【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
赤星さんの転校が決まったみたい。エミちゃんが、何かを覚悟したような目をしていた。
―――あの目になったエミちゃんは、きっと止まらない。私には、応援することしかできない。
――月――日
エミちゃんが居なくなったあの日から、徐々に何かが狂って行った。
―――少なくとも、私はそう思った。
エミちゃんが居なくなって、お姉ちゃんがみんなに説明して……
……それから、黒森峰戦車道は大きな亀裂が生まれたことを示すように、派閥が出来上がっていった……。
******
「―――西住さんは副隊長にふさわしいとは思えません」
いつも通りにお姉ちゃんの指示に合わせて訓練を終えた後のブリーフィングで、そんな声が上がった。
「―――それは、私の決定に異を唱えると理解しての意見である。と、見做しても良いの?」
「構いません。辣言も時には必要だと、そう思っております」
声を上げ、同じ思いの人を複数名後ろに引き連れたその人は、お姉ちゃんに従っていた上級生の中でも中堅どころ、お姉ちゃんの補佐としていぶし銀的な立ち位置の人だった。
「黒森峰は実力主義、結果主義であるべきです。であれば、【乗員の離脱を良しとし、同様の挙句に撃破されてしまう副隊長など、副隊長の資質を問われても仕方がない】そう申し上げています」
彼女の言葉が否応にも私に突き刺さる。鋭いとげに刺されたような痛みを伴うそれに胸を痛める私に気付くことなく、お姉ちゃんと彼女の会話は続く。
「―――それは、みほを副隊長に選んだ私の目を疑っているという意味で取っても良いのだろうか?」
「―――構いません」
重々しい空気が場を支配する。彼女を睨みつけるお姉ちゃんの目の剣呑な輝きに、集団が怯んで一歩後ずさる。
ギリギリに膨らんだ風船が今にも破裂しそうなイメージを思わせる張りつめた空気は―――――――お姉ちゃんが怒気を抑え込んだことで不意に霧散した。
「―――考慮しておこう。私は意見を無下にするほど愚かな人間ではない」
「―――ありがとうございます」
ほうと息を吐いて、びっしりと浮かんだ冷や汗を拭いながら、彼女は去っていき、後を追うように足取りのふらついた集団がついて出ていく。
対してお姉ちゃんは……何とも言い難い思いつめたような表情をしていた。
きっと天秤にかけているのだ。私をこのまま登用し続けることと、私を副隊長のポジションから降ろした場合のチームのまとまり具合についてを―――。
その点について私が言えることはない。だって私は沙汰を待つ身なのだから……。
――月――日
副隊長の座を空白として、一先ず“暫定”副隊長として私が座り、その後の状況を俯瞰することになった。お姉ちゃんの顔色は優れない。きっと私にはわからないところからの突き上げや、下からの陳情を受けているのだと思う。
―――力になれないことが、とてもつらい。
一部の上級生と同級生が、「西住みほは不適格だ」と声を上げたあの先輩と口論をしていた。みんなの言い分としては「隊長の任命は絶対である」「だから副隊長は西住みほを於いて他に居ない」というもの。
―――その理由は『わたしのため』ではなく『西住まほのため』がある。私に期待しているわけではない。『西住まほが選んだから』私を擁護している。
―――あるいは『相手が気に入らないから私を立てている』のかもしれない
対して、向こうの先輩が副隊長に推挙したのは―――エリカさんだった。
西住まほの近くで、天翔エミ、西住みほとともに誰よりも西住まほをサポートしてきた人物であり、誰よりも規律に厳しい人物。その代表として、逸見エリカが推薦された。
「―――くだらないことに巻き込まれたわ……勘弁してよ」
当のエリカさんは疲れた表情で嘆息していた。廊下の片隅で顔を合わせた私たちは、こうして愚痴を吐露し合って笑い合う。
エリカさんが対立派閥の神輿に載った理由は『お姉ちゃんのため』。
「副隊長に座る人物として、私が座ろうとみほが座ろうと、どのみち隊長をサポートすることに変わりはない。どこの馬の骨ともわからない人間が立ち上がるよりもよほどいい」とはエリカさんの言。
―――この時は、これ以上状況が悪化するなんて考えてもいなかったんだ。
――月――日
私を排斥する派閥の子たちに私が囲まれる危険があると言って、構内を歩くときには常に取り巻きが着くようになった。
結果的に同級生から距離を取られることになるし、エリカさんと会話を交わすこともできない……辛い……。
エミちゃんがここに居たら……いてくれたらどれだけ頼もしいだろう……?
――月――日
どういうことなの?
――月――日
エミちゃんと赤星さんは戦車道の無い学校へ転校したはずだった。
お姉ちゃんもそう言っていた。
なのになんで「大洗女子で戦車道やることになった」なんてメールが届くの!?
エリカさんにも同様のメールが届いたらしく、足音荒々しくブリーフィングルームを飛び出していくのを取り巻きの子たちが追いかけていく様子が遠目に見えた。
一先ずメールを送っておいて後で連絡を入れてみることにする―――――出ない。
誰かと連絡を取っているみたい――――出ない――――出ない――――出ない。
通話中のエミちゃんの続く時間がそのまま、私とエミちゃんの今の距離感を感じさせているようで、どうしようもなく心が乾いていく様な気にさせる―――嫌だな…………こんなわたし。
―――通話していた相手はエリカさんだった。エリカさんもどうしようもなくて相談してみたらしい。エミちゃんは何か考えていることがあるらしいけれど、何も教えてくれなかったって……私やエリカさんに何も言わないで行動するとき、エミちゃんはいつも自分を犠牲にしようとする―――心配だな……。
『#9 クラスメイトです!(前)~『私も、私たちも前に進みたいから!』~』
――月――日
“黒森峰10連覇の夢が潰えたことも含め、すべては天翔エミが画策した陰謀によるものだった”
そんな噂が黒森峰を支配していた。
おかしいよこんなの。
なんで?どうして突然降ってわいたような与太話が真実のように広がっているの!?
「―――もう大丈夫だから、安心して。私たちは味方だから」
―――やめて
「―――大変だったでしょう?大切な友達だったんだものね……」
―――何も知らないじゃない
「―――あなたは被害者だもの」
―――そんなはずない――――
“―――あんな娘が、
――――――もう嫌だ。聞きたくない!!こんな言葉――――――!!!
『今の黒森峰を取り巻く状況はすべて私の責任だ。西住流として黒森峰隊長として私が至らなかったばかりに、ここにいない天翔が気を揉み今の状況を作り出した。天翔と赤星の戻る場所を奪ってしまった―――私は、自分が情けない―――!!』
――――――エミちゃん……!!
****** Miho → Emi
――月――日
黒森峰戦を前に戦車の最終調整だが―――戦車がない()
今迄乗りこなしてきたルクスはプラウダ戦で完全にイカレてしまったらしく自動車部が困った顔でさじを投げる有様である。
厳密には直せなくはないんだが―――やり方を聞いて「そこまでしなくていいです」とお断りすることになった。
―――やり方?旋盤でパーツを削り出して足りないパーツを補う自動車部の技術か、或いは3Dプリンターをもってしてしか再現不可能な方法です。察して?(無心)
まぁそういうわけで、暇を持て余している俺は人間ジャッキとかしつつ自動車部の援護して時間をつぶしてたりする。
―――あ、あとチヌ(三式中戦車)とねこにゃーさんが仲間に加わりました。
――月――日
なんで?
――月――日
旧赤星チーム、再☆結☆成!!(大☆喝☆采!!感)
同時に黒森峰から「誰も乗りたがらないから」と言われて下賜されたらしいⅢ号J型を持ってきた。やったぜ!
同時に俺が完全にパージ対象になりました(安堵)
全員まだトラウマの影響が残っている状態だが、俺や赤星さんに勇気づけられて必死にリハビリをがんばって、何とか間に合わせたという状態で、それを率いるのはこの間のプラウダ戦で吹っ切れたのか、快調そうに戦車に乗り込む赤星さん。
赤星さんはⅢ号の車長に座り、乗員はパンパン。俺は車長に適正もないし戦車もないしでのんびりと―――
「ヘッツァーかルノーが空いてるから、どっちか選んでおいてね?」
「アッハイ」
――――できるわけないよね。知ってました
――月――日
一先ずルノーのカモさんチームに行ってみる。車長としての教育はともかく、俺の適性は装填10 操縦・砲手が2~3、ギリ4くらいの評価の可能性。一応素人集団のカモさんに教えることができる立場ではある―――あるが
―――俺なんぞのコーチングよりもぉ……教わるべき相手がいるでしょぉ?そど子ちゃんさぁ……(ねっとり)
正味、そどまこのリバが発生する貴重なシーンであるまこそど案件を俺程度の分際が邪魔していいはずなどないからね、是非もないね(ノッブ感)
まこりんにそど子ちゃんの教育をお任せして、俺はクールに去るぜ!ゴモヨとパゾ美の担当にな!!
――月――日
意識改革が起きない限りアリクイさんは戦力にならない。
黒森峰の戦力についてチーム赤星と俺が生徒会室に集まり、生徒会の面々と一緒に相談タイム。
原作での情報からの想像される戦力から察するに……という感じである程度の編成の予想は終わった―――のだが……
―――自室に戻り、考えに耽る。……内容はまぁ、アレである
―――ぶっちゃけ、マウスとかどうするんだろうなぁ黒森峰……?
まぽりんだけだった場合でも、実質西住流所属のOGたちの突き上げで実装せざるを得なかったマウスではあるが……この世界線()では状況が大きく変わっている。
―――というのも、10連覇を逃したという事実は変わっていない。が、連覇を逃した原因は「西住みほが現場を離れたから」ではなく「天翔エミの行動の結果」にすり替わっているからだ。加えてみぽりんが黒森峰に居て、先の俺の流したウワサにより、西住流における西住家の罪の所在については木っ端レベルまで軽減されている可能性が高く、その場合――――――マウスをごり押しできる理由はなくなっているんではなかろうか?(疑問)
そう考えると「有利になったんじゃね?」と思ってしまうにわかガルパンスキーもたくさんいるだろう。実質マウスとか撃破するの無理ゲー臭ハンパないから仕方がないと言えなくもない。
―――だが考えて欲しい。代わりに軍神が敵に回っているのだ(絶望感)
ぶっちゃけ、みぽりんを相手取るのよりもマウス相手に排気ダクト狙い撃ちするほうがはるかに簡単なんではないだろうか?(思案)
そんなこんなを考えていたら、携帯にコール音。
>>>着信:西住みほ
―――まさにタイムリーと言える着信!すかさず通話ボタンをプッシュする。
「―――こんばんは、エミちゃん」
「ああ、こんばんは、みほ」
とりとめない会話を挟みつつ談笑できる関係を維持したままって言う状況ならでは、である。ところでどうなのさぁ?エリカとはさぁ……?(ねっとり)
―――なんて、直球で聞くわけにはいかないので言葉を選ぶ(デジャヴ)
「―――ところで、最近はどうなの?隊長とか……エリカとか」
「―――エミちゃん」
やや沈んだような様子のみほの声。え?マジで?なんかあったの?またなんかトラブルなの?ありえなくない?世界がみほエリを拒んでいるとでも言うの?マジふざけんなよ!もしも世界がそんな選択をするのであれば俺は!世界に!叛逆してやんぞゴルァ!!
「―――ねぇ、エミちゃん。お願いがあるの」
「任せろ!!何だって引き受けてやる!!」
そんなことを考えていた俺だったから、みぽりんの言葉にめっちゃ食い気味に答えた結果、なんか向こう側のみぽりんがちょっと引いていた。反省したい。
****** Emi → Miho
「―――ところで、最近はどうなの?隊長とか……エリカとか」
何気ない会話から、エミちゃんがさらりと口にした内容に、内心でドキンとした。私たちを心配してくれているのがすごく嬉しい―――。
―――けれど、同じくらいつらい。
私たちはいつまで守られているのだろう?エミちゃんから―――。
私たちはいつになればお返しができるのだろう?エミちゃんへ―――。
胸の奥に積もり積もっていたものが、熱く熱を帯びている。何処までも、溢れ出て来る。
「―――ねぇ、エミちゃん。お願いがあるの」
「任せろ!!何だって引き受けてやる!!」
突然被せ気味に大声で返してきたエミちゃんにちょっと焦ってしまう。けど、これは私の―――私とエリカさんにとってのけじめのようなものだから
「―――エミちゃん。決勝戦、全力で勝負してほしいの」
「―――?いや、戦力を温存する余裕なんかウチにないぞ?」
エミちゃんの困惑した声が携帯越しに届く。ちがうよエミちゃん。そういう意味じゃないの
「エミちゃんにも、私にも、譲れないことだから―――本気で、全力で、勝負しよう?
―――でないと私もエリカさんも―――きっと前に進めない」
私の言葉に、エミちゃんは、暫く悩む様に無言を貫き……やがて、返事を切り出した。
「―――わかったよ、みほ。私も全力で相手をする。
―――いい試合だったって胸を張れるように」
エミちゃんの力強い声に、胸の奥が震えていた。じんわりと熱をもったそれが、決勝戦の試合でどんな戦いになるのかと、期待する思いに呼応するように、どんどん熱く、どんどん強く、身体の内側から溢れてくるようだった―――。
****** Miho → Emi
「―――エミちゃん。決勝戦、全力で勝負してほしいの」
「―――?いや、戦力を温存する余裕なんかウチにないぞ?」
いきなり何を言ってるんだろうねこの娘はもう(おかん感)
そもそもうちに舐めプできる余裕なんぞありません。つーかマジでねぇよ、廃校かかってるしね!口に出さないけど!!
「エミちゃんにも、私にも、譲れないことだから―――全力で勝負しよう!
―――でないと私もエリカさんも―――きっと前に進めない」
みぽりんの言葉に隠された強い決意の言葉に、暫く言葉が返せなかった。
だが、みぽりんの決意の言葉に、俺も全霊で応えなければ失礼に当たる……!!
「―――わかったよ、みほ。私も全力で相手をする。
―――いい試合だって胸を張れるように」
「―――ありがとう、エミちゃん」
みぽりんとの通話を終えて、空を見上げる。
月は煌々と輝いていた。
自分の不甲斐なさにこぶしを握り締め、涙すら流した。
俺という存在がみほエリフラグの邪魔をしているという可能性は、わかっていた。
だがよもや俺がおぜん立てする必要もなく、「みほエリを確立するためのフラグイベント化」しているとは思わなかった!見抜けなかった……このエミハクの目をもってしても……!!
そしてそれを、よもやそれをみぽりんから指摘され、(みほエリの二人で)前に進むために必要なことだからと、相談され宣言されるとは思わなかった!
すまなかったみぽりん!!だがよく言ってくれた!!感動した!!!
みぽりんもエリカも、俺の想定する状況をもう超えているに違いない。俺の想像するみほエリに至るまでに、きっともう俺の力は必要ないのだろう―――。
―――俺が今まで積み上げてきたモノは……全部無駄じゃなかった……。これからも立ち止まらないかぎり、みほエリの道は続く―――!!
この空に浮かぶ満天の星と、輝く月に誓おうじゃないか!全力で相手をすると!!そしてみほエリのために全力を尽くすとな!!!
滂沱の如く感動の涙を流し、天に向かってこぶしを突き上げ声なき声で誓いを上げる俺。という、なんか客観的に見るとクッソ痛いキャラしてる今の状況を―――
―――まさか、見られていたとか想像するのは無理な話だったし――――
―――それ以上の爆弾が、起爆しようとしていたことを、俺は知らなかった―――。
後半へぇ続く(キートン風)
後半部分と同時にこっちも多少手直しするかもしれませぬ。ご了承ください。