【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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――月――日

運命の決勝戦―――事故は、起きた―――。

―――俺は成しえた。みほを護り、赤星さんも、Ⅲ号の乗員も救った―――!
俺は、成し遂げたんだ―――!!!




―――――――成し遂げたはずだったのだ。




装填騎兵エミカスRS(IF:小梅ルート) ※ 完結 ※
【 装填騎兵エミカス IF:小梅ルート 】


   『 天翔ける赤い星の軌跡 』

 

 

――月――日

 

あの事故の結果、Ⅲ号の他の乗員はみんなやめてしまった。

赤星さんだけは残って俺の擁護をしてくれている―――のだが、

俺への風当たりは大したことが無い。どちらかと言うと

―――マトにされているのは赤星さんの方だ。

 

 

******

 

赤星さんを含めたあの事故に巻き込まれたⅢ号J型の乗員は、俺の救出の甲斐もあり、命は助かったのだが―――どうしようもない心の傷を負っていた。

オープントップならば問題はないが、戦車のハッチを閉じて密閉状態にすると、過呼吸を起こし倒れる。完全に水没したときのトラウマが後を引いていた。

 

―――俺にはどうすることもできない。水際で没していく戦車を見て飛び出そうとしたみぽりんを止めたのが俺で、みぽりんと口論したのも俺。仕方がないやり取りとはいえ、水際から水没までのタイムラグを生み出したのが俺という異分子のせいで生まれた空白の30秒―――救出にモタモタした分を加えると1分間ほど。

 

―――その一分がこの惨劇を生んだのであれば、俺の背負うべき責任は計り知れない―――。

 

 どこか楽観視していた部分はあっただろう。「人が死んだことはない」と原作で秋山殿が言っていたから―――ガルおじにとってその情報は原作知識であり、絶対のルールであると脳内に刷り込まれている―――。

 

 ―――「確かに死んではいない」、でもこれは違うだろ―――!!

 

ガルおじとして生きた前世の記憶に、戦車の戦闘をリアルで見た記憶はない。なろう系と呼ばれるラノベタイプのアニメ化で、戦争の様子を凄惨に描いた描写などで心的外傷を負った兵士が居たり、現世にもあった戦争帰りの兵士が戦時のトラウマを想起して街中でドンパチ始めてしまう洋画だのは知識として知っていた。

 現実で、しかも年端のいかない少女のそれがここまで悲惨に映るものだとは思ってもいなかったが―――。

 

―――心のどこかで思っていたことではある「ここはガルパンの世界だ」と―――

 

―――観客気分で居た俺の心にくさびの様に何かが刺さったのは、この頃だったのだろう―――

 

 

―――それでもみほエリを諦めないし、観客気分が抜けきらないのが俺であるのだが―――

 

 

 

******

 

 

 

――月――日

 

戦車に乗れないまま、赤星さんが日に日に疲弊していくのをまぽりんが時折、周囲に見えない角度で辛そうな顔で見つめている。みぽりんも気に病んで曇り始めている。エリカはどちらかと言うとどこ吹く風で、一見厳しく当たっているように見せて一気に赤星さんを引き上げようとしているというツンデレの専売特許な励まし方を見せている―――俺はと言えば特に何ができるわけでもない。ただただ、話を聞いてやるだけしかできない。

 

 

――月――日

 

上級生にいじめられているところを目撃したので、傍に立てかけてあった特大のロッキングラチェットを手にゆらりゆらりとアブナイ人の歩き方で上級生相手に凄んで見せる。台所に居る茶色いアレのような速度で逃げ出した上級生たちを尻目に赤星さんを落ち着かせる。事故のトラウマと戦う生徒ということで注目を集め、隊長からも特別視されているこの娘を邪魔に想ったり狡いと思ったりした連中は少なくないのだろう。

 

―――だったらお前ら替わって見せろよ と叫び出したい。

 

 こういうのはいらないんだよ。女子校独特の後ろ暗くて陰湿でドロドロした世界とかみぽりんの闇がさらに深くなるだろうが―――!!

この話はみぽりんの耳にも届くことになり、みぽりんの闇が増した。エリカも激昂していた。ただし両者の憤りと闇には決定的な隔たりがある。

 ―――あくまで加害者へ怒りをあらわにするエリカと、

 ―――あくまで被害者の立場に立ち闇を深めるみぽりん。

この二人の思考の違いがCPにおける醍醐味と言えるが、この場面でのそれは、二人の意見の対立を招くものになり得る―――。

 

―――みほエリの苗が、根を張る土台が腐り始めている。そんな気がした。

 

 

******** Emi→Koume

 

 

―――気持ち悪い。怖い、息が詰まる―――

 

密閉された空間内。油と鉄の匂い。周囲から圧迫される感覚―――

 

「―――はぁ、は、は、は――――」

 

もう嫌!出して!ここから出して!!!

 

ハッチを開いて上部昇降口から顔を出してげほげほと咳き込む。

戦車に乗り込んで10秒も経過していない。

 

―――こんな調子で、私に―――もう、戦車道は―――

 

 

******** Koume→Emi

 

 

――月――日

 

赤星さんが黒森峰を去ることを決めた―――。

―――ちょうどいい。みほエリのためにも俺というファクターが一度離脱する必要があると感じていたところだ。便乗させていただこう―――。

 

―――彼女の病状に同情的な部分があったことは否定しない。自分の目的に抵触しない範囲で、可能ならばそれをどうにかしたいと思う程度の善性は、俺にも残っている。

 

まぽりんに「赤星さんがきちんと立ち直れるまでの間、彼女のことを見てやろうと思う」と伝え、赤星さんと同じ場所へ転入できる手続きを取り、転校願を提出する。

 

 当然ながら困惑されたうえ、もたもたしてたのでみぽりんとエリカが凸ってきた。

 

 理由を尋ねられたんでその辺を理由づけて説明する。

「このままじゃ俺、戦車道を続けたくなくなっちまうよ……」的な感じの言い回しをオブラートに包んだ理由を訥々と説明すると不承不承ながら納得してくれた。みんないい子やわ(確信)

 

「一度はなれて戦車道を見つめ直してみる。戦車道のためのトレーニングは欠かさない。きちんと赤星さんを連れて戻ってくる」と約束して、まぽりんと握手を交わす。みぽりんとエリカとも握手を交わし、最後に「そんな感じなんだけどいいかな?」という実に曖昧な事後承諾を赤星さんに提案した。正直こう、無理やり感溢れる台詞ではあったが、赤星さんが快く承諾してくれた。内心ガッツポーズで握手する俺であった。

 

 

 旅立ちの日に餞別代りにとまぽりんが用意してくれたのはⅡ号戦車だった。操縦席の前面部を解放させれば赤星さんのトラウマを刺激すること無く動かせて、3人乗り。砲手の必要がないなら実質乗り物という点でこの戦車のチョイスは素晴らしい。パーフェクトだウォルター。

 お礼を告げると昔話を始めた。みぽりんと一緒に子供のころにこれと同じものを乗り回していたらしい。っていうかそれ劇場版の過去回想シーンだよね?だんだんと昔話が『あの頃から妹はとてもかわいかった』系の話にシフトしていってる。これ長くなる奴や工藤―――orz

 

 

******

 

 

――月――日

 

大洗の街並をⅡ号戦車で走る。戦車のパンツァーエンブレムがある場所には鉄十字を模した黒森峰のエンブレムはもうない。

学校に乗り付けて自動車部のガレージに入れておくと、珍しい車を弄れるという事で自動車部が勝手に点検してくれる。便利だなー大洗。

 

 

****** Emi→Koume

 

 

「ヘイ!カノジョたちぃ!一緒にお昼食べなぁい?」

 

背中からかかった声に振り返る。二人の女子生徒が、私と天翔さんを呼び止めたようだった…。

 

 

******* Koume→Emi

 

原作イベントキター……だがみぽりん相手ではないさおりんのこのイベントに欠片も興味がわかねぇぇぇぇ!!

 原作通り、一緒にお昼食べて、名前で呼び合う会話してー

「じゃあエミりんと、コウメちゃんで」

赤星さんに対しては【~りん】というニックネームは付けられなかったようだ

 

―――赤りん―――星りん―――いやいや、やばいやばいやばい(やばい)

 

教室で仲良く会話していると、生徒会メンバーがやってくる。原作のイベント、開始である―――。

 

******* Emi→Koume

 

「赤星ちゃんに天翔ちゃんさぁ―――選択必修科目、戦車道取ってね?」

 

肩を抱いて体重をかける様にだらんと垂れ下がり、睨み上げる様な視線を送って来る生徒会長に―――

 

「―――私はともかく、赤星さんに戦車道は無理です」

 

私の代わりに答えてくれたのは、天翔さんだった……。

 

「赤星さんはここに来る原因になった事故がもとで、戦車に乗れない身体になってしまっている。とてもじゃないが戦車に乗せるなんてできない」

「―――えー?でもさぁ―――Ⅱ号戦車で毎日登校してるじゃない?」

 

―――事実だった。戦車に乗るためのリハビリとして、私はⅡ号軽戦車による登校を事実上黙認されており、天翔さんはそんな私のために操縦手を買って出てくれて、この一か月、一緒に登校していた。

 ハッチを開き、操縦席の窓も開けているけれどまだ息が詰まる様子の私に、ぎゅっと手をつないでくれた天翔さん。

 

その手を信じられるから、彼女と一緒ならば―――――

 

 

****** Koume→Emi

 

 

「あの―――私、戦車道―――やります」

 

――――――ちょっと待って、待って(震え) この展開予想してない。

 

 

 

 

―――これが後に「大洗を救った存在」と称される天翔エミの始まりであり、彼女を支え、支えられた黒森峰時代からの彼女の友人であるとされる赤星小梅の物語である。

 

 

そして―――

 

 

******

 

「秋山優花里と申します!不束者ですが!よろしくお願い致します!!」

 

******

 

「天翔ちゃんたちは、持って来た自前の戦車があるし、Ⅱ号戦車で練習してよっか」

 

******

 

「黒森峰のパンツァーエンブレムはもう付けられないし―――あんこうチームとかみたいな何かのマークが欲しいよね」

 

******

 

「【赤星】小梅 なんだから、これでいいんじゃないかな?」

 

「それいいかも――――!!!」

 

******

 

 

 

 

 

―――後の戦車道高校生大会にて、Ⅱ号戦車と、その後に加わった黒森峰のマークを剥がし、新しいエンブレムを付けたかつてのⅢ号J型のエンブレムが、その後も戦車道選手として歩みを続ける赤星小梅の原点であり、トレードマークとなっている。

 

 

天を翔ける一筋の赤い星。パンツァーエンブレムから名付けられた【真紅の流星】赤星小梅と、高速装填で知られる【強肩】天翔エミ。

 

 

彼女たちの乗り込む戦車とその小隊は、彼女たちのトレードカラーと自動車部の悪乗りによって、車体に赤いカラーパターンが刻まれ―――

 

 

―――いつしかこう呼ばれるようになった。

 

 

 

 

  ――――――【赤肩小隊】、レッドショルダーと。

 

 

 

 

 




自動車部「こいつの砲塔は赤く塗らないの?」

エミ「塗りたいのか?」


自動車部「ヘッ、冗談だよ」



最後のオチがかなり前から脳内でチラチラしていて、気が付いたら書き上げていた。

なお『必ず帰ってくる』と約束した仲間が別の学園で敵となって現れた時の黒森峰の動揺度()

あとこの世界線でも寿命は健在です(無慈悲)

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