【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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「―――赤星さんから見て、彼女たちはどう見える?」
「―――練度が足りませんね……でも、楽しそうに練習してます」


「―――で、聖グロ相手に勝てると思う?」
「―――ど、努力次第、としか……(目を逸らす」

~ 或る日の会話 ~






【 装填騎兵エミカス IF:小梅ルート ③ 】

 聖グロとの試合は、5対5の殲滅戦。

なので出場車輛は八九式、Ⅲ突、38t、M3リー、Ⅳ号の5輛。

俺と赤星さんの乗るⅡ号はお留守番となる。

 

 ―――でも遊び駒はいらないってことで俺が38t、赤星さんがⅣ号に乗ることになった―――のだが

 

 

「―――はぁ、はぁ―――はぁ―――は、は、はっ―――――――は―――」

「もうやめよう!コウメちゃん!今すぐ外出て!息吸って!!吐いて!」

 

武部殿に外に担ぎ出される蒼い顔をした赤星さん。乗車練習を始めて30秒。徐々にだが慣れは感じさせてはいるが、改善というにはほど遠い。

 

「―――ごめん。あれ、本当だったんだね」

 

38tの車内で、申し訳なさそうな声で謝る会長の声。38tに4人は定員とはいえ若干狭く感じる。自分が小柄で良かったと感じるのは数少ない経験だと思う。

 

「構いませんよ。赤星さんが望んだ事なので」

 

 と、ここで一応後々の布石というか、その辺を踏んでおこうと、俺ははたと気づいて―――

 

「―――私たちを無理やりにでも戦車道に引っ張り込む必要が、あったんですよね?漫画とかドラマなんかの廃校だの廃部だのがかかったやつみたいに」

「さぁ、どうだろねぇ」

 

 とりあえず突っついてみる。が、有効な相手とそうでない相手はいる。角谷杏はそういう意味では徹底的に強者で――――

 

「そそそそそそうだぞぉ!!そんなわけがななななないではないか!!」

 

―――桃ちゃん先輩は本当、普段の動揺から来る自爆癖を何とかしたほうがいいんじゃないかなぁ と本気で心配になるメンタルクソ雑魚ナメクジっぷりですわ……

これでも普段交渉事(練習試合の交渉など)を引き受けてるし、劇場版で会長不在の状況を真面目にこなしてるんだから其処ら辺の素養はあるはずなんだがなぁ……

 

 

 

『#3 隊長!?が、がんばります!!―――ボコボコにして差し上げますから、覚悟なさい』

 

 

 

追求した結果簡単にゲロってくれた上、『ごめん、他の皆には黙っててくれない?そのうち皆にも話すから』と言われてその場は収まった。

 その後も色々とすったもんだがあった挙句、「赤星ちゃんは隊長やるべきだと思うから、赤星ちゃんを安定させる天翔ちゃんとセット運用で」ということで―――

俺がⅣ号の装填手に収まり、押し出されるようにゆかりんが38tに乗り込むことになった。

 

「―――本当ごめんね?秋山さん」

「いいえ!38tの内部も楽しみではありますから!!」

 

いや本当恐縮なんだよマジな話―――これがきっかけで秋山殿だけあんこうチーム(みぽりんレス)からハブられるようなことがあったらと思うと俺自決案件だから!赤星さんの治療よりも原作キャラの立ち位置を奪うことの方が重要な犯罪だからね?!

 とはいえ、武部殿に隊長としてみぽりんの代わりが務まるかと考えると。むーりぃー……と言わざるを得ない(森久保感)

 

 通信手としては優秀に育つし真面目で責任感が強く、おかん属性を持っておりコミュ力の権化である婚活戦士武部殿の手腕はとても優秀だと思う。だが戦時に置いてそれが役に立つかと問われれば答えはNO一択。戦場において【何て冷静で的確な判断力なんだ!】と一目置かれる存在になるには、終局、まぽりんのように鉄の精神を押し通して鋼の存在になるか、カチューシャのようなカリスマで部隊を統率し、ノンナのように恐怖で味方を縛るか、はたまた相手の性格を掴んでノセてまとめ上げるアンチョビのような独特の統率力というものが必要になる。

 その点から言うと……『武部沙織にそんな統率能力はない』、或いは、あると言えるのかもしれないが、それはどちらかと言うとレクリエーションにおけるみんなの意見のまとめ役に近い。作戦立案の決定権を与えられてもその場その場で脊髄反射で対応することしかできないタイプだ。戦術というものを学べばあるいはいい車長になる適性もあるかもしれない―――まぁ当人が戦車より男を優先しているし、ないない。

 

 

*******

 

 

 試合当日。まぁ、わかってたことだが『麻子が起きてこないんだけど!どうしよぉぉ~~!?』と電話がかかってきたらしい、赤星さんに。

そして赤星さん経由で俺に連絡が来て―――俺は最終的に決断せざるを得なかった。

 

「よ、Ⅳ号戦車で迎えにいこう」

 

―――試合の後で指2本逝っておこう。俺は決意した。

しょうがないこととはいえさぁ、こういう過去の原作キャラの功績をかっさらって俺TUEEEE!!するのはさぁ……なんか違うんよ……やめて!流石ですって目で見ないで!俺のメンタルが危ういの!!みぽりんだから!これ考えたのみぽりんだから!!(多分)

 

着替えとか一連の道具類を持ち込み、戦車と起床ラッパでお出迎え。空砲目覚ましでまこりんを目覚めさせて、操縦は秋山殿が担当。

 

 実のところ、もっとスマートにするのであればⅡ号戦車を使い、俺と赤星さんだけで行くという作戦もあるにはあった。が、Ⅳ号で行く作戦を推した理由が俺にはある―――

 

―――ぶっちゃけ、秋山殿を少しでもあんこうチームに慣れさせておかないといけない。俺と赤星さんがⅡ号戦車に乗る関係上この戦車の装填手は秋山優花里以外に居ないのだ。齟齬が出てしまうのは困る。

 

あと本質的に一時とはいえ秋山優花里(原作キャラ)の居場所を奪ってしまうという事実が俺にとって盛大な自決案件である。自害せよランサーレベルのピロシキ案件なのだ。今すぐその場で首つって死ぬべきじゃなかろうか俺という思考で一杯だったりする。赤星さんを完全復帰させて黒森峰に連れて帰る関係上できないけど。

 

大洗の廃校撤回のための戦いに与している理由も赤星さんが戦車道を続ける意思を示したというのが割合として7割くらい。3割はみほエリを間近で確認できる状況を確保できるという点である。

 仮に放置したり敗北したとして、大洗が廃校となった場合、俺も赤星さんも黒森峰に戻ることになる―――という選択肢も、この間までなら取れた。が、今は俺が黒森峰に戻ることはできないだろう。仮にその時に赤星さんだけを戻すとした場合、俺の最後の仕事として赤星さんに復調の兆しを見せて置く必要がある。

必然、取りうる選択肢は一つ。戦車道を続けるしかない。

 

 赤星さんが戦車道に復帰する意思を見せた以上、それを尊重せずして俺が付いてきた意味はないし、放り出すのも後味が悪い。それに俺にもメリットがある。

 

―――かつて友だった相手が敵となり、自分たちに立ちはだかる壁になる。一人では勝てない、ならば二人で―――!

 

 

このシチュエーションに距離が近づかない者はいない(断言)

 

 

決勝まで勝ち進み、黒森峰の相手として立ちはだかる壁になる。これやで工藤!!恋愛関係とかそう言うのって、ライバルとか当て馬がいるから捗る!そういうものだろう?

 

 

そんなこんなを脳内で処理しつつ学園艦から町へ降りるための道路を走ってると港に聖グロの学園艦がやってきた。アークロイヤル級空母アークロイヤルをモチーフにした巨大規模の学園艦。大洗学園艦の数倍の規模がありそうな大きさのそこから、4輛のマチルダと1輛のチャーチルが降りて来る。

 試合会場に集合して整列した戦車から、優雅に降りて来るのはプラチナブロンドに青い瞳のグロリアーナ隊長、ダージリン。

 

「本日は急な申し込みにも関わらず試合を受けていただき、感謝する」

「構いませんことよ―――それにしても」

 

チラリと戦車群を見やり、口元を隠す

 

「―――個性的な戦車ですわね」

 

語尾に「w」が透けて見える様な言葉尻に桃ちゃんがムッとしたらしい。が、それよりも先にダージリンが戦車をつらつらと眺めていた時にこっちと目が合った。

 

「――――――どこへ行ったのかと思えば……こんなところに居ましたのね。あなた」

 

やったらと挑発的にこっちに向かって敵意バリバリで威圧を飛ばしてくる。こう、すごく面倒臭い―――。

 

「貴女が相手だというのなら是非に及ばず―――全力でボコボコにして差し上げますわ!!!」

「―――相手がだれであれ全力で戦うのが騎士道精神だったんじゃなかったか?」

「お黙りなさい!!」

 

髪が逆立つ勢いで怒りをメラメラと燃やし宣言するダージリンに適当にツッコミを入れるとぴしゃりと返しが飛んでくる。

 ―――実を言うとダージリンとの因縁は、中等部のころにさかのぼり、そこから一方的にライバルとして認められたり、珈琲事件があったり、まぁ色々あってライバル関係としてはかなり恨まれてる感じだったりする。

だがまぁ、こいつが冷静さを失えばこっちの勝ち目が上がるのも事実なので―――

 

「―――まぁ、今日はよろしくな。フッド」

「ダージリンだと言っているでしょう!!」

 

 ギャンギャンと喚くダージリンの様子に困惑しっぱなしの他の面々を悠々とスルーして、Ⅳ号の装填手席に潜り込んでハッチを閉じる。

 

「そういえば、エミさんはダージリンさんのライバルでしたっけ」

「向こうが一方的にそう言ってるだけで、こっちは認めてないけどね」

 

赤星さんの言葉にそう返して肩をすくめると車内でクスクスと笑い声が響いた。どうやら緊張は解れたようだ。

 

 

 

――――まぁ、負けたわけだが。

 

 

 

どうにもこうにも、赤星さんは正直な性格をしているためか、搦め手、奇策と言った発想へ至ることが難しいらしい。半包囲陣形による一斉射撃を相手が突破して逆包囲しようとするところで、壊れたラジオみたいに「撃て撃てぇ!」としか言わない桃ちゃん先輩を黙らせて、フラッグのいない方のマチルダ2輛を集中砲火で黙らせたまでは良かった。だが、高台を捨てて逃げを打つ際に逆に相手に高度差を利用され、Ⅳ号以外が潰走。最終的に峡谷を舞台に3対1で戦い、1輛を撃破するも履帯を破壊されて動けなくなり、撃破された。

 結果として見れば相手に余力を残した状態で敗北。ここから先の大会で勝ち残れるかが不安になる戦果と言える―――。

 

「教本通りの戦い方ね。貴女らしくもない。拍子抜けだわ」

 

なんて、皮肉気に言ってくるダージリン―――

 

「―――違います!」

 

 

********Emi → Koume

 

 

「―――違います!!」

 

思わず一歩前に出ていた。相手が勝者で、私たちは敗者で、相手がどう思っていようと、それは文句の言える状態ではないのだろう。

 

―――でも違う。彼女のことを悪く言わないで欲しい。

 

 この試合における隊長は私で、私が叱責を受けるのは分かる。でも装填手であるエミさんを馬鹿にするのは間違っている。私のせいで、彼女が馬鹿にされるのは、許せない―――!!

 

「貴女にそんな風に言われる筋合いはないわ」

「あります―――私は隊長ですから。負けたのは私の責任です、エミさんが悪いわけじゃない―――貴女にこそ、エミさんを責める資格なんかない」

 

自分がここまではっきりと相手を否定することがあるとは思わなかった。今まで自分を前に出して強くいう事なんかほとんどなくて―――悪く言えば、皆を率いるには、自信と圧が足りないとよく言われていて―――。

 Ⅲ号J型の車長に抜擢されたときにも、思ったことがある。「小隊の隊長クラスが、自分の分なのだ。高望みをすべきじゃない」と―――。

 事実、5対5の小隊戦闘ですら、私は勝てなかった。皆に命令を飛ばす圧が足りなかった―――。けれど今、それを覆してでも大隊長になるべきだと湧き上がる思いがある。私を救ってくれた人のために、今も私を助けるために身を粉にしてくれている彼女のために、誰よりもそんな彼女に応えたい自分のために、もっと上を目指せと体の奥底から声がする。背中を押す力がある―――。

 

 

―――それと、何故かわからないけれど、この目の前の(ダージリン)が気に食わない―――。

 

 

エミさんの前に立つ私に、ダージリンさんは一歩引いて

 

「―――そうね。確かに天翔エミの責任ではなかったようね」

 

そう言って、私の目を強く射抜くような瞳で見つめ―――

 

「―――お名前を拝聴しようかしら?」

「―――赤星小梅です」

 

私が名乗ると、「そう」とだけ答えて、そのまま去っていった。

去り際に「大会でお会いしましょう。勝ち上がってこられるなら」とだけ言い残して―――。

 

その後―――記すにも恥ずかしい姿をご町内に晒すことになる。エミさんは気にしてないと言っていたが本当に恥ずかしかった。死にたい。

 

学園艦に戻ると、ダージリンさんからティーセット一式が贈られてきていた。

「聖グロリアーナでは、好敵手と認めた相手にしか紅茶を贈らないのだとか」と秋山さんが言っていたけれど……手にしたティーセットには、何か違う意味を含んでいるようで、重い重い何かを感じ取ることができた―――。

 

 

*******Koume → Emi

 

 

 俺のために大声を上げる赤星さん。強い決意を込めた瞳に俺は確信していた。

 

この子のリハビリが、順調に進んでいる と。

 

 正直不安ではあった。自分を前に出すのが苦手なこの娘は限界を超えて頑張る様子がわかりにくい。常に全力疾走で走っているだけでも表情に変化がわかりにくい場合はストップをかけ難いという弊害がある。だがこれだけ感情を表に出せるようになったのなら、ステップを速めて多少なりと荒療治が可能になるだろう。

 今のままだとサンダース戦で敗北する可能性が極めて高いし、可能な限り彼女のリハビリを推し進めておかなければならない。

 

―――ダージリンが意味深な微笑みで去っていったあとは、そう―――

 

―――あんこう踊りたのしかったです。みんな死んだような目をしていたし、赤星さんも今にも自殺しそうな表情をしていたが、楽しかったです(感想)

 

 その後の自由行動で別行動をとった俺は出会うことがなかったが、新三郎と華さんのお母さんとばったり会ったり、華さんが勘当されたりで戻ってきた時に赤星さんのテンションが底値を更新しそうになっていた。みぽりんがああなっていた可能性を考えて落ち込んでいたらしい。この子は優しすぎる天使か(確信)

 

 なお、別行動をとっていた俺はボコミュージアムである出会いを果たしていたわけであるが―――ここは割愛する。

 

 

―――翌朝、トレーニング中に転んで高所から落ちそうになり、身体を手で支えようとした結果左手の指が親指以外脱臼したと説明したら本気で心配されました。

後パルクールのコースも自重するように言われました―――ピロシキの理由を説明するのも一苦労かもしれない。

 

 

 その後、Ⅱ号以外の戦車が根こそぎぶっ壊れたので自動車部に甘味を賄賂にしてお願いしに行ったり、人間ジャッキやったり、

 相変わらず朝に弱いまこりんをⅡ号に乗せて、運転技術を磨く練習と称して運転席で軽くレクチャーを受けながら登校するのにも慣れた。

まこりんもそのうち戦車道健康法の効果で血行を良くし、朝にも強くなるだろう。

Win-Winとはこのことだ。

 

 

―――全国大会抽選会。代表として壇上に立った赤星さんが引いたカードは8番。

サンダースとの対戦が、決定した―――。

 

 原作の補正と言うのはやはり強固なものらしい。一回戦負けが見えてきたわけだが―――どうしたものかと頭を悩ませる俺の肩を

 

 

 

 

 

「――――――――やっと見つけたわ」『久しぶりだね、エミさん―――』

 

 

 

 

 

 

―――ポンと叩く手が、両方から―――

 

 

「―――すぐそこに戦車喫茶があるわ―――言っとくけど、逃がさないからね?」

『聞きたいこととかたくさんあるから、一杯お話ししようね―――エミさん』

 

 

「――――ハイヨロコンデー」

 

―――両腕にみぽりんとエリカ。背後にまぽりんと三人にがっちりとホールドされた状態で連行される俺の姿は、まるでメンインブラックがリトルグレイを連れていく例の写真そっくりだったことだろう。




お願い、死なないで天翔エミ!!

貴女が今ここで倒れたら、ダージリンやまほとの約束はどうなっちゃうの?

ピロシキもまだ残ってる。ここを耐えれば、原作的にサンダースに勝てるんだから!

次回、「天翔エミ死す」。パンツァーフォー!!


(*嘘です)

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