【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
後ろから追いついてきたシャーマン軍団。その背後から威圧感とともにやって来るシャーマンファイアフライ。M3中戦車、八九式中戦車、Ⅲ号突撃砲と次々に討ち取られていく。残るはフラッグである38tと、みほの乗るⅣ号のみ。
「―――もう時間の問題ですね」
隣の逸見が呟く声を背景に、電光掲示板で見る卓上図を盤面として再現。敵フラッグの逃走ルート、追撃する大洗の走行ルート。後ろから追い上げるシャーマンたちの進軍速度。それらを加味して
「―――ああ、“時間の問題”だ」
どこか自信の無いみほであれば、ここで心が折れる皆を奮い立たせることができるかが分水嶺だろう。だがそんな心配も想像も無意味と言いきって良い。
何故なら今あの場には、みほを支える翼がある。
エミがみほを奮い立たせる。みほが皆を奮い立たせる。相乗効果は竜巻の様に、その士気の高さが大洗に勝機を呼び寄せるだろう。
どれほどサンダースが上手に逃げ切ったところで所詮は「時間の問題だ」。
味方が追い付いたことで助かったと弛緩してしまったフラッグに、必死に避けるだけの“心”ももはや残っていないだろう。
そして、想像通り、稜線射撃でフラッグを撃破した大洗女子が勝ち抜きを決めたのだった。
*****
「―――わたしたちの乗ってきたヘリを使って!」
おばあさんが倒れて病院に担ぎ込まれた。泳いででも行くと騒いでいた少女に、そう叫んでいた。逸見と少女、冷泉さんとそれに付き添う少女、武部さんを載せて、黒森峰のヘリが飛び立って行く。
「――――ありがとう」
みほの呟くような声はヘリの飛び立つ音でかき消されそうなほど。だけど確かに耳に届いた。答える必要はない。みほなら必ず勝ち残るだろう。すべては決勝で語ればいいだけだ。
「―――まほ」
行く手を遮るように立っていたのは、エミだった。
「―――何も言わないのかい?」
「―――今はその時ではない」
エミの横をすり抜けて、その場を立ち去った―――。
「色々と語りたいことはあるけれど、今この場でそんな談笑をする空気じゃあないし、それにこんな場所で長々と会話していたら着替えたとはいえ試合後で汗をかいているから風邪をひいてしまうかもしれない。場所を変えるにしてもこのあたりの地理を知らないしヘリを貸してしまったので帰る時刻まで【今はあまり時間がない】。どの道勝ち進んでいけば決勝で会えるのだし、試合後にお互い語り合えるだろう―――かな?
――――圧縮言語過ぎてもうわからんね、こりゃ」
その時のエミの言葉が私に届いていたら、そのまま立ち去ることはできなかっただろう。
『 ~ 副隊長に必要なスキル?空気を読む能力と、隊長の会話を翻訳する読解力かな? ~ 』
******* JK → JC
――月――日
今日も平和だ。
黒森峰に入学して、まぽりんと同級生というフライング入学に絶望して、その後紅白戦でまぽりんを抑え込んで勝利に導いた存在として賞賛されて。
「―――きみのことを読み違えていた私の浅慮を謝らせてほしい」
―――うん。その場で頭を下げるまぽりんに胃袋がミシィ!ってしたけどその程度である。
俺のこの体躯と反比例する装填スキルに対してなんか陰湿なイジメでもやってくる連中がいるのかと思ったが、どうもそういう雰囲気ではない。
どっちかというと俺、なんか小さい子供を相手にする対応をされてる件()
なんだろうこの……なんだろう?俺の警戒心とかを返してくれ。なんかこう、黒い想像とか勝手な偏見をして過度に身構えてた俺が一番黒くね?むしろ生徒さん方に失礼だったんじゃね?とかそんなこんなで思考のデフレスパイラルである。(現在ストップ安を更新中)
――月――日
俺とまぽりんの組み合わせが強すぎてバラバラに分けられた件()
まぁ、突撃するまぽりんが“後ろから撃って来る
とにかく二人が組むと暴力だったらしい。神速で突っ込むまぽりんと、それを援護射撃するヤークト。とにかくヤークトの砲撃が途切れない。俺はただガッコンガッコン装填するだけで砲手がガッツンガッツン撃っていくので俺が原因ではなく砲手の腕前なんではなかろうか?
まぁなんだ……他の面々が練習にならないとかで俺とまぽりんがバラバラのチームに分けられて紅白戦とかすることに別に異議は無いのだが―――
―――「天翔には西住を当てろ!他では抑えられん!」って言うのやめない?
実質俺とまぽりんが一騎打ちしてる間に他の面々が戦況を決しているという事態。これでチーム戦とかできるんだろうか?
*****
「お疲れ様、天翔」
「ああ、お疲れ、西住さん」
練習を終えてクールダウン中、まぽりんに声を掛けられたので挨拶を返す。何やら不機嫌そうな表情のまぽりんであった。なんで?(素)
「―――私のことはまほでいいと言っているでしょう?」
「悪いね。こういうのは中々直せないもんでね」
無論、嘘である。
俺如きがまぽりんをファーストネームで呼ぶとかイカンでしょ?百歩譲ってさん付けでしょ?そんな俺の内心を知ることなく、まぽりんは何やら我に秘策アリという表情。僅かに口角が上がって目の輝きが若干増している(間違い探しレベル)
「―――だが貴女の抵抗も一年で終わりよ。来年は、私の妹が中等部に上がって来るのだから」
「―――、へぇ――――」
内心の動揺を抑え込み、適度な相槌でどーにか誤魔化す。ここで早速みぽりんに繋がる情報が出て来るとか思わなかったわ。まぽりん色々と軽くない?何でこの子が原作アニメであんな固くなるん??(疑問)
「まぁ、それは良いとして。天翔、今日の勝負はわたしの勝ちだ」
「―――いや、私たちが勝ったろ?」
敵フラッグを討ち取ったのは俺たちのチームである。其処は間違えてはいけない。
「いいや、私が貴女に有効打を与えた。あのままならば私が貴女を撃破して残りの面々を殲滅していた」
「いや待った西住、それは詭弁だろ。実際私がお前を抑えている間に味方がフラッグを撃破した。これは揺るがない事実だろ」
「それは私の敗北ではないわ。だって『私がフラッグだったなら勝っていた』」
いや、それを言ったらダメだろ。
―――まぽりんはまだ一年生だ。なので年功序列の上でフラッグを任されることはない。そもそもフラッグ戦の場合、まぽりんをフラッグにしたら、“フラッグ車が誰よりも真っ先に突撃する軍団”が出来上がる。心臓に悪いことこの上ない。
なお、この後まぽりんは上級生に「クソ生意気な事言ってる一年坊がいる」と目を付けられ、呼び出された結果―――
「天翔!援護は任せた!!」
「後で(巻き込んだウチのメンバーにジュースとか)奢れよ!絶対!!」
俺とまぽりんで呼び出した上級生たちを戦車道にのっとって逆にぶちのめし、「虎の翼」とか言う謎の異名を付けられる羽目になった。罰ゲームかな?()
――月――日
今日は黒森峰と聖グロリアーナの一年生の対抗練習試合である。が―――なんか普通に勝ちました。開始とともに進撃するまぽりんとまぽりんについて統制の取れた進軍をする部隊と、それに後ろから付いていくヤークトの中の俺。
まぽりんの突撃をやや削られながらも受け止めるグロリアーナの防御力には流石にぎょっとなったが、まぁ全く問題になってなかった。
何故かって?ここにヤークトと、装填時間3秒弱の俺がいるからさ()
通常ならまぽりんの突撃を受け止めて、逆撃とばかりに浸透強襲戦術でじりじりと圧し返して磨り潰す目算だったのだろう。が、ここには『3秒くらいで次弾を吐き出す冗談のような存在の重戦車』がいた。当然の如く防衛陣は削り取られ、削られた部分の立て直しを赦すほど、西住まほは甘い存在ではなかったということだ。
*****
快勝の祝いにノンアルでかんぱーい!してたら「よろしいかしら?」と声を掛けられた。振り返ったらプラチナブロンドをお下げにした少女を伴った一人の女性が立っていた。立ち居振る舞いから考えて一年生ではなさそうだ。
「―――失礼。私は聖グロリアーナ二年生の***と申しますの」
「はぁ……黒森峰一年の天翔です」
個人名で名乗るってことは原作でネームドにならないモブの娘かね……?それよりなによりお付きでついてきてる方の子の目力ハンパないんですけど
「こっちの子がどうしても一言言いたいらしくてね?」
「―――これで勝ったと思わない事ね!!」
横にずれた女性と入れ違いで前に出た少女は俺に向かって指を付きつけるとそんなことを喚き始めた。
「あの人間離れしたヤークトの砲撃さえなければ私たちは西住まほの進撃を食い止めて勝利しておりましたわ!あのヤークトの連射性能のおかげだということを忘れないことね!」
「―――はぁ。それで?」
どうコメントしろっていうのか(素)
え?何?負け惜しみ言いたくてここまで来たの?どういうことなの?なんなのお前?そもそもヤークトで装填手やってたの俺なんですけど?相手見て文句言えよおう(威圧)
「―――だが、相手の戦力を把握しきれなかったことが貴女の敗因でしょう?」
俺たちの間に割って入るようにやってきたのはまぽりんだった。まだ開いてないノンアル缶を俺にひとつ手渡し、少女の方へ鋭い目を向ける。
「ええ―――わかっておりましてよ。これはただの言い訳。見学のお子様に言う話では御座いませんけれど―――」
は?見学??誰が?――――俺が?
「まさか戦車の中にゴリラが乗っているとは思いもしませんでしたから」
―――あ゛?(重低音)
「30kgに及ぶ砲弾を高速装填するなど並みの中学生には不可能。二人がかりで装填するヤークトティーガーだとしても二人とも全身筋肉のような存在に決まっております。搭乗メンバーの整列時にそれを隠し通せたそちらが上手だっただけのこと」
無言で俺を見るまぽりん。俺もどう反応していいかわからんので見ないで欲しい。
「―――それで?件の人間ゴリラは何処に居りまして?わたくし、ライバルと見込んで紅茶を贈るつもりで持参いたしましたのですが?あ、それともバナナの方が良かったかしら?」
「あー……ならバナナの方がマシだな。私珈琲党なんで」
俺の声に「はぃ?」と振り向いた少女に
「ドーモはじめまして
そのまま襟首を掴んで胴上げしてやった。襟首を掴んでるのだから落とすことはないし、それほど高く上がるわけでもないのに悲鳴を上げるとかどうかしてると思う(雑感)
*****
後に『ダージリン』の冠名を授けられ、当代四強の一角を担う『守りの天才』にして聖グロリアーナの隊長となる少女は、この日のことを後にこう語る。
『生きた心地が致しませんでした!あの日の屈辱は忘れませんからねッッッ!!』
*****
――年――月――日
彼女と私は互いに切磋琢磨する関係になった。
敗北を経てこそ得るモノが在る。という言葉に倣うのならば、私が手に入れたのは、彼女だ。
そして同時に、私が手に入れた彼女が居れば、まさしく「
ただ、彼女とはもっと近しい関係で居たいのに、彼女は私を名前で呼んではくれない。
やはり私の方から彼女を名前で呼ぶべきだろうか?
――年――月――日
母から指導を受ける。「西住の女である以上、無駄な口を叩くことは悪徳である」と語って聞かされた。成程確かに、口は災いのもととも言う。私も精進しなければ……
試しに母の真似をしてみるとしよう。きちんと習得できれば良いのだけれど……
――年――月――日
上級生に呼び出され、「指導」と称した“かわいがり”を受けることになった。
正直にいう事は美徳だと聞かされていたのに、何が悪かったのだろうか?
呼び出された件で戦車道で指導を受けることを教えて今日は戦車道に参加できないことを彼女に言伝すると、彼女は自分の戦車のメンバーを集めてヤークトで援軍にやってきた。
「後で奢れよ」と言う彼女の心遣いを有難く受ける。
私の背中を彼女が護ってくれている限り、私は誰よりも強いと自負できる。
この「指導」で、それを強く実感していた―――。