 

寸分の狂い無く放たれた砲弾は敵フラッグ車“ティーガーⅠ”に突き刺さり、激しい炸裂音を響かせて沈黙させる。“シュポッ”という気の抜けた音とともに白旗が上がり

 

『選抜Aチームフラッグ車行動不能!よって、Bチームの勝利―――!!』

 

 次いで響くアナウンスが、私たちの勝利を宣言した。

 

 

******

 

 

 「「「乾杯(プロージット)―――!!!」」」

 

 ガツンとジョッキを打ち鳴らし、地元のものと思われる黒ビールで乾杯するチームメンバーに混ざって、一人黙々とヴルストとザワークラウトで食事を進めていく。そんな私に酒を勧めようとする者もいたが、すげなく断ることを繰り返していたら「そういうやつなんだろう」という認識で落ち着いたようだった。

 

 

“楽しくありたいだろ?食事を燃料補給と一緒に考えたら楽しくないじゃないか”

 

 

 いつだったか聞いた言葉。その言葉を語った少女の方こそ、各種栄養をサプリメントで済ませる正に『燃料補給』といった食事をしていたので、説得力に欠ける物言いだったものだ―――だが、いつも傍らに居てくれた彼女は、もういない。

 

 

『―――さぁ、本日記録更新成るでしょうか―――?!』

 

 

 誰かが付けたテレビの画面の向こうでは、世界陸上の映像が流れている。

今回流れているのはマラソン競技。今や世界的規模で視聴率を上げている。

 

 

理由は一つ。陸上競技における記録が最近、大幅に塗り替えられているからだ。

 

 

『現在中間地点を越えて独走態勢!!天翔エミ選手!!2位を突き放し、全く衰えることのないスピードで駆けて行きます!!』

 

 日本のゼッケンを付けたその選手は、少女の様なその姿からはまるで想像ができない程の速度で走り、そのままの勢いで駆け続け―――半年前にはハーフマラソンで『男子記録すら超える記録』を打ち立てていた。

 

 内心で「当然だ」と独り言ちる。戦車道をやっていたころでさえ、彼女の身体能力、特にスタミナはずば抜けていた。88mm砲弾だけでなく、128mm砲弾ですらも一人で軽々と持ち上げ、3秒で装填を終える膂力に、それを試合終了まで続けてもペースが途切れるどころか、落ちる様子すらないスタミナ。それらを加味すれば―――

 

『今先頭がゴールイン!!2位の選手を15kmと大きく引き離し、1時間27分15秒!!世界新―――!!!』

 

 大歓声が沸く中、冷ややかに画面を見つめる私の姿は、きっと非常に浮いて映ることだろう。

 

「―――なぁ、マホ?この娘、お前の知り合いだったって本当なのか?」

 

 そんな風に馴れ馴れしく話しかけてきたのは選抜メンバーの仲間だ。その様子に、私はきっとひどく冷たい目で応えたのだろう。彼女はヒッと小さく後ずさっていた。

 

「―――かつては同じ夢を追いかけた仲間だった」

 

 インタビューに答えるエミの様子を振り返ることなく、私は自分の部屋に戻った。

 

 ベッドに腰かけて―――――空を仰いで遠くに思いを馳せる。

 

 

 

 

「―――おめでとう、エミ」

 

 

 きっと私はその時、心からの笑顔を空に向けていたことだろう。

 

 

 

*******  → JK

 

 

 

 ―――戦車道高校生大会、決勝。

 

 勝ち上がってきた大洗女子学園と黒森峰女学園のぶつかり合いは、高校生大会史上でも類を見ない激戦になっていた。

 

 中でも目を引いたのは、かつての親友でありパートナーであった二人。

天翔エミと西住まほの一騎打ちと、同じく親友であり、ライバルでもあった西住みほと逸見エリカの一騎打ちという、2か所で起きたぶつかり合いであったろう。

 

 互いに互いの手札を知り尽くしたぶつかり合いは長く続くものではなかった。

 

 

 

 

そして―――試合は黒森峰に軍配が上がったのだ。フラッグ車の撃破によって、私たちの決着は有耶無耶になってしまった。

 

 

「―――試合は終わったが、私たちの決着は次の機会のようだな」

 

ティーガーⅠの車上から身を乗り出すようにして声をかける私に、ヤークトの中から出てくるはずのエミの姿はなかった。待ち続けること数分、漸くのろのろと姿を見せたエミは、私の方へ向き直る。

 

「―――遅くなってすまないな、まほ。決着を付けたかったんだが、残念だ」

 

そう言って寂し気な笑顔を見せるエミに、私は笑顔で宣言した。

 

「―――次に試合うときには、私が勝つぞ」

 

 私の言葉に困ったように苦笑するエミは―――その時、私の言葉に答えなかった。

 

 

 

*****

 

 

 

「学園が……私たちの学校が……」

「そんな……こんなことって……!!」

 

 うわごとのように呟き絶望に膝をつく河嶋桃と小山柚子。それをどうしようもなくただ力なく見遣ることしかできない角谷杏。

 そんな三人の下にやってきた天翔エミはただ一言「私に任せて下さいな」と、告げて去っていった。

 今更そんな言葉が何の慰めになるというのかと毒を吐くことしかできない桃や、その言葉に縋るように祈る柚子と違い、杏だけはその言葉に強い覚悟の様なものを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そうして、文科省より『廃艦の撤回』が告げられることになる。

 

 いったいどんな魔法を使ったのか?という疑問より前に、廃艦撤回により学園を上げて喜び湧きたつ生徒たちの中を、杏は独り駆け回っていた。

 

 

けれど杏が探す生徒は―――天翔エミは何処にも居なかったのだ。

 

 

 突然大洗の学園艦を降りた天翔エミの行方は、実際すぐに見つかった。

彼女は文科省の預かりとして別の学園に転校手続きが取られており、そこで世界陸上への強化選手としての道を斡旋されていた。

 

 

―――杏でなくともその話を聞いただけですぐに察しがついた。

 

 

 天翔エミは、『自分自身を担保に学園艦を護ることを選んだ』のだと。

 

 

杏がどれだけ悔やんでももう決定を覆すことはできない。何よりこれは彼女自身が決めて選択したものだ。それを撤回することなど杏でなくても誰にもできない。

 

 

 

 

 そしてこの時になって、西住まほは自分たちが勝利したあの高校生大会の裏側で『大洗が、天翔エミが、西住みほが、一体どんな決意で大会に挑んでいたのか』を知ることになる。

 

 

 

******* JK → Pro

 

 

 

 エミが居なくなって、私はより戦車道に打ち込むようになった。

同じように戦車道に心血を注ぐ戦車道乙女は多くいた。

ダージリン、カチューシャ、安斎千代美、島田愛里寿かつてのフリューゲル小隊の面々、そして何より妹、西住みほと逸見エリカ。

 皆一様に思いは同じだった。

 

 

 

―――いつかきっと、天翔エミは戻って来る。だからその日まで、彼女の戻る場所を自分たちが作り、護り、待ち続ける。

 

 

 

 モチベーションの維持など必要はなかった。プロリーグ強化選手として選抜され、国際大会に向けて練習をする日々、その合間合間にエミは陸上選手として毎度違う競技に参加し、その都度あり得ない記録を打ち立て続けていた。

 テレビなどで取り上げられ、彼女の話が持ち上がるたびにどうしようもなく焦燥感を感じる自分が居た。強い怒りを覚える自分が居た。きっと他の皆も同じ思いだっただろう。共感する感情がわかるほどに、私たちは行き場のない思いを抱えて生きていた。

 

 

 

 

―――お前のいるべき場所はそこではないはずだ。 と願う心と、

 

 

 

 

―――あの輝く彼女を己のエゴで引き戻すのか? と考える自己嫌悪と、

 

 

 

 

それでもエミと共にありたい。彼女もそうであって欲しいと都合の良い考えを止めることなど、きっと誰にもできなくて―――

 

 

 

 いつしか戦車道は、そのやり場のない思いをぶつける手段になっていく。

 

 

 

 戦車道という世界で天道を外れ人道を逸れ、そして畜生まで堕ちぬよう、飢餓を忘れるようにただ心のままに戦場を駆ける―――ならばきっと、この身は修羅のそれであろう。

 

 

 

 

 

―――数年後、通算で何十枚目になるかわからない金メダルを受け取ったその表彰式の最中に

 

 

 

―――エミは倒れ、病院に搬送された。

 

 

 

 原因不明の病により、彼女は高速で年老いていき、やがて数年と経たずに老衰で死を迎えるという無慈悲な宣告に、私たちの目指す道の果ては、唐突に失われたのだ。

 

 

 

 誰を恨めばいいのか。

 

 

 何に怒れば良いのか。

 

 

 

 もはやそれすらも霧中の果てに消え、残された私たちは―――

 

 

ただ(かつ)えるままに勝つを繰り返し、

 

 

寂しさも錆び征くに任せ、

 

 

そして赦しを忘れ、赦しを求め、祈るように敵を屠り戦場に安寧を覚える。まさにそれは修羅のさまであるのだろう。

 

 

 

 

 

 

天翔エミの死は大々的に報じられ、今後破られそうにない伝説的な記録とともに歴史に名を残した選手の早逝に世界中が嘆いたという。

 

だが、そんなことは私にも、皆にもどうでも良い話だった。

 

 

 

 

 ゴールラインなどもはやない。けれど走り続ける足は止まらない。止めてはならない。彼女の意志を背負っていると"思い込んで”駆け続ける。

誰もわたしたちを止めることはできない。誰も止まろうと思わない。擦り切れて擦り切れて灰に塵に変わるまで、私たちの歩みは速度を増して続いていく。

 

 

 

 

 

 

******** >> Emi

 

 

 

 

 ――月――日

 

 

 この展開は予想してなかったorz

みぽりんとエリカのぶつかり合いでわだかまりが消えてくれるとかエンディングが素晴らしくなるとかそういう皮算用ばかりでエンディングに至らぬ可能性とか失念だらけやん俺。これはアカン。

 結論から言うと決勝戦で負けた。これで廃艦は必至。状況アウツ……全アウツ……ッ!!大洗が廃艦で曇りまくる、みぽりんも曇りまくる、エリカも気に病んで曇るに決まっている、まぽりんはどうかわからんが会長とか大洗の他の面々も絶望を絵にかいたような表情でいる。罪悪感がはんぱねぇ……!!

 

 トボトボと大洗の皆の元へ戻る途中、文科省の辻とかいうのが声をかけてきた。

 

曰く「大洗が廃艦になるんでウチの推薦する学校にきて陸上とかスポーツ特待でオリンピック狙いません?」とのこと。ふざけてんのかお前、イワしてやろうか?と内心で怒りゲージがガン上がりしている中、

 

 

 その時、(エミ)に電流走る―――ッ!!

 

 

 曖昧な返事で送り返した後生徒会の皆のとこへ。諦めに目が死んでいる杏会長に「任せとけよ」って返してまぽりんのとこへ。

まぽりんから色々話をされたけれど正直耳に残っていなかったりする。俺としてはこの後に起こす俺のアクションによって、もはや戦車道に戻ることはないだろうと踏んでいたからだ。すなわちまぽりんともみぽりんともエリカとも関係は切れてしまうだろうし、俺から会いに行くことは出来まい。

 大丈夫、遠くから見守ってるから安心してみほエリ、まほチョビを構築していって、どうぞ。

 

 

 

 ――月――日

 

 

 文科省の辻さんに連れられて、お偉いさんとこにご挨拶に向かう。

 

ここからが俺のステージだぁ!!(絶対ユグさねぇ感)

 

文科省の偉い人の前で「世界記録塗り替えて金メダルで軍人将棋させてやる」と啖呵切って見せる。実際のとこ己のスペックを鑑みれば大体不可能じゃないと思う。無理ならできるようにトレーニングすりゃあいい。

 条件は『大洗学園艦の廃艦撤回』。

さもなくばこの場で自害して文科省の中の人材一新させてやろうか?と脅しも込めてみる。鼻で笑われたんで手始めにテーブルの上にあったハサミを半分にしたような洒落たデザインの封切りを手に取って、無造作に二の腕を刺して見せた。痛み?あるに決まってんじゃん。

 

 確かにクッソ痛いがなぁ―――こんなもん大洗全体を曇らせた分のピロシキにも相当せんのじゃぁ!!!(切実)

 

 「本気度がわからないのならこの場で陰腹切ってから交渉しましょうか?」と止血しつつ慇懃に笑顔で接した結果なんかドン引きされて廃艦撤回を約束してくれた。口約束で反故にされるのも何なので念書と血判できちんと確約を取ることを忘れない。(安心)

 血の気が引いた顔で一応笑顔で退出する。隣の辻氏の胃とメンタルがボロボロになっていることだろうが、それに関しては謝らねえ。だって俺にしてみればこいつが諸悪の根源という認識だから(迫真)

 

 

 

 ――月――日

 

 

 トレーナーがさじを投げた。

今までやってきたパルクール式トレーニングだけでわりとありえないものだったらしい。解せぬ。あとトレーナーを探してきた辻氏が胃が痛そうにしていた。

が、正直どうでもよかったので、俺のログにはなにもないな!

 

 

 

******

 

 

 

 ――月――日

 

 

 今年で何枚目だっけか……?金メダルをパズルゲームのように並べると合体してデカいメダル一個にならないかなとかどうでもいいことを考えつつテレビをつけると戦車道特集をやっていた。

 もはや画面越しにしか姿を見ることはできないが、みぽりんにエリカ、まぽりんにチョビ、カチューシャにダージリンと懐かしい面々が大人になっている姿ってのは何て言うか―――感慨深い。

 風の噂では杏会長が他の2人と一緒になんか政治的影響力を増してきてるとか聞いたが、あの会長ならやりそうだなと思ったり思わなかったり。

 

 懐かしいなぁと思う。自分でちゃぶ台ぶっ壊しといてなんだけど。

 

 

 

 ――月――日

 

 

 気が付いたらベッドの上だった。

そして医者から余命を宣告された。何を言っているのかわからねーと思うが俺にもry(ポル感)

 

どうやら俺のスーパーパゥワー(巻き舌)は、寿命を削って行っていたものだったらしい。そんでこの年で老衰に至るとか……マジ草生えるわー(大草原不可避)

 

 

 

 ――月――日

 

 

 みぽりんとエリカが、ダージリンが、カチューシャとノンナが、愛里寿と取り巻きのミミミが、

そしてアンチョビとまぽりんが、それぞれ入れ代わり立ち代わりやってきて泣きつかれた。

 やめてくれよ本当。俺のことなんぞ忘れて生きてくれと言いたい。が、言えそうにない。この状況で「ぼくのことわすれてください」(うぐぅ)とか言えたらメンタル鋼クラスじゃね?言ったとしてその後の皆のメンタルのこと考えたらひっそり死ぬのが一番穏当じゃね?と思ったのもある。

 

 

 ―――寿命で死ぬより前に舌噛んで死ぬか(決意)

 

 

 

 ――月――日

 

 

 見舞いに来た辻さんに「アンタのこと最初っから大嫌いだったわ」って最後だし思いっきり本音をぶちまけてみた。

「そうですか奇遇ですね。私も貴女のことは苦手でしたよ」と平然と返された。この役人とはこんくらいの距離感で丁度良かったのかもしれない。

 あともう文科省から異動になるらしいので文科省の辻さんではなくなるとか言われたが、正直その辺クッソどうでもいい感。

 

 

 俺がやらかしたせいでねじ曲がってしまったセカイは、少しでもマシな方向へ戻ってくれただろうか……?

 

 

 みほエリの進展(こんご)を見守ることができないのが心残りだわ。死んだあと亡霊とかになって現世で見守ることとかできないのかね……?転生が許されるならあってもいいかもしれない。

 この日記は世には出せないし、メモリーカード引っこ抜いて胃酸で溶かすとしよう。さようなら俺の日記。

 

 

 




 天翔エミ

 戦車道の世界で華々しく名を轟かせた少女は、戦車道を腰かけにするかのように陸上界に転身。その類まれなる身体能力で次々と世界記録を打ち破り、永世破られるのではないかと思われる大幅な記録更新を成し遂げた部門すらあった。
対して腰かけにされた戦車道界隈では最初から名を売るために当時日本で持ち上げられていた戦車道をやっていたと言われ悪評、風評が絶えなかったのと同じく、彼女と轡を並べた者たち、彼女と戦った同世代の日本人戦車道経験者からは彼女の人となりについて好評がもたらされ、評価が二転三転することもしばしば。

 彼女の評価が最終的に決定したのは、彼女の死後だった。

 彼女が原因不明の不治の病で現役を引退し闘病生活の果てに死亡した後、関係各所に情報がリークされ当時の詳細な情報や彼女が交わした契約などが公表された。その結果彼女は『戦車道を腰かけに成り上がった女』から『戦車道(ゆめ)を捨ててまで戦友たちを護り抜いた守護者』として名を残すことになった。同時に当時の学園艦やプロリーグ誘致における最高権限を担っていた役員や政治家の何人かが責任問題で更迭されたり首切りにあったりしたが、その辺りは一時の話題になりはしても民衆の記憶にも残らなかった。
 天翔エミの当時の契約記録を含めた複数の重要な情報をリークした人物が誰であるかは、匿名のためわかっていない。




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『ティーガー道場!!』
「押忍!!」


『今回の敗因は……というか敗因もクソもないわ。
 ―――負けるんじゃない!!戦車道乙女たるもの、勝ってこそ!西住流は勝利を重んずる流派でしょ!!』
「返す言葉もありませぬ……」




ティーガースタンプを一つ獲得しました!

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