【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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年内にまほルート終わらせる予定だったけど、終わらなかったorz


まほルートバッドエンド 【 微睡 】

 

「今年ももう終わりか」

「そうだなぁ……」

 

炬燵の中でだらんだらんと気だるげにしている俺の前で同じくおこたに入ってみかんを剥いているのはまぽりんこと西住まほ。

 

「今年は冷え込むって言ってたからなぁ……めっちゃ寒いわぁ」

「――大丈夫?エミは身体が冷えやすいから少し心配なのだけど……?」

 

 ごろんと炬燵で横になって潜り込む。こういう時にロリペド野郎垂涎のお子様背丈は便利なもので、たとえ寝転んでも邪魔にならない。のびのびと身体を伸ばして「くぁぅ」と欠伸を漏らすと少し離れた玄関口のドアが開いた音がした。

 

 

「寒いですわ寒いですわとってもとってもお寒いですわよ!!」

「ローズヒップ、ステイ」

 

 

 両手をスリスリ擦り合わせ、ぴょんぴょんと小刻みにジャンプしながらもどかしげに足だけでブーツを乱雑に脱ぎ飛ばして炬燵に飛び込もうとするローズヒップに一言告げるとそれだけでその場でピシリと立ち止まった。そのローズヒップの様子を尻目に優雅に靴を脱いで揃えて並べ、静かに部屋に入ってきたのは言わずと知れたプラチナブロンドのブリカス、ダージリンである。

 

「――買ってきましたわよ。はんぺんにちくわぶ、がんもに昆布巻き、それに濃い口醤油と青海苔*1

「―――は?牛スジにアキレスとタコ足、さえずりに薄口醤油だろうがよ。昆布巻き?昆布は出汁だろJK*2

 

 炬燵の中から見上げるようにして答えるも、鼻で笑ってみせるダージリンに若干イラッとしてる俺。

 

「寒さで動けない駄々っ子は黙ってなさいな。関東圏のおでんというものを味わわせて差し上げますので」

「おう、自分の調理スキル見直してから言えよブリカスが」

 

 言ってから「俺ここまで辛辣にダージリンにぶつける性質だったか?」と若干疑問に感じたが、ダージリンはなんかイイ笑顔でニッコニコのパフェコミ状態だったため、どっちかというとドン引きが先に来た。

 

「エミさーん!こんばんはー」

「隊長、先輩。年の瀬にお邪魔します」

 

 次にドアを開けてやってきたのはみぽりんとエリカ。二人そろって厚手のコートとマフラー装備でお出ましである。もこもこのブーツを脱ぐのに戸惑っているみぽりんをエリカが支えながら手伝っているその様子にさっきまでのドン引きもどこへやら、俺満足、お前らも満足、みんな満足最の高!であろう。

 

「エミーシャ!!来てやったわよ!!」

Добрый вечер(こんばんは)、御招きありがとうございます」

 

その後に続いてノンナとカチューシャが

 

「Buona sera!!ドゥーチェ!寒ぃからドア早く締めてください!」

「天翔!西住!来たぞー!!」

 

ペパロニとアンチョビが次々とやって来て、あっという間に多少広めの部屋は炬燵とストーブ前に陣取る組と、調理班に分かれてワイワイガヤガヤと騒がしい状態になった。物件的には広めとはいえこれだけの人数集まったら流石にやや狭い。

 

 

 

―――なんでみんな集まってるんだっけ……?

 

 

“――――起きて”

 

 

「では、調理に入ります」

「待ってろよぉー……本場アンツィオの料理道を味あわせてやるぞぉー!」

 

そんな感じで悩んでる間にノンナとチョビが持ってきた食材片手にキッチンへ向かってった。あちらでは既にみぽりんとエリカが調理モードに入っているところである。てぇてぇなぁ……(ほっこり)

 

 

……なんか悩んでる事がどうでもよくなってきたなぁ……

 

 

  *******

 

 

 「お待たせしました」

「待たせたな!アンツィオ流大晦日レシピを持って来たぞぉ!」

「Увидимся*3。こちらも準備完了しました」

 

 エリカが、チョビが、ノンナが次々と料理を運んできて、炬燵テーブルの上に乗せた拡張用の天板テーブル一杯に料理が並ぶ。

 

「ロシアの年末年始の伝統料理、オリビエです」

「アンツィオの年末年始はレンズ豆を食べるのが恒例なんだ!」

 

 皿一杯に盛られたレンズ豆の煮物とその上に乗っかった豚肉ソーセージ*4と、色鮮やかに盛り付けられた北国野菜のサラダ。それにイッツミー☆ハンバァァァァァグ!!!に年越し蕎麦。年末グルメとはこういうことだと言わんばかりのラインナップである。

 

 

“――――起きて”

 

 

 ――――はて?そういえば何故俺は皆で大晦日を過ごしているのだろうか……?

 

 

「エ、エリカさーん!ちょ、ちょっと手伝っ―――あっ!ダージリンさん!それ料理に使うモノじゃ……」

「あら?マーマイトをご存知でないの?イギリスのスープ料理ではオーソドックスな調味料でしてよ?」

「ちょ―――何作ろうと……臭っ!!何この匂い!?」

 

 みぽりんからの絶叫染みたヘルプの声と、ダージリンの調子の変わってないマイペースな言葉に反応して、ダッシュで取って返したエリカが悲鳴上げてる件。何作ろうとしてんだあのブリカス……

 

 

 

―――今何を考えてたんだっけ……??

 

 

“起きて――――『エミ』……!!”

 

 

 

 ********

 

 

 

―――ゴーン、ゴーンと、鐘の音が響く。

 

 

 自分の味音痴を理解してないブリカスによる「サバとヒヨコ豆(マーマイトベース)のカレー~ただしサバとヒヨコ豆が無かったので缶詰のサバ味噌と余ったレンズ豆で代用~」を食べて無事死亡したローズヒップを余所に、普段の様子で紅茶飲んでるダージリンを背景に、除夜の鐘をBGMにみんなで蕎麦をすすっている。

 

「エミ―――今年もよろしく」

「……ん」

 

 ちゅるちゅると蕎麦をすすりつつ短くそう返すと、フッとまぽりんがほほえましいものを見ているように口角を僅かに持ち上げる。

 

「天翔!西住!今年もよろしく!今年はアンツィオが勝利を飾る年だがな!」

「何言ってんの!今年こそはプラウダの年なんだからね!!」

 

チョビが、カチューシャが、間に割り込むようにして宣戦布告を始めると、口角を上げて微笑んでいたまぽりんの笑みが、好戦的なそれに変質していく。バチバチに視線を交錯させてにらみ合うチョビとまぽりんを見てるとなんていうかこう……フフ……下品ですけど……下品なのでやめますね……フフ……

 

 カチューシャに至ってはこっちに視線を向けて全力で打倒宣言して来てる。こういうの良いッスよねぇ~~~!やっぱカチューシャはこうでなきゃ!!

 

 

 

“起きて――――エミ!!!”

 

 

 

 

―――あれ?高校生大会は終わって、今大晦日で……みぽりんとエリカが和解してて――――

 

 

 

 

 

“お願い――――!!!”

 

 

 

 

―――今は【いつの話をしているんだ】―――?

 

 

 

 

 

 

 

“起きて――――お願いだから――――!!!”

 

 

 

 

 

「エミさん」「先輩」

 

 

 

 

 脳裏に過った疑問をたどる前にかかった声に顔を上げると、炬燵に入ったまま蕎麦を啜ってる状態の俺を立った状態から見下ろすようにして―――

 

 

みぽりんとエリカが二人そろって微笑んで俺を見ていた。

 

 

 

 

――――あーうん。

 

 

 

 

 なんかもう、その辺どうでもいいか―――。

 

 

遠く響く除夜の鐘。新年が始まり、みほエリはここに在って―――

 

 

 

 ―――だったらもう深く悩むことも考えることもないよな。そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――どうして?」

 

 

 暗く沈んだ声で、悔しそうに、絞り出すように声を漏らす女性。モンブランカラーのストレートヘアを揺らして、とっくに色褪せたボコられグマのぬいぐるみを強く抱きしめて、ポタポタと涙の雫を落としていた。

 

 

見下ろしている下には……完全密閉された、まるで鋼鉄の棺桶のような器の中で、静かに眠っている少女 

 

 

「起きて―――“エミ”―――!!」

 

 

眠り続ける少女の棺に寄り添って、跪く様に身体を預けて、声をかけ続ける女性。

 

 

「起きてよ……エミ……

 

 

  ―――わたし、24歳になったよ……!!」

 

 

 

 勝者の権利として、天翔エミのコールドスリープを提案したのはまだ14歳の少女のころだった。期間は【5年】、ひとまずそこで一度解凍し、本人がこの停滞を受け入れるかどうかを選択させる。それが少女―――島田愛里寿の示した提案だった。

 

 当初こそ難色を示したエミだったが、結局は今にも泣きだしそうな愛里寿の懇願に、その提案を受け入れることになった。

 

 

「じゃあ―――5年後にまた会おうね、エミ。おやすみなさい」

 

 コールドスリープのポッドに入る前のエミにそう声をかける愛里寿に

 

「―――そうだね。おやすみ可愛い愛里寿。また会おうな」

 

 エミは確かにそう答えた。

 

 

 

 

 

「―――起きて……!!目を覚ましてよ……エミ……!!

 

 約束、したじゃない……!!」

 

 

 5年の間に島田と西住の家や日本戦車道、それらを取り巻く環境も大きく変わった。起きてくるエミのために、色々な話をしたくて様々な話を集めては、エミに語って聞かせることを考えて、日々を過ごしていた。

 

 

 

―――けれど、目覚めない。

 

 5年が過ぎて、愛里寿が19歳になった時にエミの解凍実験が行われた。

 

しかし、コールドスリープの解凍実験は失敗。エミの意識は戻らず、エミの肉体を保存するために再び凍結措置を取ることになった。

 

 この一件により西住と島田の水面下で激しい争いが激化。二家の関係は表向きほぼ断絶に近い状態になった。

 

その上で、当代西住家師範西住まほ及び師範代西住みほが秘密裏に愛里寿とコンタクトを取り、天翔エミに関する話し合いと対策を続けているのが現状である。

 

 

「―――話したいこと、行きたい場所、やりたいこと、一緒に、一緒……!!」

 

 

 ぼろぼろと機材と床を濡らす涙を止められなくて、島田愛里寿はさめざめと泣き続けていた。

 

 

 かつて西住まほがそうであったように、島田愛里寿も24歳を数えるようになった。いかに娘贔屓の母としても、婿取りを考える年齢となっている。かつて西住まほに行ったそれが、己の身に降りかかる状況を前にしても、島田愛里寿は変わらない。そして、眠り続けている天翔エミもまた、変わらずそこに在った。

 

 

 

 継ぎ接ぎだらけの、いつ壊れてもおかしくない世界で、眠り続ける少女と、目覚めを待つ女性の終わりが――――いつ訪れるのか、まだわからない。

 

 

 

*1
神奈川なので関東風の味付けである

*2
熊本なので当然、関西味である

*3
お待たせしました

*4
コテキーノというらしい





これにて今年の投稿終了!!

良いお年を!!



【追記】

アンケに福袋設置しました。3が日終わったらアンケ締めきって「投票数が多かった福袋」を準備します()

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