【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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―――突然だが、「ぷよぷよ」をご存知だろうか?
 あれ系の所謂「おちものパズル」ってのは連鎖が醍醐味だと言っていい。綺麗に積み上げたものが一斉に消え去るテトリスな感じのもいいが、きっかけの1連鎖を契機にして2連3連とどんどん連続して消えていく様子は、何て言うかスッキリすると言えないだろうか?うまく伝わらなかったならばそれはそれで仕方がないが……

 ―――まぁ、何が言いたいかと言えば―――

 すでにこの時、状況は大洗にとっても、俺にとっても、黒森峰にとっても、赤星さんにとっても、全方位(俺にとって)面倒な方向へ突き進んでいたのである。


【 装填騎兵エミカス IF:小梅ルート ⑩ 】

 さて、みぽりんとエリカの今後を考えると、「適度に強敵という状態を維持しつつドラマティックに敗北」という状況が望ましい。

 

―――となると、フラッグ車になる可能性があるヘッツァーよりはルノーなんだが……カモさんチームとルノーの火力で軍神モードのみぽりん相手にいい勝負できる自信が全くない件……ちょっと色々足りなさすぎるんだよなぁ……となれば選択肢はヘッツァーしかない。会長ならみぽりんにもある程度食いついていけるだろうし……

 

 ああでもないこうでもないと考えを巡らせる俺。しかしこれと言って重要な答えは出ず、【とりあえずヘッツァーでみぽりんと勝負する】ことだけ決めて眠りについた。

 

 

―――その翌日、快適な朝の目覚めを満喫し、いつもより快活にトレーニングを終えてウキウキ気分で赤星さんと一緒に登校する俺に、赤星さんの微妙に浮かない表情は見えていなかった。

 

 

 

 『#10 クラスメイトです!(後) ~我らが御旗~』

 

 

 

 俺がⅣ号に乗り込み、まぽりんを挑発。原作通りにまぽりんをⅢ号J型が待ってる校内に閉じ込めてから俺だけパージ。俺は単身フィールド上をパルクールで飛び回りながらヘッツァーに移動、そのまま乗り込んでエリカ・みぽりんと勝負し、大将戦はあんこうチームとチーム赤星に任せる。―――という作戦を練っていたのだが……正直西住まほという怪物を相手に2対1とはいえ軍神補正の無いあんこうチームで勝てるか?となると疑問ではある。

 最悪、俺という悪名を利用してみぽりんたち以外の他のメンバーを俺と赤星さんたちとで引き付ける役目を担い、大洗女子のメンバー全員で悔いの無いように戦ってもらう という作戦も考えていた。が、それも大洗車輛だけで西住姉妹+場合によりエリカを倒す必要があり、どう考えても無理ゲーです本当にありがとうございました。

 

 

―――結論:どうするんだこれ……。

 

 

 頭を抱えてあーでもないこーでもないとうんうん唸る俺の様子を心配そうに見ている大洗メンバー。楽観的な声を上げる一年ウサギさんチームとバレー部アヒルさんチームに「相手にみぽりんがおるんやで?」という旨をオブラートに包んでやんわりと説明すると初めて焦った様な様子になった。気づいてなかったのか、それとも意識的に考えから追い出していたのか……。

 

 

 

 

 

 

―――現状を再確認しよう。

 

 

 まず、みぽりんとは約束をしている。正々堂々本気で戦おう、と。この時点で一騎打ちを考えていたし、みぽりんもきっとそのつもりで言ったのだろう。

俺がみほエリにとってのラスボス。倒せばみほエリが一段階進み、エンディングフラグが立つ(仮定)

ただし俺には固有の戦車がない。いい勝負を演出するためには相応の腕前を持つメンバーが必要になる。加えて車長適正の高い人物が必要になる(俺は装填しかできないので)

 

 

 以上の理屈を前提に置いたうえで考えると、搭乗車輛はヘッツァー一択。俺が落とされる前提なのでヘッツァーをフラッグに置くのは却下―――となるとフラッグはⅣ号戦車しかないが……その場合、Ⅳ号は高確率でまぽりんのお相手をすることになるので、1対1ではⅣ号が瞬殺されかねん。抑えとして赤星さんを置く場合、みぽりんと一騎打ちの構図の間にまぽりんが交戦している情報が入ればほぼ確定でエリカが合流しようと向かうだろうし、その場合エリカを止めて置く車輛が存在しない。大洗の他のメンバーは黒森峰の他の車輛をバラバラに引き付けておくため、食い止める役割は期待できない。

 最悪はP虎を撃破して原作のように無理くりに上に乗り上げ乗り越えて合流。原作におけるまぽりんへのサポート力がみぽりん以上の可能性があるエリカが加わり無理ゲーが詰みゲーになってしまう―――

 

 

 

―――――結論:どうするんだこれ(二度目)

 

 

 

 兎にも角にも戦力が足りない―――嗚呼、それにしても戦力が欲しい……ッッ!!という感じでアゴが尖りそうなほどの渇望を脳内で反映していた俺のところに、

 

 

「天翔ちゃーん?なんか来客が来てるよぉー?」

 

 

と会長が直々に声をかけてきた。

この時期に客人、という言葉に首をひねるばかりである。だって俺孤児院でも孤立してたし親しくしてた仲間とかほぼ全員黒森峰だしなぁ。

 

 

 

 

 

―――後で振り返ってみてわかったのだが、これが遅れてきた連鎖の2連鎖目だった―――。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「―――お時間を取らせてすみません。」

「いえ……あ、いや、ごめんなさい。私、あなたのこと知らない気がするんだけど、どこかで会ったことある?」

 

学園艦内にある相談用の個室。私に会いに来た来客の女性―――というか誰なんだこの人?―――に、そこへと連れ出され1対1で向かい合う。何やら神妙な面持ちで俺に向かって頭を下げるその娘に、俺は一先ず誰なのかわからなかったのでいっそ聞いてみることにしたのだった。

 

「―――やっぱり、覚えてませんよね。私、黒森峰の生徒で、一応天翔さんの上級生なんだけど」

「……ということは、まほ隊長の?」

 

名乗ってもらった名前は全く持ってピンとこなかった。そもそもモブの名前をいちいち覚えておけるほどヌルい訓練を続けてきていなかったのが黒森峰時代である。

 ―――まぁみほエリ以外だとまぽりんと赤星さんくらいしか興味なかったしな!!

 

「まずは決勝出場おめでとうございます。面と向かってこの言葉を贈りたかったのも目的の一つだったので」

「え?あぁはい……ありがとう」

 

唐突なおめでとうに面食らった俺は―――

 

 

 

「―――それで、ここからが本題なのです。“我らが御旗”」

 

 

 

―――この娘の口にした言葉が理解できず、完全に後手に回っていた……。

 

 

 

 

 

 

******―――【戦車乙女密談中】―――******

 

 

 

 

 

 

 

「―――じゃ、今日はこれで。実りのある話し合いになったようで何よりです」

「―――ええ、それじゃあ、決勝で」

 

相手は会釈と意味深な笑みとともに、やってきた時と同じ黒森峰の飛行船で跳び去っていった―――あとに残された俺はと言うと……相談室を出て―――

 

(パルクールで物理的に)真っ直ぐに帰路に着き、自室のベッドの上にダイブする。

 

 

 

 

「―――――あwsれtrftぎゅひうじょいpこl@p;(あああああああああああああああああもおおおおおおおおおお)!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

枕に顔を押し付けるようにして怒鳴り声を殺し、俺は声帯を壊す勢いで叫んでいた。

いかに有益で有用であろうと、精神的にキてるものは別腹なんだなと再確認できました(確信)

 

 

 

 

 

****** 

 

 

 

 

「―――我らが……御旗……?」

 

 

怪訝そうな顔をする俺に、微笑みを浮かべたまま「ええ」と肯定する女性。

 

「西住まほを単独で追い落とそうとする気概、戦車道の無い学園へ都落ちしても自身の力で戦車道を立ち上げる意地、一騎当千の才を持つ選手を選別する審美眼に―――西住みほ副隊長と逸見エリカさんをコーチとして招聘するほどに、未だコネクションを残している用意周到さ。

 いずれも“決勝まで勝ち上がり、下剋上を成し遂げ黒森峰に帰還する”という意志を強く感じるものですわ」

 

うっとりとした表情で語る目の前の女性を前に、内心でテーブルに突っ伏して頭を抱えて転がりたい衝動と全力で戦っていた。というか腕にびっしりと寒イボが出ている。やべぇ、この人ガチでやっべぇ!!(戦慄)

 

 そこから目の前の女性が語った内容は、端々に慇懃にて美辞麗句を添えたもので……思い返すたびに俺の全身に虫唾が集団マラソン予選会状態だったりする。

曰く――――――

 

 

・都落ちしてもパイプを失うことなく二人と情報を交換できる立場で今も下剋上を狙う(!?)貴女こそがわたしたちのトップに相応しい。

・決勝戦の選抜メンバーの中にも私たちのメンバーが多数入り込んでいる。

・西住まほがわかっていても容易に排斥できないメンバーばかりなので大丈夫。

・決勝戦で合図とともに裏切り西住まほをはじめとする黒森峰のまほ派閥のメンバーを一網打尽にする。その後に西住みほを頂点に据えた新しい黒森峰が生まれる手はずになっている。

・西住みほと逸見エリカにコンタクトを取ることも味方に引き入れることも難しい状態だったが、貴女が居れば問題なくこちら側に引き入れることができる

・ともに西住まほを打倒して、正しい黒森峰を作り上げましょう。成功の暁には、黒森峰に大手を振って帰ってこれますわ

 

 

というもの。なにその裏の支配者感。何処のラスボスだよ(戦慄)

 

 もうね、どこをどう考えたらそうなるのかと。

とはいえ、今この状況は美味しくない。この状況で俺を連れ込んでいきなり話を切り出した時点で【そういうもの】だという認識に取れる内容の映像なりを物証として残しているという事だろう。俺にその気があろうがなかろうが、まぽりんへのチクリは封じたで とでも言いたげな行動と言えるし、俺という存在を鎖に、みぽりんを仲間に引き込み、なし崩しに俺たちを切り捨てられないエリカをも黙認役として引きずろうというところか……。

 

―――まぁ前回の俺を糾弾させるための噂を流したのが俺自身だから無駄なんだが。

 

 

 

 

 

 

「―――と、言うわけですが、この名前に聞き覚えはありますか?」

『……身内の恥を晒してしまったことを深く謝罪したい』

 

 

なので速攻でお電話した。電話口から聞こえるまぽりんの声に苦渋が満ちてるあたり、リアルで胃の辺りにダメージが入り続けてる感が溢れている。胃薬贈ろう(確信)

 まあ話を聞くにやっぱり切るに切れない存在だったらしいあの娘。暗躍してまぽりんを落としてからみぽりんを擁立。その後俺というフィクサー(笑)を使って傀儡政権を樹立するか、俺ともどもみぽりんをも追い落として王者になるかってところだったんだろう。

 

 

『あるいは、母の家元就任に対するカウンターとしては中々皮肉の効いた醜聞になったかもしれないな』

「あ~……」

 

 

 まぽりんの言葉に微妙に納得した。高校生活があと半年程度なのに、今更まぽりんを追い落とす必要性はあんまりない。というか黒森峰に混乱が巻き起こるのは間違いないし、今騒ぎを起こすメリットはゼロに近いだろう。だが、それがこの先の西住流というでっかい看板の根幹にかかわるものならば十分すぎる。つまるところ彼女が見ているのはハコではなくそこから出た後の自分のポストを盤石なものにするために親の権力を強化しようという所か。

 

 

 

―――だから生々しいんだよォいちいちさぁぁぁぁぁ!!!!

 

 

 

 

ガルパンにそう言うドロドロしたの要らねぇんだよぉ!!お気に入りの百合(CP)を愛でて、戦車乗ってたーのしー!大会で勝ってすっごーい!君は戦車道が得意なフレンズなんだね!ってやってるくらい日常風景はちのうしすう下げ下げで楽しんでいこうぜお前らさぁ!!

 

 

魂の絶叫は外に出さないように抑え込み、努めて冷静にまぽりんと会話を続ける。

 

「それで、対策ですが……決勝戦まで日程がない状態で派閥の人数を把握してパージする、というのは不可能に近いですよね?」

『ああ、十中八九試合中の内乱は起きる。だが君が気にすることはない。これは私が起こしてしまったことのツケに過ぎない』

 

あっさりとそう言うまぽりんに「いやいや」と食い下がる俺。ここで話を打ち切られてはたまらないんだよなぁ……決勝戦の是非にみぽりんとエリカの今後がかかっているから余計に!

 

―――勝負にさぁ……ミソ付けられるわけにはいかねぇんだよなぁ俺もさぁ!!!

 

 

 

「―――ひとつ、ご相談があるんですよ」

 

俺の説明をじっと聞くに任せていたまぽりんは、全てを説明し終えた後で

 

『―――効果的ではある。だが……みほとエリカにはどう説明する?』

「しません」

 

きっぱりと言い切る俺に向こう側で軽く息をのむ音がする。まぁそりゃそうだろう。この作戦……というか悪だくみ、最終的にみぽりんが何を信じるかで決行後の状況が変わる。『大丈夫なのか?』というまぽりんの言葉に「信じてますからね。みほも、エリカも」と返す。やや苦笑気味のくぐもった音が、通話機越しに届いた。

 

 

『―――少しだけ、あの二人が羨ましいな』

 

 

若干沈んだトーンだったんでまぽりんにも「勿論信じてるよ!」と言ったら軽く流された。いやー傷つくわー(棒)

 

 

 電話を切って、ひとつ伸びをする。ひと段落ついた状況に安堵し―――

 

 

「……とりあえず、会長には全部説明しないとなぁ……とはいえ、まずは―――」

 

 

決勝までの短い時間を有効に活用すべく―――みぽりんに倒された後でいい感じに二人を祝福するラスボスという演出を脳内でシミュレートする作業に没頭するのだった……。

 

 

 

 

―――この時、彼女が言っていた「決勝戦で合図とともに裏切り西住まほをはじめとする黒森峰のまほ派閥のメンバーを一網打尽にする」という部分に引っかかりを全く感じなかったことで、実はこの後また一波乱起きることになる―――尤も、その一波乱というのは、あくまで俺だけに限定されているわけだが……

 

 




前提【下剋上狙ってたが相手に気付かれ放校処分で都落ちした】生徒A

・戦車道の無い学校に転校したが、その転校先でまるで最初から存在したかのように学園をあげてのイベント扱いで戦車道を立ち上げる
・何故か縁の切れたはずのみほエリカをコーチとしてお誘いして、しかも当人が納得済みでコーチを引き受けている。
・強豪校相手に勝てるレベルの回避力や狙撃力に特化したメンバーが何故か存在している
・事件でトラウマ起こしてた旧学園のメンバーたち(決勝敗北の戦犯扱いだった面々)が大洗に転校して合流した。

・次の試合は決勝で、かつての古巣である黒森峰です


以上の箇条書きを見たうえで「転校した生徒Aがどういう心境で大洗で戦車道を始め、どういった心境で決勝戦へ挑んでくるのか答えよ」(配点10点)


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