【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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「―――お疲れさん、フッド」

 天翔エミの言葉を背に、その場を後にする。
本当に今回は散々に苦労をさせられたものだと反芻する。何故こんなことになってしまったのかというのなら、それは自分のせいなのだからどうしようもないのだけれど―――

「―――ダージリンさん」

ふいに横合いから声を掛けられ視線を向けると、赤星小梅さんがやってきていた。

「あら、赤星さんごきげんよう。もしアレをお探しでしたらあちらに居りますわよ?」
「いえ、ダージリンさんにお礼を言いたくて」

 天翔エミを探しているのかと思いきや、お目当ては私だった。なんともまぁ、素直な良い娘だと思う。

「―――お礼を言われる筋合いはありませんわ。今回のことは、私自身の身から出た錆。むしろ赤星さんにはお詫びを申し上げたうえで殴られたとしても仕方のないと思っておりましたもの」

 そう。彼女には本当に申し訳ないことをしてしまったというどうしようもない負い目がある。聖グロリアーナにも存在する魔窟の存在、OG会とほぼ同等の存在から生まれ出る予備軍と考えると、彼女が日々どんな扱いを受けてきたのかを想うと慙愧に堪えないと思うほどに。

「それでも、ありがとうございます。ダージリンさんが居なかったら、エミさんをみんなで助けることはできませんでした」
「いえ、そもそも今の状況を作り出してしまったのが私の不徳のなせることで―――」
「―――でも、もし私が“こう”なってなかったら、エミさんは全てを背負って一人で大洗(ここ)に逃げてきた、今はそう思ってます」

 赤星小梅さんの言葉は正鵠を得ていた。もしも私が英雄というレッテルを用意して彼女を庇護しなかった場合、天翔エミは黒森峰に潜んでいる悪意に襲われていた。そしてそうなった場合、きっと彼女は全ての罪を引き受けて一人で転校して表舞台から消える。そう思ったからこそ私は彼女を守ろうとしたのだ。

「あの事故の後、黒森峰にずっと深く沈殿していたものが溢れ出しただけで、きっと最初から眠っていただけなんだと思ってます。だったら、それがたまたま私たちの世代で出てきただけなんですよ。そう考えたら、それを一人で犠牲もなしに事を収めてしまったダージリンさんにちゃんとお礼を言いたかったんです」
「―――お人善しね。精々、足元をすくわれないようにお気を付けなさい?
―――それと、忘れているのかもしれないけれど、貴女もまた、私が倒すべきライバルでしてよ?これからも、失望させないで頂戴ね」

 話は終わりと態度で示し、顔を背けてスタスタとその場を後にする。その背中に

「はい!今後とも精進します!ありがとうございました!」

と声をかけて来る赤星小梅さんから距離を取って、グロリアーナの陣地まで戻り、手近な場所に在ったアッサムのテントに足早に駆けこんだ。

「――――――~~~~~~~!!!!!」

 テントに駆け込むなりその場に膝を着いて座り込む私に、焦った様子で駆け寄って来たアッサムの肩を両手で掴んでもたれかかるようにしてしがみつく。

 もう限界だった―――。

 やめて真っ直ぐな目で見ないで自分が汚らわしく見えて仕方ないの何ですのあの素直過ぎるいい子何であんないい子が天翔エミに懐いてるの騙されてるのタラシにも程がありますわよ天翔エミ!!そもそも何なの「お疲れさん」って何なのわたくしがどれだけ苦労したと思っているのいえそれはわたくしの責任でわたくしだけの贖罪であるから天翔エミに背負わせてなどあげませんけど!あげませんけど!!でももっと言い方があるんじゃありませんのわたくしがその程度で喜ぶと思ったら大間違いでしてよああもう思考がまとまらない―――――

******


聖グロリアーナ隊長車砲手アッサムはこう語る

「私以外に気丈な顔しか見せてないからこんな無様を晒す羽目になるのよ」



【 装填騎兵エミカス IF:小梅ルート ⑯ 】

『#16 ~ 「 世の中は本当に、こんなはずじゃなかったことばっかりだ 」 ~』

 

 

 ――月――日

 

本日はX-デイ。私が暗躍を是とした本当の、本来の目的の日である。

この日のために暗躍に暗躍を重ねて、そして本当に本ッッッ当に、苦労に苦労を重ねて、それでも全力を以て全てを成し遂げた理由。

 

―――エキシビションマッチの開催。

 

優勝校とベスト4に残った学園。及び優勝校と準優勝校が1回戦で当たった学園が参加できるスペシャルマッチ。

 

つまり、参加できる学園は6校。

大洗女子 黒森峰 プラウダ 聖グロリアーナの4校に、大洗と黒森峰が1回戦で戦った サンダース大付属と知波単学園を加えた合計6校による3対3の紅白フラッグ戦。この時を待っていたのだ。ずっと―――

 

―――だというのに。

 

 

「―――何故貴女は出場してないのですかッッッッ!!!!!」

 

 

 咆哮、という例えがしっくりくるほどの大声を上げていた。淑女としてはしたないかもしれないが、言わずにいられなかった。

ああもう!本当に私の思惑を悉く裏切ってくれるわね天翔エミ!!!!

 

「仕方ないだろ。このザマで装填ができるわけないしな」

 

怒鳴られたところで気にするわけでもなく、“ギプスがはまった腕”を振って見せる。

 

 天翔エミは、腕を骨折していた。

 

 決勝戦で色々と無茶をやったことで元々腕の骨にヒビでも入っていたのか、学園艦に帰還して、祝勝パレードを行った後、自室に帰って就寝していた深夜、突然天翔エミの部屋から悲鳴染みた絶叫が上がり、駆け付けた赤星小梅が、腕を押さえて苦しんでいる天翔エミを発見。緊急入院の結果、骨折と判断されたそうだ。

 

「―――折角公の場で貴女と決着をつける絶好の機会だというのに……!!」

「それについては本当、すまないな。このザマじゃ、暫くは戦車道に参加も許されそうにない」

 

 日々弛まぬ修練を積むことで高速装填と身体能力を得ている天翔エミからしてみれば、十全に身体が動かせない、トレーニングができないという状況は、それなりにストレスのたまる環境であるのか、その顔色は優れない。戦車道に向かない体格で常に周囲へと反骨精神を昂ぶらせている彼女にとっては、自分への自信の根幹を失っているに等しいのかもしれないと考えると、これ以上の追撃は躊躇われた。

 

「―――もういいです。その代わり、ここでしっかりと見て居なさいな!貴女のライバルであるわたくしの、その実力を!!」

「あーはいはい。試合始まるからさっさと整列しに行ってこいよフッド」

 

 そっけない素振りにキメた側としては少し腹が立ったので懐からサイン用のペンを取り出しギプスに麗しいチャーチルのイラストを描きこんだ。

 

 ―――少し気分が晴れた。精々見せつけて見せよう、私の実力を。

 

そして戦えなかったことを歯噛みすると良いのです。チャンスの神様は前髪しかないのだから。

 

 

 

****** Darjiling → Emi

 

 

 

 大会終了後、凱旋のパレードと祝勝会を行い、皆で意気揚々と帰還した。

そんで、騒いで、浮かれて、夜になって、帰宅してしばらく。

時刻は夜中を指し示すころ。

 

 

 

俺は―――ピロシキを敢行した(使命感)

 

 

 

 鈍い音とともに激痛が走り、思ったより痛かったので大声を上げてその場を転がった。後は騒ぎに気付いた赤星さんが飛び込んできて、救急車が出動。

 

 

 ―――とまぁ、そんな感じで、俺は腕を骨折したというわけなのだ。

 

 

 片手でも装填が出来ないわけではない。ただガッタガッタ揺れる戦車の振動を受けると激痛で意識がやばいので戦車に乗れないだけである()

 

 なお、俺もただ己への許せない罪状だけでピロシキしたわけではない。

理由としては赤星さんに抱いた疑念の証明のために俺が離れている必要があるからだ。そのためにわざわざ骨折を利き腕とは逆の腕にして単純骨折に抑え、カルシウムを過剰摂取して高濃度酸素吸入器などの施設を使えば再起できる(と思われる目算で)ぎりぎりを攻めてみた次第である。

 

 俺が抱いた赤星さんへの疑念。『この世界線、赤星さんが主役なんじゃね?』に対して、俺という原作に対する異分子が傍にいては検証ができない。それをこの劇場版からかけ離れて“何故かサンダースも黒森峰も集まってきている”エキシビションマッチで確認せねばならないのだ。

 なお試合は黒森峰+グロリアーナ+サンダース 対 プラウダ+知波単+大洗 で行われた。原作的にプラウダが大洗と敵対しているかと思ったが、優勝校と準優勝校が紅白に別れる以上ベスト4も別れざるを得ないのと、ダージリンが俺と決着を付けたがっていたからこの構図で別れ、後は原作補正で知波単がくっついてきた という事情なのかもしれない。(ダ「カチューシャの包囲力にサンダースの物量が加わるとか悪夢でしかありませんし」)

 

 

 ちなみに試合は当初優勢に進んでいたのだが、知波単の吶喊!で数の優位性が減ったのと、分断作戦でプラウダと大洗が分断され、カチューシャを聖グロ陣営とエリカ小隊が抑えている間に大洗陣営を原作大学選抜戦でやったレベルのまほみほコンビネーション無双で蹴散らされ、

 

 美味しいところ(フラッグ撃破)をダージリンが持って行った。(原作補正感)

 

 黒森峰無双を見ていて改めて思う。「ああ、これは劇場版序盤のエキシビションで黒森峰が出せないわけだ」と。非常にどうでもいいがプラウダと大洗の連携―――というか赤星さんとカチューシャにまだすさまじいわだかまりがあるらしく、試合中お互いに指揮系統をバラバラに分けて通信・指令を行ってた件。そら分断されるわ(確信)

 とはいえ、今回の敗北でカチューシャが折れ、「一応訂正してあげる」と赤星さんに宣言したのでその辺のわだかまりも解消されたはずだと思いたい。

 

 

―――で、一連の状況を外から見ていた俺はと言えば。

 

 

 赤星さんが主人公として見るとすげぇしっくりくるこの試合の構図と、俺今まで何を見てきたんだろうか?という自己嫌悪と罪悪感と、エリカとみぽりんがまぽりんの指示で的確に小隊編成で動きお互いに信頼し合って連携しているシーンに感無量な気分が混ざり合ってて混沌としていた―――。

 赤星さんが主人公だとすれば、決勝戦でみぽりんに善戦していたのも主人公補正ってことで頷けるし、俺が割って入ることも主人公補正の果てのテコ入れのようなものだとして考えられる。であれば主役が交代する分岐点があった部分として妥当なのは―――

 

 ―――まぁ、救出劇の遅れから来るトラウマの発生 だろう(推理)

 

 そう考えると「逆境からトラウマを克服して立ち上がり、かつての古巣に立ち向かいリベンジを果たし、凱旋」という王道主人公の立ち位置である。熱血系スポコン作品に割とありそうな題材だ。

 そしてこの結果を踏まえて、俺は自分のスタンスが間違っていないことを確信できていた。赤星さんを主人公とした場合、みぽりんは最後の壁であり、エリカやまぽりんも立ちはだかる強敵である。これらを打倒する物語として―――“脇役のサイドストーリー”は、結構いい感じに描写されやすい。

 

 つまり―――みほエリを諦めることなく追い続けることができる(重要)

 

むしろ主人公にならなくなった分そういうサイドストーリーに自由度は増しているはずだ。来てるよ!これはみほエリの流れ来てる!!(確信)

 

 

 高まる希望にグッとガッツポーズを取る俺。今、時代は俺に輝いている!!

 

 

 

 

 

 ―――なおこの10分後、試合の後はお風呂だよね!展開を思い出した俺は骨折していない腕と無事な両脚だけで決死の逃走劇を繰り広げ―――無事逃げ切った。

 

 

 

 

****** Emi → Koume

 

 

 

「―――試合は負けちゃったけど、楽しかったぁ……」

 

 Ⅲ号を降りた私たちは口々にそう語り合う。あの事故の後では考えられなかったことだ。今は事故以前の様にこうしていられることに感謝しつつ、こうして軽口を叩いて笑い合えている。本当に良いことだと思う。

 

「コウメちゃん、お疲れ様ー」

「赤星殿、お疲れ様であります」

 

 隣に停車したⅣ号から武部さんと秋山さんが降車して来た。後に続くようにくたびれた様子の冷泉さんと、涼やかな表情の五十鈴さんが降りてきて、会釈を交わす。

 皆で集まって、銭湯で疲れを癒すという試合後の慰労会。黒森峰では考えられなかったこれに順応してしまっている私がいた。

 

「ねぇ?それにしてもさぁ―――エンブレム、変わっちゃったけど、良かったの?」

「はい。これは―――私にとって“勲章”みたいなものですから」

 

Ⅲ号を見上げていた武部さんの言葉にそう答えて、私もⅢ号のエンブレム部分を見上げる。

 

 あんこうの“灯り(ランプ)”と呼ばれていた大きな赤い星のエンブレムには、擦過傷のような傷跡が刻まれ、まるで流れ星のようなシルエットを作り上げていた。

 この傷はあの決勝戦で、超信地旋回でみほさんの砲撃を受け流した時に砲塔部分に当たった砲弾が抉り取った部分で、自動車部が修理して新たにエンブレムをペイントする際にこの傷だけは残してもらったのだった。

 

「……この傷のせいで、赤星さんにも二つ名がついたんだったか?」

「ええ!戦車道において、自称ではない二つ名を得るというのは、とても素晴らしいステータスなのです!」

 

冷泉さんの呟きに反応して、興奮した様子の秋山さんが声を大きくする。私としては、なんともむず痒いもので―――身に合わない名前だと思ったりもする。

 

「“赤い流星”だっけ?カッコいいじゃん!二つ名持ってる選手って、有名選手の証だって言うし~、男の人にも人気になっちゃって~、私たちもモテモテになっちゃうんじゃないのぉ~?やだぁ♪もぉぉ~~~」

「……そうなると沙織は“あんこうの沙織”か」

「―――かっこ悪い!!」

 

 くねくねと身をくねらせる武部さんと、冷静に呟いてそれを正気に戻す冷泉さん。昔からの関係だという二人の様子から、強い信頼関係が垣間見える。

 

「―――そろそろみんな、集まってる頃ですよ?」

「あ、そうだね!じゃあ行こう?」

 

私が促すとみんな揃って銭湯の方へと向かい始めた。それを最後尾で追従しながら、最後にⅢ号を見上げる。

 

 エンブレムに刻まれた赤い星と、その上に走る横這いの集中線のように見える擦過傷。流星のようにも見えるエンブレムの形状。私と、Ⅲ号にあの日乗車していたみんなが戦った証。

 

 

「―――身の丈に合ってない名前、もらっちゃったなぁ……」

 

 

 ぽつりとつぶやいて足早に皆を追いかける。

もっと強くならなければならない。貰った名前に恥じないように、あの人(みほさん)に名前を誇れるように、あの人(エミさん)をいつか守れるように、あの人(エリカさん)と肩を並べて戦えるように、もっと、もっと

 

―――でなければきっと、私はまた彼女に無理を強いてしまうから―――

 

 

 

 

 入浴中に呼び出しを受けて、先に銭湯を後にした生徒会長が、寝耳に冷や水をひっかけられるレベルの話をされていたころ、まだ私たちはその話を知ることはなかったので、呑気に皆で談話していたのだった―――。

 

 

 

****** Koume → Emi

 

 

 

―――ピロン♪

 

 軽い音を立てて、メールが届いたという報告が俺の携帯に届いていた。

みぽりんかエリカあたりから逃げたことへの抗議か何かかと思い、携帯を取り出して画面を開く。

 

 

 

 

 *******

 

送信者:アリス

件名:約束、まもったよ

本文:

エミリとの約束、ちゃんと守れたよ。これで大洗も安心。

エミリも心配事がなくなって安心。エミリが安心で、私も嬉しい。

また、ボコミュージアムで

 

 *******

 

 

 

 

 ―――文面を読み返しながら、首をひねる。俺、愛里寿に何か言ったっけ?そもそも俺の名前違くね?

 

 

 

この疑問が解消されるのは数分後のことで―――

 

「―――天翔ちゃん!!悪いんだけど、今すぐ学校に戻ってきて!!」

 

焦った様な会長からの電話の声に、怪我の痛みも無視してパルクールで学校へ向かった後の話だった。

 

 

*****

 

 

「ってことで、大学側―――というか、島田家が用意した方々と試合することになったから」

「―――はい?」

 

 俺が校舎へと急ぐ間、他の皆にも声がかかっていたらしく、学園に一足先にたどり着いた俺に遅れること暫くして、大洗の皆々様だけでなく、黒森峰からまぽりん、みぽりん、エリカがやってきていた。 何で?(不思議)

 

 そして生徒会長のこの宣言である。 何で?(困惑)

 

「―――角谷さん。我々―――私たちも集められた理由は何故?」

 

まぽりんが口調を崩して会話している。この二人妙に距離感が近いんよね……あんまほ?まほあん?珍しい……珍しくない?このカプ()

 そんな俺の内心での妄想を置き去りに、会長の説明が続く。

 

曰く―――

・大会での黒森峰の内乱に乗じた勝利を認めるか否かで文科省上層が紛糾している

・そこに鶴の一声で割って入った存在が居た。

・それが西の西住に対して東の島田と言われた島田家である。

 

 

―――何で?(困惑Lv3)

 

 

曰く―――

・学園艦のスポンサー契約により島田が後ろ盾となることで優勝を認める認めないに関係なく学園艦廃艦問題は解消

・この契約の条項が校長と生徒会長に手渡された。

・契約内容、条項の頁に「天翔エミを大学戦車道候補生として飛び級で大学学園艦に編入させる」という条項を見つけたため、俺に声をかけた。

 

 

―――何で?(困惑Lv4)

 

 

曰く―――

・これに「待った!」を掛けたのが西住流家元、西住しほ。

・しぽりんはしぽりんでまぽりんみぽりんの「お願い」もあって独自に動いており、大洗と黒森峰を同盟関係として学園艦を大洗学園艦として独立させつつ、西住流の分家筋の扱いで庇護し、文科省のいざこざから守ろうとしていたらしい。

・要するに、西住流としては水面下で事を運んでいたところに目の前で油揚げをかっさらわれたわけでメンツが立たないということ

・島田にしてみれば大洗学園艦は「茨城」に所属しているので「関東(ひがし)」である。よって島田のシマなのでノーカン。むしろ西が介入して橋頭保にしてきていると反論し、泥沼に突入しかけていた。……らしい。

 

 

 

―――いや、何で!?(困惑MAX)

 

 

 

「そういうわけでさ。島田が用意した関東の勢力。主に大学レベルの連中から選抜された軍団30輛とガチンコの殲滅戦やることになっちった」

「―――あの。それって、どちらが勝っても大洗学園艦としては問題がないのでは?」

 

華さんの言葉に周囲が「そうだねー」と同意する空気を見せる。険しい表情をしているのはみぽりんとまぽりんだけで―――いや、冷泉殿もなんか考え込んでるわ。

 問われた会長はハァと溜息を吐いて、皆に聞こえる声で言った。

 

「ん~なコト言ってもさぁ……コレはアレだよぉ?わかりやすく言うと

 ―――『天翔エミを大学に売ることで、学園艦が無事で済む』って話だよ?」

 

 

 ―――ですよねー(知ってた)

 

 当然、周囲は騒然となり、人の好い連中の集団である大洗勢は「反対!反対!」とデモ行進ばりに( ゚∀゚)o彡゜してる件。ドゥーチェコールが捗るな……(現実逃避)

 黒森峰の皆様と言えば、無表情で内側から怒りのオーラがどす黒く燃え上がっているまぽりんとか、静かに内なる軍神が垣間見えるみぽりんとか、もう怒りを隠す努力すらしないエリカとか、全体的に激怒モードである。

 

 

 まさに『どうしてこうなった!?』状態の俺にさっき愛里寿から届いたメールの内容が脳裏に過ぎる。

 

 

 

―――もしかして……“そういう意味”なのか……?

 

 

 

 つまり目に入れても痛くないくらい溺愛してる愛娘の愛里寿のためにちよきちさんが【お母さん頑張る!】した結果、こっちも娘二人の願いをかなえようと陰で奔走してたしぽりんとブッキング。ブッキングした結果どうにか交渉でカタを付けようとしたけれど、お互い譲るわけにはいかない戦いが勃発?

 潰れかけてた大学選抜戦が意外過ぎるルートで戻ってきた件。しかも原因は明らかに俺である(白目) 胃がキリキリと悲鳴を上げているのがわかる。これは何て言うか――――――アカン()

 

 

 

「―――――ゴフッ」

 

 

 

 ぴしゃりと地面に鮮血が舞った。口元を押さえた俺の手の間から漏れ出た喀血が、地面に赤い染みを残す。

 

 

「天翔ちゃん―――!?」

「エミちゃん!?」「エミッッッ!!?」

 

 

 その場の皆が悲鳴じみた声を上げて駆け寄って来る様子を視界に収め―――

 

 

 

―――瞬間的に胃に空いた穴から結構えらい量の血を吐いたらしい俺は局地的な貧血で意識を失い、その場に倒れたのだった。

 

 

 

 

 

―――ああ畜生

 

 

 

 

 

―――世の中ってのは本当に、こんなはずじゃなかったことばっかりだ―――。

 

 




―――時は遡り、戦車道高校生大会期間中。

 ボコミュージアムで愛里寿と運命の出会い()を果たした後、ちょくちょくボコミュにやってきては愛里寿と僅かばかりの時間を共有していた俺である。大会の開催地は陸上なので、陸上で開催されてから一度、ホームの大洗に帰還して燃料を補給、その後海路で次の試合地まで移動して―――の流れなので、大洗に寄港するたびにボコミュに会いに行くというサイクルを行っていた。

 ―――今思うと、毎回俺がボコミュに行くと愛里寿がいるのおかしくない?と思うべきだっただろう。


「―――エミは、大洗のために戦車道を続けて居るの?」
「―――そういうわけでもないけどね。戦車道は楽しいし、好きだから。この道に人生を掛けるんだって決めたモノでもあるし」

 愛里寿になんかお話しないとって思って考えて、自分が戦車道をやっていることとか、黒森峰での話とか、大洗にやってきて赤星さんとのあれこれとかをなんかこう、気が付いたら色々話してしまっていた―――実はこの辺り誘導尋問に引っかかっていたんではなかろうか?(懐疑)

「エミは……やっぱり、大洗がいいの?」

アリスの言葉に、少し思案する―――

「―――大洗には色々お世話になったし、赤星さんのリハビリにもいいし……愛着も沸いてるからね。できれば助けたい、かな?」

そんな曖昧な答えを返していた。実際の話、大洗にそこまで重要性があるかというとそれほどでもない。みぽりんを助けられた以上、大洗は赤星さんのリハビリに必要な場所で、それなりに人情的な意味で愛着がある学園艦というだけの話だ。

「じゃあ―――大洗学園艦が助かったら、嬉しい?」
「ああ―――そりゃあ、嬉しいさ」

 それは嬉しいに決まっている。それはいわば俺にとってベストエンド。赤星さんが黒森峰に勝利し、優勝で大洗廃艦騒動終了!赤星さんも復活してみんなハッピー!俺も赤星さんが復活してくれて肩の荷を下ろせる。最高のエンディングと言えるだろう。

「うん―――じゃあ、約束」

すっと小指を差し出してくる愛里寿。

「約束、する。私がなんとかしてみる。約束」
「だから、全部なんとかできたら私とずっと一緒に居て欲しい。約束」

 ―――このとき、小指を差し出して指切りげんまん~ってやるとか俺許されざる俺じゃない?このあと小指ペキるべきじゃない?という想像で脳内が埋め尽くされており、「約束」の内容とか、どういう意味なのかをまるで聞いて居なかった俺がいた。



       ただそれだけの話()

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