【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
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咄嗟の判断で信地旋回に切り替えた。急発進による横向きのGに耐え、クロムウェルが半回転を終えてから身体を捻りⅣ号の方を見ると、Ⅳ号からは白旗が上がっていた。無理やりな停車と最後の砲撃のダメージで限界を超えていたようだ。
そして――――
「―――あっは―――♪
―――あっははははははははははは!!!」
クロムウェルのキューポラから上半身だけを乗り出した状態で大声で笑う。
愉しい!実に愉しかったわ!
「――――お見事!!それしか言えないわね!」
―――クロムウェル右側面の装甲表面、そこには弾丸が通り過ぎた時に削り取った痕がしっかりと残っていた―――。
『 疾風Ⅱ 「刮目なさい!我は「疾風」アールグレイ! 終」 』
―――Side Earl grey
本当、期待を裏切らない娘たちだったわ。
だからこそ残念だなぁ。一人くらい連れて帰りたかったなー……。
「―――お疲れ様でした」
試合の後はノーサイドは戦車道界隈での常識。私が車長の娘の前に出ようとするとブロックするように【機関砲】のあの子が割り込んでくる。
「お疲れさまでしたー。高校のレベルってのが良くわかりました。半端ないですね」
「高校戦車道もピンキリだけどね。
そんな風な言葉を交わして別れる前に、どうしても聞いて見たかったことを思い出した。
「―――そうだ。聞いておかなきゃいけなかったんだわ
―――あなた、何で戦車道を続けてるの?どういう意味なのかは理解してると思ってるから「好きだから」とかそういうのはいいから」
私の言葉に後ろの二人が身構えた。あの娘の反応次第では食って掛かられるかなぁこれは……
私の質問にしばらく考えるように首をひねった天翔エミは―――
「―――この道の先にしか、望む未来がないと思ってます。
それがたとえ苦難だらけだとしても、踏み越えるくらい覚悟できてなきゃ……
―――じゃなきゃ、夢を追ってますなんて言う資格ないでしょ」
こともなげに、そう言った。
「―――は、ははははは……あははははははは!!!」
今度こそ、もう我慢なんかできないで大笑いしていた。もう無理、我慢なんかできない。
――――
「―――いや、ごめん、ごめんね。私ちょっと笑い上戸でね……笑わせてもらったお礼と、貴女の夢を嗤ったお詫びに何かしてほしいことがあったら応えて上げるわ。応えられる範囲内なら」
「あ、じゃあ【機関砲】っていう二つ名、アレ止めてください」
「あ、やっぱり?うん、いいよー」
私の言葉に即答する天翔エミに、即答で返す。
「―――【機関砲】なんて名前貰ったら砲手の子に悪いものねぇ」
「いや、別にそういうわけではない―――です」
最後の方で口ごもったのが謙遜を隠しきれてないなぁ。まだまだだね、天翔エミちゃん。
後ろの二人も真意に気づいてか尊敬の目を向けてるし。本当、初々しいわー
このままだとあの子が周回遅れになりそうだし、そっちも手助けしますか―――
「まぁ、それだけじゃちょっと少ないと思うから―――」
私の後ろで待機してた娘を前に押し出すようにして肩を両手で抑えて逃げられなくする。
「あ、アールグレイ様……?!」
「さて天翔エミ。私はこの子に近いうちに”冠名”ダージリンを与えようと思ってるの。でもそれを曲げて、貴女の与えたい名前を通し名にする権利を上げちゃいまーす」
私の提案に天翔エミは怪訝そうな顔をした。未来のダージリン候補に通し名としてツバつける権利をくれてやるんだから破格の対応なんだけど―――聖グロのルール、やっぱり他校には浸透してないのねー……
エミちゃんは私の言葉に「まぁそう言うなら」という感じでううむとうなっていたが、やがて決まったのか、私の方を見た。
「―――じゃあ、フッドで」
「了解、フッドね。聖グロリアーナ隊長、アールグレイの名のもとに承認しまーす」
名付けが気に入らなかった烏帽子子が烏帽子親と口論してるのを見てまた笑いが込み上げてきた。駄目だなぁ……こういうの笑っちゃうんだ。
聖グロでチャーチル会とマチルダ会のぶつかり合いに参加しなきゃいけない無常さとか考えると、どうしてもこういう日々の楽しさを探しちゃうんだよねぇ……
―――それにしても、付け入るスキもないなぁこの子たち。
*****
「―――よろしかったのですか?」
「……なにが?」
黒森峰連中が帰った後で、フッドちゃんが私に話しかけてきた。
「……アールグレイ様のことです。もしもクロムウェルが本来のMkⅧであれば……75mm砲ならば」
「ウンソウダネー。それ使ってたらイキってる先輩の後輩イジメ以外の何者でもないからねー?」
質問に端的に返してあげると絶句してた。予想外だったかー……
一応私聖グロリアーナの隊長で、学園のトップなわけで……喧嘩売られたから買いましたーってだけで本気の本気で挑んで蹂躙するとかそれ学園の品性を下げるって一番言われてるから……
「常々言っているけれど……もっと視野を広く持ちなさい。戦場を俯瞰し、盤面を見るかのようにね」
「……はい。申し訳ありません」
しゅんとしたフッドちゃんを前に考える。 天翔エミ、及び西住みほと逸見エリカというあの三人の『かみ合わせ』について―――
戦車道における常道とはじゃんけんの様なものだ。 例えば包囲陣は一点突破に弱く、防御陣は一点突破に強く、包囲陣に弱い のようなわかりやすい三竦み四竦みがある。
これらの戦術は名門が居たりする。例えば防衛の名門と言えばマジノラインを再現できるマジノ女学院だし、速攻というのであれば私よりも速攻にふさわしいのは西住流黒森峰が誇る電撃作戦だろう。
それに対して、この娘の持っている特性は「対応の天才」。相手の戦術を受け止めることでその戦術に対する対応戦術を組み立てて戦うことができる。先のじゃんけんの例えで言うなら「一度だけ出した後で手を変えることができる」というもの。
―――だからこそ、「あの三人相手には勝ち目が薄い」
常道における西住流。それを補強するのがどこまでも普通の娘、逸見エリカ。
発露に時間を要するが、相手の作戦・戦術をすべて理解してそれに対してのメタファーを構築する異質すぎる才能の西住みほ
そして何より。そんな水と油の戦術を展開する二人を、純粋な信頼でのみ縛り、状況に応じての手段の変化に寛容に順応させる存在。天翔エミ―――。
じゃんけんで言えば「グーとチョキとパーが同時に出てきて、最終的に一人でも勝っていれば勝利扱いになる」という馬鹿な存在である―――
西住みほと逸見エリカの二人だけならばお互いに主張が交わらずまとまらない戦術も、あの娘がいることでパワーバランスが完成している。
そしてその民主主義的な結果を、どんな結果であろうと3人全員が納得して遺恨なしに受け入れる下地が完成している。
―――だからこそ残念だわ。もう少しあの状態を見て居たかったと思う。
クロムウェルに乗り込む前に、ついでに目の前のこの子にも一言、助言をすることにした。
「―――もしもあの娘、天翔エミにあくまで固執するのなら。決して目を離さないようにね?
あの子はイカロスよ。絶対に届かない天空に向かって飛び続けようとする愚かな人類の象徴。その結果、彼女の理想が彼女自身に牙を剥く。
―――どうしようもない結果がいずれ訪れる。彼女自身の破滅を伴って―――」
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―――― Side Darjeeling
「―――もしもあの娘、天翔エミにあくまで固執するのなら。決して目を離さないようにね?
あの子はイカロスよ。絶対に届かない天空に向かって飛び続けようとする愚かな人類の象徴。その結果、彼女の理想が彼女自身に牙を剥く。
―――どうしようもない結果がいずれ訪れる。彼女自身の破滅を伴って―――」
最後にアールグレイ様が残した言葉は、まるで胸の奥にしこりのように残っていた。
彼女が掲げる理想とはなんなのか?あの並外れた装填能力をもってして、何が破綻に通じるのか?謎だらけではある。
―――ただ、とても言いしれない嫌な予感がした。
私がそれを知るのはこれより2年後。あの運命の大会決勝戦になる―――。
エミカス「―――この道の先にしか、望む未来(みほエリ)がないと思ってます。
それがたとえ苦難だらけだとしても、踏み越えるくらい覚悟できてなきゃ……
―――じゃなきゃ、夢(みほエリ)を追ってますなんて言う資格ないでしょ(キリッ)」
しかし長くなったなぁ―――。
思い付きで原作にいないキャラを出すべきではない。心に刻みました(吐血)
ダー様をフッド呼びさせる。後に来る悲劇を予言するためのイベントトリガーアールグレイパイセン
少しずつだけど、本家様の時空と乖離しています(