【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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あの日の捨てきれない夢の残滓の、その向こう側に、『彼女たち』が居た。


懸命に戦って、懸命に生きて、そしてあの強豪サンダース相手に奮戦していた。


―――今からでも、遅くないのかな?


―――一度逃げ出した私も―――そこに行っていいのかな―――?


悩んで居る暇が惜しかった。両親にも、カウンセリングの先生にも、必死で訴えた。そしてリハビリを行いながら、訓練を再開した。


 私も追いつくから―――ねぇ、待っていて―――私も、一緒に―――!!


 ―――あなたたちと、一緒に―――!!




【 装填騎兵エミカス IF:小梅ルート ⑤ 】

『#5 一回戦、白熱してます!―――こちら【アンコウの灯(ランプ)】チームです!』

 

 

――月――日

 

 

サンダースの偵察に赴こうとしていた秋山殿を捕まえて二人で行くことにする。

髪の色が似てるのでサンダース志望の再来年中学生の妹と付き添いの姉という形で真正面から堂々と潜入してみた。通った(マジかよ)

 

 

「おおぅ!あれはM4無印!M4A1に僅か75輛しか作られなかったA6がありますよぉ!!」

 

 

ムッハー!とパンツァーハイを拗らせてる秋山殿を抑えて「戦車マニアな姉をなだめすかして歩く妹」という若干背反したキャラを徹底する。もうすぐ作戦会議。見学の妹ではなく「戦車道履修生」として参加して情報を得る時間だ―――。

 

 

―――結果として、情報は得たが盛大にばれてしまった。

 

 

まぁしょうがない、原作でもアグレッシブに質問しまくった挙句全力で逃げる羽目になっていたのだからなぁ……

 

 ちなみに今どうしているかと言うと―――

 

 

「―――アイエエエエエ!?ニンジャ!?リアルニンジャ?!」

「すっごーい!!なにあれ!?なにあれ!?ありえないわ!!」

 

 

アリサの絶叫と、おケイさんの若干ちのうしすうがさがってそうな声をBGMに

 

―――俺は、サンダース学園艦の甲板へ続く路を―――進まずに、壁を垂直に走って昇り、速度が落ちてきたところで壁際の通路に飛びこみ、多少助走距離を稼いだら壁に飛び出しまた垂直に駆ける―――を繰り返し、追っ手を振り切っていた。

 

 

トリックよ!トリックだわ! いいえジツよ!ジツなのよ! 実は人間じゃないのかも……? とか好き勝手に言われているが―――まぁ別に悪い気分じゃなかった。悲鳴と驚喜と称賛の声を背中に受けながら、俺は秋山殿を抱っこした状態でサンダースから帰還したのだった。

 その間ずっとお姫様抱っこされていた秋山殿が何て言うか、呆けていた。リアルクライミングとかフリーフォールとかあったので恐怖で多少感情がズレているのかもしれないな(推理)

 

 情報を持ち帰る途中で復活した秋山殿がテロップや邦題入れたりしていた。

 

 

―――でも俺がサンダース相手に大立ち回りしてるシーンに忍殺式解説ぶち込むのやめよう?な?(迫真)

 

 

情報を持ち帰った秋山殿がみんなから心配されたりお礼言われたりして恐縮したり、「部屋まで来てくださったのは皆さんが初めてです」とか若干闇を感じさせる発言が混じったりして潜入ミッションはつつがなく終了した。

 

 

 

――月――日

 

 

各戦車の塗装を塗り直したり、幟旗を外す決意を固めるために数日費やす歴女が居たり、空き時間にバレーの戦術練ったり―――自由だなぁ大洗と思う。

 

 赤星さんはみぽりんとエリカがやってきた日から、やや鬼気迫る熱心さでPTSDを克服すべく密閉した戦車の中で耐える訓練を続けている。

みぽりんとエリカがやってきたのは彼女にとってもカンフル剤のような役割だったのだろう。日が落ちる時刻まで練習している姿を見ているだけに、こちらもサンダース戦を勝ち抜かねばならないという意欲が湧いてくる。

 ともすれば俺の手で引導を渡していた可能性のあるこの学園艦で暮らして、日々を過ごして、情が湧かないわけがない。人情味溢れる大洗の人々をエキストラと十把一絡げで斬って捨てる真似など、見てしまった俺にはできやしない。

そんな感じの罪悪感交じりの動機ではあるが―――原作知識を用いてでも勝ちに行きたいと思うくらいには、俺も本気になれた。

 

 

 ―――問題は、教導員としてやってきて帰るまでの僅か48時間、実質教導時間だと20時間に届かない間に妙なカリスマを発揮して、大洗メンバーの半分くらいがみぽりんを尊敬している点にあるんだが―――大洗とみぽりんの相性、良すぎない?(雑感)

 頼られすぎてテンパるみぽりんとあわあわするみぽりんを助けに入るエリカのコラボレーションは最高でした! 最高でした!!(強調)

 

 

 

――月――日

 

 

 各自のパンツァーエンブレムの塗装―――なんだが、うちの戦車(Ⅱ号戦車)のエンブレムをどうするかで悩んで居た。

動物で行くべきか?Ⅳ号とは兄弟みたいなものだし海産物でいくべきか?などと唸っていると一年生ズがやってきて

 

「赤星小隊って赤星先輩が言ってたから、これが覚えやすいと思います」

 

 とエンブレムを半ば強制的に決めて、塗装して帰っていった。

が、まぁこのエンブレムならきっと赤星さんに否やはないだろう。

 

 『赤星』小梅を意味するような輝く赤い星のマーク―――これは中々シャレたエンブレムなのでは?レッドスターとかそういう感じの……

 

 

「―――おぉ、チョウチンアンコウの提灯部分?なかなか洒落てるねぇ」

「Ⅳ号戦車があんこうチームだし、敵を引き付ける囮車輛という意味ではぴったりのエンブレムだな」

 

 ―――会長と桃ちゃん先輩のこの会話がきっかけで、もうそういう感じにしか見えなくなったため、うちのⅡ号戦車は【あんこうの灯(アングラーズランプ)】、略して【ランプ】チームになった。

 

 ……Ⅱ号戦車のL型は山猫(ルクス)という通称が付いてるのでネコさんチームの方がまだましだったかもしれないとか思ったが、そんなものは後の祭りと言うのだろう。いやまぁ、原作に居ない『付属品』と言うのであればこの通称も妥当なのかもしれない……けど赤星さん不憫すぎない?

 

 

 

――月――日

 

 サンダースとの試合は―――激戦だった、掛け値なしに。

 序盤戦。ウサギさんチームが斥候に出たところに無線傍受したアリサの指示でM4が来襲。救助に向かったⅣ号と八九式のところには包囲するように合計で9輛の包囲陣。蓋をするように逃走方向に展開する敵戦車をかく乱したのは、赤星さんと俺のⅡ号戦車。ルクスの速力は最大時速60km/h。自動車に混ざって一般公道を走ることもできる走行性を持つ。柏葉姉妹とか自動車部などの本職のメンバーと並べられるとはっきり劣るが、操縦手の適正さえあれば、M4との速度差を活かして周囲をおちょくるように動き回ることはたやすいのだ。

 蓋をする役目の戦車をかく乱している間に逃げ切り―――指定ポイントに潜伏した後で、通信傍受機の存在に気付くことが無いあんこうの面々のために、某眼鏡のボウズ並みに「あれれ~?おかしいぞぉ?」まではいかないけれどガッバガバな行動で赤星さんに通信傍受機の存在をアッピルする。通信傍受機に気付いた赤星さんはⅣ号と合流してⅣ号に乗り換え、さおりんと連携して携帯で各車両と通信を取り合い、原作通りに1輛撃破した。

 ただ、このタイミングで通信傍受機の存在がばれたと気づいたアリサが方針転換。通信傍受を逆手に取られたことを報告して『バッカモーン!!』されたらしい(実際に聞いてはいないので伝聞だが)

 おケイさんの自裁式ペナルティにより敵車輛の数が減り、こっちを捜索する車輛は4輛だけになって――――――盛大なコン・ゲームが開催された。

 

 お互いにフラッグの位置を探す潜水艦ゲーム状態で、偵察車輛による遭遇戦アリアリの限界バトルである。 M4を撃破できる武装を持ってるのがⅢ突かM3リー、はたまたⅣ号くらいで、38tと八九式にルクスは備砲の関係上ほぼゼロ距離でピンポイントに薄いとこへ直撃でもさせない限りは難しいと言わざるを得ない。

 遭遇しては吊り出し、敵戦車に包囲される前にポイントにおびき寄せてそれぞれの連携とった戦車とのマッチアップで待ち伏せ砲撃で叩く大洗と、待ち伏せに気付いて踏みとどまり、再び追いかけながらファイアフライの射程内に追い込もうとするM4シャーマンの化かし合い。

 終わるころには双方がヘトヘトになる状況で、見所が続出した試合だった。

 観戦に来てたエリカとみぽりんが応援で疲労の色を見せるくらいにはハラハラ展開だったらしい。―――いや、ファイアフライに吶喊するルクスの場面で卒倒しかけたらしく、終わったらお説教予定だったらしいが。

 

 最終的には原作の様に、八九式がフラッグを発見して、追撃を誘発させておびき出し、いろいろあって最後に稜線射撃で撃破するというシナリオを逸脱することはなかった。

なかったが、思ったよりも追撃が追い付くのが早く、ファイアフライの足止めにとⅡ号がファイアフライの履帯に車体全体で体当たりして狙撃を阻止、その代わりに吹っ飛ばされて撃破判定を受けた―――。

 なお、指示を出したのは赤星さんである。覚悟を決めたらこの子も結構修羅だと思った(感想)

 

 

 

*******Emi → Koume

 

 

 

 ―――息苦しい。

 

 

「―――はぁ、はぁ―――は、はぁ―――は―――――――」

 

 

―――楽になりたい。

 

 

「―――ぁ――――はっ――――――はっ―――――――」

 

 

本来三人乗りのⅡ号戦車に二人。停止射撃時にはエミさんがその身体能力を活かして操縦席から素早く飛び出し、装填を行う。

 

―――気を使われている。と、思う

 

 黒森峰の戦車道教育はまず一定の適性検査を行ってからの個別カリキュラム指導。全くの素人からでもまず基礎教育を行い、「どんな配置でも最低限、一定の行動がとれる程度に鍛える」ことから始まる。そのうえで、砲手ならば砲手、装填手ならば装填手の道を教官から勧められ、それを受け入れるか自分で選ぶかは自由だが、選んだ役割の者たちが集まるグループでの教導、及び各グループから戦車に乗り込むメンバーを選択して練習。そのうちに一緒に戦車を動かすメンバーが自然に生まれる様になっている。

 だから私も、西住隊長も、副隊長も、逸見さんも、何かの際に同じ戦車に乗り合わせることになったとして、多少不慣れな部分はあっても役割分担が可能になる。

私も多分に漏れることはなく、砲手や装填手などを器用にこなせるように教導を受けている―――

 

だけど、エミさんは私に無理をさせまいと無茶をする。

 

 敵フラッグのM4A1を追いかけるⅣ号と自軍フラッグの38t。残りのシャーマンを受け止めるために反転するⅢ号突撃砲の皆さん。

 

『―――上から狙うから、時間を稼いで』

 

沙織さんからの通信。遮蔽物の無い丘の上からの稜線射撃。危険視されるのは狙撃。ならば止める目標は――――

 

「ファイアフライに突撃します。装甲を抜くことはできないと思いますので、履帯か転輪の破壊を目標にいきます」

「オーライ。ただし私は激しく動く車内での装填は苦手なんだ。連射に期待はしないでくれ」

 

おどけた調子のエミさんに知らず微笑みが浮かんでいた。呼吸もさっきより落ち着いている。私を勇気づけてくれる彼女を、とても身近に感じられる。

 

「―――灯火(ランプ)チーム、行きます――――!!」

 

肩を蹴って指示を送る。時速60kmのルクスの高速機動ならば照準を合わせることもさせずに相手に接近できる。ただし、さっきも考えたようにこちらの砲も相手にはやすやすと通じない。だから―――

 

「―――シャーマンを避けて、ファイアフライの正面、砲身の前を遮るように通り抜けます!!」

「―――無茶苦茶だなぁ―――まるでみほを相手にしてるみたいだ」

 

 ほぼノーブレーキで走るルクスが地面を蹴って跳ね、シャーマンをからかう様に蛇行運転で間をすり抜け、ファイアフライの砲の目の前を横切るように駆け抜ける。当然、その瞬間のみ相手の照準が遮られシュトリヒの計算が乱れる。

 それでもサンダースの砲手は冷静に、ファイアフライを停車して砲撃準備に入っていた。

 

「―――エミさん。――――――――なんですけど」

「―――訂正しよう。赤星さん、覚悟決めたらみほより無茶苦茶だよ」

 

ファイアフライの前を通り過ぎたルクスは十分に離脱し――――そのまま反転。

ファイアフライの側面、履帯部分をめがけて最高速で突撃する。

 

 総重量9tのルクスと33tのファイアフライの衝突。時速60㎞で突撃したルクスはファイアフライを大きく押しのける代わりに、吹き飛ばされるように弾かれて宙を舞い、横転。そのまま地面を削りながら滑っていき、ボロボロの姿を晒して白旗を上げる。

―――その代わりにファイアフライの砲撃はあらぬ方向へ逸れ、その砲撃失敗から生まれた空白の時間は―――わたしたちの勝利を決定するに十分な時間だった。

 

 横転して滑走するまでの間、宙に投げ出された私はふわりと抱き留められていた。そのまま上下が激しく逆転する視界に遊ばれるままに転がり、気が付くと衝撃が収まっていて―――あちこち傷だらけのエミさんがいた。

 こんなになってまで私を守ってくれることに、申し訳ない想いと、同時にとても嬉しくて、涙が止まらなかった―――。

 

 

 

********Koume → Emi

 

 

 

ええい!黒森峰の戦車乙女は化物か?!(修羅メンタル的な意味で)

 

 覚悟ガンギマリの赤星さんに同調してノリノリで戦車をかっ飛ばした自分が言うのも何だが冷静に考えると盛大なBANZAIアタックだったわけで―――内装をカーボンコーティングされてる戦車道のシステムでなければ爆発炎上して乗員全員アウト判定でもおかしくないんだよなぁ―――後で観戦に来てるみぽりんとかエリカとかに何を言われるか―――正直怖い(戦慄)

 吹っ飛ばされて転がる車内で赤星さんを庇って必死に抱きかかえ、収まった後、赤星さんが涙を流していた。

そら怖かったよね、だからこういう無茶もうやめてくださいお願いします(懇願)

 試合終了でノーサイドってことでおケイさんがやってきて「イッツソークレイジー!すごいこと考えるわね貴女!」と赤星さんをべた褒めしていた。「でもあんまり無茶しちゃダメよ?ザッツ戦車道、戦争と違って無鉄砲が称賛されるわけじゃないからね?」と釘を刺すのも忘れないあたりさすケイ!と言わざるを得ない。

 できれば知波単の方々にも言ってやってください(切実)

 

 試合終了後、「おばぁが倒れた」が発動。泳いで帰ろうとするまこりんに、エリカとみぽりんがまぽりんに打診→ヘリで送迎 の流れ。

少なからず大洗メンバーと関わったことで大洗メンバーに物腰柔らかな対応になってるエリカから難色もなく、ヘリが用意される。

 

「―――感謝する」

「いいから早く乗りなさい!あなたの大事な“家族”なんでしょう!?」

 

 

 ヘリのローター音に負けないように怒鳴るように大声を上げるエリカに促され、ヘリに乗り込むまこりんと、付き添いでさおりん。

 

 

「―――隊長、ありがとうございます」

「―――今の私は君の隊長ではないよ。まほでいい」

 

 

そう言ったまぽりんの口元が微かに微笑んでいた。

 

 

「―――ありがとうございます。まほさん」

「ああ。それでいい

 

 

 ―――――ただし、それはそれとして、先の戦いの行動についてはもの申す必要があると私は思う。故に―――――正座だ、エミ」

 

「はい」

 

 

 

―――ニゲラレナカッタ(絶望感)

 

 




快速で駆け抜ける軽戦車CV33軍団!

走破性と速度から生まれる脅威が大洗戦車道チームを襲う!!

重戦車P40の装甲の前にはルクスの砲撃も通用しない!

そして、お互いに切磋琢磨する関係の親友と再会したカエサル殿の想いの行方は!?


次回!『#6 次はアンツィオ戦です!!―――えっと、カットされます!』に


パンツァー・フォー!!(無慈悲)


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