【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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→Erika

 喉の奥がカラカラだ―――。

電話口の向こうで赤星の口から語られている内容が、耳鳴りのように反響している。辛い、苦しい、胸の奥に深々と刺さるものが延々と私を苛んでいる。

―――けれど止められない。止めてはいけない。

 赤星の語るそれが彼女の真実なのだとしたら、これは気付けなかった罰だ。
受け入れるべき痛みだ。この果てにこそ、続くステップがある。

「……結局、アンタは結局何が言いたいの?赤星」

自分でも驚くほどに底冷えのする声が口から漏れ出た。すでに体温は下がり切っているかのように錯覚している。ただ一つ、心臓の周辺に黒く渦巻く熱の塊だけが、私の感情を動かしている。

『―――逸見さんにお願いがあります。あの人を……エミさんを止めるために』

向こうから聞こえる声には決意があった。強い決意と悲壮な覚悟を感じさせる声だ。
 だから私は―――その決意に乗った。

「エリカでいいわ。これから、アンタと私は共犯よ」
『―――覚悟の上です』





 ねぇ?きっとアンタは望んでないわよね、こんな状況。
でもね、もう決めたの。だから覚悟してて――――――エミ。





【 装填騎兵エミカス IF:小梅ルート ⑫ 】

『 #12 激戦です!!(中) ~そんなことは、私たちが自分で決める!!~ 』

 

 

 

****** Erika → Emi

 

 

 

―――決勝戦が始まった。

 

 一路、山上の高台を目指し速度を合わせて進軍する大洗車輛たち。

作戦としてはみぽりんの考えた決勝戦での案をベースにし、前半をプロレスで生き残り、後半戦。市街地に移動して黒森峰の戦車たちをバラバラに割ってから内乱を誘発。これを「まぽりんと一緒に討滅」して、その後に、ダメージを受けないように立ち回ってもらった赤星さん率いるⅢ号とフラッグのⅣ号でまぽりんを相手にしてもらい、俺はその間にみぽりんとケッチャコをつける。

 かなりガバガバな作戦ではあるが、これが一番勝率が見込める。少なくともみぽりんの案をそのまま全面採用して斬首戦術で戦うよりはよほど勝ち目があるだろう。

 

 耳にそっと手を当てる。先の挨拶の際にまぽりんから受け取ったインカムがそこに収まっている。作戦開始時の通信用にとまぽりんから手渡されたもので、まぽりんと個人間通信ができるようになっている。

 

 

―――スロートマイクで大洗全隊との通信を行い、インカムでまぽりんと通信を取り合う俺の姿って、ぱっと見コウモリ過ぎない?と思わなくもない。

 

 

そんなこんなを考えてるとさおりんから軽快な通信が響く。アマチュア無線2級取ってたんだっけそういえば―――とか考えて、

 

 

 

―――“それ”を思い出し、ゾクリと背筋に悪寒が走った―――

 

 

 

 

「―――全車警戒!!急いで!!」

「……?天翔ちゃ――――」

 

 

―――ゴォンッッ!!!

 

 

 空を割いて飛来した砲弾がⅣ号の傍をかすめて着弾し、盛大に周囲に爆風をまき散らす。揺れる車体の昇降ハッチの縁に手をかけてクリフハンガーよろしく腕力だけで外に飛び出し、ハッチ上で軍神立ちして周囲を見回せば―――

 

 

―――森を突っ切って先行してきた黒森峰の一団が、そこに居た。

 

 

 小隊長らしき先頭の車輛のキューポラから、見慣れた顔がのぞいているのが見える。

 

 

―――やっぱりエリカか。

 

 原作通りならこの騒ぎに乗じてⅣ号が狙撃されるんであろう。そしてねこにゃーさんたちが犠牲になる。だがその辺りは彼女との相談の結果なあなあのプロレスで終わっている―――はずだ。

だとすると―――

 

『天翔ちゃん!?どうなってるの!?』

 

 通信を使って声を上げる会長に、スロートマイクで全車へと返信を送る。

 

「―――総員、全車警戒しつつ全力で退避距離を保って!!独立小隊による奇襲だ!」

 

 叫ぶ間にも敵小隊の砲撃は続いている。戦車の上部から顔をのぞかせたエリカからは―――何というか、スゴ味を感じる……ッ!!何があったの!?何でこんな殺意高いの!?

状況がまるでわからないままに、一先ず「もくもく作戦」を始動。大量のスモークを炊いて周囲を煙で埋め尽くし、その間に移動を続ける。

 

 山上に陣取るために戦車4輛をワイヤーでつなぎ、ポルシェティーガーを引っ張り上げる―――という無茶をする予定だったが、少し事情が変わってきていた。

 

―――だって内乱組筆頭の子が根回ししてたはずのエリカが盛大にこっちにケンカ売ってきてるからね!

 

 いや、冷静になって考えるとエリカが激怒して俺を狙ってくる心当たりがないわけではない。そも、エリカはどっちかというと実直で、裏切りだの内乱だのそういうの大嫌いなタイプだ。だとすると、俺が反旗を翻す旗頭に立ち、エリカやみぽりんに何の弁解もせずこうしてぬけぬけと助力を当てにしていると見た場合―――

 

 

 

―――あ、殺しに来るわこれ(確信)

 

 

 

 ま、まぁ仕方がない。エリカの実直さ素直さを甘く見ていた俺が悪い。うん、エリカは悪くないし、まぽりんも悪くない。俺の責任と言えよう。

 とはいえ、エリカ小隊だけと考えるのも早計な話で―――

 

 

「会長。エリカたちは“煙に撒く”、会長たちは山上の占有をいったん諦めて山肌を伝って反転、そのまま市街地方面に向けて急いでくれ。最悪は別動隊が山上に向けて動いてて挟撃される可能性がある」

『ん。わかったよ

 

 ―――天翔ちゃん。無理はしないでね?』

 

 会長に「ええ」と返して俺は“戦車を足場にして、跳んだ”

 

 スモークが晴れる前に地面に降り立ち、もくもく用の発煙筒を新たに転がし、スモークを増やすと同時に戦車の位置を誤認させる。そうして出来上がったスモークの範囲を利用して、再び跳んだ。

 

―――目標は、言うまでもない。

 

 

 

****** Emi → Erika

 

 

 

『小隊長!煙幕、晴れません!追加で煙幕を炊いています!』

「慌てるんじゃないの!煙幕を張ってる以上、その辺りにいるのは間違いないし、煙幕が濃ければ相手からもこちらの姿は見えないわ!無駄撃ちして居場所をばらすんじゃないわよ!!」

 

 通信機に向けて怒鳴る勢いで告げて、晴れない煙幕の分厚い壁を睨みつける。眼光に圧力が付与されているのだとしたら、私の視線は煙幕を押し込んで向こう側の景色を通し見れているに違いない。

 

 発煙筒でもばらまいているかのようにより濃くなっていく煙幕。相手は一体何を考えているのか、その場から動かず煙幕だけを吐き出し続けるなんて愚策も愚策。

これでは本隊がこちらの場所をかぎつけて追いついてきてしまう―――

 

「―――そう、そういう事……」

 

 やっと合点がいった。ならばきっとこの煙幕は―――

 

「小隊、全車前し―――」

 

マイクをONにして指令を飛ばす私の腕と口を、空から降りてきた黒い影が抑え込み、塞いだ。

 

 

「―――やぁエリカ、久しぶり……って、さっき顔を合わせたばっかりだったっけ」

「―――戦車道なんだから、戦車に乗ってなさいよこの馬鹿……」

 

 

 口元を抑える手を放して自分の唇に人差し指を当てて「しー」っとジェスチャーをするそいつは―――私が今一番会いたくて、今一番顔を合わせたくない相手だった。

 

 

******

 

 

「―――それで、アンタが私のところに一人で来たってことは、もう他の連中は戦闘範囲外まで逃げ切ってるってことよね?」

「さぁ……どーだか?」

 

 煙幕晴れやらぬ煙の壁の中、戦車の上で座り込むエミと対峙する。私の問いにとぼけてみせるエミに多少イラつきを覚えるけれど、それよりも久しぶりに顔を突き合わせて会話している今が、試合中だというのに不謹慎にも少しだけ嬉しかった。

 

「―――逆に聞くよ。エリカ、君は“誰の味方なんだ”?」

「―――答える義理はないわ」

 

 エミの言葉にそっぽを向いてそれ以上会話をする気はないというアピールを見せると、やれやれとかぶりを振って諦めるエミ。この子の割り切りの速さは少し羨ましい。

 

「―――この奇襲、まほ隊長の指示ではないだろ?」

「決まってるでしょ?“ただ勝利を望み、そのために在るが西住流”よ。フラッグ車を仕留める千載一遇のチャンスを逃す手はないわ」

「私が言っているのが“そういう意味ではない”って、理解しているよな?」

 

 エミの声が語気を強めた調子に変わった。瞳も同じく真剣味を増していてまるで詰問するような調子になっている。それでも答えない私に、エミは呆れた様な表情を見せた。

 

「―――どうして隊長の邪魔をするんだ?黒森峰の膿をすべて吐き出す機会なんだ。今後の黒森峰の戦車道を左右する問題なんだぞ」

「アンタこそ、わかってるの?アンタがしてることは―――」

「黒森峰への裏切り、だろ?わかっているさ。覚悟の上だしね」

 

事も無げに言うエミに心が粟立つ感覚に襲われた。頭に血が上ってしまって、冷静に何かを言おうとする気持ちがなくなってしまった私は感情のままに言葉を吐き出すことしかできなくて―――

 

「―――アンタがやってるのは裏切りよ!!私のことも、みほのことも、隊長も、赤星も、みんなみんな裏切ってる!!」

「あぁ……そうかもしれないな」

 

 その時私に見せた泣き笑いのような、苦笑いとも違う表情は、私がそれまで彼女と過ごしてきた中で、一度たりとも見たことがないものだった。

 

「―――でも、私が居なくなる代わりに黒森峰が正常になるのなら、それはきっといいことだ」

 

 目の前のエミの透明な表情から真意を読み取ることはできない。でも今までの経験則からわかる。エミは本気で心からそう言っていると

 

「アンタ自身の戦車道はどうなるのよ……!!」

「どこでだってできるさ。黒森峰の戦車道に、私が必要なわけじゃない」

 

 気づいたら、エミの大洗女子PJの胸倉を、両手で力任せにひっつかんで絞り上げていた。ギリギリと力任せに引き寄せて、驚いた顔のエミの目を覗き込むように顔を寄せる。

 

「アンタ何様のつもりよッッ!!!!よく聞きなさい!馬鹿エミッッ!!

 

 ―――アンタが必要か、必要でないかなんてのは―――そんなことは、“私たちが自分で考えて決めること”でしょ!!アンタが決めつけることなんかじゃないッッ!!私たちを無礼るなッッ!!!」

 

 パッと手を離すと、エミは後方にたたらを踏み、車輛をトンと蹴って後方に跳び退くように着地して距離を取った。

 

「―――それもそうだね。じゃあ、改めて勝負だ。エリカ」

「―――上等よ、弱小高校の戦車なんかにウチの戦車がやられるものですか……!!」

 

気が付けば煙幕は随分薄まっていて―――

 

「待ってなさい、すぐに追いついて撃ち抜いてあげる」

 

私の言葉に―――

 

「―――いや、すまないエリカ。“ここで終わりなんだ”」

 

人差し指と親指を立てたポーズ。俗にいう“シュートサイン”と呼ばれる形を右手で作り、エミは銃を撃つジェスチャーで「ばーん」と手を振って見せる。

 

 

 

――――ガォンッッッ!!!!

 

 

 

 空を裂く轟音とともに飛来した何かが、私の乗るティーガーⅡを激しく揺さぶり、大きく吹き飛ばした。

 何事かと身体を起こして視線を投げた先に、回頭して逃げを打つポルシェティーガーの姿と、その上に飛び乗って去っていくエミの姿。

 私以外の小隊のメンバーは、指揮車である私の車輛が撃破されたため、指揮系統が確立できず立ち往生している。今から追撃を命じても遅きに過ぎる―――!

 つまるところあのエミの単騎行動も、煙幕の壁も、私との会話までもが、ポルシェティーガー以外を逃がしつつ、私に「もう大洗車輛はすべて逃げ出した」と思わせるための作戦で―――

 

 

『―――“黒森峰女学園、ティーガーⅡ、走行不能”!!』

 

「試合が終わったら覚えてなさいよ!!エミィィィィッッッ!!」

 

 

白旗を上げるティーガーⅡから、私の絶叫が周囲に響き渡ったのだった。

 

 

 

****** Erika → Emi

 

 

 

 煙幕を張り、単騎でエリカのとこに飛び込み事情聴取したらなんか胸倉掴まれた件()どういうことなの……?

今回のエリカの遊撃小隊による単独奇襲はどう考えても黒森峰の掲げる西住流“らしくない”。黒森峰の西住流であるならば先行する小隊を追いかける形で本体が後ろから一斉にやってきているはずなのだ。原作のように

 だが実際は小隊による単独の奇襲作戦であり、追撃も伏兵も存在してなさそうな攻撃で、その真意が見えなかった。これでは「ただ速攻でこちらをつぶしに来ただけ」なのだ。エリカにその理由があると思えない。

―――なのでこうして大洗メンバーを切り離して単独で話合いを行ったわけなのだが……

 

 

 

 結論:【こっちの思惑とか、最終目的とかバレてね??】

 

 

 

 なんだかんだで一番情報に対してシンプルに対処・行動するであろうエリカがこの有様ということは、他の面々に全方位俺の考える作戦の真の目的がバレまくってる可能性すらあるということ。

 今更いうまでもなく俺の(本当の)真の目的は「みほエリを成し遂げたうえで俺自身は離れた場所でそれを見守ること」である。そして可能ならそれはここ、大洗であれば言う事はない。

なんだかんだで愛着がわいた場所でもあるし、廃校云々の問題を片付けなければ秋山殿をはじめとした大洗メンバー全員が曇りまくる。そしてそれはきっとみぽりんの精神に特大の病みをもたらすであろう(予言風)

 そのあたりの危惧を加味した場合、【黒森峰に勝利しつつみぽりんに負ける】という条件で勝利する必要がある。そのうえで現在俺の考えている作戦は至ってシンプル。

 

 

【内乱を起こし、黒幕である“西住流での上位ポジの親を持つ娘”と“次期家元の娘”のぶつかり合いを公式に西住流の家元争奪戦というモノして周知させ、白黒はっきりつけさせることで黒森峰の中に溜まりまくった西住しほ派閥シンパとアンチしほ派閥の流れを一度全部引きずり出して浄化する。ついでにそのどさくさに紛れて黒幕撃破後のまぽりんを狙撃し勝利をもぎ取る】こと

 

 

 いかなまぽりんと言えど、勝利の瞬間に味方だと思ってた存在に背後から撃たれればひとたまりもあるまい。この勝負、勝ったな(確信)

 

 ―――まぁひとつ問題があるとすればこんだけアウトローにも程がある作戦を考え実行する以上、トチ狂ったあちらの黒幕さんは“おあしす”*1を徹底して俺を真の犯人として糾弾してくるだろう。この件に関してはまぽりんにタレ込んだ時点でしぽりんに通達が言っているし、書面として記録されているので、【西住流の確執を利用して勝利をもぎ取りに来た卑怯者】というレッテル程度で済むだろう。ほとぼり冷めるまで戦車道からはじき出されるだろうが、それは仕方ない。黒森峰の今の環境が続くことを考えると、みほエリの芽を護るため、赤星さんのような存在を生み出さないためにも、どっかで断ち切るためのきっかけは必要なのだ。

 

 

 しかし、ここでかなり予想外な状況が起きている。エリカが状況の裏の真相を推測している以上、こういう事には頭が回るみぽりんもそれを理解しているに違いない。ややこしいことになってなければいいのだが……

 

―――それはそれとして、このままエリカを放置した場合、エリカ小隊が独立愚連隊モードに入ってしまい、試合後に処罰される可能性があったので足代わりに残ってもらったポルシェティーガーの砲撃で沈黙してもらうことにした。

 エリカの怒号を背に浴びながらの逃走に胸が痛むし血とか吐きそうではあるのだが―――【でもこれで俺への奇妙な依存度が下がる一方で、みぽりんへの依存度が反比例して上がってくれれば結果オーライじゃね?】という結論に達し、一先ず小康状態を得るに至った。

 

 途中、エンジントラブルを起こしたP虎を走りながら直すレオポンに「さすレオ」状態だったのは言うまでもない。間近で見れた奇蹟に感謝したい(ガルおじ的感想)

 

 そんなこんなを行いつつ―――原作通り河の前で停車している大洗メンバーと合流する。

 

『おかえり、天翔ちゃん』

「ただいま戻りました。みんなも無事で何より」

 

 軽く挨拶を交わして、今度はⅣ号に移り、渡河開始―――そしてまぁ、原作通りというか、M3がエンストを起こして停車したのだった……

 

 

 

****** Emi → Koume

 

 

 

『こちらウサギさん。こっちは大丈夫です、先を急いでください!!』

 

 通信機から聞こえる言葉に、心臓を掴まれたような痛みが走る―――!!

 このままウサギさんを救助している間に黒森峰に追いつかれたら……なんて、考えるまでもなく大ピンチ。だけどここで彼女たちを見捨てるなんて選択を

 

『こちら“灯火”、私たちが助けます。必ず―――!!』

 

―――私たちが、取れるはずがなかった―――。

 

『―――そっか。そんじゃあカメさんは対岸の偵察に行ってくるねー』『あ、じゃあレオポンはこのまま停車して水流調整しますね』

『じゃあⅣ号とⅢ号で挟んでワイヤーで固定しよっか』『我々も何か力になれればいいのだがな……』

 

「―――えっ?」

 

 

 通信機から陽気な調子で次々と返信が届く。

 ヘッツァーは加速して河を渡り切り、周囲を大回りしてぐるりと走り回り始め、他の車輛は、その場にとどまってウサギさんのM3とわたしたちのⅢ号を護るように展開していた。

 

『ほら、コウメちゃん。早くやっちゃって!』

「―――すいません。お願いします」

 

 戸惑いを隠せないⅢ号のみんなを引っ張るように一人搭乗口から外に出る。

 やや強い川の流れと、その水流に中ほどまで入り込むⅢ号と、視線の先に見える川の流れに巻き込まれているM3の姿。

 

 

 

 一瞬、目の前の光景がブレる。

 

 

 

 青空は曇天に、景色はモノクロームに、雨交じりの光景と、河川の濁流―――まるで今にも沈んでゆきそうな戦車は―――Ⅲ号に。

 

 

―――知らず、弾かれたように飛び出して河に飛び込む私に―――

 

 

「―――赤星さん。それは無茶だよ……」

 

 

 

―――一足先に手を伸ばし、私の身体を支えたエミさんが苦笑していた。

 

 

「―――赤星さん。ほんの少しでいい、後ろを見よう」

 

 

 エミさんの声に後ろを見ると―――戦車のハッチから顔を出して私たちを見守るみんながいた。

 

 

「―――エミさん。私もう間違えません。みんなで救けます」

「うん、そうだね。救けに行くのなら、みんなで、だ」

 

 

 満面の笑顔を向けて、ウサギさんをみんなで救けるエミさん。Ⅲ号のみんなも、あの時の自分たちを救っているような気分なのだろうか?

 ロープとワイヤーで固定されたM3リーを牽引しながら渡河するⅣ号の上で、渡河前に私たちが進んできた少し小高い丘の方を、エミさんはじっと見ている。

 

 

 

「―――“みんなで、救けます”絶対に―――」

 

 

 

 エミさんの見つめる先、黒森峰の一団がこちらの救出劇をずっと見守り続けていたことに、私たちはその時になって気付くのだった。

 

*1
「おれはやってない、あいつがやりました、しらなかったんです、すんだことですし」




****** Koume →


―――エンジンが再動し、動き出したM3に安堵して渡河する大洗車輛の後方、河川を臨む丘上に、一列で隊列を組む黒森峰の小隊。
M3救助のため足を止めた大洗の一団に追いついたはずのその小隊は、しかし攻撃を一切することなく、その渡河を静かに眺めているだけだった。

『黒森峰車輛、沈黙していますね……』
「秋山さん、アレは放置で良い。絶対に撃ってこない」

確信めいた言葉のエミに促されるように、救助活動を続けるみんなと、Ⅳ号の上部に立ち、黒森峰の一団を見つめるエミ。
彼女には、小隊の隊長が誰なのか、わかっているように見えた。



「―――良かったんですか?フラッグを撃破するチャンスでしたよ?」
『―――撃ちたかった?』

具申に対する小隊長の返答に、ヤークトの車長は肩をすくめる。

「―――冗談でしょう?あんな話聞かされて、あの時のことを思い返すような今の状況で―――できるわけがない」
『西住流としてなら、きっと失格だろうけどね』

小隊長からの言葉に自分だけでなく、周囲の車輛からも複数の姦しい笑い声が響く。

「―――まぁ、今日の試合の隊長はあなたですから。私らは指示に従うだけですよ

 ―――西住隊長」
『―――よろしくお願いします』

フラッグ仕様のペイントが施されたティーガーⅠのハッチから顔を覗かせて

―――西住みほが、天翔エミを見ていた。

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