【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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「うぅ……ひどい目に逢いました……」

 這う這うの体で黒森峰のテントを後にした少女は、腰の抜けた間抜けな姿を誰にも見られたくないのか木の影を縫うようによろよろと歩き、へなへなとその場に座り込んだ。

「―――古人に曰く。“口は禍のもと”よ。いい勉強になったでしょう?」
「―――お姉様、楽しんでらっしゃったでしょう?」

 咎めるような視線を正面から受け止めて「ええ、当たり前じゃないの」ところころと笑う上級生の少女。

「―――まぁでも、わかったでしょう?言葉とは武器であり、防具なの。相手を傷つける刃になるし、身を護る盾にもなるのよ。英国淑女はね―――目で見て耳で聞いて、そしてそれを口で彩って糧にするのよ」
「―――わかっておりますとも……うぅ……」

 ちょっと煽るつもりがあの体たらく。己の言葉の軽率さを身にしみて感じた少女は改めて言葉というモノの重みを理解し―――三年の時を経て、彼女は色々な意味で周囲を振り回す存在に成長することになる。誰が相手でも常に気品を持って優雅たれ、ただし天翔エミテメーは駄目だ。とばかりの態度の豹変ぶりに、慣れていない人物は戸惑いを隠せない二面性の淑女となるのだが、その原因となった人物は、そんなことを覚えていなかったため「まぁダージリンだし」で済ませたりもするが―――それはまた別の話。



【 まほルート 第二話 突撃!知波単魂(ラブハート)】

【 ~ 圧縮言語を翻訳する方法?相手を理解しようというフィーリングかな? ~ 】

 

***** JC → JK

 

 

 丘の上に布陣して、吶喊してくる敵を薙ぎ払う黒森峰女学園の姿。

試合結果の映像を見ている生徒会の面々も、その圧倒的な火力に声もない様子である。

 それでも弾幕を突破して肉薄した隊長の西絹代が操るチハをあわやという所で冷静に撃ち抜き、黒森峰に軍配が上がった。

 

勝利者インタビューに「当然の結果です」とだけ答えた西住まほの様子に、みほは少しだけ悲しそうな表情を見せる。

 

 そんなみほの背中をぽんぽんとあやすように叩いて、少し思案する様子を見せていたのは天翔エミだった。

 

「―――圧倒的過ぎてどうしたらいいのかもわかんないねぇ……まぁ、この後勝ち抜けたらの話なんだけど」

「ですが……勝たねばなりません」

「ええ……勝たないと、うちの学校は……」

 

暗く沈んだ声の河嶋桃、小山柚子の二人とややあきらめを含んではいるが空元気で明るくしようとしている角谷杏の声。

 

「―――まぁ、勝ち目なんざ最初からひとつしかないですがね。その辺はみほもわかってるだろうし」

「―――分断作戦によるフラッグ車の誘導・隔離による強制一騎打ちからの斬首戦術。これしかありません」

 

 重く低いが確信を持ったみほの言葉に、一縷の望みと生徒会が顔を上げる。

 

「誘導は多分できるんだ―――私がいるからね」

 

 エミが言葉を引き継いで、画面の向こうのまほを見つめる。

 

「まほは多分、私に執着している。だからきっと、私の行動次第で、私を追ってくる―――と、思う」

 

だから、と続けることをせず、エミはみほの方に視線を投げた。大事なところはみほに任せるという様子を受けて、みほが頷きで返して顔を上げる。

 

「―――今は皆の練度を高めないといけません。決勝戦は20輛ずつのフラッグ戦。こちらは5輛しかいないので、隊長との決戦の間、他の車輛を引き付けられるように―――」

 

みほの言葉に頷きで返す生徒会メンバー。より一層の練習と、他の戦車の捜索に熱を入れる面々で「それにしても」と杏は画面を再び見やる。

 

「勝って当然。とか常勝黒森峰は言うことが違うねぇ……」

「あ、生徒会長。それは違いますよ。ね?エミさん」

 

杏の言葉に否定を示してみほはエミの方を見た。エミは少しだけ考えるそぶりを見せて―――やがて口を開く。

 

「―――『先の大会の敗戦から戦術ドクトリンの見直しを図ったこともありますが、知波単学園の突撃の練度は高く、この苦戦は“当然の結果です”。むしろ知波単に賞賛を贈りたいと思っています』―――かな?」

「うん。私も多分、そう言っているんだと思う」

 

 コクコクと何度も頷きを返すみほが笑顔で「やっぱりエミさんはすごいなぁ」と言っている横で、翻訳を聞いた杏は困ったような顔でエミに聞いた。

 

「あのさぁ天翔ちゃん?何でそこまでわかんの?」

 

問われたエミは、杏にこう答えたという。

 

「―――慣れです」

「そっかー、慣れかぁ」

 

杏はそれ以上の質問を止め、再び画面へ目を戻す。

 

「ははは!!西住殿は相変わらずのご様子!ですが西住流にそこまで言われると何とも面映ゆいですな!知波単の誉れとさせていただきたく!」

 

 豪快に愉快そうに笑う西絹代の姿があった。

 

 

 

****** JK → JC

 

 

 

 ――月――日

 

 無事二年生になったので、これまでの一年を振り返ることにした。

あの「上級生のかわいがり(ただしかわいがりする方は逆)事件」から、まぽりんが上級生よりも立場が上になったのでなし崩し的にフラッグ車を任されることになり―――周囲の胃痛が増えた。

 まぽりんは相変わらずまぽりんのままというか……周囲の人間のステータス的なものを把握したうえで『そいつがポテンシャルの最大値を出した場合』を想定して動いてくる。なので周囲としては常に限界ギリギリで全力疾走し続けている状態なのだ。当然、限界を要求され、毎回その限界を超えて行っている面々の伸びは素晴らしく良いのだが、同時に心も折れやすくなる。

 俺にできることは少ない。できることと言えばガッコンガッコン装填することと、飲み会やって連帯感を増すことで折れた人間が戦車道を辞めづらくさせる位だろう。ノンアルをグビりつつできたてのソーセージをガブリのコンボは偉大。シュトロハイム先生も「ドイツは世界一ィィィィ!!」と言っているだけのことはある。

 飲みニケーションを馬鹿にしてはいけない。大多数と同じことをして同じように盛り上がる一体感というのは人を結束させるのに最も適している。

 故に俺は黒森峰を支えるために今日もノンアル片手にソーセージをカッ喰らうのだ(理論武装)

 

「「「―――乾杯(プロージッド)ッッッ!!」」」

 

 

 

 ――月――日

 

 振り返り(記憶)上映会二日目の巻。 まぽりんが隊長に、俺がまぽりんの推薦で副隊長に就任―――やめてくれよ(震え)

 俺は装填しかできない人種なんですよまぽりん。副隊長とかあかんねん、他の人にして?という言葉を丹念にオブラートに包んで説得してみたが、「エミが最適だ」で譲らなかった。ちょっとよくわからないです(胃痛)

 ここ一年の間、色々な相手と練習試合やったし、中学生戦車道大会にも参加した。

 多分ケイだと思しき人とかおケイさんの先輩っぽい裸ジャケット疑惑のミさんとか、あと継続のスナフキンとかスナフキンの先輩枠にいるミの人とかBC自由がBC自由だったり、目立たない方のミの人がいたり、まぁ色々―――濃かった(雑感)

 ただ残念なことにアンチョビと思われる人物とは出会わなかった。まぁアンチョビってアンツィオに高校進学時に推薦でスカウトされてからあの姿でドゥーチェやってたので探す難易度がクッソ高いのだろうけど―――できればまほチョビの種を生み出す絶好の機会だったので是非見つけ出したかった……(欲望)

 

 中学生大会?3秒で弾丸を吐き出す固定砲台と呂布がいるのにそこいらの厨房に負けるはずないだろ(迫真)

 

 

 

 ――月――日

 

 振り返り(記憶)上映会三日目。

 常勝黒森峰と謳ってはいるがそれは大会での話。練習試合で悔しい思いをすることだってあったし、勝利で〆てノンアルでかんぱーい!する流れだって多かった。

 とまぁ語ってきたが、この一年で一番面倒な事態が起きたとすれば―――まぽりんにある。

 

 端的な言い方をすると、まぽりんが「西住まほ」になったことだろう。

 

鋼の心=西住流 とばかりに語彙が少なくなったというか、言葉を交わすことが少なくなった。冗長な会話をすることがなくなり、代わりに皆に対して短い言葉で命令とも何ともつかない会話ともいえない会話を行うようになる。

 

 俺は思った。「これは確実に今後の禍根になる」と(確信)

 

 のちの黒森峰の歪みがもしもこのまぽりんの態度による黒森峰の空気の変質が原因だとすれば俺はここで座して待つべきではない。まぽりんの作り上げる空気をできる限り緩和すべきなのだ。

 西住まほという女性と深く付き合うことのない新入生や、そもそもまぽりんに苦手意識を持っている人物なんかは、まぽりんの言葉に不快感や疎外感、或いは敵意に近しいものか隔意を覚えるかもしれないが、それは間違いなのだ。

 西住まほは戦車道には真摯な人物であり、また、同じように戦車道に打ち込む仲間をないがしろにする性格などでは決してない。言葉からは伝わりにくい真意をくみ取れなかったことで隔意が生まれ孤高≒孤独になるまぽりんなど俺としては見たくない。みほエリのために入学した俺が一年というフライングを果たした結果、出来上がったまぽりんとの日常は、俺の中でそんな決意を固める程度には未練を作っていた。

 

 『行間を読む』というのは基本、空気を読まない人間には難解なシロモノだったという感想を添えて、言語フィルター取得の難しさに変えさせてもらいたい。

 

 

 

*****

 

 

 

「―――操縦手としてレギュラーを取れない立場なのは分かっています。けれど、私は操縦手として戦車道を続けたいんです―――!!」

 

血を吐く様な下級生の言葉に、まほは表情を変えることはなく

 

「そうか―――装填手の練習を積んでおけ」

 

ただ一言、そう言った。

 そのまま背を向けて歩いていくまほの姿に、その場で膝を突きさめざめと涙を流す一年生の肩をとんとんと叩くものがいる。子供と見間違うほどの体格のその少女は、西住まほと並び称される【装填の鬼】、天翔エミだった。

 

「―――ごめんね。まほはいつも言葉が足りないんだよ」

 

 頭を下げてから少しお道化た調子の声で、子供をあやすように語るエミの言葉に、知らず一年生の少女は聞き入っていた。

 

「多分だけど―――あれは、『操縦手として必要な操縦のセンスは一朝一夕で身に付くようなものではないが、その道を目指すのならばまず基礎体力よりも体幹とシフトレバー操作のための広背筋及び上腕筋の筋肉を鍛えることが必要だと私は思う。なのでそれらを効率よく戦車道をしながら鍛えたいのならば【装填手の練習を積んでおけ】、それらが貴女の成長を邪魔することは決してない』―――って感じの意味だと思う。

 

 ―――大丈夫。西住まほは誰も見捨てたりしない」

 

「―――ありがとうございます。天翔副隊長―――」

「礼なら道を示してくれたまほに言いなよ。私にできるのはこの程度さ」

 

 ニッコリと笑顔を見せたエミは、一年生の傍を離れまほの方へと駆け出していく。エミの向かう先では、表情が変わらないまほが、眉だけを困ったようにひん曲げてエミを待っていた。

 

 

 

*****

 

 

 

 ――月――日

 

 今日は俺の待望の日である!そう―――

 

 

「―――ついに!(みほとエリカが)やってきたわに!!」

 

 

ここから俺のみほエリを成し得る栄光の覇道(ロード)が始まるのだ!!!

 

 




******

 ――年――月――日

 二年生になり、私は決めた。彼女のことを名前で呼ぶことにする。
以外とすんなりと彼女はそれを受け入れた。
「だから私のこともまほと呼ぶように」
「いやそれとこれとは別問題だろ」
 ―――何故だ?


 ――年――月――日

 彼女が「まほ」と呼ぶまで返事をしないことにした。
周囲の騒音がぐっと減ったが、私の精神的にもやや辛い……
だが、彼女ともっと強い信頼関係を結ぶためにはやはり名前で呼び合うことが必要になる。私がそう信じるのだからきっとそうだ。


 ――年――月――日

 下級生が何やら彼女に抗議らしきものをしていたようだ。
翌日、彼女が私を「まほ」と呼ぶようになった。下級生が何か意見を具申したことと関係があるのかもしれない。
 「エミ」と呼ぶ私と「まほ」と呼んで来る彼女。うむ、悪くない。


 ――年――月――日

 この一年を振り返っていた。とアルバムを整理しているエミに釣られて一年を振り返ってみた。
 数々の強者と対戦を繰り返してきたと同時に、思う。
 ―――やはりエミは反則だと。
装填だけでも目を見張るものがあるが、何よりエミに恐怖を覚えたのは対継続戦だった。執拗にゲリラ戦術を繰り返し決して正面から相対したりしない彼女たちの猛攻に、足回りの弱いドイツ戦車は動けなくなったものから脱落していった。
 エミの乗るヤークトも、履帯を狙撃されて立ち回れなくなったその時、
「ああ、ヤークトの支援射撃はもう無理だと思う。なんで、私偵察に出るから連絡を待っててくれ」
 そう言って戦車を飛び出したエミは、縦横無尽に森林の木々を飛び跳ね、戦車の弱点である上空を巧く利用して敵車輛の配置をリアルタイムでこちらに送り続けた。当然、隠れることのできなくなった継続車輛は私たちに討ち取られ、私たちの勝利となったのだが―――エミの身体能力がどれほど反則染みているかを目の当たりにした私としては。その力が私たちに向いていないことがどれほどまで幸運なことかと胸をなでおろすばかりだった―――。

 敵に回すと恐ろしいが、味方で居ると心強い。エミに対する忌憚なき意見だと思う。


 ――年――月――日

 みほが黒森峰に入学してきた。一緒に戦車道をできることは何より嬉しい。
しかし妹に箔を付けるためにも副隊長に就任させたいのだが、エミは私にとっても重要な存在―――どうしたらよいのだろうか……?


 ――年――月――日

「妹さんに箔をつけたいんだろう?」
そんな言葉と共に副隊長を退くとエミが伝えてきた。私の考えていることを的確に読み取って、その想いを組んでくれる友人がいることに深く感謝したい。
 同時に少し不安でもある。みほが副隊長という重責を重荷に感じないだろうかという点と、副隊長だったエミの求心力が、良からぬ方向に走らないかという点。
「しばらくの間は私がサポートするよ」
エミに不安を伝えると、最初から答えを用意していたのだろう、そう言ってくれた。何事にも私の内心をくみ取ってくれる。エミはやはり得難い存在だと思った。
 これからもエミが傍にいてくれるのならば、たとえ万の軍勢であろうとも臆することなく戦えると真に思う。





******

 ――月――日

 「隊長と何があったのか知りません。知るつもりもないのです。
 でも怖いんです。この冷戦状態をどうにかしてくだしあ」
そんな嘆願を下級生・同級生全員分集めて総勢30名ほどの『決死隊』と書かれた鉢巻を付けた集団に土下座されました(白目)

 いやもうほんとやめてくれよ私が何をしたって言うんだよ(胃痛)

追記:「まほ」と呼ぶたびに胃に微ダメージが入る。慣れてくれるといいなぁと思いつつ今日も胃薬をかみ砕く。

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